新型コロナウイルスによる経済活動の営業自粛の影響で、百貨店が苦境に立たされている。首都圏などで休業を余儀なくされた4月、5月を含む第1四半期は軒並み巨額の赤字を計上、年間でも赤字決算が避けられない。

 米国では新型コロナの影響で、高級百貨店の「ニーマン・マーカス・グループ」や老舗百貨店の「JCペニー」、米国で最も古い百貨店の「ロード・アンド・テイラー」が次々に経営破綻に追い込まれた。日本でも百貨店はビジネスモデルの終焉(しゅうえん)が叫ばれて久しいが、果たして生き残ることはできるのか。

●大丸松坂屋58.6%減 高島屋48.0%減の連結売上高

 各社の第1四半期は惨憺(さんたん)たるものだ。2月決算会社の高島屋とJ.フロントリテイリング(大丸松坂屋)の第1四半期は3−5月期、3月決算会社の三越伊勢丹ホールディングスとエイチ・ツー・オーリテイリング(阪急阪神)の第1四半期は4−6月期とズレがある。だが共に、緊急事態宣言が出された4、5月が含まれたことから、軒並み赤字決算になった。

 第1四半期の連結売上高は、大丸松坂屋が58.6%減、三越伊勢丹が53.3%減、高島屋が48.0%減、阪急阪神が32.8%減とそろって大幅に減少。連結最終赤字額は三越伊勢丹が305億円、高島屋が205億円、大丸松坂屋203億円、阪神阪急が61億円となった。

 緊急事態宣言が明けた後も、売り上げはなかなか戻っていない。通期の見通しは高島屋と阪急阪神が「未定」としたまま。三越伊勢丹は600億円の赤字、大丸松坂屋は260億円の赤字と、現段階では見込んでいるが、今後の新型コロナの状況がどうなるか、来店客数が戻ってくるのか見通せない段階での数字にすぎない。

●「消えた」客単価7万円のインバウンド消費

 ここへ来て、再び新型コロナ感染者が全国的に増加している。政府は重症者が少ないことなどを理由に再度の緊急事態宣言には後ろ向きだが、高齢者を中心に繁華街への外出を自粛する動きが広がっており、百貨店の売り上げには大打撃の状況が続いている。

 日本百貨店協会が8月21日に発表した7月の全国百貨店売上高は、前年同月比マイナス20.3%だった。4月は72.8%減、5月は65.6%減で、緊急事態宣言が明けた6月は19.1%減にまで持ち直していたが、7月は再び減少率が大きくなった。消費税率が5%から8%になった14年4月の減少率は12.0%、税率が10%になった19年10月の減少率は17.5%だったから、それを上回る激震が続いていることになる。

 さらに、ここ数年、百貨店が「頼みの綱」にしてきたインバウンド消費もほぼ「消えた」。外国人観光客が百貨店で免税手続きをして購入した「免税売上高」は全国の百貨店の合計でピークの19年4月には344億円を記録、20年1月でも316億円に達していたが、それが4月にはわずか5億円に落ち込んだのだ。1月の免税手続きはのべ45万4000人に達したが4月はわずか2400人。6月は戻ったといっても1万2000人にすぎない。

 百貨店の売り上げ全体からみれば、1月でも6.7%にすぎず、大して大きいようには見えない。だが、平均の客単価が7万円に達していたことをみれば分かるように、利益率の高い化粧品や高級ブランド品、貴金属宝飾品などが買われていた。それが激減したことで利益も大きく圧縮される結果になっている。

●最大の赤字を出した三越伊勢丹の財務内容は?

 訪日旅行客の数自体、前年同月比で99.9%のマイナスが続いてきた。国境を超えた移動が難しい状況が続いており、インバウンド消費が百貨店に戻るには相当の時間がかかりそうだ。今年度中に元に戻ることはほぼ絶望的とみていいだろう。仮に国内需要が元に戻ったとしても、百貨店の売り上げ減少はインバウンド消費分の5%以上のマイナスが続くということになる。

 では、こうした状況が続いたとして、百貨店は耐えることができるのだろうか。第1四半期で最大の赤字を出した三越伊勢丹ホールディングスの財務内容をみてみよう。

 当面、赤字が続くとして企業が生き延びるための「頼み」は内部留保(利益剰余金)ということになる。もちろん全てが現預金で蓄えられているわけではないが、すぐに債務超過に転落して経営破綻することはない。三越伊勢丹の2020年6月末現在の利益剰余金は1505億円。3月末には1836億円あったが、赤字決算によって減少が始まっている。

 通期では600億円の最終赤字を見込んでいるが、この利益剰余金があれば、乗り切れると考える人が多いだろう。だが、企業経営はそう単純ではない。決算書上、債務超過を免れていても、経営が行き詰まることがあるのだ。

 前述のように利益剰余金は必ずしも現預金の形で蓄えられているわけではない。三越伊勢丹の6月末の「現金及び預金」は345億円。3月末に比べて400億円減っている。もちろん店舗の営業を再開すれば、人件費や水道光熱費などは現金で出ているから、売り上げが元の水準に戻らなければ、資金繰りがつかなくなる。

 また、百貨店のような小売業の場合、仕入れた商品の「買掛金」なども大きく、その支払いもやってくる。もちろん資金繰りをつなぐために銀行などからの借入金を増やすことも可能だが、収益力が悪化する中で、借入ができるか、また、将来にわたって返済していけるのかという問題が生じる。

 ひとえに今後、どれぐらい売上高が戻るか、ということに尽きるのだが、新型コロナの蔓延(まんえん)が長引いた場合、赤字が続くことになる。3カ月で300億円の赤字が、12カ月で600億円の赤字という会社の予想は、甘いのか適切なのか、現状では何とも言えないが、この規模の赤字が2年半続けば、利益剰余金は底をつくことになるのだ。

 資本金や資本準備金も合わせれば6月末で5000億円あるので、余裕がある、という人もいるかもしれない。しかし、資本は現金で蓄えられているものではない。百貨店の土地建物や設備などに回っており、それを赤字の穴埋めに使おうと思えば、資産売却などをしなければならなくなる。

●百貨店の殻を打ち破る取り組みを

 経営陣からすれば、先行きが読めないのに、利益剰余金頼みの経営をするわけには到底いかない。売上高がなかなか元に戻らないとすれば当面のコスト圧縮に乗り出すことになる。

 今は、政府は雇用調整助成金の制度を拡充し、従業員を休ませた場合の人件費を助成している。ただ、この仕組みもいつまで続くか分からないし、店舗を開ければ従業員を休ませるわけにはいかない。早晩、コストを圧縮するために、仕事が減った社員を解雇するなどリストラに着手せざるを得なくなるだろう。

 もともと百貨店業の伝統的なビジネスモデルは行き詰まっている、といわれてきた。持株会社の下での統合を進めてきたのも、経営を効率化して生き残りを図ってきたためだ。一部ではオンラインショッピングなど、従来の百貨店の殻を打ち破る取り組みも行われているが、大手のオンライン通販サイトなどにむしろ食われている。

 百貨店はただ単にモノを売るだけでなく、日本の文化や伝統を守る役割も果たしてきた。急速に廃れつつあるとはいえ、お中元やお歳暮などの贈答文化の一翼を担い、高付加価値商品などを供給するチャネルとして機能してきた。最近では地方の良いモノを発掘して都会の人に知ってもらい、地方と大都市を結ぶ商品流通も担ってきた。

 訪日旅行客が東京や大阪の百貨店を目当てに日本を訪れたのも、単に値段が安いからではないだろう。そうした日本の百貨店文化を高く評価し、それに惹(ひ)かれたからに違いない。

 新型コロナの蔓延を克服し、「ポスト・コロナ」の時代も百貨店が存続していけるかどうかは、単に「モノを買う場」にとどまらない機能を多くの消費者に支持してもらえるかにかかっている。

(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)