第2波が襲来する可能性はあるものの、国際的に見ればコロナウイルスの第1波を比較的抑えた日本。緊急事態宣言も解かれ、自粛が求められていた、都道府県をまたいだ全国の移動も6月19日に解禁された。

 前編では経済産業研究所前理事長で現在、新潟県立大学国際経済学部の中島厚志教授に、コロナ後の世界で企業が取り組むべきことデジタル経済などについて語ってもらった(デジタル経済に舵を切れ 「変われない日本企業」から脱却するために参照)。後編の今回は、中島教授が長年滞在したフランスの状況を中心に、ベーシックインカムや企業の収益性など、世界の動きを踏まえながら日本はどのような針路を取るべきかを聞いた。

●消費が回復しない

――東京都は感染を抑えつつ経済回復を目指すロードマップを策定しました。今後の方向性についてどのように見ていますか?

 日本を含め米国、フランス、ドイツなどを見ても、外出規制・自粛後の経済活動再開策としてやっていることに大きな差はありません。ただ、経済を回すために規制を緩和しても、世界的に消費はすぐには回復しないという実態があります。

 一足早く経済回復に手を付けた中国を見ても、5月の工業生産は前年比で4.4%回復しているものの、消費(社会消費品小売総額)はマイナス3.0%です。また2月にマイナス81.7%まで大きく落ち込んだ自動車販売は5月になってようやくプラスに転じました。

 自動車のような「商品」はサービスと違って、一時外出規制で買えなかったとしても規制解除後には反動で大きく増えてもおかしくないのです。しかし、実際には勢いはあまりありません。(日本では)「爆買い」と称された中国人の消費も、鈍くなっている。雇用も不安定になるなど生活に不安があれば消費を控えるのは当然のことです。

――日本の消費者のマインドが回復するきっかけになるのは、コロナのワクチンができてから、ということでしょうか?

 ワクチンの完成は一区切りにはなると思いますが、「3密の中でもコロナに感染しない。大丈夫」だと多くの人が思えるようになるまで消費マインドが回復するのは厳しいと考えています。第2波がいつ襲ってくるのか分かりませんから。とりわけ、買い控えの分まで後で買える製造業の製品と違って、サービス産業は失ったものを完全には取り戻せないでしょう。

 観光産業1つを取ってみても、以前のように3000万人の観光客を再び迎えるのは何年先になるか分かりません。新型コロナの影響で倒産する企業が増えるのは避けられそうにありませんが、一方、「非対面」という状況に対応して、浮かび上がる企業も確実に現れます。そこにも注目してほしいですね。今後の参考になると思います。

 繰り返しますが、今後の経済の方向性は、非対面の中でどうやって付加価値をつけていくのか――。これを実践できれば「生き残る企業」になれます。

――欧米各国もいろいろな施策を策定しています。

 参考となるのは、EUの再生に向けたロードマップの1つである「欧州グリーン・ディール」です。グリーン・ディールは戦後の米国が、欧州の復興を手掛けたマーシャル・プランにあやかったものですが、大きな危機を大々的な投資で低炭素社会を作ることによって乗り越えるという考え方ですね。

 2030年に向けて(1)大胆な二酸化炭素の削減(グリーン経済への移行)と、(2)単一市場の深化とデジタル化を掲げています。特に後者は、高品質なネット接続、データを基盤とする経済の実現、どのような企業活動にも公正で容易なネット環境の実現を目指すものです。日本は世界から見るとデジタル化が遅れています。日本政府が強靭なインフラを目指すのであれば、具体的な戦略を持たないといけません。戦略策定のために欧州グリーン・ディールは大いに参考になるはずですし、危機だからこそやれる施策だと考えています。

――フランスでは政府が従業員の一部を休職させ、最大で給与の84%を補償する「一時的休業制度」を設けましたが、日本が参考にすべき点はありますか。

 フランスは、GDPに占める財政支出の割合が世界で最も高く、今後の経済復興を占う上での先行事例になると思っています。もともとフランスは市場経済の国なのですが国家が主要な産業と企業を統治する混合経済体制を敷いてきました。現在でもルノーやフランス電力といった主要企業では政府が大株主となっていて、その影響は色濃く残っているのです。

 ただ、財政支出割合が世界最高まで高まった状況では、フランスといえどもこれ以上の国民負担増はなかなかできません。社会保険料も増やせないので日本よりも厳しい状況にあるといえます。そんな中で、今回のコロナ危機では政府は休業補償を手厚くしすぎたように見えます。

 一時的休業、育児休業を含む病欠、休暇などの理由で出勤をしておらず休業補償を得ている労働者が、現在雇用者人口の5割以上に上ってしまっているのです。実に1330万人がこの一時的休業者となっており、雇用者の半分以上は企業ではなく国家が給料を払っている構図です。さすがに10月からは段階的に補償を縮小することが発表されましたが、しっかり景気を回復させないと、この一時的休業者のかなり人が解雇され、完全失業者に振り替わる懸念があります。

 現在は、通常ではあり得ない予算の付け方がなされ、さらにコロナによって再び、現代貨幣理論(編注:MMT、自国通貨建てで政府が借金して財源を調達しても、インフレにならないかぎり、財政赤字は問題ではないという主張)のメリットなどが強調されていますが、いずれ欧米でも財政の健全化へ向けた動きが必ず始まります。増税する余地がほとんどない中、フランスがいかにして社会と経済を回していくのかは、今後の日本の動きを見る上でも注目に値します。

●ベーシックインカム導入には年間60兆円かかる

――コロナの影響で職を失い生活に困窮する人が増える中、政府が国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を定期的に支給する「ベーシックインカム」を導入すべきだという意見もありましたが、どのように考えていますか?

 ベーシックインカム導入には基本的に賛成です。ただし……です。仮に毎月5万円を1億人に支給すると、1カ月あたり5兆円が必要となります。それを12カ月ですから1年間で60兆円が必要ですね。年間の国家予算が約100兆円なので、合わせて160兆円となりますが、本当に捻出できるのか、という話になります。

 国民の覚悟が問われているかもしれません。「消費税増税はイヤ。社会保険料の増額もだめ。でも、国民皆保険は維持して、ベーシックインカムも導入する」。それは財源を考えれば無理な話です。

――北欧諸国では社会保障が充実していますよね。

 いきなりベーシックインカム導入は難しいとしても最初のステップとしてスウェーデン型の福祉国家を目指すということは考えられます。スウェーデンは重税ですが、その代わりに学校は無料で、奨学金ももらえます。奨学金は実質生活費になりますから、生活はできます。(新型コロナウイルスの影響によって)アルバイトすらできず生活に苦しみ退学する学生が報じられた日本とは大きな違いがありますね。

 ただこのように国民の生活費を支える財源がどこから出ているかというと、過半を企業が負担しているのです。国民の社会保障費の多くをまかなっているのは、実は企業なのです。だからスウェーデンという国は赤字企業を助けません。国を代表する中核企業のサーブ・オートモービルもボルボ・グループも中国企業に支配権が移りました。

 国は、いくら雇用していると言っても企業は助けず国民を助けます。ですから、国民は失業するのですが、国が再就職のための職業教育や再就職支援をする形なのです。そのような仕組みの上での“福祉国家”なのです。

 内閣府はかつてスウェーデンと日本の国民負担の還元率を計算していますが、スウェーデンの方が日本より多く還元されており、重税ではあるものの、実質の負担は少ないとの結果を示しています。日本人もどの方向性に向かうべきか考えたほうがいいでしょう。

●付加価値と収益力

――コロナのような危機が起こったときに収益力を上げるためには何が必要なのでしょうか。

 新型コロナでサプライチェーンが寸断されて自動車の生産ができないということがありました。いざというときのために、国内に生産拠点を設けることも必要で、それが日本企業の強みにつながるということが分かったと思います。ただ、これはコスト高になるわけですから、国内回帰と収益力の向上はワンセットであるべきなのです。

 当然、企業はBCP(事業継続計画)対策を経営のなかに入れなければなりません。それは単にBCPの規定を策定するだけではなくて、収益力を向上させるための策も同時に考えるということなのです。オフィススペースを削減してテレワークを進める、クラウドで経理や総務の負担を減らす。こうしたことに平時から取り組んでいれば収益性は当然高まり、それがいざというときの備えすなわちBCPにつながるのです。

――製造業の現場はどうしても3密になるところがあります。テレワークとのバランスはどう考えればいいのでしょうか? 

 もちろんテレワークが難しい業態もあるでしょう。ただ3密を避けることで確実に言えるのは、今までほどの3密を前提にした大量生産、大量消費の時代は終わったということです。付加価値のある多様なものを作っていく方向にもっと舵を切るべきでしょう。

 技術集約的な展開を製造業でもしていた米国企業に比べると、これまでの日本企業は安い「人手」に頼ってきました。だから労働力の安い中国に積極的に進出したとも言えるのですが、今はそのビジネスモデルをより変えるチャンスです。国内回帰をせざるを得ないならば、より付加価値のある商品を国内の工場で作るしかなく、それは収益力の向上を図ることに他なりません。

――付加価値を付けるというのは、例えばiPhoneのように高価格でも購入するというようなブランド戦略も含まれますか?

 ソフトウェアの比率を高めるような拡張性のある製品を作るということですよね。iPhoneを例にすれば、このスマホの機械自体が良くてアップルが儲かるというより、アプリの魅力でiPhoneの価値が上がっているから儲かっている訳です。日本からそうした「プラットフォーマー」が出てくることを願っています。(ジャーナリスト武田信晃)

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