世の中には、ユニークな仕事がたくさんある。無人で古本を販売したり、駅ナカで鼻毛を抜いたり、退職の手続きを代行したり――。そして、またひとつ、興味深いサービスが登場した。「添い寝」だ。

 「なんだよ添い寝って。やらしいサービスじゃねえか」とお叱りの言葉が飛んできそうだが、違う。友人や知人には言えない悩み、会社の同僚には相談できない不満などがあれば、キャストと呼ばれる男女が応じてくれるというもの。LINEや電話で対応してくれて、実際に会って話をすることもできる。サービスのなかのひとつに、添い寝があるのだ。

 サービス名は「rainy」(運営:RAINY)。利用するには、rainyのサイトで必要事項を記入し、気になったキャストを選べば、LINEを通じて連絡ができる――といった流れである。月額3000円(税込み、以下同)を支払えば、キャストから朝・夕2回ほど連絡がある。電話で会話をしたい人は30分2000円、顔を合わせて話したい人は30分2500円、それぞれ別料金が必要になる。

 ……と、ここまで読んでも、「やっぱり怪しい。危険な香りがプンプン漂うよ」といった人もいるかもしれないが、もう少しお付き合いいただきたい。実際には、どのような人たちが、どのような使い方をしているのか。また、なぜこのようなサービスを始めたのか。同社の山根春輝社長に話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●「添い寝サービス」誕生のきっかけ

土肥: 山根さんは現在22歳で、現役の大学生。いまは休学中だそうですが、なぜ「添い寝ができるサービス」を始めようと思ったのでしょうか?

山根: 僕は高校を卒業して、島根から上京しました。大学2年生のときに、子ども向けのWebサービスを立ち上げました。事業は順調に成長していったのですが、少し疲れを感じるようになったんですよね。お客さんの数をもっと増やして、売り上げをもっと増やして、といったことに疲弊してしまって。

 子どもが大好きだから始めたサービスなのに、規模拡大を追い求めることに疲れてしまった。わずか1年で逃げ出す形になったのですが、次に何をしようかと考えました。自分で言うのもヘンな話かもしれませんが、子どものころからずっと勉強ばかりしていて、大きくなってしまいました。これまでの自分では創造できないことをやりたいなあと思って、歌舞伎町(新宿区)にあるホストクラブで働くことに。

土肥: えっ、子ども向けの仕事をしていたのに、夜の世界に? 真逆のような感じですね。

山根: 週6日、働いていました。初めての接客業だったので、そこでの学びはたくさんありました。ある日、いつも通り働いていたところ、お客さんがひとりで泣いていたんですよね。「ひとりで泣いているって、どういうことかな?」と疑問を感じていたのですが、泣いているのはその女性だけではありませんでした。ほかにも、ひとりで泣いているお客さんがたくさんいたんです。

 そうした人たちを見ていて、自分にできることは何か、何かを届けることはできないかと考えました。そんなことを考えていたところ、ひとりで泣かなくてもいいように「味方になれる存在」になれるのではないかと思い付き、2018年にクラウドファンディングを使うことに。目標金額を達成したので、その年の10月にプレサービスを始めました。

●個性のあるキャストを増やす

土肥: クラウドファンディングで資金調達ができたわけですが、この事業を始めるにあたって周囲からはどのような声がありましたか?

山根: SNSで「こんなサービスを始めますよ〜」などと書いたところ、「ヤバいでしょ」といったコメントがたくさんありました。いや、同じようなコメントはいまでもあります。あとは、“引かれた”ことがショックでした。「添い寝」という言葉を使ったからかもしれませんが、それまで親しくしていた人たちに距離を置かれたんですよね。

 ただ、いま振り返ってみると、キツイことを言われて、距離を置かれたことは、仕方がなかったかもしれません。子ども向けのWebサービスを手掛けていて、次にホストクラブで働く。そして、「月額制の添い寝サービス」を始めたわけですから。「そんな奴とは関わりたくない」と思うのが普通ですよね。

土肥: ふむ。男女によって、反応に違いはありましたか?

山根: 「添い寝サービス」と聞くと、女性は怒るかもしれない。いや、そもそも相手にされないかもしれない。発表前はそのような不安を感じていたのですが、実際は違っていました。受け入れていただいたのは、男性よりも女性のほうが多かったんですよ。「気持ち悪い」「ヤバいでしょ」といった反応ではなくて、「なにそれ? いいね」などと言ってくれました。

土肥: 18年10月にプレオープンして、19年2月に本格的にスタートしました。実際に運営してみて、どのような反響がありましたか?

山根: 5カ月ほどの間に、40人ほどから「自分もキャストをやりたい」という声がありました。

土肥: お客さんが「話を聞いてもらいたい」「添い寝をしてもらいたい」と思っていても、キャストがいなければいけませんよね。理想を言えば、その人にとって「話をしたいなあ」「会いたいなあ」と感じられる人がたくさんいるほうがいい。しかし、公式サイトを見ると、キャストに登録しているのは6人しかいませんよね。

山根: 話を聞ける人であれば、誰でもいいというわけにはいきません。その人に魅力があったり、その人から元気をもらえたり。応募していただいた人たちと面談をして、何か特徴をもっている人にキャストをお願いしています。例えば、紅茶に詳しい人がいて、その人から紅茶関連の話を聞くことができるとか、お父さんキャラの人がいて、その人と接していると本当のお父さんのように感じることができるとか。

 ただ、ご指摘のとおり、キャストの数はもっと増やしていかなければいけません。幸いなことに「キャストになりたい」という人がいるので、そうした人たちと面談を重ねていくことで、さまざまな特徴をもったキャストを増やすことができればなあと。

●添い寝サービスを利用する人

土肥: rainyのサービスを利用している人のことを「フレンズ」と呼んでいるんですよね。では、次にフレンズの話を聞かせてください。利用者はどのくらいいて、どういった人たちがいるのでしょうか?

山根: セクシャルマイノリティ、主婦、経営者など、これまで40人ほどに利用していただきました。

土肥: どんな使い方をしている人が多いのですか?

山根: 利用されている人たちからは、このような声がありました。「友人・知人に言えない悩みを相談できる」「責任がある立場の人間だけれども、愚痴を言える」「他人に言ってはいけないことも、言える」と。なぜ私たちに悩みなどを相談することができるのか。やはり、日常の人間関係ではないからだと思うんですよね。

 サービスを申し込んで、最初のころは悩みを打ち明ける人が多い。しかし、毎日新しい悩みが生まれてきて、その相談にのってほしいという人はいません。基本的に、朝と夕方にLINEで連絡を入れるのですが、「おはよう」とか「こんにちは」といった日常会話のやりとりに、喜びを感じられている人が多いですね。「少し元気になることができた」「疲れているときに、声をかけてもらえるとうれしい」「前を向くことができるかも」といった声をよく聞きます。

土肥: 添い寝サービスを利用する人はどのくらい?

山根: 実は、全体の1割もいないんですよね。「添い寝サービス」と名乗ってはいるものの、9割以上の人は使っていません。

 「添い寝」と聞くと、危険なのでは? 大丈夫なの? どこまで? と思われるかもしれませんが、密着する、足をからめるなどはNGです。キャストが「嫌だなあ」と感じることは、できません。添い寝ができるのは2回目以降で、最初はカフェなどで話をする機会を設けています。

 あと、2人きりになる場合、キャストの心拍数を計測していて、会話も録音しています。何かあれば分かるようにすることで、問題が起きにくい仕組みにしています。

土肥: サービスを始めるにあたって、弁護士に相談しましたか?

山根: はい。サービスの範囲、規約、安全性など、いろいろ教えてもらいながら仕組みをつくりました。フレンズにはできるだけ元気になってもらいたい、笑顔でいてもらいたいと思っているので、これもしたいあれもしたいと考えているのですが、法律上できることとできないことがあるんですよね。

 例えば、料理。温かい料理をつくって一緒に食べることができればいいなあと思っていても、私たちが食材を購入することはできません。衛生の専門家ではないのに、「ついうっかり買ってしまった」といった言い訳は許されないので、そこはきちんとやっていかなければいけません。

●人のサービスは難しい

土肥: 実際に運営してみて、想定と違ったことはありましたか?

山根: 改めて「人と人のサービスは難しいなあ」と痛感しています。普段、友だちと会うときには「ご飯、食べに行かない?」といった誘い方をする人が多いと思うのですが、こうした関係をサービスに落とし込むのはとても難しい。興味があっても、どこか後ろめたさを感じたり、怖さを感じたり、料金を高く感じたり。こうした壁をどのようにしたら乗り越えることができるのか。このことにチカラを入れていかなければいけません。

 レンタル彼氏といったサービスがありますが、どこか軽さを感じて、悩みを相談することができないかもしれません。じゃあ、カウンセリングはどうか。ハードルが高く感じるし、そもそも自分は病気でないので、関係ないと思うかもしれません。このように考えると、日常生活を送っていくなかで、悩みを相談できる人ってなかなかいませんよね。できるだけ近くに寄り添って、フレンズの味方になることができればなあと。

(終わり)