ついに、来るべき時が来てしまいました。

 予想よりかなり急ピッチで。というか、コロナ禍がなければ来なかったかもしれない、“会社員消滅時代”の到来です。

 ――「法人の頭は残すけど、胴体はその都度とっかえひっかえするから、胴体として使ってもらうために自分でスキルアップしてね!」と言っているのです。副業容認、フリーランス、リカレント教育などは、全て“そこ”に向けたプロセスです。

 会社側は「長時間労働」も「非正規」という雇用形態もない「働かせ方」を進めますが、それは「長時間労働がなくなる」という意味でもなければ、「非正規という不安定な雇用形態」がなくなるわけじゃない。全てが「自立」という美しい2文字を脅迫的に使うことで、まやかしの「光」が待ち受けているのが「令和の時代」です――

 これは平成最後に書いたコラム(関連記事:「会社員消滅時代」到来? 令和時代の“自由な働き方”に潜む落とし穴)で、2016年8月に政府が公表した「『働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために』懇談会 報告書」について言及した一部ですが、コロナ禍でこの中の「副業人材」を求める企業が急激に増えているのです。

 3月にはヤマハ発動機、5月にはライオン、7月にはヤフー、ユニリーバ・ジャパンが相次いで副業人材を公募。今後もダイハツ工業をはじめ、大手企業を中心に副業人材を求める企業が拡大するとされています。

●副業は“生きる力”にもなるが……

 その背景にあるのが、コスト削減です。

 コロナ前はまだ多くの企業が副業に否定的でしたが、コロナ禍で出社しなくても仕事はできることが分かったことに加え、

「副業にしちゃえば、コストをかけずに優秀な人材を集められるぞ!」

「副業解禁すれば、減った賃金の穴埋めになるしね!」

「だいたいみんな副業やりたいっしょ?」

「そうだよ。会社に縛られる人生なんてまっぴら」

「つーか会社に依存する輩はいらなくね?」

「働き方が変わる! 生き方も変わる!」

「そーだそーだ! 副業解禁! 副業人材求む!」

 ……と、コスト削減の一環で副業解禁が加速しているのです。

 もっとも、いかなる“思惑”が企業側にあろうとも、副業は働く人たちにとっても大きなメリットがあるので、副業解禁は決して悪いことではありません。

 会社では邪魔者扱いされていた中高年が、新たな場所で自分の経験やスキルを生かせればモチベーションが高まるし、「学び」にもつながります。自分とは年齢も性別も価値観も違う人たちと接し、主体的に動けば、「学びに方向性はない」ことが分かり、腐ってる場合じゃない、とどんどん学びたい気持ちが刺激されることだって期待できる。人は環境で変わるし、環境を変えることもできる。副業により自分を取り巻く「半径3メートル世界」に新たな風が吹き込めば、「生きるエナジー」が充電されることが期待できるのです。

 実際、ライオンでは5人の枠に約1650人、ヤフーには約110人の枠に4000人超が殺到したと報じられていますし、仕事紹介サイト大手のクラウドワークスでは6月末の登録者数が1年前より100万人近く増えている(朝日新聞朝刊、9月21日付)のも、自分の可能性にかけてみたいという人が増えているからなのでしょう。

 しかしながら、ここで忘れてはならないのは「副業の先」に待ち構えている未来です。

●「過労死ライン」が労働時間の上限に

 冒頭に書いた通り、企業が目指す未来は「法人の頭は残すけど、胴体はその都度とっかえひっかえする」という働かせ方です。つまり、企業側には本来「雇用する責任」が存在しているのに、副業を容認すればその責任を放棄できる。企業の責任が、働き手の「個人の自由」という耳触りのいい言葉に置き換わっているという歴然たる事実が存在しています。

 例えば、9月1日、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改訂版を公表しました。その中に「基本的な考え方」と「労働時間管理」が記されているのですが、実に微妙です。(以下、抜粋して要約)

【基本的な考え方】

・労働者と企業の双方が納得感を持って進めることができるよう、企業と労働者との間で十分にコミュニケーションをとることが重要。

・使用者及び労働者は、1.安全配慮義務、2.秘密保持義務、3.競業避止義務、4.誠実義務に留意する必要がある。

・原則、労働者は副業・兼業を行うことができるが、例外的に上記1〜4に支障がある場合には副業・兼業 を禁止又は制限できる。

【労働時間管理】

・法定労働時間、上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)について、労働時間を通算して適用。

・通算して法定労働時間を超える場合には、長時間の時間外労働とならないようにすることが望ましい。

・使用者は、労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認する。

 興味のある方はガイドラインを読んでいたただきたいのですが、本来、企業側に責任が課せられている「労働時間の管理」が、「働く人の自己申告」を前提としている。しかも、「上限規制=単月100時間未満、複数月平均80時間以内」と、“さらり”と書かれていますが、これらはいずれも「過労死ライン」です。

 思い起こせば、2017年に残業の上限規制を巡る「100時間攻防」がありました。

●「企業の責任」を放棄できるやり方はおかしい

 当時、大手広告代理店の社員が過労自殺したことで、長時間労働の罰則付き規制に世間の関心は高まり、過労死で大切な人を失った家族も、医療の専門家たちも、労働法に詳しい人たちも、誰もが「過労死ラインを上限とするのはおかしい!」「死ぬまで働けってことか!」と訴えたのに、最終的にまとまったのは「月100時間未満」を上限とする、「過労死合法化」でした。

 「100時間を認めないと企業が立ちゆかない。現実的でない規制は足かせになる」とのたまい、働く人の健康より企業を優先した。「過労死」から働く人たちを守るには、インターバル規制も不可欠なのに、ただの努力義務。海外では医学的なエビデンスに基づき、働く人の「休む権利」であるインターバル規制の義務が企業に厳しく課せられているのに、日本の企業はその責任すら放棄できる法律が出来上がってしまったのです。

 つまり、前述のガイドラインの内容を少々乱暴にまとめると、「副業はどんどんやってね。でも、企業に迷惑が掛かるのは困るんだよね。とにもかくにもひとつよろしく!」ってこと。それによって企業が「企業」であることを放棄し、「会社員」は消滅するのです。

 「全体は部分の総和に勝る」とはアリストテレスの名言ですが、「よき会社」をつくるから、1+1=3、4、5というチーム力が発揮されるのに、真逆をやろうとしているのです。

 繰り返しますが、副業自体は悪いことではないし、やり方次第では働き手にとっても、企業にとっても「プラス」になります。しかし、企業が企業である以上、「雇用する責任」を放棄できるような進め方はおかしい。

 働く人の「自己申告」を前提にするのは、あまりに危険です。最低でも、インターバル規制を徹底できるシステムの構築と、罰則付きの法律を作ってしかるべきです。

 最近は「過労死」や「過労自殺」の報道が激減しましたが、過労死や過労自殺する人が減っているわけではありません。6月に公表された、2019年度の「過労死等の労災補償状況」によれば、過労死等に関する請求件数は2996件で、前年度比299件増。また、支給決定件数は725件で前年度比22件増となり、うち死亡(自殺未遂を含む)件数は前年度比16件増の174件だったという事実を、国は真剣に受け止めてほしいです。

(河合薫)