就活人気企業ランキングから、テレビ局が消えた――。

 かつてはランキング上位の常連だったテレビ局。しかし、2021年卒の学生を対象にしたランキングではTOP50にテレビ局の名前はない。とはいえ、フジテレビやTBSなどは上位に入っているのでは、と思いきや、意外なことに、テレビ局の中でのトップ、51位にきたのはテレビ東京。その後61位にNHKが続き、TOP100内にはその他の東京キー局の名前はない(東京都千代田のワークス・ジャパンの調査・有効回答者計1万2504人)。

 もちろん、これは人気企業ランキングであり、そもそも時代を捉えた意識の高い大学生たちの行き先や志向は、このランキングには反映しづらい傾向もある。だが、それでも学生の「大企業に就職して安定したい」けれども「なにか面白いことをしたい」という2つの要望が交わる受け皿として、テレビ局がこのランキングの上位に入ってくる傾向は、2010年代序盤までは確認できた。

 筆者は09年にテレビ局就活の本を出してから10年以上、多くの大学や企業の就活セミナーに登壇し、学生の就活指導や企業向けの採用アドバイスにあたってきた。なぜこの10年間で、キー局の学生人気は落ちたのか。そして受験する側の学生や、キー局の採用戦略にはどんな変化が起きているのか。データや学生の生の声とともに見ていきたい。

●ネットに詰め寄られる「存在感」

 冒頭に書いたように、テレビ局が就職先として人気だったのは「大企業に就職して安定したい」と「なにか面白いことをしたい」という、学生が持つ2つの要望がギリギリ交わりそうな点として機能していた部分が大きい。すなわち「ちょっと面白そうなことができる大企業」としての志望先だ。

 銀行や損害保険会社などの他の人気企業ランキング常連企業になくて、テレビ局にあるものは“面白いことができそうという期待”だった。それは昭和生まれの大学生たちが受験していた11年卒くらいまでは、大きく作用していた。しかし、11年あたりから徐々にネットの存在感が大きくなり始める。震災後、Twitterの個人アカウントを持つ人は急増した。人々はマスメディアによる報道だけでなく、Twitterに流れる情報にも触れるようになった。

●各局の営業利益は?

 あふれる情報の中で、徐々に就活生たちには“テレビ局の本質”が見えやすくなっていく。例えば最近では“テレビ局は何で利益をあげているのか”というツイートが拡散されていた。これはIR資料を見れば分かるものではあるが、実際、志望するにあたってそこまでする学生は多くない。ちなみに各局の2020年3月期の営業利益は以下の通りである。

【フジテレビ】 メディア:139億円 都市開発・観光:137億円

【TBS】 メディア:24億円 不動産:79億円

【日テレ】 メディア:406億円 不動産賃貸:34億円

【テレ朝】 テレビ:70億円 音楽出版:10億円

 これを見れば(少なくとも利益の面で言えば)TBSは「不動産会社」のようにも見え、フジテレビは「お台場の都市開発業者」のようにも見えてしまう。「テレビ局はテレビ番組を作って利益を出すところ」と考えていた学生には、違う見え方を提示しているかもしれない。

●日テレ、テレ朝、フジ「女性役員はゼロ」

 他にも、触れられる“本質”の1つに、「いまだに圧倒的な男性社会」という側面がある。民放労連女性協議会の19年10月の調査によると、NHKを除く東京キー局は、女性比率が社員全体で見れば20〜25%の間であるものの(それでも高いとはいえないが)、日本テレビ、テレビ朝日、フジテレビでは女性役員はゼロ。在京・在阪局ともに、報道部門、制作部門、情報制作部門の局長には「女性は1人もいない」状態になっている。

 そもそもジェンダー・ギャップ指数の低い国ではあるが(19年12月に「世界経済フォーラム」が発表した19年の「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は153カ国中121位)、その状況を改善する情報を発信していく役割を担うべきテレビ局がこの状況なのだ。

 番組制作現場レベルに目をむけても、例えば日本テレビで6月1日に放送された「人生が変わる1分間の深イイ話×しゃべくり007 合体SP」を受けては、ネット上で「Excelが使えるだけでリケジョとくくるな」「そもそも○○女子とくくるのは時代遅れ」といった発言が相次ぎ、炎上した。かつて大多数の意見を代弁しているように見えていたテレビが、実は少数の“時代遅れの”強者の制作物であること――。そのことに、ネットという“ツッコミ”が入ることによって、若者たちが気付き始めている。

 その是非はさておき、“ワイドショー番組でMCをしている人”や“テレビで流行とされているもの”より、“YouTuberやSNSでフォロワーの多い人の発信”や“ハッシュタグの投稿数の多い商品”を若者は信じるようになっていく。例えば最近では、お笑い芸人・中田敦彦もワイドショーのコメンテーターとしてはテレビに出演しなくなった一方で、公式チャンネル「中田敦彦のYouTube大学」は国内有数の人気を博している。若者に訴求するメディアが、テレビからインターネットに移ってきているのだ。

 また、現在Twitterで500万フォロワー以上を抱える歌手、きゃりーぱみゅぱみゅはもともと11年にYouTube上で公開した楽曲の映像が、世界的な注目を集めるに至った経緯自体が話題となった。だが、ドラマやCMなどのタイアップがつかなくても、ミュージックビデオがネット上にアップされたことで人気に火がつく……といったことはこの10年で当たり前の話となっている。

 “感覚のズレ”は制作現場だけではなく、採用面接の場にももちろん影響を及ぼしてくる。例えば先日も、21年卒を対象にしたあるキー局の系列の制作会社の面接で、面接を受けにきた男性の就活生に対し、面接官を担当した部長クラスの男性から「君オカマじゃないよね?」といった質問が飛んだという。彼は笑いながら「違います」と返し、面接も通過したというが、このような質問が就活生になされること自体が、時代錯誤だというほかない。

 もはやテレビ局は時代の先端の感覚をもった集団ではない――。男女比率の構造上から考えても、すぐに改善するのは難しいだろう。その“構造”に、権力もないまま直にまきこまれる“新入社員”になる予備軍である就活生たちが、希望を見いだせないのは当然の話だ。

●報道の自由度も下降

 国境なき記者団による、世界報道自由度ランキング(英語: Press Freedom Index)でも、この10年間で日本の順位は下落している。震災前の10年には11位だった(09年からの民主党政権時代にランキングは上がった)一方、12年のランキングでは22位に下落し、その後も自民党政権下で下降を続け20年度の調査では66位。ボスニア・ヘルツェゴビナやクロアチアよりも下だ。

 真剣に“ジャーナリズム”を志す学生が、この国の“自由ではなさそうな”テレビ局で働きたくなるか、と言えば疑問だ。もちろん、早計に「ネットメディアは自由だ」などというつもりはない。だが、そろそろネットメディアに触れてきた世代が、就活生になってきている。この事実は、先の人気企業ランキングの変化を考える上でも見逃せない。

 例えば21年卒(現在の大学4年生)は1998年生まれで、iPadが世に出た2010年に小学校6年生だった。彼らが中高生だった時代はiPhoneが爆発的に普及した時期と重なっている。遅くとも大学生までの間に、スマートフォンを日常的に使用するようになった学生がほとんどだ。すなわち、「ガラケーというものを持ったことがない」若者も多くなってくるのである。もちろん、彼らはテレビを見ていないわけではない。小学生時代にはスマホもなく「メディアといえばテレビ」の時代を過ごしているので、ギリギリ“最後のテレビ世代”ともいえる。

 人は思春期に影響を受けたものに、その価値観を規定される。まだ21年卒の中には「絶対にテレビ業界に入りたい」学生もいる。だが、就活生の中では“小学生のときにテレビを見た記憶”がどんどんと薄くなっていく。ここから先の数年が分水嶺となる。

●テレビ局が舵を切った「デジタル戦略」

 ではそんな“最後のテレビ世代”でもあり、デジタルネイティブでもある彼らに向けてテレビ局はどんな採用戦略を展開しているのか。最近ではネットでのオンライン説明会も多くなってきていて、新たな流れとしてインスタグラムの積極利用がある。

 先日TBSが開催したのは、アナウンサー同士のインスタライブだ。雑談ではなく、公式アカウントによる、れっきとしたアナウンサー採用の広報のコンテンツである。読売テレビはさらにインスタを積極的に利用。TBSのようなアナウンサー同士の会話はもちろん、人事部もインスタライブを実施し、ストーリーズにアップされた質問箱から質問を募集。アーカイブが残るものもあり、就活生でなくても見ることができる。

 説明会といえば、以前は参加者数に制限があることがさまざまな問題を引き起こしていた。特にリクナビ全盛期の2000年代中頃から2010年代序盤は、エントリー(参加申込)がネットで簡単にできるものの、会場の席数には限りがあるため、その差が増大。あふれる参加希望者に志望理由を書かせて判断するのは人事側にとっても効率が悪く負担が多いため、いわゆる“学歴フィルター”を使って、実際に参加できる学生を選ぶケースも多くあった。選考はおろか、説明会にすら参加できない学生も多くいたのだ。

 しかし、インスタグラム上のライブ形式であれば、基本的には誰でも参加可能だ。就活サイトからエントリーするという障壁を越えずとも参加できるため、幅広い層にリーチし、偶然の出会いも誘発できる。また、採用側は、インスタライブに参加した就活生のアカウントを確認できるため、そこから素の姿を探ることもしやすい。面接では分からなかった長所に気付いたり、逆に“危険因子”に気付ける可能性がある。

●選考もオンラインに

 21年卒・22年卒の就職活動に関しては、緊急事態宣言の影響も受け、選考自体をオンラインで開催する企業も多い。中でもこの夏、アナウンサー試験の前哨戦ともいわれるアナウンスセミナーをキー局・準キー局がオンラインで実施したのは興味深い。事前に原稿をデータとして送付するなどの方法で、例年と同じようにニュース原稿読みを就活生に課した局もあった。

 これまでアナウンスセミナーといえば、自局のスタジオで、ライティング・音声なども整えた上で、就活生に自己PRやフリートークなどをさせ、オーラや実物とカメラ映りの差なども加味して判断されてきた。拙稿でも触れた通りだが、オンライン上では、カメラやライティングなどが受験生の判断に任される。オンライン向きの就活生とそうでない就活生で差が出てくるのは避けられない。

 もちろん、採用できたからといって安泰ではない。最近では、17年にTBSテレビに入社した2人が、ものの2年で退社しYouTuberになった例もある。また地方局を中心に新しい産業に転身する若手の存在も耳に入ってくる。「テレビ局に入れたからずっと勤める」という意識も崩れ始めているのだ。

 かつては就職人気企業ランキングに入り、待遇もいいテレビ局をやめる若者がいることに驚く読者もいるだろう。この10年間、大学生と接し続けて感じてきたことだが、メディアとしても就職先としても「テレビが最先端で大人気」ではなくなってきている。そこにきてこのコロナ禍によって起こっている“オンラインへのシフト”が拍車をかける。2010年代、水面下で起きていた変化が、20年代に入って、いよいよ浮き彫りになり、変化は加速していく。

(『マスコミ就活革命』著者、就活トークライブ『就活エッジ』主宰 霜田明寛)