電車に乗っている人が減ったなあ、と思う人も最近では多いだろう。通勤ラッシュの時間帯はコロナ禍以前よりも人が乗っていない印象を受け、それ以外の時間帯は割と座れる。そもそも夜遅い時間帯の列車には乗ることがなくなった、という人もいるのではないだろうか。

 そんな中、JR東日本が驚きの発表をした。

●なぜ終電は繰り上がるのか

 9月3日、JR東日本の深澤祐二社長は定例記者会見で、来春のダイヤ改正から終電時刻を繰り上げると表明した。

 その背景には、利用状況の変化があるという。山手線の上野〜御徒町間の利用状況は、コロナ禍以前と比べて、終日では38%減、朝のピーク時間帯(3時間)では36%減少した。もっとも、朝ピーク時間帯については混雑が緩和したということで、利用者にとってはポジティブな変化だと考えることもできる。時間帯によっては、窮屈すぎるというのもまた確かだからだ。

 一方で、深夜帯の利用状況は大きく変化した。コロナ禍以前に比べて、66%減となった。

 そもそも近年、「働き方改革」の影響で残業が減ったり、職場や大学サークルの飲み会が1次会で終わりになったりと、深夜まで人が出歩かなくなってきたという状況が起こっている。そんな中、コロナ禍で残業や飲み会さえ減ってしまった。

 残る深夜帯の利用者は、シフト制勤務などで夜遅い時間に帰宅しなくてはならない人たちが中心となった。こういった職場は、エッセンシャルワークの職場であり、どうしても人がやらなくてはならない仕事となっている。残る“34%”というのは、そういう利用者である。

 ここまで利用者が少なくなると、鉄道事業者側も考えを変えざるを得ない。コロナ禍が収束したあとも、テレワークやECなどが社会に浸透し、人々の働き方や行動様式は元に戻らないとJR東日本は考えている。この状況で安定した利便性の高いサービスを維持するために、利用者の変化に対応することが必要だ。

●他の鉄道事業者に比べても遅いJR東日本の終電

 そもそも、他の鉄道事業者に比べてもJR東日本の終電は遅い。例えば、新宿発の中央快速線では、平日は高尾行0時30分、八王子行0時40分、武蔵小金井行0時50分となっている。緩行線には1時1分発三鷹行の列車がある。

 一方、新宿発で並行する京王電鉄では、京王八王子行特急が0時34分と意外と遅いものの、停車駅は少ない。その後にあるのは0時35分発の調布行各駅停車と、0時41分と0時55分発の新線新宿発桜上水行各駅停車しかない。高尾までたどりつくには、最終は0時21分発の準特急京王八王子行、北野で各駅停車に乗り換えとなる。

 小田急電鉄の場合、0時38分発相模大野行急行以降は、0時39分発向ヶ丘遊園行各駅停車、0時53分発経堂行各駅停車しかない。

 私鉄の最終の列車の運行距離はJR東日本よりも短く、深夜帯の列車の本数も少ない。さらに、列車が減り始める時間帯がJRよりも早いという傾向がある。JR東日本は私鉄に比べて、遅い時間帯まで高密度で運行し、利用者へのサービスに努めてきた。

 そのために、深夜帯のメンテナンスなどに割く時間が少ないという状況が続いている。

●工事の時間帯を増やしたい

 以前、JR西日本が終電の繰り上げを行う方針を示した。コロナ禍の前である。利用者が減る一方で、深夜のメンテナンス工事の人手が足りず、人を増やせないので時間を増やす、という狙いが背景にある。

 JR東日本も同じ理由を示した。作業員の減少が見込まれる一方で、設備の老朽化などに伴い工事量が増加、作業効率が悪化しているという。保守量の削減や作業効率の改善などにも取り組んでいるものの、作業時間が短いという問題がある。

 そこで終電を繰り上げ、一部では初電を繰り下げて工事時間を確保することにした。これまで、列車間合いが200分〜240分だったものが、240分〜270分程度となり、実作業の時間も伸びることになった。

 この終電繰り上げは、東京100キロ圏で行われる。終着駅の到着時刻を午前1時頃にする。例えば、中央快速線の最終高尾行は1時22分に終点に到着している。この列車は0時15分東京発、0時30分新宿着である。現行のダイヤで考えると、0時東京発、0時15分新宿発の中央特快で、0時58分に高尾に着く列車が最終になる。ただ、30分程度繰り上げるという条件を加味すれば、0時45分高尾着の中央特快となる。この列車は23時45分東京発、0時新宿発である。

 もっとも、遅い時間帯は各駅に停車する列車となり、ある程度はダイヤを調整することになると考えられる。特別快速と快速などがあるような路線では、遅い時間帯の特別快速を快速に、ということもあると思われる。一方で、各駅停車しかない路線では、その列車をそのまま削減する、というダイヤにすることもあるだろう。金曜日などは必要に応じて終電前の臨時列車の増発も行うという。

●定期券の値上げが示す鉄道の未来

 JR東日本では、紙の切符から「Suica」への移行、さらにはカード型SuicaからモバイルSuicaへの移行を促すために、ポイントサービスを充実させている。「JRE POINT」と呼ばれるこのサービスでは、乗車距離や定期券の購入金額によって、Suicaにチャージできるポイントがたまるようになっている。

 報道によると、今後は通勤定期券の値上げを検討するが、まずは来春までにオフピーク時間帯を設定。Suica定期券でオフピーク時間帯に鉄道を利用した人にポイントを付与、また定期券以外で同じ区間を一定の回数以上利用した人にポイントを付与するという。また、混雑しない時間帯のみ使える、割安の「オフピーク定期券」を導入するという。

 コロナ禍以降定期券の収入が大きく減り、回復のめどは立っていない。一方、JRの定期券は割引率が高い。例えば、新宿〜三鷹間は片道220円。定期券は1カ月6580円だ。1日1往復するとして、15回往復すれば元が取れてしまう。およそ50%の割引率となっている。

 一方、並行する京王電鉄の割引率は37.6%である。だいたい20回以上往復しないと割に合わない。テレワークが普及する中、毎日通勤する人の定期券を非常に安く設定していると、利益につながらないという現状がある。定期券を利用して毎日通勤する人には応分の負担を要求する一方で、そうではない利用者には定期券の利用から普通運賃での利用にシフトさせたいという意図が感じられる。

 Suica利用でのポイントサービスを充実させたり、定期券の値上げを行ったりする狙いは、利用客の行動の変化に対応することだ。終電の繰り上げも、工事の時間を増やすということが理由としてはあるものの、もし深夜時間帯の利用者が多かったら無理して人を増やすという対応があってもおかしくはない。そうではなく、人々の仕事や生活のスタイルが変わる中で鉄道利用が減っている現実があり、今後もその状況が続くと見通している。

 人口減少社会の中、いずれ大都市圏の鉄道でも利用者減が起こることは予想されていた。しかし、それが大きく前倒しされるとは、コロナ禍の前は誰も思っていなかった。JR東日本は、未来を厳しく見ている。

(小林拓矢)