PayPayは9月1日、新しい働き方「Work From Anywhere at Anytime(WFA)」を導入した。一部の業務を除いて原則在宅勤務とし、パフォーマンスが発揮できる環境であれば、国内の好きな場所、時間に仕事をしていいという。新制度導入と併せて、9月23日にWeWork Japanと共同設計した新オフィスに移転した。

 しかし以前の同社は、在宅勤務導入に否定的だったという。同社がWFAを導入した背景と、新オフィスで目指す新しい働き方とは――。 CFOの走出雅紀氏と、経営推進本部人事部部長の仙田厚毅氏に、プロジェクトの真意を聞いた。

●成果が出るのか懐疑的だった「在宅勤務」

 多くの企業同様、同社も緊急事態宣言が発出された4月7日に在宅勤務へと切り替えた。しかし当初は、在宅勤務で業務が行えるのか懐疑的だったという。

 走出氏は「以前のPayPayは、従業員は一堂に会して業務を行った方がスピード感もあっていいだろうと考えていた」と振り返る。同社は、2018年6月15日の会社設立からわずか3カ月でサービスをリリースすることになった。企業文化が異なる3社が集まったこともあり、昼夜問わず集まって問題の解決に向け議論をしてきたという。

 「集まって議論する」文化が根付いていた同社だが、いざ取り入れてみると、社員アンケートで7割近くの従業員が在宅勤務での生産性について「向上した・変わらない」と回答。業績にも大きな影響はないことが判明した。議論の場がオフィスからWeb会議システムや電話などに変わったが、スピ―ド感をもって対応できているという。

 また、従業員からも在宅勤務について前向きな意見が多く挙がり「会議の数が増え、以前よりも忙しくなった」との声もあったという。「社員がサボるのではないかという懸念もあったが、集中したいときに集中できる点など、意外な効果が出てきた」(仙田氏)と話す。

 この結果を踏まえ同社は、ゴールデンウイーク明けから新しい働き方の導入について検討を開始。数カ月前まで在宅勤務に懐疑的だった同社が、原則在宅勤務という大きな決断に踏み切れたのは、「思い切りがいいという社風があったから」(仙田氏)だと話す。7月末には社内向けの説明会を開催。社長自ら幹部に制度の趣旨を説明し、9月からの導入に向けて作業を進めた。

●コンセプトは「原則在宅」と「以前の働き方に戻らない」

 WFAのコンセプトは、従業員の安全を守るための「原則在宅」と、改善を続ける意味を込め「以前の働き方に戻らない」とした。新しい働き方を実現するため、オフィスへの出勤は申請制とした。

 説明会やアンケートで挙がった従業員の意見を反映し、自宅の勤務環境を整えるための「在宅勤務手当」を創設。自宅での勤務が難しい従業員のために、全国20カ所の営業拠点のほか、サテライトオフィスも用意した。

●オフィスは東京で、社員は世界中にいる未来

 PayPayには、エンジニアや開発メンバーなどの従業員が世界中から集まっている。仙田氏はWFAの導入は採用活動にもメリットがあると話す。「優秀な人が東京に行けないという場合でも、採用できるチャンスだと思っている。最近では、名古屋に住む人が応募してきた。今後は、オフィスは東京だが社員は全国各地にいる、という形になるのではないか」

 将来的な構想として、この制度を海外にも広げたいという。現在、約25カ国から従業員が来ており、外国籍率が50%を超えている。優秀な外国籍の人を採用するうえでも新制度は有利に働く可能性があるだろう。

●新オフィスは新しい働き方の象徴

 WFAの導入と共に、WeWork Japanと共同設計した新オフィスへの移転を決めた。事業の拡大や人員の増加に伴い、オフィスの増床を以前から予定していたが、コロナ禍をきっかけに新しい働き方を最も重要視したデザインを採用したという。

 これからの働き方を見据えたオフィス移転については、人材派遣大手のパソナグループが、東京にある本社機能の一部を兵庫県淡路島に移すことを発表。また、ライオンも東京墨田区にある本社と一部関係会社を集約し、23年春に大型複合施設「蔵前一丁目開発事業」(東京都台東区)に移転すると発表している。多様な機能を備えたオフィス空間を創り、生産性と企業価値の向上を図るという。どの企業も通常のオフィスとは異なり、新しい働き方を意識した空間づくりを目指している。

 PayPayが目指す新オフィスも、従来のオフィスとは異なった「作業机がないオフィス」(走出氏)をイメージしている。新しいオフィス戦略を「オフィスの役割の再定義」「 三密回避・安全確保」「共創・協働の実現」と定義。出社率25%を上限とし、総席数を従来の968席から228席へと大幅に削減した。

 また、フロアを「コミュニティー&ソーシャル」「アクティブ・コラボレーション」「ラーニング」「デスク・ワーク」という独立した4つのゾーンに分け、新しい働き方の象徴としてオフィスの在り方を見直した。

 デスクワーク部分は全体の50席程度。WFAの理念に基づき、従来の「業務をする中心の場所」というオフィスの在り方を見直した。走出氏は、オフィスの役目を「情報の交差点・集約場所」にしたいと強調する。

 また走出氏は、経理や総務などの勤務体制についても「1時間でもペーパーワークがなくなるようにしていきたい」と話す。「外部に提出するものや郵便事務は現状どうしても残る。総務エリアは別途設けて対応せざるを得ないが、印刷物はネットワークプリントを使うなど、他のソリューションを利用して業務プロセスもデジタルにシフトしていきたい」

●オフィス移転は「日々変わる会社を体現」

 しかし、出社人数を減らしてレイアウトを変更することは、移転せずとも従来のオフィスでも対応できるのではないか。その点について走出氏は「オフィスを変えていくことで、ベンチャーとして日々変わっていくということを体現したい」と説明する。同社は2018年の会社設立以来、これまで4回オフィスを移転してきた。また、新オフィスは、フロアが従来より広く「アフターコロナにおける理想的なオフィスを構築するのにふさわしい」(走出氏)と判断したという。

 原則在宅勤務、新しいオフィスの定義という決断をした同社。会社の成り立ちから、ジョブ型思考に近く、多くの社員が「活躍できるフィールドを求めて入社してくる」(仙田氏)のだとか。両氏は「会社の成長を共感すること」が帰属意識につながると強調する。「私たちはユーザーであり社員。このサービスをより便利に、このサービスで現金を超えていくことを期待して仕事をしている。その考えが軸になり、帰属意識になるのかと思う」(走出氏)