多くの人が音楽を聴くのにストリーミングサービスを利用し、スマホやPCなどで楽しんでいる。米国では音楽業界の収益の80%以上が、そういったストリーミングの広告やサブスクリプションからもたらされている。

 筆者のようなこれまでいろいろな音楽の「消費方法」を経験してきた世代から見ると、時代ごとに楽しみ方が変わっていく歴史は興味深いものがある。

 今から40年前の1980年には、みんながレコードとカセットテープで音楽を聴いていたが、80年代の後半になるとCD(コンパクトディスク)が普及。国内のCDセールスがピークだったのは1998年で、そこから下降線をたどり始めた。

 しかし、2010年ごろにストリーミングが始まり、スマホなどで手軽に聴くことができるようになって、15年ごろから業界は復調の兆しを見せている。テクノロジーの進化によって配信サービスが誰でも利用できるようになったことが大きい。

 そんな音楽業界で少し前から、新たなトレンドが生まれている。レコードの人気が世界各地で急激に高まっているのである。日本でも最近、時事通信がこんな記事を掲載している。「日本レコード協会(東京)によると、レコードの生産枚数は1970年代後半に年間約2億枚と全盛を極めたが、CDの台頭により2009年には約10万枚に減少。そこから増加に転じ、19年は約122万枚まで盛り返した」

 経済活動に大打撃を与えている新型コロナ禍でも、その人気は衰えることなく成長を続けている。レコードの人気は、日本のみならず海外でも、これからどんどん広がっていきそうだと注目されているのである。人気の理由はどこにあるのか、海外の状況から探ってみたい。

●世界各地でレコード人気

 実は、レコードの市場は熱狂的なファンがずっと支えてきた。米国での統計を見ると、05年ごろまで数百万ドル規模で横ばいだったレコード全体のセールスは、07年ごろからじわじわと伸ばしてきた。20年は前年より46%も売り上げが伸び、2750万ドル(約29億7000万円、1ドル:108円)にまで成長している。

 100年以上前の技術が一度完全に消滅しそうなほど人々から忘れられていたのに、再び急激な復活劇を果たしているのはなぜなのか。しかも少し前に米ニュースサイトの『クオーツ』が新型コロナ禍でレコードの売り上げも落ちるだろうと予測をしていたが、見事に予想が外れている。コロナ禍にもかかわらず、その勢いは衰えるどころか増しているのである。

 米国では20年、レコードの売り上げが86年以降で初めてCDを超えたという。しかも、この傾向は世界各地で確認できる。

 例えば英国では、20年にレコード全体の売り上げが前年比30%も増加し、8650万ポンド(約130億円、1ポンド:151円)規模になっている。音楽レーベル全体で見ると、20年にYouTubeで得られた収益よりも、レコードの収益は倍になっている。

 その熱は南半球でも感じられる。20年、オーストラリアではCDの売り上げが15%も減少している一方で、レコードは同30%以上も増加している。しかもオーストラリアの業界関係者は地元メディアに、レコード人気が高まっているのは、なつかしさからくる一時的な「哀愁」などではなく、本物の人気になっていると主張している。その証拠に、若い人たちの間で人気が出ているという。

 こうしたレコード人気は、「東西文化の懸け橋」「アジアとヨーロッパの交差点」などと言われるトルコでも起きている。トルコでは新型コロナが広がってから、CDやカセットなどと同様に、レコードの売れ行きがかなり好調だという。地元レコード会社のトップは「家にいる時間が長くなるほど、レコードに興味を持つ人が増えた。趣味のようにレコードを集めている人もいる」と地元メディアは報じている。

●機械的に音楽を“消費”

 それにしても、なぜそんなに人を引きつけているのか。米タワーレコードのダニー・ザイダルCEOは、「私たちが市場調査をしたところ、基本的に多くの若者たちが、レコードを手にして、1人の時間だったり、落ち着いた時間を過ごすのに、アナログレコードを聴いていることが分かった。スマホなんかはどこかに置いて、レコードを聴いて、リラックスしているんだよ」とメディアで語っている。

 つまり、デジタル機器に囲まれた生活の息抜きに、レコードを聴く若者が増えているらしい。

 確かに、デジタル化された配信音楽は雑音がなく、非常にきれいでハイクオリティーの音質を楽しむことができる。筆者もよく利用しているのでその便利さはよく分かっているが、どこか違和感を覚えることがある。アプリが提供する大量の曲の中から次々と引っ張り出してきて、いうなれば機械的に音楽を“消費”しているだけなのかもしれない。

 そんな音楽の「大量消費時代」に埋もれてしまっている中で、レコードの「アナログさ」が人々をリラックスさせるのは理解できる。デジタルネイティブの若者なら、なおさらその不器用さからくる隙に癒しを感じるのかもしれない。ザイダルCEOの「リラックスのため」という分析には妙に納得させられる。

●レコードは「心に訴えるものがある」

 カルチャー情報を提供する米メディアの『セントラルトラック』は、なぜレコードが復活しているのかについて、レコードを製造しているメーカーに取材を行って分析を試みている。同サイトの取材に応じたのは、北米レコード製造業協会を立ち上げ、全米最大規模のレコード工場「ハンド・ドゥロン・プレシング」(テキサス州)を経営するダスティン・ブロッカーCEOで、バンドマンでもある人物だ。

 実はこの会社、コロナ禍で打撃を受けていて、20年3月にはレコードの受注がゼロになったという。ロックダウン(都市封鎖)などで消費が冷え込むと見て、ビジネスの動きをスローダウンさせていたのだ。

 多くの音楽会社やミュージシャンは、ツアーなどがしばらくできないことを察して腹をくくった。そんな中、同社は新たな収入源を得るために、これまでも地味にではあるが売れているレコードを作ることにしたという。

 7月には注文が増え始め、10月ごろには大忙しに。以降、どんどん忙しくなるばかりだという。コロナ禍はレコード業界にとってプラスに働いていて、CEOいわく「もうクレイジーなローラーコースターのような状況だよ。レコードがすべての予想を裏切っているって感じだね」

 ブロッカーCEOは、アナログのレコードは「心に訴えるものがある」とし、だからこそ人気が高まっていると語る。さらにレコード会社側も「レコードは特別な経験を提供するもの」だと答えている。

●カセットテープも復活の兆し

 コロナ禍、自宅にいる時間が長くなったことで、音楽や動画配信サービスの利用者が増えたわけだが、その潮流の中で、アナログのレコードが人々に安らぎを与えているのかもしれない。

 ちなみに、カセットテープも復活の兆しを見せているようだが、レコードほどは注目されていない。やはり、針をセットしてレコードを回すという一連の動作に味わいがあるのに対し、カセットテープを聴くのにそうした動きはない。レコードほどの特別感がないので、注目度も低いのではないだろうか。

 哀愁ではなくリラックスや癒しなどのためにレコードが求められているとすれば、音楽大量消費時代に新たな選択肢として、さらに人気が出るかもしれない。要注目だ。

(山田敏弘)