「二番底は来ないのかとよく聞かれるが、今想定される範囲内では、大きく下がる理由はほとんどない」。日興アセットマネジメントの記者向けセミナーで、チーフ・ストラテジストの神山直樹氏は、このように話した。

 背景にあるのは、経済指標の急速な回復だ。例えば米国の雇用統計を見ると、リーマンショック時には800万人の雇用が2年かけて失われ、回復には4年半かかった。ところが今回のコロナショックでは、2カ月間で一気に2000万人減って、すでに半分が戻ってきている。

 米国の小売売上高もそうだ。コロナ禍で大きく下がったが、そこから急回復。すでにコロナショック前を超えている。「消費が足りない」というエコノミストもいるが、それはコロナで落ち込んだ分の反動を見ると「足りない」という考え方だ。

 「世界経済がいろいろな景気指標で安定している。経済がだんだん普通に戻っていく道のりを想定している株価は、バブルではないし適切だ」(神山氏)

●安定する世界経済

 コロナからの回復期にあって、世界経済は安定していると神山氏は見る。例えば、大規模な金融緩和に伴い、世界中の政策金利はゼロ近辺だ。「米FRBのパウエル議長が、これから先について強くコミットした。インフレ率が2%を超えても、平均で2%になるまではある程度金融緩和のままいくので、金利を上げられない。そして銀行システムへの悪影響を考えると下げられない」と神山氏。政策金利の横ばいは、為替の安定にもつながる。

 逆に、株価がこのまま上がり続けることも想定しない。経済の回復を株価は織り込んでいるので、経済が急回復しても株価の急上昇はないという見立てだ。ワクチン開発についても織り込まれており、開発が成功しても大きな株価上昇はないだろうと見る。

 11月に控える米大統領選の結果も、大きな影響はないと見る。「7月の頃はバイデン氏が大統領になると、増税で企業の成長率が低下するという予想があった。しかし企業が税金を取られても、それは消費者に回るから、売り上げが増えて企業に戻ってくる。短期的には悪化するかもしれないが、中期的には変わらない」(神山氏)

 米国の対中国政策も、大きな方向性は変わらないという想定だ。バイデン氏が勝利しても、「米中貿易でポジティブなストーリーはない。関税を厳しくしないというイメージがあるが、下げはしないだろう。一方で、(バイデン氏の所属する)民主党は人権問題を意識するため、(香港人権問題などに)制裁を課す可能性はある」(神山氏)

●コロナ対応の経験を積んだ各国

 コロナの第一波のときは、各国は未知のウイルスへの対応に追われた。米国でも、1回目はニューヨークなどで都市のロックダウンが行われたが、2回目の感染拡大が起こったテキサスではそこまで行かなかった。最初の感染対策の経験が、それ以降で効果を発揮した。「テキサスで医療崩壊の話は聞かなかった。ニューヨークでの経験から、バーの営業停止やテレワークの推奨などで感染は落ち着いた」と神山氏。

 各経済指標が順調に回復している、金融政策も大きな変化は起こりにくい、第一波の感染から経験が積まれた――。こうしたことから、現在の株価は回復していく経済を先取りしているという見立てだ。医療崩壊が起こるような新たな大流行が起きない限り、この状況は変わらない。

 「感染の第二波がきたら崩壊するという話ではない。(外食産業など)目に見える部分でひどく落ち込んでいる印象があるが、日本でいえば外需がそこそこあることを認識しておかなければならない。コロナ禍からの回復が道半ばなのは事実だが、先にマーケットが戻って、現状がそれに追いつこうとしている状況にある」(神山氏)