東武鉄道は特急の利便性が高い。日光・鬼怒川方面や伊勢崎線方面の特急列車の停車駅を増やし、特急を北千住に停車、他線とのアクセスを向上させている。さらに最近では、「スカイツリーライナー」「アーバンパークライナー」の設定・増発を行い、近距離でも特急利用ができることを売り物にしている。

 一方で、池袋を起点とする東武東上線方面では、特急は運転されていないものの、座席指定列車「TJライナー」が好評を博している。池袋から森林公園・小川町を結ぶこの列車は、クロスシートとロングシートに転換可能なマルチシートを採用、座席指定列車として運行される際にはクロスシートで運転されている。

●「THライナー」運行開始

 そんな東武鉄道は、6月6日より座席指定列車「THライナー」の運行を開始した。運行区間は久喜〜霞ケ関・恵比寿間で、70090型を使用している。TJライナーの成功や、特急列車の通勤利用の人気、または同業他社の通勤ライナー専用車両の成功の中で、東武スカイツリーラインと直通する東京メトロ日比谷線が20m車7両編成で統一されたという状況を受けて、地下鉄から東武へと直通する列車を走らせることになった。

 この列車は、東武のプレスリリースによると、「有料着席ライナーの導入により、都心への通勤・お出かけになるお客さまの快適性・利便性が向上し、着席通勤やお子様連れでの利用など多様なニーズに応える快適な輸送を実現します」とある。通勤で座りたい人に、よりよいサービスを提供するが目的である。

 東武スカイツリーライン系統は、都心へ向かうのに3つの行き先に分かれる。1つはターミナルの浅草へ向かう列車。特急や、一部の普通列車が該当する。2つ目は複々線区間の快速線から半蔵門線へと向かう列車。急行などが該当する。3つ目は、緩行線から日比谷線へと向かう列車。スカイツリーラインと半蔵門線直通列車との接続は、北千住で階段を上り下りすることなく可能だったものの、日比谷線との接続に北千住駅では難があった。フロアが違うため大きく移動しなくてはならないからだ。

 西新井で緩急接続を行わなければならず、上下線列車ともここで乗り換える場合、着席が困難なケースがある。一方で、東武動物公園や新越谷から着席し続け、日比谷線に向かうまでずっと乗っていると、おそろしく時間がかかる。

 着席したい。でも速達性も必要だ。かといって特急の利便性がいいわけでもない。そういうところのニーズに応えたのが、THライナーである。

●THライナーとは、どんな列車なのか?

 実際に、THライナーに乗ってみることにした。乗車日は6月9日、18時02分霞ケ関発の列車である。

 上りのTHライナーは久喜〜霞ケ関間が全席指定、霞ケ関以降が自由乗降区間となっている。下りのTHライナーは霞ケ関始発であり、上野まで乗車のみ、新越谷からは下車のみとなっている。

 東京メトロの霞ケ関駅では、官庁街で仕事を終えた人たちが改札に向かおうとする人の流れがあった。そんな時間帯に絶妙な列車として、平日のTHライナー1号は設定された。

 THライナーに乗車する際、気をつけなければいけないのはトイレである。改札に入って日比谷線のホーム近くにはトイレはなく、改札の外にいるうちに用を足さなくてはならない。座席指定券は、駅の券売機で購入するか、ネット予約をするのかのどちらかで購入できる。頻繁に利用する人なら、ネット予約がおすすめだ。

 日比谷線のダイヤはタイトである。利用客が多い路線なので、数分おきに各駅停車がやってくる。18時00分にも、各駅停車が出発したばかりだ。それから1分ほどたって、THライナーがやってくる。ドアは1両につき1カ所しか開かない。筆者は1号車の窓側に座った。

 18時02分に発車。座席は硬めで、普段の通勤電車の利用を意識したものだろう。スマホなどの充電用のコンセントと、ドリンクホルダーが備えられている。

 停車駅こそ少ないものの、日比谷線内では先行車両を追い越すことはできないので、ゆるりゆるりと走る。駅を通過する際には、その駅の様子がよく見えるほどである。

 銀座・茅場町・秋葉原・上野と少しずつ乗客が乗ってくる。乗車率は40〜50%ほど、といったところだ。18時02分に霞ケ関を発車し、定時より少し遅れて18時26分に上野発となり、ゆったり感はさらに増した。

 18時31分ころに地上に出て、37分ころに北千住で運転停車。ここで乗務員が交代する。荒川を渡る橋梁では、複々線の内側を走っている。梅島をすぎると減速し、渡り線を通って快速線に移行する。

 こちらの線路は、急行などの停車駅の少ない列車や、特急といった速達性重視の列車などが利用し、前方の列車につかえることがめったにない。ここからスピードを出し、18時55分に北越谷に着く。ここで複々線は終わるものの、列車の本数自体が少なくなるため特急並みの高速運転自体は可能だ。

 せんげん台・春日部・東武動物公園と停車し、19時21分に久喜に着く。ここまで利用した人は結構多かった。時刻表通りだと19時19分なので、2分遅れたことになる。ここで浅草からの特急「りょうもう」37号に接続し、赤城まで向かうことができる。

 コロナ禍という状況の中、まだまだ利用者は少ないものの、遠距離通勤客への着席確保という目的は果たせている。また、特急との接続で、さらに遠距離の利用者にも対応している。

 日比谷線内では高速運転ができないものの、北千住を出ると速度を上げ、速達性に寄与している。期待の大きい列車となるだろう。

●さまざまなライバル

 THライナーは、日比谷線と東武スカイツリーラインの着席サービスの提供、という役割を十二分に果たす。しかし都心からは上野東京ラインのグリーン車がある。こちらのほうが、運賃・料金ともに若干高い。THライナーの霞ケ関〜久喜間の料金が680円なのに対し、JR東日本東京〜久喜間のグリーン料金は780円。こちらには着席保証はないものの、だいたい座れる。しかも本数が多い。

 上野東京ラインのグリーン車という競合相手には、「着席保証」「スマホ充電」といった売りを十分に打ち出すしかない。また東京メトロ直通の座席指定列車は、小田急電鉄や西武鉄道も運行している。これらの列車ともビジネス上の比較がなされることだろう。

 浅草系統の特急列車がまず充実しており、その中でTHライナーを走らせ、着席サービスをさらに充実させる東武鉄道。比較の中での東武鉄道は、サービスのよい鉄道事業者として認知されることになるのだろう。

(小林拓矢)