アフターコロナにどんな世界が待ち受けているのか? おそらく誰もが、恐怖と不安とひそかな期待の間をさまよっているのではないでしょうか。

 これまでも感染症が多くの犠牲者を出す反面、さまざまな変革をもたらしたことが知られています。例えば、世界をパニックに陥れた感染症の代表格、「ペスト=黒死病」が14世紀に欧州で猛威をふるった際には、少なくとも欧州人口の約3分の1が犠牲になったと記録されていますが、「ペストは近代の陣痛」と呼ばれることがあります。

 ペストが流行した当時の西ヨーロッパで、資本主義経済の原型が生まれたというのです。

 それまで農家で収穫したものは、年貢として領主に納められていました。しかし、ペストでたくさんの農民が亡くなったため、領主は「どうしたら今まで以上の働きをみんながしてくれるだろうか」と考えました。その結果、たどり着いたのが「土地を貸し、自由に使う権利を与える」戦略です。

 農民たちはそれまで領主から言われたことだけをやっていたのですが、「自分の土地だ!」と所有する喜びから、何を植えるか? どんな家畜を飼うか? を考え、いいものを作って高く売るために頑張るようになった。つまり、「裁量権」が働く意欲を向上させたのです。

 裁量権は仕事をする上で極めて重要です。「自分で自由に決めることができる」ことは、人間の生きる力を引き出します。14世紀から600年以上経った「私たちの世界」でも、元気な会社は働く人に裁量権を与え、自由と責任のバランスをうまくコントロールすることで生産性を向上させています。

 で、今回。新型コロナのパンデミックにより、企業はそれまで一向に進まなかった「テレワーク」や「在宅勤務」導入を余儀なくされました。多くの人たちは「自由に働く権利=裁量権」を手に入れたのではないでしょうか。裁量権には「休む自由」も含まれるので、仕事に集中したり、休みを入れたり、ギアチェンジできる。緩急をつけられれば、案外仕事は楽にこなすことができます。

 もっとも、「子供に仕事の邪魔をされてしまう」「気分転換がうまくできない」「ちょっと同僚に相談、ということができない」などネガティブな側面に苦労し、会社によっては「ちゃんと働いているか?」を監視するような対策を取っているところもあるようです。それ以前に「うちの会社は無理」と、はなからやろうとしない企業もあります。

 しかしながら、確実にテレワークは「新しい働き方」として定着すると思います。なんといっても「横並び意識」が強い日本社会です。「○○社はテレワークを始めた」だの「△△団体はみなやっている」といった状況になれば、重たい腰を上げる会社が雨後の筍(たけのこ)のように出てくることでしょう。すでに、ドワンゴが新型コロナ収束後も全社員を原則在宅勤務にする方針だと報じられたり、米国でもTwitter社が無期限で在宅勤務を認めると発表したりしていますから、柔軟なカタチで定着することでしょう。

●テレワークが「上司と部下」の関係も変える

 その一方、テレワークや在宅勤務によって、求められる能力や評価方法も大きく変わることが予想されます。

 「会社に来る」ことで評価されていた時代は終わり、“Face to Face”で物を売るスタイルは過去の遺物となり、人の機微をつかむコミュニケーションよりSNSを使った無駄のない発信のうまさが求められるようになります。

 完全な成果主義になり、自分で考えて動くことが求められます。ペスト後に農民たちが、「何を植えるか? どんな家畜を飼うか?」を自分で考えて働いたように、です。それは自分の仕事に「責任」を持つことですから、「言われたことだけやっとけばいい」という働き方を続けていては、「いらない人」の烙印を押されかねません。

 さらに、上司部下関係が大きく変わる可能性もあります。これまで日本の会社組織は、裁量権が拡大すればするほど、「自由に決める自由を自ら放棄する」という意味不明が起きていました。

 ヒラのときは、上に従順なことは「言われたことしか出来ない」と批判されますが、課長や部長になると、その従順さこそが評価されていました。いわゆる「忖度」です。裁量権が広がれば広がるほど、「上の言う通りにする=有能」と見なされるなんて、まったくもってわけがわからないのですが、上の意図とは異なるカタチで裁量権を使うことは「自分たちの掟(おきて)」への反逆であり、「階層社会を崩壊」させる行為だとされていたのです。

 しかし、「Zoom(ズーム)」などを使ったWeb会議が主流になれば、相手の顔をじかに見ずに発言することが可能です。座る場所も「こっちは上座、あっちが下座」とか気にする必要もないですし、発言している人はカメラを見ながら話すので、“上司の顔色”を伺う必要もない。今までなら「年下だし」「異動してきたばかりだし」と発言をしなかったメンバーにも、順番に発言の機会が回ってきますから、みんなその人の意見をきちんと聞くようになります。

 さらに、会議が終わった後に、こっそりと「ちょっとキミ、あれはどうかなあ……」などと呼び止められることもなくなります。「退出」すれば、ジ・エンドです。

●「新しいカタチ」のつながりを

 至極ポジティブに捉えると「ジジイの壁」を完全崩壊するチャンスが到来したのです。

 これまでは新しいことをしようとすると「それって必要?」「それ、キミ責任とれるの?」と、自らの責任を放棄し、前例主義、教条主義に身を委ねる「ジジイの壁」が高く高くそびえ立っていました。

 しかし、コロナ禍で強制的に始まったテレワークに、二の足を踏んでいたおじさん、おばさん社員も容赦なく巻き込まれました。なかにはWi-Fiのつなぎ方すら分からない「昭和の忘れ物」みたいな人もいましたが、時代の波に乗り遅れないように悪戦苦闘しています。

 テレワーク拡大は「ジジイの壁」にほころびを生じさせたのです。「よいしょ、どっこいしょ、忖度」を必殺技に階層上階に上りつめてきた人たちが、働き方を変え、部下との接し方を変え、新しいことにチャレンジしなければあとがない環境に今、立たされているのです。

 テレワークでちょっとばかり気後れしているおじさん社員もいると思いますが、謙虚に現実を受け入れ、「新しい上司のカタチ」と「新しい上司部下関係」づくりを頑張ってほしいと思います。

 ただし、会社=COMPANY(カンパニー)とは「ともに(COM)パン(PAINS)を食べる仲間(Y)」ということを忘れないでください。企業が厳しい状況で生き抜くには、「1+1=3、4、5」というチーム力を高めることが必要不可欠です。生産性の高い、価値ある「会社=COMPANY」が会社たる意味は、チーム力にこそあります。

 どんなに在宅で仕事をする機会が増え、会社に行く回数が減ったとしても、会社はコミュニティーであり、「社会的なつながり」と「自分の居場所」を見いだす機能をもっていることは変わりません。コミュニティーは、メンバーがお互いの存在に価値を感じ、自分の貢献がメンバーにプラスに波及すると信じられる集団でもあります。

 ですから、無駄話をしたり、無駄な空間で無駄な時間を過ごすことも、大切にしてください。おじさんはちょっと手間がかかってめんどくさいかもしれませんが、案外、チームを支える見えない力を発揮してくれると思いますよ。

(河合薫)