菅官房長官が「新しい旅行や働き方のスタイルとして政府としても普及に取り組んでいきたい」と発言したことで注目された「ワーケーション」。Wikipediaでは「『ワーク』(労働)と『バケーション』(休暇)を組み合わせた造語(かばん語)で、観光地やリゾート地で休暇を取りながらテレワーク(リモートワーク)する働き方」と記載されている。テレビでも大きく取り上げられ、ネットでは「休暇中に仕事なんてしたくない」「コロナ感染のリスクがあるこの時期に?」「仕事中に遊ぶなんてとんでもない」などなど、さまざまな意見が飛び交った。

 しかし長年テレワークを推進し、地域の活性化施策に携わってきた筆者は、声を大きくして言いたい。ワーケーションは、単に「休暇中に仕事をする」ことではない。コロナ禍で混乱する企業、地域、個人、それぞれにメリットをもたらす、アフターコロナ時代の新しい「働き方&休み方」である。

●ワーケーションが、企業・個人・地域にもたらすメリット

 まず、ワーケーションのメリットをそれぞれの立場から整理しよう。

企業のメリット

・新しい働き方の推進

・社員のWLB(ワークライフバランス)向上

・社員の福利厚生

・社会貢献

・災害時の対策

地域のメリット

・関係人口の拡大

・地域資源の利活用

・サテライトオフィス設置

・社員の移住

・地域での雇用

個人のメリット

・リフレッシュ(観光)

・長期休暇取得

・家族との旅行

・仕事との両立

・仲間づくり

 これらのメリットは以前から言われていたことだが、このコロナ禍による社会状況の変化で、ワーケーションへの期待が高まり、菅官房長官の発言にもつながった。

●ワーケーションの整理から見える、企業の重要性

 ワーケーションの難しいところは、前述のように企業・地域・個人それぞれにメリットがあるゆえに、それぞれの目的や課題、組み合わせのパターンが多く存在することだ。そこで、ワーケーションを、筆者なりに整理してみた。

 まずは、ワーケーションをする個人を「会社員(雇用型)」と「フリーランス(自営型)」に分ける。フリーランス、つまり自営で働く人は、本人の意思があれば、ワーケーションはいつでもどこでも可能だ。一方、会社員はそうはいかない。会社が認めない「勝手にワーケーション」は、単なるサービス仕事になってしまう。

 雇用型ワーケーションも、その主体によって、2つに分類できる。会社命令の業務(出張など)に休暇を付ける「仕事型」と、個人の休暇の合間に仕事をする「休暇型」だ。前者は、「ブリージャー」とも呼ばれている。

 ここで重要なポイントは、誰がワーケーションの実施先を決め、誰がワーケーションで発生するお金を払うのかだ。地域は「わが町にきてほしい」と考えるし、個人は「移動費用は誰が負担するか」が気になる。そして企業も「コストはどうなのか」「どのような制度が必要か」がワーケーション許可において、重要になる。

 自営型は全て個人が決める。極端な言い方をすると、全国各地のリゾート地や観光地がWi-Fiや、ワークスペースを用意するだけでワーケーションは成り立つことになる。

 しかし日本の労働者のうち、自営は1割程度しかおらず、約9割が被雇用者だ。また自営業には、店舗や職人など、すぐにテレワークが難しい人も多い。今後、国が「地域活性化としてのワーケーション」に力を入れるとなると、予算が取りやすくなり、ワーケーションの受け入れに動き出す地方自治体が増える。ワーケーションの対象が「自営型」だけでは、明らかに需要(個人)と供給(地域)のバランスがとれなくなる。

 日本の働き方、休み方、さらには地域を大きく変えるには、雇用型ワーケーションが重要であることは明白だ。

●ワーケーション成功の鍵は「企業のテレワーク」にあり

 しかし、現時点で企業の動きはそれほど大きくはなっていない。昨年、テレワークを推進する企業を中心に「ワーケーションについて」のアンケートを実施した。こんな声が上がっていた。

・仕事と休暇の時間があいまいになる

 テレワーク、しかも遠方で長期になると、マネジメントができない。管理職は、休暇先でまじめに仕事をしているのだろうか、という不安をぬぐえない。かといって仕事である以上、福利厚生と割り切ることはできない。

・ワーケーションできる社員と不公平感が生まれる

 ワーケーション先から、ラフな服装で社内のWeb会議に参加されると、その場に「あいつは、いいなあ」という不公平感が生まれることは否定できない。

・長期のテレワークになると、生産性が低下する

 週末数日のワーケーションであれば、大きくは影響しないが、1週間、2週間と長期のワーケーションとなると、コミュニケーションの問題や、できない仕事が増え、結果として生産性が低下する。

 上記のような理由から「様子見」あるいは「国や自治体の支援があるなら、やってもいい」と考えている企業は少なくないのが現実だ。

 しかし上記の課題は、実はワーケーションの課題ではなく、テレワークの課題でもある。ここでは言及しないが、どのようなテレワークを目指すか、どのようなICTツールをどう活用するかなど、テレワークの課題解決として挙がっているさまざまな事例を参考いただきたい。

 長年、企業のテレワークのコンサルティングを実施してきた筆者としていえることは、「企業に最終的なメリットをもたらすワーケーションは、テレワークを当たり前の働き方にすることが前提である」ということだ。限られたテレワーク(週1日程度)しかできない企業が、ワーケーションを実施しても、一部のメリットだけにとどまるだろう。

●企業はステップを踏みつつ、ワーケーションに取り組むべき

 では、企業はワーケーションに取り組む必要はないのかというと、全くそうではない。しっかりステップを踏みつつ進めることで、ワーケーションに取り組むメリットをしっかり享受できる。筆者が考える「企業のステップ」をまとめてみた。

・準備

 まずは、テレワークの適切な推進が大前提だ。ポイントとしては、「仕事を切り分ける」テレワークではなく、「いつもと同様の仕事ができる」テレワークを目指す。コミュニケーションはもちろん、時間管理・プロセス管理、セキュリティ確保など、オフィスにいるのと同様に、離れていてもチームで仕事ができるようになれば、どこにいても生産性は低下しない。リゾート地や自然の中で働くことができれば、個人のモチベーションが高まり、発想も広がることだろう。

・第一歩

 制度などの準備を進めつつ、情報収集や地域が実施するモニター企画(旅費や宿泊費、サポートなどの支援がある)などに積極的に参加することをおすすめする。自治体が予算を持って動けるのは、初期段階である。会社としてのコストをかけずに、そのメリット等を実感できる好機と考えるといいだろう。

 出張旅費規定で「出張業務終了後、すぐに戻らなくても良い(ただし、業務はその時点で終了)」と定めることで、プリージャーが可能になる。また長期有給休暇中、テレワークをたった1日できるだけでも、長期の休暇が取りやすくなる社員は少なくないはずだ。

・施策

 わが社におけるワーケーションのメリットやデメリットを把握できれば、各種施策も実施しやすくなる。例えば、以下のような施策が考えられる。

・地域での社会貢献施策として、地域に社員を派遣する(仕事型)

・人材育成施策として、リゾート地で研修などを実施する(仕事型)

・福利厚生施策として、宿泊費/ワークプレイス利用費を支援する(休暇型)

・戦略

 この段階では、テレワークでいつもの仕事ができる社員も、企業とつながる地域も増え始めていることだろう。ここまでくれば、ワーケーションは、アフターコロナの企業戦略となる。

・人材不足が加速する中、場所を選ばず地域の人材を広く確保できる

・全国地域でのビジネスを、移動コストをかけずに展開できる

・都市部の高いオフィス賃貸料や交通費など、コストを削減できる

 ワーケーションは、これからの働き方であるテレワークを本気で推進する企業には、ぜひ、取り入れていただきたい。企業が動いてはじめて、個人や地域へのメリットが発生する。

 企業としてのワーケーションの成功のポイントは、「テレワークの適切な推進」にある。ワーケーション中の社員には、連絡がとれない、コミュニケーションが取れない、結果仕事が進まない、ということにならないよう、テレワーク中の「マネジメント」「コミュニケーション」がしっかりできるワーケーションを目指していただきたい。

 余談になるが、多忙の日々が続く中、先日、高齢の両親を連れて温泉旅行に行くことができた。宿で、私が仕事に集中している時間、母はうれしそうにその様子を眺めていた。ワーケーションは、休暇中に仕事をさせられることでは無い。大切な家族と、大切な仕事を、両方大事にするワークスタイルなのだと、あらためて思った。

●著者紹介:田澤由利(たざわ・ゆり)

 株式会社テレワークマネジメント代表取締役。奈良県出身、上智大学卒。シャープ株式会社にてPC関連業務に従事したが、夫の転勤と出産で退職。在宅でのフリーライター経験を経て、1998年にワイズスタッフ、2008年にテレワークマネジメントを設立。東京にオフィスを置き、企業などへのテレワーク導入支援や、国や自治体のテレワーク普及事業を広く実施している。また、「テレワーク」をテーマにした講演活動を全国各地で行うほか、ブログやFacebook、動画を活用した情報発信も積極的に行っている。2015年 総務省「平成27年度情報化促進貢献個人等表彰」を受賞。2016年「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」個人賞受賞。内閣府 政策コメンテーター、総務省 地域情報化アドバイザーなどを務める。

◇主な著書

『在宅勤務が会社を救う』(東洋経済新報社) 2014年