外食ビジネスにおける「名古屋めし」の注目度が年々高まっている。地元では観光客向けの最重要コンテンツとして行政もPRに力を入れ、有名店には連日行列ができる。全国に店舗を広げる企業もあり、それぞれ他の地域でも人気を獲得している。

 名古屋めし企業はなぜ強いのか? 当連載では、第1回で全国展開に積極的な企業を、第2回で地元密着を貫く企業を、第3回でこのシーンに割って入らんとする新興企業にそれぞれフォーカスすることで、名古屋めし企業の強さの源はどこにあるのかを分析し、今後の展望を探っていく。

●21世紀に入り全国へ飛び出した名古屋めしビジネス

 本論に入る前に、まず名古屋めしの基礎知識について紹介しておこう。名古屋めしとは、名古屋および周辺地域で親しまれている郷土食の総称。みそ煮込みうどん、みそカツ、ひつまぶし、手羽先、きしめん、あんかけスパゲティ、台湾ラーメン、鉄板スパゲティ、みそおでん、小倉トーストなどが代表的な品々。非常にバラエティ豊かで、かつ、もともとは観光客向けにつくられたものではなく、地元で広く親しまれてきたものばかりというのが特徴だ。

 「名古屋めし」という言葉が生まれたのは2001年。名古屋の外食グループ、ゼットンが東京1号店を出した際、みそ串カツや石焼ひつまぶしといった名古屋特有の料理を採用し、それを紹介するキーワードとして、同社の稲本健一社長(当時)が情報誌の取材に答えたのがきっかけといわれている。

 その後、みそカツの「矢場とん」、手羽先の「世界の山ちゃん」、あんかけスパゲティの「パスタ・デ・ココ」(カレーハウスCoCo壱番屋系列)などが相次いで東京に進出して外食シーンのムーブメントに。さらに愛知万博(05年)以降の名古屋の観光客の増加、B級ご当地グルメの全国的なブームなども追い風となって、名古屋めしはご当地グルメの代表格として存在感を高めることとなった。

●手羽先、みそカツ、喫茶店の有力3社に聞く「名古屋めし」の強さ

 2000年代以降、全国展開を本格化した名古屋めし企業として、手羽先がメインの居酒屋チェーン「世界の山ちゃん」(経営/エスワイフード)、みそカツの「矢場とん」、喫茶チェーンの「コメダ珈琲店」が挙げられる。

 地元以外での展開に際し、各社はいずれも「名古屋めし」に対する関心の高さが優位に働いているという。

 「名古屋めしというキーワードのおかげで商品の紹介をしやすい。手羽先以外でも、どて煮やみそ串カツなど名古屋めしカテゴリーの中からの注文は多い」(「世界の山ちゃん」エスワイフード営業部)

 「『名古屋めし』という言葉のおかげで、名古屋にはここにしかないおいしい食べ物がたくさんある、というイメージを多くの人が抱いてくれた。他県の店舗でもお客さまの大半は“名古屋名物のみそかつ”と認知した上で利用してくれていて、『名古屋めし』のフレーズは非常に有効に働いていると感じる」(「矢場とん」鈴木拓将社長)

 「小倉トーストやみそかつパンは東日本、西日本エリアの方が注文数が多い。名古屋めしに対して“一度食べてみたい”、“どんなものだろう?”と関心や興味を抱いてくれているようです。デザートのシロノワールも、コメダオリジナルではなく名古屋で一般的に食べられる名古屋めしの一種だと思っている方もいらっしゃるようで、名古屋で人気らしいから食べてみたい、と注文の動機の一つになっているようです」(「コメダ珈琲店」広報)

 名古屋めしに対する期待の高さが集客につながっているがゆえ、ローカライズはしないというのも3社に共通する考え方だ。矢場とんの鈴木社長は名古屋ならではの食べ方を推奨する、と力強く語る。「みそはちょっとだけでいいです、というお客さんがいるが、“たっぷりかかっていてこそおいしいんです!”と本来の食べ方をお薦めするようにしています。今はもう“その土地の好みに味を合わせる”という時代ではない。本場の味をそのまま提供することこそが、お客さまの期待に応えることになる」

 世界の山ちゃんでも「飲食後に“味が濃い”といわれることはよくあるが、“名古屋でははっきりした味が好まれるのです”と説明すると納得してくれ、名古屋ならではの濃い味を楽しんでくれている」という。

●内・外の障壁の克服が名古屋めしビジネスを強くした

 名古屋めしビジネスの強さの背景には、名古屋人のシビアな金銭感覚に鍛えられてきたこともあると考えられる。「財布のひもが固いといわれる名古屋で、いかにお客さまの満足度を高めてリピートしてもらうかを重視して、商品やサービスの充実を図ってきた。そこで培われてきた『くつろぐ、いちばんいいところ』というコメダスタイルは全国に通じる普遍的な価値があったのだと考えています」と、コメダ珈琲店・広報。セルフサービスでなければ成立しないと思われていた喫茶店業界にあって、フルサービスでファンをつかんできたのは、同社の顧客第一主義を象徴している。

 「名古屋の消費者を満足させられれば全国どこでも成功する」。これは他県での出店を果たした名古屋の飲食企業からしばしば聞かされる言葉。名古屋人は倹約志向が強いため、飲食店は高いコストパフォーマンスが求められる。加えて人口流動が少ない土地柄もあって、新規客の獲得以上に常連の来店頻度を高めることが重視される。常に顧客の満足度向上に努めてきたことが、名古屋めし企業の競争力を高めてきたといえるだろう。

 もう一つ、逆境をバネにしてきたといえば、名古屋の食文化に対するかつてのネガティブなイメージの克服も挙げられる。1990年代までは名古屋は東京のメディアから揶揄(やゆ)されることが多く、独特の食文化はその象徴でもあった。「何でトンカツにみそをかけるの?」「うなぎの蒲焼をお茶づけにするなんて!」とゲテモノ扱いされることが少なくなかったのだ。

 こうした雌伏の時代を経験しているがゆえ、名古屋めし企業は決しておごることなく、リサーチや食材、人材の確保などしっかり足場固めをした上で他県での出店を進めていると考えられる。

●オール名古屋でスクラムを組んでいく

 このような内外の障壁を乗り越えてきたことこそが、名古屋めし企業の強みといえる。また、名古屋の外食企業は横のつながりが強いといわれ、今後それを他地方でも発揮できるとさらにビジネスチャンスが広がっていく可能性もある。

 「いろいろなジャンルの名古屋めしのブランドが一堂に会した『リトル・ナゴヤ』のような形で進出した方が、名古屋めしの多彩さをアピールできるし、お客さんにとっては選ぶ楽しみがある。オペレーションの面で各社の負担が軽減されるメリットもある。名古屋めしの企業は外食産業の中では中小クラスなので、大手に対抗するには手を取り合うべき」と矢場とん・鈴木社長。

 地元ではこのような取り組みは既に事例があり、名古屋城近くの観光スポット「金シャチ横丁」、人気店を集めた「名古屋丸八食堂」(愛知県豊田市など)がそれにあたる。他県でもこうした出店が実現すれば、名古屋めしのブランド力がいっそう高まることが期待される。

 単体でも個性と強さを発揮している名古屋めしビジネス。オール名古屋でスクラムを組んでいけば、今後いっそう他エリアでの勝機は広がりそうだ。

(大竹敏之)