内定者が、新卒採用を担当する――。こうした取り組みを導入する企業が出始めてきています。例えば、東京都渋谷区に本社を置く、総合建設会社の東急建設では内定者と一緒に「次年度の採用コンテンツ」を作り、内定者の力も借りてリファラル活動を推進しています。内定者とともに採用活動に取り組むことで、コロナ禍というこれまでにない環境下での就活を経験した就活生の目線を取り入れて“よりよい新卒採用”を作ることを期待しているそうです。

 新型コロナウイルスの影響で合同説明会やリアルな懇親会がなくなり、企業と学生がお互いに理解しあう場は明確に減少しています。ニューノーマル時代と呼ばれる今、新卒採用を担当する人事に求められるものはどういった要素なのでしょうか。本稿では、これまでの新卒採用の変遷や学生の志向性の変化から、一つの解決策となりそうな「内定者リファラル採用」についてご紹介します。

●内定式からすでに次年度の採用が始まっている

 東急建設では、8月に実施した内定者研修から「21卒内定者が採用担当さながら、次年度の採用コンテンツを考える」ことをテーマにグループワークを実施しているそうです。10月の内定式では、全11班のグループがそれぞれ検討結果を発表しました。

 内定者の一人は、次のように発表しました。「私たちの班は“東急建設の最寄り駅”を作りたいと思っています。就職活動を行う学生と東急建設を近距離でつなぐ場です。『内定者が社員に聞きたいこと』『就職活動に役立つ情報』『質問箱』などのコンテンツを更新し、何度も訪れたくなる最寄り駅のようなサイトを作ります。またさまざまなコンテンツを作って運営していく中で内定者同士の団結力が生まれると思います」

 他の班からも「就活Q&A」「内定者目線での施工実績紹介」「Twitterの活用」「内定者のエントリーシート公開」など、自分たちの就職活動を振り返って本当に知りたいと感じたことをつめこんだ内容が挙がりました。総合すると、情報をよりオープンにすることが好印象を呼び、就活生が聞きたい本音を知ることで入社後のギャップを埋められる、と内定者たちが考えていることが分かります。

 発表後はリファラル採用アプリ「MyRefer」への登録を行い、就活の経験者として後輩に自社のことを紹介する取り組みを開始。内定者に対し東急建設のファンをつくってほしい、と呼びかけていました。東急建設で新卒採用を担当する人事部採用・育成グループの加藤早紀氏は、今回の取り組みに際して「内定者が就活生に近い目線で考えたことを採用コンテンツに反映させることで、学生のニーズも盛り込んだ採用活動ができると考えます」と話しています。

●「1人も採用できていない」企業が約4割

 21卒の新卒採用では、大手ナビサイトが合同会社説明会を中止したことに始まり、企業と学生が出会う場が大きく減りました。マイナビが8月に実施した21卒の採用調査によると、採用を予定する人数に対して実際に採用が確定している「採用充足率」について「0割」、つまり1人も採用できていないと回答した企業が約4割にのぼりました。当初の採用予定数から新卒採用人数を絞っている企業もあるようです。

 企業側での「オンライン化の遅れ」も課題になっています。小さなころからデジタルに触れ、講義もオンラインで受講している学生も多い一方、採用ツールの操作に手間取ったり、在宅勤務では通信回線が十分ではなく、面接のたびに会社に出社しているという人事担当者の話もよく聞きます。

 また、就活生は自分の就職先へ不安をもっている人が多くいるようです。当社の調査結果から、7月時点で内定を持つ就活生のうち「4人に1人が2社以上に複数内定を持つ」意向があると分かりました。つまり、就活生はオンライン選考や内定取り消しのニュースの影響もあり、「どの内定先が自分にあっているか決め手に欠ける」「不景気による内定の取り消しが不安」といった悩みを持ち、どこに入社するかを決めあぐねているのです。

●リーマンショック時はどうだった?

 このように、雇用は景況感に左右されますが、コロナ禍とよく比較されるリーマンショック時の新卒採用への影響はどうだったのでしょうか。

 リーマンショックは08年に到来し、およそ2年後の2010年に新卒採用の数が落ち込み、大学卒業後の就業率が低くなりました。このように景況感が変動して1〜2年後に新卒採用へ影響することを考えると、今後22・23卒採用において採用数・就業率へのコロナ禍による大きな影響が出てくると推察できます。ただし、主に大手企業では従業員の平均年齢が高く、社員の年齢比率が逆ピラミッド型になっているため、中長期を見据えて新卒採用は変わらず継続する会社も多いというのが筆者の感じている印象です。

 また、リーマンショック後から“法人から個人へのパワーシフト”が世の中のトレンドとなりました。例えば会社の正社員として働くだけでなく、クラウドソーシングサービスやフリーランスが注目され始めたのもこのころです。新卒採用についても同様の流れがあり、法人から個人へのパワーシフトが起こっています。

●新卒採用に起こったパワーバランスの変化

 もともと新卒採用は企業と学生の情報の非対称性が高く、企業の方が強い立場にある構図でした。学生から応募が来て企業が選ぶという“待ち型”の採用が続いていましたが、景気が回復しはじめた11年ごろから逆求人型のサイトによって企業が学生にスカウトしに行く形が生まれ始めています。「世界一即戦力な男」というWebサイトを作って面接の申し込みを受ける学生も登場し、話題になりました。

 企業と学生のパワーバランスに起こった変化は、19年のリクナビ問題にも象徴されるでしょう。企業側に誠実な姿勢が求められるとともに、企業側と学生側の“情報の透明性“が重視されるようになってきました。

 このようなトレンドは今後もより加速していくと考えます。一方で、コロナ禍で急激に進んだ就活のオンライン化は不可逆でしょう。地方の学生にとってはもともと就職活動の苦労に違和感をもっていた人も多いため、移動時間の削減や効率化につながるオンライン選考は当たり前になるはずです。そんな中、上述のようにオンライン選考では「決め手に欠ける」といった内定者の不安の声もあるように、どのようにお互いにマッチングを見極めるかが重要になってきます。

●これからの新卒採用に求められるものとは

 さて、オンラインの採用が当たり前になる中、新卒採用ではいかに“リアルな情報”を伝えられるかが求められるのではないでしょうか。

 デジタルネイティブ世代といわれる学生の志向性は常に変化しています。マイナビの調査結果によると、「自分の介在価値を感じたい」という思いを持つ学生が増えているそうです。リモートワーク下で自律型人材が求められる中、会社のブランドや給与などのハード面だけでなく、「なぜこの会社で働くのか」「自分の介在価値を感じるか」といったソフト面での充実は会社を選ぶ上でより重要になると考えられます。

 ただ、こうした内容は、Web上の情報だけではなかなか伝えきれません。特に情報にあふれる時代を生きてきた学生は、「広告を信用しない」「インフルエンサーの商品紹介を疑う」というように情報の信ぴょう性に敏感になっており、友人の口コミなどを高く評価する傾向にあるようです。

 そのため、企業は会社の“リアル”を生々しく伝えるために、会社で働く従業員や選考を受けた内定者からリアルな会社の魅力を口コミで伝えることが重要になるのです。加えて、情報の量が増えれば増えるほど、説明的な言語だけではなく感覚的な言語、つまり「なぜあなたはここで働くのか?」といったストーリーの影響力が増していくはずです。つまり、このような学生の志向性の変化をふまえながら、コロナ禍での就職活動という特殊な状況下だからこそ「内定者の視点」を取り入れていくことが必要なのです。

 一方で、企業が学生を見極める方法についても、「優秀でない人を採らない採用」から「優秀な人材を採る採用」にアップデートする必要があります。日本の新卒一括採用では、どうしても見極めが難しく、学歴などで「優秀でない人を採らない」といった基準に寄りがちです。海外では新卒でも就業経験あり・なしで判断をして、実力主義の転職市場に近い形で採用します。日本でもインターンシップが当たり前となり、ジョブ型への移行も進む中、欧米のようにスキルを見極める採用基準に近づいていくのではないでしょうか。そうなると、“リファレンス”を生かしたリファラル採用が重要になってきます。

●リファラル採用は「中途採用だけ」のものではない

 リファラル採用とは一言で説明すると、社内外の信頼できる人脈を介した採用手法です。人材不足が叫ばれる中でも優秀な人材を採用するため、富士通や日立製作所をはじめ大手企業でも活用が広がっています。リファラル採用と聞いた方の中には「前職の仲間を紹介する」というように中途採用をイメージする方も多いのですが、実は新卒採用にも取り入れる企業が増えています。東急建設のように内定者に協力してもらい、説明会やインターンシップ、選考の案内を後輩に紹介してもらう形です。

 新卒採用でリファラル採用する場合、中途採用よりも1人あたりの紹介数が多くなるのが特徴です。日本はまだ生涯転職回数が少ないため転職相談を受けることも少ないですが、内定者の周りには多くの就活生が存在します。そして就職活動の際、多くの学生は身の回りの先輩に相談するものです。こういった機会を活用して、企業からではなく内定者から生の声を伝えることが、会社のリアルを知ってもらう一つのきっかけになるのではないでしょうか。

 東急建設の加藤氏は内定者とともに行うリファラル採用について「特に理系の学生は、研究が忙しいためそこまで多くの企業を受けることはしません。その中で、内定者が後輩に紹介することで志望先企業の選択肢に入るきっかけとなることを期待しています」と話しています。

 昨今のコロナ禍への対応や学生の志向性、情報トレンドなど変化の激しい新卒採用において、企業の人事だけでニーズを捉えて変化に対応していくことは難しいでしょう。内定者に味方となってもらい、彼らと一緒に採用コンテンツを企画し、生々しい情報から自社の口コミを広げてもらうことが一つの解決策となるはずです。新卒採用担当のミッションは多岐にわたり、21卒内定者のフォローから22卒の母集団形成まで並行して行うことは大変ですが、足元だけではなく中長期を見据えて自社採用力を強化しなければ、毎年同じ負のスパイラルから抜け出せません。

 これまでは待ち型の採用をしている方が楽かつ堅実でしたが、景況感が変わりコストカットや質の高い採用が求められる今、市場の変化に対してピンチをチャンスに変えるために戦略的な自社採用を始めてみるいいタイミングになっています。新卒人事の業務工数を削減しながらも、高い成果を得るという観点から、リファラル採用を活用してみるのもよいかもしれません。

(鈴木 貴史)