ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、「プレイステーション 5」(以下、PS5)を11月12日に発売すると発表した。価格は、Ultra HD Blu-rayディスクドライブ搭載モデルが4万9980円、それを搭載しないデジタル・エディションが3万9980円。9月18日から販売店で予約の受付を開始したが、早くも争奪戦が繰り広げられている。Amazonや楽天ブックスなどのECサイトでは瞬く間に売り切れとなった。

 新型コロナウイルスの余波で巣ごもり需要が発生し、ゲーム業界の躍進が止まらない。任天堂は4〜6月期の決算で、営業利益で前年同期比約5倍ともなる427.7%増という業績をたたき出した。

 好調の要因は「あつまれ どうぶつの森」の大ヒットと、それに伴いゲーム機の「ニンテンドースイッチ」の売れ行きも堅調なことであることは前回【「あつ森」効果で営業利益428%増! ソフトとハードを同時展開する任天堂のデジタルマーケティング戦略】でレポートした。コロナ禍の中、ソフトウェアもハードウェアも絶好調なのが任天堂の強みだ。

●ソニーも営業利益68.1%増 “地獄”からの復活

 だが、任天堂の“一人勝ち”かといえば、実はそうではない。「最大のライバル」であるソニーのプレイステーション陣営も負けてはいないのだ。8月に発表したソニーグループ全体の2020年度第1四半期(4〜6月期)決算によると、「ゲーム&ネットワークサービス部門」の20年4〜6月期の売上高は前年同期比32.5%増の約6061億円。本業の儲(もう)けを表す営業利益は前年同期比68.1%増の約1240億円だった。

 ちなみにこの「ゲーム&ネットワークサービス部門」が、プレイステーションなどを展開する子会社の「ソニー・インタラクティブエンタテインメント」の決算部分だ。

 この68.1%増という数字は、任天堂の427.7%という数字を前にすると少々かすんでしまうかもしれないが、実は“予想外”の業績ともいえる。5月に発表された20年3月期の連結決算によると、ゲーム部門の売上高は前年同期比14.4%減の約1兆9776億円、営業利益は23.3%減の約2384億円だった。

 対する任天堂は通期連結決算でも売上高は前年度比9.0%増の約1兆3085億円。営業利益は41.1%増の約3523億円で、いわば“天国”の任天堂に対し“地獄”のソニーという、実に対照的な様相を呈していたのだ(「あつ森」で“天国”の任天堂、PS4買い控えで“地獄”のソニー 決算数値からひも解くを参照)。

 ソニーが不調に陥っていた要因は、当時に次世代ゲーム機「プレイステーション(PS)5」の発売を20年末に予定していて、これによる「PS4」の買い控えが起きていた点だ。19年1〜3月期のPS4の販売台数は約260万台だった一方、20年1〜3月期は約150万台と、実に110万台、率にして42.3%も落ち込んでいる。

 ハードウェア部門全体を見ても、19年4〜6月期の売り上げは約1016億円だったが、20年4〜6月期は約556億円。半減に近い約45.3%の落ち込みだ。コロナ禍の「巣ごもり需要」でも、PS4の売り上げはふるっていないのだ。

 さらにゲーム業界では全体的に、4〜6月期には売り上げが低迷する。プレゼントやボーナスなどで需要が高まる年末商戦期に比べ、4〜6月期はこうした需要が少なくなる時期であるためだ。売り上げが望める注目作品の発売も、この時期を避ける傾向にある。

  PS4をはじめとするハード部門の低迷と、時期の悪さ。この2つの要素が重なっているにもかかわらず、この時期に黒字転換したというのは、まさに“地獄”から“天国”に移り変わったといっても過言ではないのだ。

●好調の要因はサブスク型オンラインサービスにあり

 好調の要因は何か。1つには、新型コロナの影響により自宅で過ごす人が増えて「巣ごもり需要」が増大し、ゲームをはじめとするエンターテインメントへのニーズが上がっていることだ。もう1つは、PS5発売前の買い控えによってPS4の売り上げは落ちているにもかかわらず、その減収分を「プレイステーション プラス(PSプラス)」をはじめとするサブスクリプション型のオンラインサービスと、自社ソフトの売り上げが支えたためだ。

 オンラインサービスの面では、「PSプラス」の会員数をこの3カ月間で順調に伸ばしている。「PSプラス」は10年6月に開始したサービスで、月額税込み850円、年額だと税込み5143円で提供している。サービスに加入することで、ゲームをオンラインによって対戦・協力プレイに参加できるようになったり、ゲームのセーブデータをクラウドに保存したり、月数本のゲームが無料で遊べたり、体験版をプレイしたりできる。

 ほとんどのタイトルでオンラインで誰かとゲームをするには、このサービスへの加入が必須で、ウィズコロナの時代においては不可欠のサービスだといえるだろう。「PSプラス」の会員数は実に4500万人に達した。

 自社ソフトの売り上げ面では、6月19日に発売したサバイバルホラーゲーム「The Last of Us Part II」と、7月17日に発売し、1274年の元寇(文永の役)をテーマに描いたアドベンチャーゲーム「Ghost of Tsushima」の2作の販売が好調だ。「The Last of Us Part II」は発売後3日間で400万本、「Ghost of Tsushima」は発売後3日間で240万本を超える売り上げを世界で達成している。

 この2作を含めた4〜6月期の自社ゲームソフト出荷数は約1850万本で、昨年同期比で58.1%増えた。なお、年末商戦期にあたる、19年10〜12月期の出荷数は1630万本で、年間で一番売れる時期を超えているのも特徴だ。

 ソニーを含めた全PS4ソフトの出荷数は9100万本を記録した。これは昨年同期比82.7%増にのぼり、19年10〜12月期の出荷数8330万本を超えている。さらに特筆すべきは、この9100万本の出荷数のうち、パッケージではなくダウンロードによって購入されたものが74%を占めている点だ。

 なお、前年同期のダウンロード割合は53%だった。「PSプラス」の会員数増と合わせて、「巣ごもり需要」でゲームの“オンライン化”が一気に進んだとみられる。

●スクエニ、カプコンが最高益 理由は?

 買い控えで売れていないPS4のソフトの売れ行きが好調なのは、ソフトメーカーの決算にも表れている。国内大手ゲームソフト会社の「スクウェア・エニックス・ホールディングス(スクエニ)」と「カプコン」は、この4〜6月期の連結決算でいずれも過去最高益を更新した。

 スクエニの20年4〜6月期の売上高は約870億円で、前年同期比約63.2%増。営業利益は約245億円で、前年同期比でなんと約245.1%増となった。カプコンの20年4〜6月期の売上高は約237.2億円で、前年同期比約32.2%増。営業利益は107億円で、前年同期比で約39.0%増となった。

 スクエニは新型コロナの感染拡大により、アミューズメント事業の20年4〜6月期の営業利益は約15億円の赤字で、前年同期比150%減となった。アミューズメント施設の臨時休業などにより約22億円の特別損失も計上している。一方のカプコンもアミューズメント施設事業の20年4〜6月期の営業利益は約5.5億円の赤字、前年同期比185.3%減で、いずれも前年同期比で2.5倍以上の減収となった。店舗型のエンターテインメントが、コロナの影響でいかに苦境に立たされているかが読み取れる。

 だが、こうした赤字をソフトの売り上げによって帳消し以上にしているのだ。ソフトウェア部門に限ってみてみると、スクエニのデジタルエンターテインメント事業の同営業利益は約260億円、前年同期比約242.1%増。一方、カプコンのデジタルコンテンツ事業の同営業利益は約118億円で、前年同期比約52.6%増と、伸ばしている。

 スクエニは好調の要因について、4月に発売した「FINAL FANTASY VII REMAKE」の売り上げがパッケージ版に加え、ダウンロード販売が増加していることや、同じく4月発売の「聖剣伝説3 TRIALS of MANA」の計画を上回る好調、過去作のリピート販売の拡大が利益に貢献したと分析している。

 一方のカプコンは、4月に発売した「バイオハザード」シリーズ新作、「バイオハザード RE:3」の売り上げが堅調であることや、19年9月発売の「モンスターハンターワールド:アイスボーン」などの販売が続伸し、利益を押し上げたとみている。

 スクエニとカプコンが要因にあげた4作品はいずれもPS4で展開しており、「聖剣伝説3 TRIALS of MANA」をのぞく3作品はニンテンドースイッチでは販売されていない。こうしたタイトルの好調ぶりが、ソニーの業績にもつながっているのだ。

●ダウンロード版で荒稼ぎ 利益率も高く高付加価値

 スクエニは販売本数の内訳も公表している。国内の20年4〜6月期の販売本数は218万本で、このうちパッケージ版は134万本、ダウンロード版は84万本だった。世界全体でみると、全体の販売本数は621万本で、パッケージ版が273万本、ダウンロード版は348万本と、ダウンロード版のほうが約1.3倍も上回った。現在では店頭や通販でわざわざディスクを取り寄せる客は少数派になったというわけだ。

 欧米では元よりダウンロード版のほうが上回っていたものの、日本や欧米以外の世界各国でその現象が起こった形だ。新型コロナによる都市封鎖などの影響で、物理的に外を出歩けない地域もあったため、こうした要因がダウンロード販売を押し上げたとみられる。価格が低下しにくく、原価もかからないダウンロード版のほうが一般的に利益率が高いため、ダウンロード販売の好調がソフトメーカーの過去最高益に結びついたのだ。

 予想外とされるソニーの“躍進”は今後も続くのか。業界に詳しいジャーナリストの河村鳴紘氏はこう分析する。

 「今回の決算を見る限り、次の20年7〜9月期(2020年度第2四半期)も好調が続きそうです。現在、元寇を舞台に侍の活躍を描いたゲーム『Ghost of Tsushima』がヒットしていますが、同作は7〜9月期に計上される数字です。そこに『PSプラス』の数字が乗り、さらなる会員数の増加も望めそうです」

 さらに、年末にはPS5の発売も予定されている。ソニーは5月に発表した20年3月期の連結決算では20年度の業績見通しについて、新型コロナウイルスによる感染拡大を理由にPS5発売の発表を見送っていたものの、今期の決算で公表した。

 PS4やPS5を担う「ゲーム&ネットワークサービス部門」の20年度業績見通しは、売上高を2兆5000億円、営業利益を2400億円と予想している。予想売上高に対して、営業利益が約10分の1の9.6%しか見込んでいないのが特徴だ。ソニーはこの理由に「PS5導入にかかる販売費及び一般管理費の増加」と「ハードウェアの売上原価率上昇」を挙げている。河村氏がさらにこう解説する。

 「シンプルに言うと『PS5の利益が薄い』ということです。既にPS5の目標計画数が、内々では決まっているわけですね。いずれにしても、PS5発売までの売上高と利益の見通しも立ったため、今年度は乗り切れるでしょう。むしろ、PS5抜きでも、それなりの数字を作れてしまえそう……と思えるほどです。今後のポイントは、巣ごもり需要がどこまで続くかというところですね」

 PS5登場前でも好調な業績を作れてしまったソニー。年末の発売後はどのような業績をあげるのか。ソニーの“倍返し”はいままさに始まったばかりだ。

(フリーライター 河嶌太郎)