暗号資産において2020年のトピックは分散型金融(DeFi)だ。夏以降、DeFi関連のトークンが急速な盛り上がりを見せ、DeFiに費やされる資金も急速に増加している。一方で、この盛り上がりで思い出すのは、17年に大ブームを巻き起こしたICO(イニシャル・コイン・オファリング)だ。

 ブロックチェーンを使ったサービスを開発し、そのトークンを売り出すことで資金を調達するICOは、数々の優れたサービスを生み出すきっかけとなったと同時に、詐欺的なものもあり、各国は規制を強めてきた。

 ではこのDeFiのブームをどう見たらいいのか? ブロックチェーンの基礎研究開発やコンサルティングなどを行う「Turingum(チューリンガム)」(東京都千代田区)でCOOを務め、DeFiに詳しい橋本欣典氏(KanaGold名義でも活動)に聞いた。

●ICOより簡単なDeFiのコピープロジェクト

 ブームとなった暗号資産のこれまでを振り返ると、実績のあるプロジェクトのコピーが繰り返されてきたことが分かる。

 17年の8月に、ビットコインのブロックチェーンが分岐(ハードフォーク)し、ビットコインキャッシュが生まれたことを覚えているだろうか。機能追加の方針の違いにより、1つのビットコインが2つに分かれた。その後も分岐は繰り返し起こり、「ビットコインゴールド」「ビットコインダイヤモンド」「ビットコインシルバー」などが誕生している。

 同じく17年にブームになったICOでは、1000件弱、合計で70億ドル(約8500億円)もの資金調達が行われたといわれている。ICOの中にはしっかりとしたプロダクトも確かに存在していたが、中身のないICOも数多かった。資金は集めたもののプロダクトが作られることなく解散してしまうものもあった。

 「ICOは、ホワイトペーパーを書いてWebページを作成し、トークンの売り出しを行う。17年にはホワイトペーパーを代筆する業者もあった」と、橋本氏は当時の状況を説明する。しっかりとしたプロダクトを作るのはたいへんだが、トークンを発行するだけなら簡単だ。ICOに群がる投資家に向けて、一見するときらびやかに見えるホワイトペーパーさえ用意すれば、容易に資金が集まる状況が当時はあった。

 フォーク、ICO、そしてDeFi。実は、次第にプロジェクトを立ち上げるのが簡単になってきていると橋本氏は言う。「ビットコインのハードフォークが流行ったが、これはブロックチェーンに関する一定以上の理解が必要で大変。一方で、DeFiのスマートコントラクト(実態となるプログラム)のフォークは本当に簡単だ。普通のエンジニアならば2〜3日あればできてしまう」

 DeFiを動かすプログラムのソースコードは、基本的に公開されている。プログラムの内容を誰でも監査できるようにすることで、信頼性を高める狙いだ。だが逆に、そのソースコードをコピーして、簡単に似たようなサービスを作れてしまう。

●1週間で、コピーしてトークンを配布し、売り抜ける 芸術的な手法

 これが実際に起きたのが、スシスワップを巡る騒動だ。匿名の設立者シェフ・ノミは、8月下旬、DeFiの代表格といえる分散型取引所(DEX)のユニスワップをコピーして、スシ(寿司)スワップをスタートさせた。

 ユニスワップの特徴は、事前に暗号資産のペアを預かる(流動性をプール)ことで、即時の暗号資産取り引きを実現していることにある。例えば、イーサリアムとUSDC(イーサリアム上のステーブルコイン)のペアを事前に預かっておくことで、これを利用してイーサリアムとUSDCの即時交換を実現している。暗号資産のペアを預ける側は交換時に手数料を受け取ることができる。この仕組みが成り立つには、どれだけ大量の暗号資産がプールされるかが最重要だ。

 新興のスシスワップは、橋本氏が「芸術的な手法」と評する2つの仕組みでこれを解決した。1つは独自のトークンであるスシ(Sushi)の発行だ。そして2つ目に、ユニスワップに指定した通貨ペアをプールすることで、スシトークンがもらえるようにしたことだ。この通貨ペアは、スシスワップがローンチした時点で、ユニスワップからスシスワップに移行する前提になっていた。

 スシトークンを入手することは「寿司を握る」などと呼ばれ、大ブームを巻き起こした。持っている暗号資産をユニスワップに預けるだけで、新たなトークンが得られる。さらに先行者利益の仕組みもある。スシトークンとイーサリアムのペアを預けると、さらに多くのスシトークンが得られる……。

 8月29日にスシトークンの配布が開始され、当初はお遊び的な見られ方をしていたものの、ブームは過熱。9月1日には世界的な暗号資産取引所のFTXとバイナンスにスシトークンが上場し、価格は一時12ドルまで急騰した。9月6日には、スシスワップが指定した資産ペアの総額は12億7000万ドルに達し、ユニスワップで取引されている資産の7割にあたるまでになった。

 「Twitter上でスシについて言及している人達は、皮肉混じりの表現でスシをゴミだと言っているけれど、よく分かっていない人は、有名な人が言及しているから良い銘柄なんだと思って買ってしまった」と橋本氏は当時の状況を説明した。

 ところが9月5日、設立者のシェフ・ノミは自身のスシトークンを売却したことが分かった。約14億円に相当する額だ。ここまでわずか1週間しか経っていない。

 もっとも、利用者からの多くの批判を浴び、その後シェフ・ノミは謝罪し、トークン売却益のすべてをスシプロジェクトの基金に返還したことを発表した。しかしながら、自身の発言で相場をいかようにでも動かせる立場であるのも事実で、必ずしも誠意を示したとは限らない。

●初期投資化と後追い投資家

 これが示す教訓はなんだろうか。1つはアイデア次第でかつてないスピードで資金調達が可能になったことだ。スシスワップでは、既存のサービスのコードを基本的にコピーしながら、独自トークンの発行と盛り上がる仕組みを取り入れることで、一瞬にしてばく大なトークン価値を作り出した。

 「発想力次第でどんな商品設計もできる。出せば買い手がいて、ウハウハの世界だ」(橋本氏)

 従来であれば、こうしたトークンも取引所に上場して初めて売却できた。ところがユニスワップのような分散型取引所がある現在、誰かが通貨ペアを預けさえすれば、取り引きが可能になる。

 2つ目は、こうしたDeFiの盛り上がりに向き合う暗号資産投資家の二分化だ。ユニスワップやスシスワップの仕組みを理解し、自ら通貨ペアを預けることでスシトークンを入手した投資家は、着実な利益を上げた。一方で、「スシトークンというものが猛烈な値上がりをしているらしい」という話を聞いて、スシトークンを買った投資家は大損失となっている。

 一時12ドルまで上昇したスシトークンは、設立者の売り抜けの報を受けて急落。9月6日には1.05ドルまで下落した。

 橋本氏は、DeFi関連の投資ではトークンを買うのは危険だと警鐘を鳴らす。「DeFiトークンの開発者はタダでトークンを生成しており、DeFiサービスの利用者もタダでトークンがもらえるわけだから、開発者と一緒にタダで手に入れて売る側に回ることが重要だ」。17日にも、初期からユニスワップに流動性をプールしていた人々に、独自トークンが配られた。

 一方で、DeFi関連のトークンをもらうハードルは高くなっている。DeFiブームに伴うイーサリアムの取引コストの増大だ。イーサリアムは、取引量が増大するにつれてコストが増加する仕組みになっている。それがDeFiのブームで高騰している。融資サービスのDeFiコンパウンドなどでは、手数料だけで1万円、2万円がかかるようになってしまった。

 暗号資産の手数料は金額によらず一律なので、少額の取り引きではコスト負けしてしまう。橋本氏は「最低でも500万円が必要。300万円はギリギリだ」と、DeFi参加のハードルの高さを話す。さらに、高い手数料を払ったほうが優先して処理される仕組みのため、1億円、2億円という資本が入ってきたら、数百万円では全く勝負にならないとも。

 過激なマネーゲームの現状がここにある。

●光のDeFi、闇のDeFi

 DeFiはもともと金融サービスを受けられない「アンバンクド」な人たちのためのサービスとして始まった。実際、ステーブルコインのメイカーDAOや分散型取引所のユニスワップ、融資サービスのコンパウンドなど、代表的なDeFiは有意義なサービスを提供し、世界を変えようとしている。

 こうした光のDeFiに対し、既存のサービスをコピーし、投資家の射幸心をあおることで一瞬にしてひともうけする、「闇のDeFi」も出てきている。スシスワップのあとも、キムチ、サシミなどのサービスが登場しているが、「食べ物の名前が付いているのはだいたい闇」だと橋本氏。

 もう一つ、大きな変化を感じるのが、スシスワップで起こった1週間のように、既存のビジネスやICOでさえ想像できないような高速で物事が動いていることだ。中には闇のDeFiもあるが、これまでとは桁違いのスピードで動く中で、優れたサービスは育まれていく。

 「100倍速、1000倍速で動いている。半年持つプロジェクトが作れたら天才だ。2年もったら本物。10年経ったらビットコインのようになる」

 橋本氏はこう話し、DeFiブームに警鐘を鳴らすとともに、今後の発展に期待した。