ヒットを続けている水なし自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」の開発者インタビューは関連記事でお伝えした。

 続いて、シャープの調理家電を統括する奥田哲也・Smart Appliances & Solutions事業本部 国内スモールアプライアンス事業部長に、成長著しい調理家電市場のデータ活用方法についてインタビューした。

●ホットクックの販売台数は前年比3倍

――ホットクックのコンセプトは何か。

 ヘルシオシリーズは、健康調理を実現する2004年の「ウォーターオーブン ヘルシオ」から始まり、12年にオーブンレンジ以外の調理家電の開発を始めた。ホットクックのコンセプトは、ほったらかしで簡単に健康とおいしい料理を両立させることだった。手間のかかる和食や煮込み調理などをホットクックにやってもらうことで、忙しい家事にゆとりの時間を作り出してもらおうという狙いだった。

 それがコロナ禍で巣ごもり需要が出て、自粛期間、在宅勤務が増えて自宅で料理をする機会が増えた結果、調理をすることに対して今まで以上に目が向けられることになった。

――このところホットクックの販売が好調な理由は。

 コロナ禍で外食が減り、自宅で食事をつくることが多くなり、つきっきりで面倒な火加減の調整などをする必要のない「ほったらかし調理」ができるホットクックがうまくはまった。今年の4〜6月の販売台数は前年比で3倍も急増した。ファンになった購入者のSNSやYouTubeなどが評判を呼んで広がっている。調理機器は食べた人が実感を伝えるので、機器の良さが直接的に伝わった。

 ホットクックは15年から地道に開発を続けてきている。シャープが厳しいときも開発を継続してきたのが、やっと日の目を見ることができた。

――ホットクックの価格が他社製品と比べて高いといわれているが。

 価格が高いという声があるのは承知しており、企業としてコストダウンの取り組みは必要だと考えている。しかし、実際に商品を購入した顧客の満足度は高く、価格に見合うだけの機能と価値を提供できていると考えている。われわれに必要なことは、やみくもに価格を下げることではなく、どうしてこの価格になっているのかという価値を十分に説明することだと考えている。

●いかにしてGAFAに対抗するか

――海外ではGAFAと呼ばれるITジャイアント企業がデータなどを駆使してビジネスの主導権を握っている。GAFAがもし調理家電の市場に本気で参入してきた場合の対応策はあるのか。

 危機感は持っているが、彼らを敵と見るか、パートナーとみるか、だと考えている。日本では他社が圧力鍋を出してきている一方、わが社はIoT(モノのインターネット)を使ったレシピサービス「COCORO KITCHEN」により新しいメニューをどんどん増やし、自動調理ができる機能を持っていて、頭一つ抜けている。

 さらにオンラインでユーザー同士が情報交換をできる公式ファンコミュニティー「ホットクック部」を立ち上げたところ、1カ月で3000人以上のファンがついているのも強みだ。ホットクック部発の新しいメニューや使い方も広がっている。異業種やスタートアップ企業なども含めて連携していけば、今後はより新しい価値を提案できると考えている。

――今後の方向性は。何を目指していくのか。

 シャープは家電機器メーカーではあるが、単に機器だけを作って終わりというわけにはいかない。当社はネットにつながる「AIoT家電」としてホットクック・ヘルシオだけでなく冷蔵庫、洗濯機、テレビも含めて利用者が家電をどう使っているかについてのビッグデータを世界で一番多く持っている。「AIoT」とは、AI(人工知能)とIoTを組み合わせ、あらゆるものをクラウドの人工知能とつなぎ、人に寄り添う存在に変えていくという当社のビジョンだ。

 こうしたデータを活用してビジネスを展開していかなければならない。現在も、ホットクックやヘルシオで得られたデータを活用して、調味料とカット済み食材をセットにして宅配するサービス「ヘルシオデリ」のビジネスを展開している。さらに、ホットクックなどの商品を核として、調理家電だけでなく、食材の提供、レシピデータ、さらには包丁の使い方や皿への盛り付け方のノウハウなどを含む食のトータルソリューションとして、顧客に何が提供できるかを考えていきたい。

――データはどのように活用する方針なのか。

 ネットにつながる家電が出しているデータを、11カテゴリー、440機種以上蓄積している。そんなメーカーはシャープのほかにはないのではないか。シャープの家電製品は平均5割程度(白物とテレビ含む)、中でもホットクックは7割がネットにつながっており、時系列での利用状況、今、どこで、何の料理を作っているかまで把握ができる。

 ホットクックは夕飯用に多く使われると思っていた。だが、データを分析すると意外にも朝食用として予想以上に使われていることが判明した。データを分析することで、機器だけ売っていては分からなかった驚きの事実が判明する。

 集まってきたビッグデータを使って具体的に何ができるかがこれからの重要課題だ。いまは点でしかないデータを異業種の企業などと連携することによって、大きなビジネスにつなげていきたい。

●連携のための子会社「AIoTクラウド」設立

――異業種の他社などと連携するための具体策は。

 2019年10月、他社や異業種と連携を進めるため、社内でネットワークのプラットフォームを開発していた部署を分社化して「AIoTクラウド」という子会社を立ち上げた。この会社は蓄積したデータを他社と連携して活用し、新たなサービスを創出するのが目的だ。シャープ製品による囲い込みは考えておらず、できるだけ幅広い分野の企業と連携することを目指している。

 時代が変わりつつある今、調理機器周辺のソリューションも含めて全体の問題解決の手段を提供できるよう模索していきたい。

●ビッグデータ活用してビッグビジネスを生み出せるか

 以上が奥田事業部長へのインタビュー内容だ。1962年に日本で初めて電子レンジを量産したのはシャープだった。2016年に経営難で台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に傘下入りし、人員削減など厳しい経営を迫られた。その後、調理家電を開発しようというDNAは社内に引き継がれ、調理レシピなどのノウハウは蓄積されてきた。それが今回はヘルシオシリーズとして開花した。

 今後は貴重な家電利用についてのビッグデータをほかの分野にいかに利活用できるかが、シャープの行方を占いそうな予感がした。(中西享、アイティメディア今野大一)