ふるさと納税の対象から、泉佐野市を除外した国の行為が違法であることが、最高裁で確定し、泉佐野市が今年のふるさと納税先として復活する見通しとなった。

 大阪府泉佐野市は、高還元率によって国民に魅力ある返礼品をアピールする戦略が奏功し、2018年度には約498億円もの寄付金を集めることに成功した。同市の普通会計決算では歳入総額が1330億円だったことから、当時における歳入の4割弱がふるさと納税による寄付金という珍決算となった。

 ふるさと納税は、間接的には住民税や所得税を他の地域に寄付する制度だ。つまり、どこかが寄付金を集めると、その反対には税収が減る地域が存在することとなる。そういった事情もあって、判決が確定した後も泉佐野市を非難する声は根強い。泉佐野市側の訴えを認めた判事の中にも、補足意見においては「結論にはいささか居心地の悪さを覚える」「眉をひそめざるを得ない」という具合で泉佐野市を非難する言葉を用いる者もいた。

 しかし、泉佐野市がこれまでに置かれていた状況を鑑みれば、ふるさと納税における制度の範囲内で創意工夫することについて、必ずしも「眉をひそめる」結果であるとはいえないだろう。

●財政難をふるさと納税で打破

 泉佐野市が、あえて国の怒りを買うような行動に出続けていた背景には、厳しい財政状況もあった。大阪府泉佐野市は、08年には財政健全化団体に指定されるほどの財政難に陥っていた。今回の勝訴に際してコメントした千代松大耕市長も、11年の市長就任直後から、自身の40%の給与削減に踏み切ると同時に、一般職についても8%〜13%規模の給与カットに踏み切らざるを得ない状況であった。

 国などの支援を除けば、「遊休資産の売却」や「人件費の削減」といった爪の先に火を灯すような策で糊口(ここう)をしのいでいた泉佐野市。当初の公算では、財政健全化団体の指定を解除されるまでには19年間、27年までかかる想定だったことが同市の「財政健全化実施プラン」に記されている。

 しかし、同市は当初の見込みより14年早い2013年に財政健全化団体の指定解除を達成することになる。しかし、これは議員・職員の人件費カットによる経費削減が依然として大きい割合を占めていた。そのため、解除後も人件費をカット前の水準まで戻すことができない状況が続いていた。

 このジリ貧ともいえる状況を打破したのがふるさと納税だ。同市は、18年にふるさと納税で集めた約498億円の寄付金を、事業や振興プロジェクトといった「投資的経費」の積立金に当てることで財政の自由度を高めることに成功した。これを受けて19年末には、20年に一般職の給与削減を解消する方針も打ち出すことができた。なお、ふるさと納税による寄付は人件費に直接あてられるわけではない。あくまで投資的経費にかかる積立金などに寄付金があてられた結果、寄付金以外の歳入を人件費などといった義務的経費により多く回すことができるという構造となっている。

 財政難は、国の援助に大きく依存することとなったり、時には自治体が破綻したりすることもある大きな課題だ。そんな中、泉佐野市はふるさと納税をチャンスにし、職員の給与をカットするという不幸な財政健全策とは別のアプローチを見出したと考えれば、それほどまでに非難すべき行為であったのかいささか疑問である。

●還元率が高いのは本当に“悪”なのか

 また、泉佐野市を非難する論拠の一つでもある「還元率が高い」ことを悪と捉える風潮にも、若干の疑問がある。現在では、返礼品が地場産品であることを原則としている以上、還元率が高いことは地場産業の売上向上にも寄与する構造となる。結果として高還元率は地域振興にもメリットが大きい。さらに、仮に全てが地域振興にあてられないとしても、利益があればそれを地域振興にあてられることから、黒字である限りは許容されるべきではないだろうか。

 現に、このような高い還元率をうたうマーケティング手法は、今日の民間企業でもごく一般に展開されている。例えば、スマホコード決済最大手のPayPayはどうだろうか。PayPayは決済手数料が現段階では無料であるにも関わらず、20年3月期では平常時、決済あたり1.5%の還元を実施しており、キャンペーン時はそれよりも多額の還元を実施していた。

 つまり、PayPayは収入が多くないにも関わらず自腹を切って還元することで、顧客を獲得している。その結果、PayPayの20年3月期決算は営業損失834.6億円というとんでもない数字となった。しかし、このレベルの赤字を出せる背景には、マーケットの総取りによる長期的な収入が、それまでにかかる営業損失を上回るという判断があるからこそである。PayPay以外にも、顧客獲得のために現金をプレゼントしたり、高い還元率をアピールしたりする企業の存在は珍しくなく、それにより事業が短期的に赤字に陥ることもままあるのが通常だ。

 それでは泉佐野市の事例ではどうだろうか。泉佐野市の返礼割合は「100億円還元閉店セール」以外の平常時では、概ね5割程度だった。残った5割から、送料やポータルサイト利用料やその他の経費の相場として一般的に3割程度が引かれる。そうすると、泉佐野市が集めた寄付金498億円のうち、99億6000万円相当が手取りとなる試算になる。そう考えると、泉佐野市の還元は、先ほど検討した民間企業よりもよっぽど安全運転であるといえないだろうか。同市は、500億円近いプロジェクトに対して2割に相当する100億円近い利益を出していることになり、黒字で成立させることに成功している。

●文句を言うか工夫をするか

 ここまで考えると、国は、ふるさと納税に際して地方自治体が大胆な意思決定を取ることを制限したかったのであれば、制度設計を綿密に行っておく必要があった。したがって、国側が批判されることはあっても、制度の枠組みで自治体経営の効果を最大化させた泉佐野市側が批判されるいわれは、ほとんどない。

 また、泉佐野市を非難していた自治体は、税金が間接的に流出することを非難するばかりで、本当に泉佐野市のような経営努力をしてきたといえるのだろうか。仮に、他の自治体もふるさと納税で効果を高めるために努力していれば、泉佐野市がここまで一人勝ちすることもなかったはずだ。

 確かに、地方公共団体の間で過度な競争が発生することは避けるべきである。そうであるとすれば、やはり制度設計が不十分な状態で実施を決めた国に対して眉をひそめるべきだったのではないか。

(古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士)