中国の2大インターネット企業といえば、「アリババ(阿里巴巴)」と「テンセント(騰訊)」だ。前回紹介したアリババに続き、今回はテンセントについて、直近の決算情報(2019年第3四半期)などから、どんな企業か読み解いていこう。

 テンセントは、中国のインターネット黎明期の2000年代前半より、インスタントメッセンジャー「QQ」で一躍有名になった企業であり、同じくインスタントメッセンジャーの「WeChat(微信)」でSNSの王者となった企業だ。PCやスマートフォン向けのオンラインゲームや、動画や音楽などのコンテンツ配信にも非常に強い企業である。

 かつては中国内外のサービスを頻繁に模倣し、中国国内からも多くの批判を受けていたが、現在は人気ゲームを続々とリリース。正規版コンテンツを配信する企業として知られている他、キャッシュレス決済サービス「WeChatPay(微信支付)」でフィンテックを普及させるなど、金融分野でも活躍。さらに、さまざまなアプリを個別にインストールしなくても、WeCaht上で起動できるミニアプリ(微信小程序)を真っ先に普及させ、中国のインターネットを代表する企業となっている。

 そんなテンセントが19年11月に発表した19年第3四半期(7〜9月)決算は、売上高は前年同期比21%増の972億3600万元(約1兆5000億円)、純利益は同13%減の203億8200万元(約3100億円)、非GAAPベースでの純利益は同24%増の244億1200万元(約3800億円)だった。

 ゲーム事業の売上高は同11%増の286億400万元(約4300億円)。ゲーム事業の売上高のうち、スマートフォン向けモバイルゲーム事業は同25%増の243億元(約3600億円)、PCゲーム事業は同7%減の115億元(約1700億円)だった。同社のゲーム事業は中国国内外のスマートフォン向けゲーム人気に支えられているといえる。

 SNS事業の売上高は同21%増の220億2500万元(約3300億円)。フィンテックおよび法人サービス事業の売上高は、同36%増の268億元(約4000億円)。クラウド事業売上高は、同80%増の47億元(約700億円)だった。

 各サービスのMAU(月間アクティブユーザー数)は、QQが前年同期比8.9%減の7億3100万人、WeChatが同6.3%増の11億5100万人。WeChatのミニアプリのデイリーアクティブユーザー(DAU)は前年同月比で1億人増え、3億人強となった。

 コンテンツ系では、同社の有料コンテンツ利用者数が同11%増の1億7100万人。音楽コンテンツが聴き放題になるサブスクリプションサービスの利用者は、同42%増の3540万人。中国で最も利用者が多い動画サービス「騰訊視頻」で動画が見放題になるサブスクリプションサービス利用者の数は、前年同期比22%増の約1億人という。

 テンセントの音楽コンテンツを扱う「テンセント・ミュージック・エンターテイメント(TME)」が発表した決算報告書によれば、同社の2019年第3四半期の総売上は前年同期比31.0%増の65億1000万元(約1000億円)、純利益は10億3000万元(約160億円)。2019年9月に台湾の人気歌手ジェイ・チョウ(JAY、周傑倫)がリリースした新曲「説好不哭(泣かないと約束したから)」が、「QQ音楽(QQ Music)」で配信されるやいなや、多くの人が殺到し、2日間で2000万元(約3億円)という爆発的な売り上げを記録したことが影響しているという。

●アリババとテンセントの競合事情

 こうしてみると、ECやフィンテックに強いアリババとテンセントではカバージャンルが異なっているように思えるが、実はぶつかっている部分も多い。キャッシュレス決済で「支付宝(アリペイ)」と「WeChatPay(微信支付)」が競合しているだけではなく、投資やクラウド事業でもぶつかっている。

 まずは投資から見ていこう。19年のテンセントの投資金額は495億円(約7400億円)。多いように見えるが、18年の投資額(727億元/約1兆900億円)と比べるとだいぶ控えめだ。大型のものでは、バイトダンスの「TikTok(抖音)」のライバル「Kuai(快手)」、ユニバーサルミュージック、インドネシアの配車サービス「Go-Jek」への投資、スイスのゲーム開発企業「Fatshark」の買収などが挙げられる。

 投資先の業種は、娯楽メディア(15%)、金融(12%)、ゲーム(6%)、医療健康(6%)、自動車・交通(6%)、AI(6%)、EC(5%)、教育・トレーニング(5%)など幅広いが、一番は企業向けサービス(21%)だ。これはアリババも同様で、企業向けサービスに最も投資している。

 また、売上が大きく伸びたクラウド事業でも、テンセントはアリババは競合関係にある。19年第3四半期のテンセントのクライド事業の売上は、母数は他事業と比べると低いものの、前年同期比で約8割増。一方、ライバルであるアリババも同四半期に64%増加している。

 調査会社・IDCのパブリッククラウドレポート「中国公有雲服務市場(2019上半年)跟踪」によれば、19年上半期の中国のクラウドサービス市場規模(IaaS/PaaS/SaaS)は、54億2000万ドル。シェア1位はアリババで、2位がテンセント、その後チャイナテレコム(中国電信)、Amazon AWS、ファーウェイと続き、この5社で75.3%を占める。中でもテンセントの伸びが著しいという。

 テンセントはクラウド事業で教育業、金融業、行政サービス、小売業などの顧客を増やしているという。目立った実績としては、WeChatや微信小程序を行政や企業が利用し、住民や観光客向けのサービスなどを提供できるスマートシティブランド「WeCity未来城市」を湖南省長沙市、湖北省武漢市、広東省江門市に導入したことが挙げられる。

 また、雲南省には観光地の電子チケットをブロックチェーンを活用して一元化する「一部手機遊雲南」を提供したり、江蘇省蘇州市張家港市農商銀行の分散データベースシステムをテンセントクラウドに移転したりといった実績もある。

 おそらくテンセントには、5Gが普及しようとする中で、今までのコンシューマー向けのネットサービスから、ビッグデータやAIやクラウドなどを活用したビジネス向けネットサービスを強化しようという狙いがあるのだろう。中国全体でも、5G関連のスタートアップに集中して投資する傾向がある。

 従来は消費者の目にとまりやすいコンシューマー向けのさまざまなスタートアップが投資を受けていたが、これからは工場・医療現場・オフィス向けに、IoT・ビッグデータ・クラウド・AIを活用したビジネスをスマート化するSaaSへ各社は特に注力していくだろう。

 これまでコンシューマー向けに寄っていたテンセントも例外ではなく、この流れにのってクラウド事業を強化するはずだ。消費者からすれば、同社を代表してきたSNSやコンテンツ、ゲームなどの事業に大きな変化が見られず、地味な成長をするようにみえるかもしれない。