大戸屋へのTOBを成功させた外食大手のコロワイドは、多数の飲食企業を買収することで短期間で急激に成長を遂げてきた。そんなコロワイドが新潮社に対してブチ切れている。

 デイリー新潮が7月6日に掲載した「コロワイド、大戸屋プロキシーファイトに敗れて…前門の虎と後門の狼」で、コロワイドが計上している「のれん」に価値はなく、これを「減損」すれば債務超過に陥ると重大な指摘しているからだ。

 前回の記事では、のれんは保有資産より高値で企業を買収した際に発生する無形の資産であると説明した。

 決算書に意図的な間違いがあれば粉飾決算となり、最悪の場合は上場廃止もあり得る。ではコロワイドの決算書は適正なのだろうか。今回は公認会計士の立場から「減損テスト」について解説してみたい。なお、本稿は一般読者向けに分かりやすい説明を優先した、平易な言葉遣いや表現とした。

●減損テストとはなにか?

 コロワイドと新潮のトラブルで、核心となる論点が「減損」と「減損テスト」だ。記事では「のれんが減損で吹き飛べば債務超過に陥る」とあり、のれんの価値があるか無いかを確認する方法が減損テストとなるからだ。

 減損は企業が保有している資産について、計上している額に見合った価値がなくなったときに資産の評価額を減らし、その分だけ損失として計上することをいう。企業は決められたルールにのっとって減損を行うべきか判断する必要があり、それが「減損テスト」だ。

 その手法は、のれんの「回収可能価額」を計算し、バランスシート(貸借対照表)に計上されている額と比較をする。もし計算した額の方が低ければバランスシートに計上されていたのれんの額を減らす、つまり減損することになる。

 ここでいう回収可能価額とは、以下の金額のいずれか高い方となる

1. 使用価値:のれんから生じると見込まれる将来キャッシュフローの割引現在価値

2. 処分コスト控除後の公正価値:公正価値から、資産の処分に直接起因するコストを控除した金額

 ややこしい説明に見えるかもしれないが、要するに自社で経営するか他社に売った場合、のれんに見合うだけの価値があるのか確認をすることが減損テストである。

 なぜこんな面倒なことをやる必要があるのか? その理由はバランスシートには資産を「時価」で計上しなければいけない、というルールがあるからだ。時価とは「決算書の作成時点でいくらの価値があるか?」という意味だ。

 資産を時価で計上しなければいけない理由は、バランスシートを含めた決算書を見る経営者や株主、銀行等が正しい判断を下せるように、正しいデータを記載しなければいけないから、ということになる。

 そのために必要なことが、決算書を含めて企業を厳しくチェックをする会計士や監査法人の存在であり、上場企業は監査を受けなければ上場を維持することができない。

●会計士が見てもおかしな手法で債務超過と指摘されたコロワイド

 デイリー新潮は「超過収益力を持つというのは詭弁」という見出しで、コロワイドの貸借対照表に計上されているのれんは、超過収益力を認めることができず減損を行うべきであり、記事の通りに減損を行えばコロワイドは債務超過状態になると掲載している。

 この主張に対してコロワイドは「IFRSはもとより一般会計知識を著しく欠く、全くもって虚偽のものです」と反論している。

 著者も、デイリー新潮の記事に掲載されている、のれんの超過収益力を認めることができないとする「根拠」について、一般の会計基準に照らした会計処理から納得し難いと考える。

 デイリー新潮の記事では、のれんを減損すべき根拠として「日本の上場企業のROE平均である8%を超えていないこと」を挙げている。コロワイドのレインズ事業(主に牛角やしゃぶしゃぶ温野菜)やカッパ・クリエイト事業(主にかっぱ寿司)などのROEが日本の上場企業平均よりも低いことを理由として、のれんの超過収益力が認められない、のれんに減損が必要であると断定している。

 ROEとはReturn on Equityという企業を評価する指標の1つで、日本語では「株主資本(自己資本)利益率」という。

 株主資本を使用して、「どれだけ効率的に利益を計上しているか」を示す指標となる。 その計算式は「ROE=当期純利益÷株主資本」となる。

 しかし、通常、のれんの価値である回収可能価額の算定方法は、前述の通り将来の収益か売却価格によって判断する。のれんの価値とROEは直接的には関係ない。ROEは株主資本(自己資本)に対しての利益率を示した指標であり、その事業が将来もたらす価値とは関係がない。マーケットにおいていくらで売却できるかの金額とも無縁の指標となる。

 投資家が独自の指標で企業価値を算定するのであれば構わないが、監査法人はこのような手法で減損テストは行わない。したがってROEが低いからのれんの超過収益力が認められないと判断することは、あまりに乱暴な判断だといわざるを得ない。

●会計監査人の交代はむしろ正しい

 デイリー新潮の記事では、のれんの超過収益力についてコロワイドと会計監査人の見解の相違があり、それを理由に会計監査人が変更されたと読み取れる内容も掲載されている。

 これに対してもコロワイドは、「長年に亘り当社の会計監査人を担って頂いたあずさ監査法人とも円滑に監査契約を終了しております」と反論している。

 記事では「コロワイドは、コロナ禍での減損会計厳格適用緩和要請を盾に強く主張した」と書かれているが、コロナ禍によって減損会計の緩和が行われたわけではない。

 コロナ禍の影響が日本で見られ始めた時期に、新聞などで減損会計の緩和に関する報道がなされていたのは事実であるが、その翌日に日本公認会計士協会より「会計ルールの弾力化に関する報道の内容については、当協会から発したものではありません」と明確に否定している。つまり実際にはコロナ禍によって減損の会計ルールの緩和は行われていないのだ。

 さらに、のれんの超過収益力に対する意見の相違が、会計監査人交代のきっかけとなったという指摘についても会計士の視点から見て違和感がある。

 コロワイドの「公認会計士等の異動に関するお知らせ」によると、監査法人を交代する目的は、(1)新たな視点での監査が期待できること、(2)必要とされる専門性、独立性、品質管理体制及びグローバルな事業を一元管理する体制を有していること、の2点が挙げられている。

 前任のあずさ監査法人は1999年4月から実に21年もの長期間にわたって継続監査を実施しており、新たな視点で監査を期待するために交代を決定したという。

 会計監査人の交代に関しては、長期間同じ会計監査人を利用することによる癒着リスクがたびたび指摘される。現に欧州では癒着リスクを避けるために会計監査人の定期的なローテーションを導入している。

 長期間の会計監査人との関係は株主などから癒着している見られる可能性があり、そこも考慮して会計監査人を交代したのではないか、というのが著者の推測である。いずれにせよ、公表された情報を確認した限り監査法人の交代について問題はなく、むしろ望ましいといえる。

 さらに、仮に会計監査人がコロワイドの会計処理やその根拠に本当に納得していないのであれば、その意見表明において、不適正意見、意見不表明や限定付き適正意見など、適正意見以外の意見表明、つまり何かしらの問題点や疑問点があることを表明することはあり得る。

 そのような意見は出ていないことから、監査法人はコロワイドの決算を適正であると認めている。にもかかわらずデイリー新潮で指摘されていることは「のれんの計上に問題があり、監査法人も監査法人の交代にも問題がある」と、まるでコロワイドが粉飾決算をするために監査法人を変更したかのような指摘になっている。

 もちろん、結果的に今後買収した企業が業績を大きく落として減損せざるを得ない可能性はある。将来の業績は誰にも分からず、コロナ禍で多数の飲食業が業績を悪化させているからだ。

 ただ会計ルール上で、間違った計算をしているのではないか、それを無理やり押し通すために監査法人を変えたのではないか、という主張であれば、これは極めて乱暴な指摘になる。コロワイドが法的に対応すると強い反応をするのも当然だ。

 コロワイドと新潮のトラブルがどのような結末を迎えるかは分からないが、コロナ禍で大きなダメージを受けた飲食業界が早期に回復することを祈るばかりだ。

(村上裕一 公認会計士 企画協力:シェアーズカフェ・オンライン)