前回説明したように、人材サービスのパターンは大きく9つあります。その中でも、かかわる人全てにとってその機能が良い効果を発揮しているといえるのかどうか、表面的には分かりづらいのが、民間事業者が提供する労働力需給調整機能です。以後、民間事業者が提供する労働力需給調整機能に絞り、カッコ書きの「人材サービス」と表記します。

 今回、取り上げるキーワードは「転職」です。在職中に次の就職先を探して職場を移ることを「転職」、一度退職してから次の就職先に移ることを「再就職」と言います。しかし、ここでは再就職も含め、正社員と呼ばれる雇用形態などで長期安定的に働くことを目的に職場を移ることを総称して、転職で統一したいと思います。

 転職の際に利用する「人材サービス」の代表格は、求人媒体と人材紹介です。

 求人媒体には、古くから新聞広告や折り込みチラシがあり、今はスマホを使って求人検索、応募ができる求人サイトが主流になってきています。ただし、臨時のアルバイト探しなどとは異なり、転職の場合は、職務経歴などをしっかりと書き込む必要があります。そのため、検索はスマホで行っていたとしても、いざ応募する際にはPCの前に座って腰を据えて取り組む人が多いと思います。

 厚生労働省の「平成30年雇用動向調査」によると、転職した人の入職経路の1位は、求人媒体に相当する「広告」で26.8%です。2位は「縁故」で26.5%、3位は「職業安定所」で20.9%となっています。

 過去6年を見ても、「広告」はおおむね入職経路の1位です。求人媒体は、既に転職時に真っ先に利用するインフラのような存在になっていると言えます。一方、人材紹介に相当する「民営職業紹介所」は4.9%にとどまります。同じ民間事業者が提供する「人材サービス」ですが、求人媒体の利用者比率とはかなり開きがあります。

●求人媒体が人気の理由

 人材紹介とは、有料の職業安定所のようなサービスです。「転職エージェント」と呼ばれることもあります。採用が決定すると、採用企業が人材紹介事業者に手数料を支払う仕組みです。手数料の相場は、採用予定者が初年度に受け取ると想定される年収の35%とされています。

 例えば、採用した人の初年度年収が500万円であれば、500万×35%=175万円が手数料となります。これはかなり大きな金額でしょう。そのため、企業としても、気軽に利用しづらいサービスだと言えます。もし公共職業安定所(ハローワーク)経由で採用できれば、支払う手数料は0円です。しかし、実際の採用現場は全ての人材をハローワークで採用できるほど甘くはありません。

 採用できないと、企業は人員不足の状態で事業運営することになります。そのため、もし不足している人員が営業職であれば、その欠員分はそのまま売り上げ、利益の減少に直結します。また事務職であったとしても、欠員状態が続くと既存社員が業務に追われて疲弊してしまい、ミスを誘発したり、さらなる退職者を出してしまうこともありえます。

 採用できない状態は、それ自体が事業運営上のリスクです。従って企業としては、有料であったとしても新たな採用ルートを確保する必要が出てきます。とはいえ、有料であってもリーズナブルであった方が当然よいはずです。そのため高額な人材紹介を利用するよりも、比較的安価な求人媒体を利用する企業が多いのだと思います。

●コストが高くても人材紹介が使われる理由

 しかし、求人媒体に掲載しても、労働市場に少ないような人材を採用しようとすれば応募が1件もない、ということもありえます。もし応募があったとしても、その人材を採用できるとは限りません。仮に1回の広告に30万円の料金がかかる場合、6回利用すると180万円です。それで年収500万円の社員を1人採用できたとしても、人材紹介を利用した際に支払う手数料の金額を超えてしまっています。

 従って、採用に苦戦することが想定されるハイスキル人材などであれば、求人媒体よりも人材紹介を利用した方がむしろリーズナブルな場合があると言えます。人材紹介は、採用が決定するまで費用が発生しないのが一般的です。また、採用後も短期間のうちに本人都合で退職してしまった場合は、手数料が返金される制度も一般的です。

 例えば、入社後3カ月以内に本人都合で退職した場合は手数料の50%を返金する、という具合です。高い手数料が課題の人材紹介ですが、採用する側がサービスの特性を理解した上で利用すれば、コストメリットも含めて有用なサービスでしょう。

 一方、転職する側から見た人材紹介(求職者から見ると職業紹介)の有用性はどのようなところにあるのでしょうか。人材紹介は、企業側が高い手数料を支払うサービスだけに、扱う求人の多くは相応のスキルや経験を応募条件にしています。概して採用に至るまでのハードルは高めです。それでも、相応のスキルや経験を有する人にとっては転職時の武器になります。それが、入職経路としての比率は高くないものの、堅調に利用され続けている理由だと考えられます。

 また、ほとんどの場合、求職者が人材紹介を利用する際に料金はかかりません。登録すれば、条件に合う求人が見つかったとき、人材紹介事業者から連絡が入ります。自分は今の会社に在籍したまま、人材紹介事業者が転職先を探してくれる点は大きなメリットです。

●サービスを悪用する業者たちも存在

 ここまで考察してきたように、求人媒体も人材紹介も特性を踏まえて上手に利用すれば、それぞれに有用なサービスであり、社会の中で一定の存在意義を有していると思います。しかしながら、サービスを提供する事業者がスタンスを誤れば、機能の有用性を阻害してしまう懸念もあります。

 求人媒体や人材紹介が有する「人材サービス」としての機能は、サービスを提供する事業者側が真剣にその役割を果たそうとしなければ社会の役には立ちません。それどころか、逆に害をもたらすことさえあります。

 例えば、求人媒体に掲載されている情報が少なくて不十分であったり、間違いが多かったりすると、サービス利用者の判断を誤らせたり、無駄な時間や労力を使わせてしまうことになりかねません。さらに悪質なケースとして考えられるのは、「虚偽情報の掲載」です。魅力的な求人情報を多数保有しているように見せかけるために虚偽の求人をでっち上げるような行為は、営業努力でも何でもありません。求職者を欺く行為です。

 また、人材紹介では求職者と企業との間に入って、双方のニーズが満たされるようにあっせんを行います。しかし、サービス提供者が双方のニーズをきちんとくみ取らず、強引に希望とズレたマッチングを試みたり、都合の良い情報ばかり伝えて後々実態とのギャップが発覚するようでは、「Win‐Win」な結果は得られません。片方だけが満たされ、もう片方は満たされないという状態を回避させることが、人材紹介事業者の役割です。あくまで目指すべきは、求職者と採用企業双方の「Win‐Win」であることを忘れてはなりません。

●求職者をそそのかしてもうけるケースも

 悪意ある事業者が人材紹介に携われば、手数料獲得だけを目的とした犯罪行為さえ起きかねません。考えられるのが、悪徳事業者が転職者をそそのかし、一定の手数料を支払うことを条件に入社させ、返金制度を超える期間まで働かせるような手口です。

 仮に、手数料150万円で分け前は3分の1、入社後3カ月までは本人都合退職で返金が発生する場合を考えてみましょう。転職者は3カ月だけ働いて退職すれば50万円を受け取ることができ、悪徳事業者には残りの100万円が売上として入ります。引く手あまたのスキルや経験、資格などを持っていたり、あるいはそれらをでっち上げたりすれば、同じ手口で再び別の会社に転職させて新たな手数料を得る、という行為を繰り返すことも理屈上は可能です。

 また、最近あたかもおいしい副業のように話を持ちかけて、有料職業紹介事業許可を持たない個人に手数料として分け前を渡すネットワークを安易に広げるような動きが散見されます。人材紹介は許認可事業であるため、免許を持たない者があっせん行為をしたり、それによって手数料を受け取ることは違法です。

 たとえ、話を持ちかけてきた事業者が許可を受けていたとしても、その事業者と雇用契約を結ばず、個人業務委託などの契約であっせん行為をして手数料を受け取った場合は違法です。中にはコンサルティング料や情報提供料など、紹介手数料という名目ではない場合もありますが、実態があっせん行為であれば違法と見なされます。

 本来、人材紹介事業に携わるには労働法や個人情報保護など相応の専門知識が必要です。“未経験でも気軽に始められます”“専門知識は一切必要ありません”などのうたい文句には警戒が必要です。ビジネスモデルを確認して、違法性がないかを慎重に判断する必要があります。自分だけでは違法性が判断できないときは、各都道府県に設置されている労働局に確認するといいでしょう。

 事業者のモラル欠如は、結果的に求職者にも企業にも損害を与えることになり、その事業者への信頼はもちろん、業界全体、引いては「人材サービス」そのものの信頼を損なうことにつながってしまいます。

 しかしながら、19年は残念なことに「人材サービス」を提供する事業者のモラルが問われる大きな出来事がありました。次回はその件にも触れつつ、「新卒」をキーワードに考察します。

(川上 敬太郎)