2019年は楽しいこともありました。でも、つらいこともありました。気を取り直して20年も張り切って参りましょう。……そんなきれい事では済まない。20年に解決してほしい「鉄道分野の課題」を振り返る。

●2019年の宿題「リニア中央新幹線 静岡工区」

 発端は5月30日のJR東海の社長会見だった。リニア中央新幹線の静岡工区において、静岡県から着工許可が出ない。このままでは27年の開業に間に合わない、という趣旨だ。これに対して静岡県知事は6月11日、「事業計画の年次を金科玉条のごとく相手に押しつけるのは無礼千万だ」と批判する。この2つの報道によって、JR東海と静岡県との交渉が不調だと表面化する。

 静岡県が着工を認めない理由は大井川の水利と環境問題だった。リニア中央新幹線のトンネルは大井川の水源を貫く。大井川水系の水は静岡県民60万世帯と農工業で使っている。この水は生活と経済の源泉だ。譲れない問題だ。これに対し、JR東海はトンネル湧水の全量を戻すと約束した。

 ところが静岡県は「全量を戻す方法、しかも水温、水質を適切に放出する方法を示せ」と問いただした。口約束だけでは済まさないぞ、という強い意思がある。しかし客観的に見れば、静岡県は内心で「そんなことができるわけがない」と踏んでいるように見える。もともとできっこないと分かっている要求を突きつけて、その要求をのめば「できるわけがない、証明しろ」という。

 何しろ自然が相手だ。本来は確実な約束などできない。要求した静岡県も過激すぎるけれども、応じたJR東海もうかつだった。ここからボタンのかけ違いが続くのだ。その後、国土交通省も交えた場で、JR東海は工事初期段階のトンネル湧水全量戻しはできないと回答し、静岡県側の不信感を招いた。

 自然を相手にした工事は不確実性を伴う。従って、従来の公共工事のほとんどは、環境アセスメントによって十分に予測した上で、予測できない事態については対症療法で進めてきた。例えば、九州新幹線(鹿児島ルート)の筑紫トンネル工事では、井戸が枯渇した地域や家屋に対して、井戸の増設やポンプアップ、給水車を動員して水を確保しており、恒久的な対策についてはトンネル完成後も協議が続いた。

 この問題の落とし所としては、現在までに予測できること、その対処法、予測できない事態の対応と補償について合意し、問題解決の「憲法」となる協定を結ぶことだ。ここに至るまで、金銭による補償問題、東海道新幹線静岡空港駅建設などの駆け引きなどが疑われ、ゴールポストが見えない時期もあった。やっと水問題の本筋に戻った感がある。しかし依然としてハードルは高い。

●2019年の宿題「九州新幹線西九州ルート 佐賀県内区間」

 福岡から長崎までの九州新幹線西九州ルートについて、政府与党の新幹線プロジェクトチームや長崎県サイドがフル規格新幹線の建設を求めている。しかし、佐賀県が新鳥栖〜武雄温泉の着工を認めない。それまで、佐賀県側の理由が建設費負担だと思われており、負担金の軽減、国の支援の再検討が行われていた。

 しかし、4月26日、佐賀県知事が政府与党の新幹線検討委員会で「佐賀県は新幹線の整備をこれまでも求めていないし、今も求めていない」と発言し、問題の本質が根本的に違っていることが判明した。

 福岡市から佐賀市を経由して長崎市に至る新幹線は、1970年に制定された「全国新幹線鉄道整備法」に基づき、72年に基本計画として告示され、73年に整備計画が決定された。当時の計画路線は東北新幹線の盛岡市〜青森市、北海道新幹線の青森市〜札幌市、北陸新幹線の東京都〜長野市〜富山市〜小浜市〜大阪市、九州新幹線の福岡市〜鹿児島市、九州新幹線の福岡市〜長崎市だった。これらを整備新幹線という。

 当初、運輸省は全ての区間について早期建設、コスト削減を図るため、ミニ新幹線またはスーパー特急方式を提案していた。ミニ新幹線とは、山形新幹線や秋田新幹線のように、在来線区間の線路を新幹線と同じ軌間に改造して小型新幹線車両を直通する方式だ。スーパー特急方式は、北越急行ほくほく線のように、新幹線と同等の路盤や緩い曲線を作り、在来線特急を高速に走らせる方式だ。

 しかし、ほとんどの沿線自治体はフル規格新幹線を望んだため、フル規格新幹線に変更され建設されている。長崎新幹線はもともとスーパー特急方式を採用し、時短効果が見込める武雄温泉〜諫早〜長崎間で高規格路線を新造し、鳥栖〜佐賀〜武雄温泉は在来線でつなぐ計画だった。しかし、長崎県もフル規格新幹線を望んだ。ここで、佐賀県に対してもフル規格新幹線の合意を得れば良かった。しかし、佐賀県の合意がなくてもフル規格化できるという妙案が現れた。「フリーゲージトレイン」だ。これを使えば、佐賀県内は在来線を走り、長崎県内と博多〜新鳥栖間はフル規格新幹線を走行し直通できる。佐賀県としてはスーパー特急方式と変わらない。反対する理由はない。

 ところが、フリーゲージトレイン計画が頓挫してしまう。台車の整備コストに問題があるほか、車輪あたりの重量が大きいため、JR西日本が山陽新幹線への直通を拒んだ。しかし、武雄温泉〜長崎間はフル規格新幹線で整備している。基本計画を達成するためには、新鳥栖〜武雄温泉間もフル規格で整備する必要がある。そこで佐賀県に合意を求めたところ、佐賀県は同意しなかった。

 この問題は、そもそも新幹線の着工が決まっていない鳥栖〜武雄温泉間について、フル規格を前提とする計画を佐賀県に突きつけたところから始まっている。在来線活用と新幹線建設は話が違う。新幹線の着工条件の1つに「自治体が並行在来線のJRからの分離を了承する」がある。佐賀県としては、新幹線建設負担が増えるばかりか、赤字必至の並行在来線も押しつけられる格好になる。そもそも、新幹線の建設に合意する前からフル規格が前提とはスジが違う。

 落とし所としては、並行在来線となる鳥栖〜武雄温泉間について、引き続きJR九州が運行することだ。武雄温泉〜諫早間については、上下分離して、線路設備が自治体に、鉄道事業はJR九州が行い、23年間は現行水準の列車運行を維持することになった。これと同じか、上下分離無しでJR九州が運営するという条件なら、佐賀県もテーブルについてくれるかもしれない。佐賀県にしたってフル規格新幹線で大阪へ直通するメリットは分かっているはずだ。あとはスジを通し、フル規格に落ち着くとしても、あらためて整備方式の検討をやり直す。フル規格にするなら並行在来線問題を解決する。道筋は見えている。

●2019年からの宿題「台風19号被災路線」

 19年に発生した台風19号の被災路線のうち、現在も7路線が不通区間を抱えている。そのほとんどが復旧に向けて工事に着手、もしくは復旧に向けて協議中だ。12月13日、閣議で19年度補正予算案を決定し、被災鉄道の復旧費用に34億8000万円を計上した。主な救済対象は上田電鉄、箱根登山鉄道、阿武隈急行、三陸鉄道だ。

 上田電鉄で崩落した鉄橋は、復旧後に地元が保有し維持することを条件に、国が97.5%の費用を負担する支援が検討されている。ただし、三陸鉄道のような上下分離施策などは条件にしない。阿武隈急行の不通区間については、11月に宮城県知事から、交通手段の早期確保のために鉄道以外の方法も検討する、という意見があったけれども、国の支援決定によって鉄道は維持されそうだ。

●“2016年”からの宿題「根室線」「留萌線」「日高線」

 根室本線の東鹿越〜新得間は、2016年の台風10号で被災。鉄橋の橋桁に流木が堆積し、川の氾濫によってトンネルや駅構内に土砂が流入した。復旧させるには鉄道設備だけで10.5億円の費用が見積もられている。また、河川部分については管理者の北海道に対して、堤防や堰堤(えんてい:川を横断する形のせき止め施設)の設置を求めている。

 ただし、この後JR北海道は、同区間を含む10路線13線区を「自社単独では維持困難」と公表。このうち8線区は、国や自治体の支援を前提に存続を目指すことで北海道、国交省、北海道市長会、北海道町村会、JR貨物と合意した。存続されない3線区のなかに根室線富良野〜新得間がある。東鹿越〜新得間はこの区間に該当する。

 JR北海道は、富良野〜新得間について、復旧したとしても運行費用は年間10.9億円となり、赤字は年間9.8億円になると試算した。JR北海道は富良野〜新得間を廃止し、バス転換した場合の経費は年間1.1億円と試算しており、売り上げが維持できれば帳尻が合う。しかし沿線の人々には鉄道による存続を求める声がある。

 根室本線はかつて、札幌と道東を結ぶ幹線だった。しかし短絡ルートの石勝線が開業してその役割は終わっている。根室線には石勝線に障害があった場合の代替ルートとしての役割が期待されているけれども、いまのところ廃止方針を覆す動きはない。なお留萌線と日高線は沿線自治体が廃止容認に傾いていると報じられている。

●“2017年”からの宿題「日田彦山線」

 日田彦山線の添田〜夜明間は、17年の九州北部豪雨で鉄橋とトンネルに大きな障害が発生し不通となったままだ。しかしJR九州が復旧しても「単独での維持が難しい」として、復旧後の上下分離を提案。現在はJR九州から提案された「年間約1.6億円の収支改善を前提とした鉄道」「BRT整備」「バス転換」について沿線自治体が協議中だ。自治体側は費用負担に難色を示しており、2年間も膠着(こうちゃく)したままだ。

 18年に鉄道軌道整備法が改正され、黒字鉄道会社の赤字路線に対しても国の支援が受けられるようになった。しかし、これで被災路線全てが救済されるわけではなかった。復旧費用が支援されても、維持費用が支援されなければ鉄道は復旧されない。

 鉄道の宿題はこのほかにもあり、新線建設関係など明るい話題もある。しかし今回はあえて停滞している話題を選んだ。20年にこれらの問題を全て解決すれば、スッキリとした21年を迎えられそうだけれど、どうなるだろうか。継続して注目していきたい。

(杉山淳一)