株式投資といえばお金を増やすためにすること――。そんな考え方が、徐々に変わってきているかもしれない。社会に貢献している企業の株式を買うことで、応援し、世の中をよくしていく一歩にしたい。そんな目的の投資スタイルが生まれていく可能性がある。

 「適切な企業に投資をすることで、企業も成長して、投資家も利益を得る。お金を使って社会貢献するなら寄付でもいいが、投資によって企業を応援することで社会にプラスとなり、さらに経済的な豊かさも追求できる。悪いことをするのではなく、いいことをしてもうけようという考え方だ」

 マネックス証券 執行役員 チーフ・アナリスト マネックス・ユニバーシティ長の大槻奈那氏は、企業を応援する意図での投資について、こう説明する。

●社会貢献に積極的な人ほど投資も行う

 マネックス証券が5月末に行った全国調査によると、社会貢献活動に積極的な人ほど、投資も行っていることが分かった。社会貢献活動を行っている人のうち、60%が投資も行っており、これは社会貢献活動を行っていない人の27%の2倍以上にあたる。

 資産や収入が多い人ほど、社会貢献活動も投資も行っているという、いわゆる疑似相関も最初は疑ったが、収入別で見ても、同じ傾向があった。

 これまで投資といえば、どれだけもうかるかというリターンと、どのくらい損する可能性があるかというリスクの2つで語られることが多かった。しかし、「社会に良いことをしている印象の企業に投資したいか」という質問に対し、過半数が「そう思う」と答えており、利益だけでなく社会貢献の一貫として投資を捉える人が増えている。

●社会によいことをする企業の株価が上昇

 しかし、なぜ企業の株を買うことが“応援”になり、社会貢献につながるのか。背景の1つには、2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs:エスディージーズ)」や、企業の環境・社会・ガバナンスを評価して投資するESG投資の普及がある。

 年金積立金を運用するGPIFは、17年に投資原則を改め、株式だけでなく債券などすべての資産でESG要素を考慮した投資を進めてきた。経済産業省が19年末に行ったアンケートでも、機関投資家の97%以上が、ESG情報を投資判断に活用している。ESGの活用については、特に欧州に比べて日本は遅れているといわれてきたが、最近は徐々にキャッチアップしてきている。

 こうした中、ESGを重視する企業の株には積極的な買いが入り、逆にESG評価の低い企業は買われない流れができつつある。「2012年から現在までを見ると、ESG評価の高い銘柄は、平均よりも4%くらい高いリターンとなった」(大槻氏)

 ESGへの取り組みが、企業業績に好影響を及ぼすかどうかは判断が分かれるところだが、機関投資家の多くがESGを評価して買い入れる以上、株価への影響もあるといえるだろう。

 影響は株価だけではない。大槻氏は「社債もそうだ。ESG評価が低いために資金調達から排除されると倒産につながってしまう。財務が弱いところは、非財務情報であるESGも真剣に捉えている」と話す。

 SDGsでは、前回のMDGsの反省から、資金供給方法として投資や融資といった民間の資金を活用することを打ち出した。機関投資家は、社会貢献を重視する企業に積極的に投資する。その結果、企業の株価も上昇する。SDGsの17の目標に対して積極的な企業に、投資や融資が行われやすくすることで、好循環を作り出す狙いだ。

●なぜ株を買うことが企業の応援になるのか

 また企業の株を買うことは、企業のオーナーとなることでもあり、重要な決定に対して一票を投じることができる。「株式を買うことはその会社を持つことになる。その会社が悪いことをする決断がされそうなときに、議決権を持つことで予防もできる。会社の正しい決定を促していくことになる」(大槻氏)

 そうはいっても個人株主が持てる株式数には限界がある。結局のところ、資本の論理で大株主の意向以外は反映されないのではないか? 大槻氏は、個人株主からの株主提案が、会社の定款を動かす場合もあると話す。

 みずほFGの株主総会では、剰余金の配当権限を取締役会から株主総会に移せという株主提案が繰り返し出されてきた。定款変更に必要な3分の2には届かないものの、毎回半数近くの株主が賛成しており、ついに20年6月の株主総会で定款が変更となった。会社側からの自主的な変更提案だったが、これは会社側が折れたという見方が強い。

●利益の追求から、社会貢献を兼ね合わせた投資へ

 リターンだけの追求から社会貢献も兼ね合わせた投資は、機関投資家の間では一般的になってきている。一方で、個人投資家はESGなどの観点から投資を行うのはまだ難しい。

 ESGなど社会に役立つ要素を元に企業を選ぼうと思っても、統一されたスコアはなく、また企業ごとのESG評価を掲載している証券会社もほとんどないからだ。環境や社会への取り組みを判断するには、各企業のWebサイトなどから個別に情報を入手する必要がある。

 7月に日銀が発表したレポートでは、ESG評価の透明性がないことや、各企業にESG要素の開示が義務化されていないこと、企業が公開するESG情報が少ないことなどが指摘されている。

 ESG投資を行う投資信託などは、それぞれ個別にESG格付け機関と契約して情報を入手していたり、独自にESG評価をしたりしている。個人が本当に社会貢献の観点で投資を行っていくには、財務諸表だけでなく、ESG評価などへのアクセスが容易になることも必要になっていくだろう。