来場者236.4万人、経済効果400億円とも試算される札幌市のイベント「さっぽろオータムフェスト」。首都圏での認知度99%を誇る札幌最大のイベント「さっぽろ雪まつり」の経済効果は494億円と言われているので、今年13回目になる「さっぽろオータムフェスト」は北海道内にとどまらず、全国でも存在感を増しつつある「食の祭典」だ。

 だが――。新型コロナウイルスの影響によって毎年9月に札幌・大通公園で開かれるオータムフェストもリアルでの実施は中止を余儀なくされた。今年は初のオンラインイベントとして9月30日から10月31日まで開催されている。

 道内各地の旬の食材やご当地グルメを取り揃えることによって、各地域の「食」のアンテナショップの役割を果たしているこのイベントが、コロナ禍でどのように変わったのか。オンラインでの開催になれば、Amazonや楽天といった一般的なECサイトとの差別化が必要になってくるが、いかなる戦略を取るのか。イベント開催に携わったキーマンたちに聞いた。

●雪まつりにも負けない!? 知られざる一大イベント

 さっぽろオータムフェストは、札幌・大通公園をエリア毎に区切って開かれる。1丁目会場はドイツ・ミュンヘンで開催される世界最大のビールの祭典「オクトーバーフェスト」、5丁目会場は「ラーメンと北海道ご当地グルメ」、7丁目会場は「北海道のお酒」、8丁目会場は「各自治体による道内各地の特産品ショーケース」などそれぞれのエリアが特色を持ったコンセプトで出展している。

 このイベントに参加する北海道の自治体は延べ100市町村と、札幌で行われる日本最大の北海道物産展と言っても差し支えない規模だ。また、観光客以上に札幌市民の参加率が高いのが特徴でもある。2017年のオータムフェストの参加者の割合をみると44.4%が札幌市民、その他の道民が22.0%、14.1%が道外客となっている。ちなみに外国人客は19.5%。コロナによってインバウンドはほぼ消し飛んだので経済的な損失も少なくない。

 「さっぽろ雪まつり」が首都圏で認知度99%を誇っている一方、さっぽろオータムフェストの認知度は約20%だ。道外ではなじみのないイベントでもある。だが、昨年のイベント来場者は236.4万人で、札幌市が公表している『さっぽろオータムフェスト経済効果調査(平成29年12月)』によると、さっぽろオータムフェストのイベント来場者による札幌市内経済への生産波及効果は約621億円にもなる。

 オータムフェストは開催期間が約1カ月間、雪まつりは開催期間が約1週間と異なるため単純な比較は難しいものの、雪まつりの来場者数が約202万人、生産波及効果が650億円であることを考えると、北海道の経済にとっては知名度以上に重要なイベントだ。

●オンライン開催きっかけに首都圏へアピール

 さっぽろオータムフェスト実行委員会の事務局を担う札幌観光協会の山上一心氏は危機感を隠さない。

 「オータムフェストは札幌市内経済への生産波及効果621億円、経済効果400億円とも言われています。それが新型コロナでほぼゼロになってしまった――。これを少しでも取り戻すことを考えないといけません。そしてオンラインで開催するには、ただ商品を並べるだけのECサイトでは意味がないので、何らかの付加価値をつけることが経営的、運営的な課題となりました」

 新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点で、オンラインによる代替イベントを企画するために何度も議論されてきたのが「さっぽろオータムフェストらしさとは何か」という点だ。単に商品をオンラインで販売するだけならAmazonや楽天など他のECサイトと変わらなくなってしまう。

 「安易にECへ切り替えるのではなく、通常のモールサイトとは異なる付加価値をどのように付けていくかが最も重要視したポイントです。経済効果を取り戻すだけなく、オンラインイベントをきっかけとして、道内以外の、特に首都圏の人たちにさっぽろオータムフェストを知ってもらいたいと考えました。

 今回のイベントに付加価値を感じてもらえれば、来年以降、実際に観光客として札幌市に来てくれるかもしれない。そう期待していますし、実際にそうなるようにわれわれが頑張らないといけない。そのためには単なるECサイトを作るのではなく、オータムフェストならではの良さを知ってもらわないといけないと考えました」

●「ソムリエの解説付きワイン」に「シェフ厳選のオードブルセット」

 Amazonなどとの差別化を図るためにどんな戦略を取ったのか。山上氏は意気込む。

 「さっぽろオータムフェストの特徴は"会場毎のコンセプトに合わせた商品のセレクト力"であり、オンラインでの商品提供にあたっては、通常Web販売をしていない商品も含めた"セット商品の企画"に注力しています」

 エリア毎にそれぞれ3000円、5000円、1万円の価格帯でセット商品を販売するという。例えば、オクトーバーフェストをコンセプトとした1丁目会場であれば、ドイツビールとドイツソーセージ、グーラッシュ(シチュー)などを組み合わせたセットを提供する。

 単に複数の商品のパッケージングだけにとどまらず、例えば「北海道のお酒」をテーマにした7丁目会場であれば、購入者限定で「ソムリエによるオンラインでのワインの楽しみ方の解説」をセットのサービスとしてつけるなど、プラスアルファの体験を付加価値として提供するセットもある。

 「道内ワイナリーセレクションの白ワイン3本入りを1万円で購入してくれたお客さんには、後日オンラインでソムリエが解説してくれる仕組みにしました。他にも札幌市内の有名店のシェフたちが、北海道産の一流の食材を使って調理したオードブルセットやスイーツセット商品などを提供します。

 本来のオータムフェストでは、実際にソムリエや有名店のシェフが大通公園でその腕前を披露してくれるのですが、オンラインでもそのイベント体験に少しでも近づけたいという気持ちで、それぞれのエリア担当がセット商品を企画しています」

●経営が苦しい飲食店・生産者に配慮した配送システム

 また、今回のオンライン開催での特徴が、3期に分けた販売期間だ。今回の「オンラインさっぽろオータムフェスト 2020」では販売期間を1期(9月30日〜10月7日)、2期(10月8日〜15日)、3期(10月16日〜23日)の各8日間に分け、商品を届けるのはそれぞれの販売期間が終了してからとなる。これは受注スキームとして、商品の注文を受けてから生産と梱包を行う「受注生産方式」をとっているためだ。

 この生産方式により、複数の会場にまたがって商品を購入した顧客に対しても、一括配送をすることによって送料を安く抑えられるほか、商品在庫のロスも出にくくなる。大手物流会社の協力によって、出展者側の目線に立った工夫を実現させたのだ。山上氏は言う。

 「経営が苦しい飲食店や生産者は新型コロナの影響によって大変な思いをしています。彼らに配慮したオペレーションを観光協会からパートナーの物流会社へ提案しました。商品管理を物流会社が一括で管理することによって送料の面だけでなく、余剰ロスの面でも余計な生産をせずにSDGs(持続可能な開発目標)にも配慮した仕組みを構築できました。またこうすることによって日々の受注の状況も把握でき、ある程度の未来予測もできるようになっています」

●YouTubeチャンネルとのコラボ

 さらに、より広くさっぽろオータムフェストの魅力を発信するため、プロモーション面でもある仕掛けを施した。その一つが、北海道での暮らしや食の魅力をテーマとしたYouTubeチャンネル「愛里沙の北海道暮らし」とコラボした映像企画だ。

 「道産食材の楽しみ方」というテーマで公開されるこの映像には、生産者である札幌市内の玉ねぎ農家が出演し、生産へのこだわりや、実際の収穫シーン、そしてその素材を活用した調理シーンまでがまとまっている。さらに映像内と同じ料理を自宅で再現し楽しめるよう、オンライン上でレシピの提供を行うなどの工夫が施されている。映像自体もよくSNSで見かけるような単純な調理動画ではなく、北海道の自然を感じられるような構成になっている。

 YouTubeチャンネル「愛里沙の北海道暮らし」の運営会社であるTREASURE IN STOMACH(札幌市)の柴田愛里沙社長はオータムフェストを盛り上げたいと意気込む。

 同社はもともと、菓子のD2C(Direct to Consumer)ブランドとして、ビーガンやグルテンフリーに対応した菓子の企画製造と販売を手掛けていた。製造した菓子は、札幌市内にある直営店舗の”issue sweets lab”や札幌パルコや大丸百貨店などの期間限定ストアで販売していたものの、新型コロナの影響は大きく、「一時的に店舗を休業しなければいけなくなるなど営業活動に支障をきたしました」(柴田社長)。

 だが、そんな状況でも指をくわえて待っているわけにはいかない。”食と自然”をテーマに北海道の魅力を発信するYouTubeチャンネル”愛里沙の北海道暮らし”の動画コンテンツを作ったり、Instagramやnoteを使った情報発信の強化をしたり、できることをやってきた。

 「オフラインが難しいならオンラインでできることを思いつく限りやってきました。直営店舗の”issue sweets lab”も9月にリニューアルを兼ねて営業を再開しましたが、今後はよりオンライン施策を中心としてお客さんとの接点を作っていこうと考えています。過去に好評だった”オンライン料理教室”を開催したり、ECサイトでお菓子を販売したりと、今までのオフラインでの体験を、どんどんオンラインでも実現させていきたいと思っています」

 そのように話す柴田社長は、もともと新卒で東京の広告代理店に入社し、その後、札幌へUターンして菓子の企画製造・販売事業を始めたキャリアの持ち主だ。2019年に開催されたシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab HOKKAIDO」では特別賞を受賞。菓子という商材をいかにしてオンラインと融合させ、新しいサービス・ユーザー体験に変えていくのかに注目が集まっている。

 「今回、さっぽろオータムフェストがオンラインで開催されると知ったとき、ぜひ何か協力したいと感じました。私が運営するYouTubeチャンネルは道外や海外の視聴者が多いため、映像企画としてコラボすることで、道外の人たちにさっぽろオータムフェストを知ってもらうチャンスになるだろうと考え、観光協会さんへ企画を提案しました。

 私自身が玉ねぎ農家さんを訪れ、その素材を使って調理する動画は、オンラインで”道産食材を楽しむ”というテーマにぴったりのコンテンツに仕上げることができたと思っています。レシピもオンライン上で提供しています」

●「制限がある中でも、できることを」 雪まつり開催検討へ

 札幌市が公表する『平成30年度観光客動態調査』によると、北海道の観光客の入込状況の数字は、道内客が84.2%、道外客が10.8%、外国人が5.0%となっている。新型コロナウイルスの影響で、首都圏や訪日外国人の観光客が激減していることは周知の事実であるが、京都など他県の観光地と比較すると、北海道の観光客はもともと道内からの観光客が多くの割合を占めており、そのせいか札幌市内を散策していても閑散としている印象は受けない。

 今年度は「さっぽろ雪まつり」も例年と同じ形での開催は難しそうだが、「コロナ禍で制限がある中でも全て中止にしてしまうのではなく、できることをやっていきたい」と山上氏は話す。

 20年は多くのリアルイベントが中止に追い込まれてしまった一方、オフラインでのコミュニケーションの形が見直された年でもあった。さっぽろオータムフェストのような大規模なイベントは、季節の風物詩として多くの参加者から期待されていることに加え、先述したように開催に伴う経済効果も非常に大きい。

 新型コロナの影響がすぐに収まるものではない以上、経済効果を考えて単に中止にするのではなく、あくまでもイベントとしては開催に舵を切り、従来そのイベントが提供している価値を、オンライン開催や限定開催という形でも何とか実現しようとする姿勢は、多くのイベント運営者にとって参考になるだろう。

 リアルのイベントをオンライン開催へ移行するにあたっては、映像コンテンツ配信(ウェビナー)のようにほぼ従来と遜色のないユーザー体験を提供できるものもある一方で、パーティ・交流会のように既存のオンラインツールでは再現が難しいものもある。イベントにせよ、接客販売にせよ、リアルな体験をオンラインで、いかにして再現していくかは工夫の余地がある。

 今回のさっぽろオータムフェストのように各地でさまざまなオンライン企画が開催されることで、徐々にベストプラクティスがたまっていく。企業関係者や自治体関係者の努力と工夫こそがウィズコロナ時代を生き抜くための知恵となる。

(大久保徳彦 POLAR SHORTCUT 代表取締役CEO)