飲食店コンサルタントの三ツ井創太郎です。コロナ禍により外食産業全体が大きく落ち込んでいます。今年の3月から売り上げが低迷し、7カ月が経過しています。

 第2波の影響などにより、まだまだ厳しい状況が続いていますが、こうした中でも回復傾向にある企業とそうでない企業に大きな差が出始めています。

 今回はウィズ・アフターコロナの時代においてV字回復を実現している企業の取り組みを学んでいきます。

●V字回復を遂げている丸亀製麺

 皆さんはうどん専門店「丸亀製麺」の運営会社が「株式会社トリドールホールディングス」ということをご存じでしょうか。

 「なぜうどん店なのに“トリ”ドールなの?」と不思議に思われる方もいることでしょう。

 同社は1985年8月、兵庫県加古川市で「トリドール三番館」という8坪の焼鳥居酒屋からスタートしました。そして創業から14年後の99年、地域の家族客が気軽に来店できるファミリーレストラン型の焼鳥店「とりどーる」を出店します。当時は画期的なことでした。

 しかしながら、2004年から世界的に大問題となった鳥インフルエンザの流行などにより、戦略転換を行います。鶏肉を主力食材としない新たな業態を展開したのです。それがセルフ式うどん店の丸亀製麺です。丸亀製麺自体は00年に1号店がオープンしていますが、鳥インフルエンザが出店加速のきっかけになりました。

 そして1号店オープンから6年後の06年には東京証券取引所マザーズ市場に株式を上場。さらに08年には、東京証券取引所第一部に上場市場を変更しました。現在、丸亀製麺は国内に849店舗を展開しています(20年6月時点)

 ここで、今年に入ってからの丸亀製麺の既存店売上高(対前年比)を見ていきます。

 1月:108.1%、2月:110.0%、3月:86.5%、4月:55.3%、5月:63.6%、6月:85.2%、7月:86.2%、8月:90.0%。

 全国の居酒屋業態は8月度で対前年比40〜50%程度、ファミレス業態で70〜80%程度と苦戦をしています。そんな中、丸亀製麺の対前年比90%という数値は正に「V字回復」といえる実績です。

 好調な要因の1つとして立地が挙げられます。丸亀製麺は地方ロードサイト店舗が全体の8割を占めており、ショッピングセンターや都心店を多く抱えるチェーンと比べて回復が早いという特性があります。

 丸亀製麺がV字回復したのは立地要因だけではありません。次項では丸亀製麺がコロナ禍でどんな取り組みをしてきたのかを分析をしていきます。

●安心・安全の打ち出し

 緊急事態宣言中に放映された丸亀製麺のテレビCMをご存じでしょうか?

 このCMでは、アルコール消毒を実施していることや、店内の空気を5分ごとに換気していることといった新型コロナウイルス対策を15秒で分かりやすく伝えています。

 新商品のアピールなど、マーケティング目的でテレビCMは利用されることが多いのですが、丸亀製麺はいち早く店内のコロナ対策をアピールしました。

 私はこうした活動を「衛生マーケティング」と呼んでいます。コロナ禍の初期段階で衛生マーケティングを行った会社と行わなかった会社では、7月以降の集客回復に大きな差が出ています。消費者2000人を対象に行ったあるアンケートでも、多くの消費者が「店内の衛生環境の動画」に対して、最も高い関心を示していました。

 こうした消費者データを分析した上で、当社のコンサルティングご支援先でも、店内換気や衛生対策を打ち出す動画を一緒に作成してSNSなどでPRしました。そして、その次に各種キャンペーンや新商品のPRを実施しました。その結果、かなりの反響があっただけでなく、大きな集客効果がありました。コロナ禍にもかかわらず、売上高が対前年比100%を超える店舗もありました。

 ウィズ・アフターコロナにおいては、こうした消費者心理の変化を敏感に捉えた上で、対応策を“次々”と“スピーディー”に打ち出していく「仮説立案力」「意思決定力」「行動力」がとても重要となります。これはコロナ禍に限らず、非常時の経営においては鉄則です。

●テークアウト強化

 前項で述べたように、丸亀製麺では初めにテレビCMで衛生マーケティングを行った後、テークアウトをPRするCMを打ち出しています。私はこのマーケティングの順序がとても重要だと思っています。

 仮に放映順序が逆だった場合、多額の広告費をかけてテークアウトのCMを放映しても「感染が心配だから買いに行きたくない」と思われてしまう可能性があります。これでは広告効果を高めることはできません。

 さらに同社のテークアウトのCMからは「テークアウトだからといって味に対しての妥協を許さない姿勢」が見てとれます。具体的には、自宅でも丸亀製麺の「打ち立て」「ゆでたて」「もちもち」などを体験できるように、わざわざ専用の容器を開発しています。こうした取り組みにより、3月時点では1.6%程度であった売り上げに占めるテークアウト比率を6月には14.7%にまで上昇させています。

 専用容器には中蓋が付いており、麺とだしが別々になっています。天ぷらなどのトッピングは別の箱で持ち帰ることができます。こうした工夫により、店内と同等のクオリティーを再現しているのです。

●残念な「逆ブランディング行為」

 コロナ禍においては、多くの飲食店がテークアウトを開始しました。私も実際に、あらゆるテークアウト商品の試食調査を行いましたが、正直に申し上げて「急場しのぎ」の商品も少なくありませんでした。せっかく始めたテークアウトやデリバリーでお店の評判を下げてしまう。私はこれを「逆ブランディング行為」と呼んでいます。

 緊急事態宣言という未曾有(みぞう)の状況で、クオリティーの高いテークアウト商品を開発するのはとても大変なことです。しかし、私はこうした時期だからこそ「お客さまの期待を裏切らないお店づくり」が本当に大切だと思っています。

 飲食店の基本に「QSC」という考え方があります。QはQuality(クオリティー=品質)、SはService(サービス)、CはCleanliness(クレンリネス=衛生)です。

 全ての飲食店にとって最重要の繁盛要素がQSCです。しかし、コロナ前には、QSCレベルが低いにもかかわらず「グルメサイトの点数が高い」「インスタ映えする商品がある」といった理由で繁盛を実現しているお店が少なからずあったことも事実です。

 実際に皆さんもグルメサイトの点数やインスタの写真を見て来店したけれど、がっかりしたという経験が一度や二度はあるはずです。

 当社のコンサルティングご支援先などでは、専用のQSCチェックシートを作成します。その上で、店舗ごとにチェックを行い項目別の達成度合を数値化(見える化)します。そして、前月・系列店舗などとの比較を行い「QSCにおける自店の強み・弱み」を明確にした上で、改善を行うPDCAサイクルを構築しています。私は「QSCチェック基準」は、そのお店・その会社の目指すべき姿、ブランド像を表す重要指標だと思っています。

 基準は各社によって異なりますが、100点満点中70点に満たない店舗には「イエローカード」を出し、本部スタッフなどが介入した上で店長と一緒にQSC改善に取り組むといった対策を行ってもらっています。

 コロナ禍においては、多くの消費者が外食を控えました。そして、緊急事態宣言後、久々に外食をする場として「以前に来店したことがある」「QSCが高い」「なじみのお店」を選ぶ傾向が圧倒的に強くなっています。そうした意味でも、丸亀製麺のQSCに対する取り組みや実績は、改めて飲食店経営におけるQSCの大切さを思い出させてくれます。

 「そんなのはトリドールのような上場企業だからできる取り組みだ!」と思われる方もいるかもしれません。しかし、決してそんなことはありません。

 次項では、繁華街の立ち飲み居酒屋業態にもかかわらず、7月度には前年を超える売り上げを達成したお店の事例を見ていきます。

●コロナ禍でも前年超えの立ち飲み居酒屋がやっていること

 名古屋にある居酒屋「立呑み 焼きとん 大黒」を紹介します。系列店はどこも10坪程度の小さなお店ですが、創業以来「QSC向上」を徹底しています。

 08年に単価90円からの焼きとん串をメインとした立ち飲み業態として愛知県で創業しました。そのQSCレベルの高さから多くの常連客から支持され、現在では愛知県外にも直営店とフランチャイズ(FC)店舗展開を行っています。

 通常、繁華街にある飲食店は、グルメサイトの掲載に販促費をかけることで一定の集客を獲得しているケースが多いです。一方、焼きとん大黒ではグルメサイトなどへの販促費を一切かけていません。

 販促費をかけない代わりに行っているのが「お客さまとのコミュニケーション構築の仕組み化」です。焼きとん大黒では、創業時から店内のイベントに力を入れてきました。例えば、常連のお客さまを巻き込んだスタッフの誕生日会や、他の地域に転勤する常連のお客さまの送別会など、毎月さまざまなイベントを企画し「お客さま満足」を高めてきました。

 また、毎月新商品を開発し、常連のお客さまにメールやSNSを通じてPRを行い、来店促進をする「ダイレクトマーケティング」にも力を入れています。

 さらにすばらしい点は、通常の飲食店ではマンパワーに依存してしまいがちなQSC向上に向けた取り組みを「目標化」した上で、独自開発のアプリで全て管理していることです。QSC向上において重要となる「業績指標=KPI(Key Performance Indicator)」を、Webシステムを通じて教育・管理しています。そして、店舗のQSCレベルアップを実現しているのです。 それは正に「人材育成のデジタルトランスフォーメンション」と言えます。

 また、各自が獲得したKPIポイントを社内仮想通貨のように可視化しており、社員の賞与やアルバイトのインセンティブなどに反映させています。ポイント付与の基準としても、単なる業績結果だけではなく「イベント計画をしたら〇〇ポイント」「社内資格を取得したら〇〇ポイント」といったように、個人の頑張りやプロセスをポイントに還元していく仕組みが社員のモチベーションアップに大きく寄与しています。

 同店の徹底したQSCはコロナ禍においても大きな効果を発揮しました。7月になり、長引くコロナ禍による影響を心配した多数の常連のお客さまが同店を訪れるようになったのです。

 7月といえば、全国の繁華街にある居酒屋の多くは、売り上げが対前年比50〜60%で推移していました。しかし、焼きとん大黒は対前年比100%以上の実績を出していました。

 最近では、コロナ禍でバイト先を失い、退学を検討せざるを得ない多くの大学生がいるようです。しかし「立呑み 焼きとん 大黒」では、こうした大学生などを採用し、雇用創出にもつなげています。そして、このようにして雇用したスタッフの頑張りにより、さらに店舗のQSCレベルが高まっていくという「正のスパイラル」を実現しています。

 ウィズ・アフターコロナ時代を生き抜くための「魔法の戦術」は存在しません。小手先の販売促進手法も通用しません。

 「QSC向上に向けた毎日の努力の積み重ね」が今まで以上に大切になっていきます。

 少しでも皆さまのご参考になれば幸いです。

 最後までお読み頂きありがとうございました。

(三ツ井創太郎)