イオンのレジに革命が起きている。

 買い物客が貸し出し用のスマートフォンを使い、かごに入れる前に商品をスキャン、専用レジで会計する「レジゴー」だ。スキャンにかかる時間は約1秒。手に持って使えるだけでなく、専用カートに設置した状態でも使える。レジでは決済のみを行うため、レジ待ちの渋滞も起きづらい。

 買い物客は利用中、かごに入れた商品の一覧と合計金額を画面で確認できる。スキャンした商品を取りやめる操作も簡単なので、ネットでは「節約できる」「買いすぎ防止になる」と評判がいいが、その分「店舗の売り上げが減るのではないか」という指摘も上がっている。

 しかし、イオンリテールの山本実さん(執行役員兼システム企画本部長)によると、むしろ「レジゴーを導入した全ての店舗で客単価が上がっている」という。買い物客にとっても、店舗にとっても、Win-Winの仕組みなのだ。なぜ、客単価が上がるのか。導入の経緯も含めて、話を聞いた。

●客単価が向上 思いもよらない導入効果

 イオンが初めてセルフレジを導入したのは2004年。それ以来、レジの切り替え時に導入を進めてきた。しかし混雑する時間は、セルフレジでもレジ待ちの列ができていた。18年から「待ち時間をさらに短く、買い物をより楽しく」するためにレジゴーの構想を練り、19年から順次導入。現在は14店舗に導入している。

 レジゴーを使用することでレジでのスキャン作業がなくなり、導入店舗では待機の列が激減した。従業員は、商品をスキャンするだけの時間が減り、商品場所の案内や、レシピの提案、システム利用方法の説明など、買い物客と会話をする機会が増えたという。新型コロナウイルスの影響で、非接触のシステムに興味を持つ利用者も多く、利用率は上がっている。

 「高速道路のインターチェンジは、ETCのレーンが増えて渋滞が少なくなりました。同じようにレジゴーがレジ待ちの渋滞を防いでいます」(山本さん)

 レジゴーの導入は、売り上げアップにもつながった。導入した全店舗で、売り上げた商品数が増え、客単価が約15〜20%向上したという。

 山本さんによると、購入が増えているのは調味料など、買い物客がよく買い忘れてしまう商品。買い物客はレジゴーの画面から購入商品の一覧を見ることで、買い忘れに気が付くことが多いという。

 「全部メモをして買ったつもりなのに忘れている、ということは結構あると思います。スーパーで買い物を終えた後、自宅の近くのコンビニエンスストアやドラッグストアで買い足しをしている方が多いことは分かっていましたが、買い忘れを防ぐことで非常に大きい(売り上げへの)インパクトがあることがレジゴーの導入で分かりました」(山本さん)

●万引き・スマホの盗難は?

 新しいシステムにはトラブルが付き物だ。特に大量に設置したスマホや、利用者自身が商品をスキャンする様を見ると「スマホを盗られないのだろうか」「スキャンする商品の数をごまかす利用者がいるのではないか」といった疑問が浮かぶが、大きな問題は起きていないという。

 「最初のうちはスマホがなくなることもありました。転売目的で盗んだ方もいたかもしれませんが、店舗の外では全く使えない仕組みにしているので、そういったことは減りました。また、返却を忘れてそのまま持ち帰った場合は、次の日には戻ってくることが多いです」(山本さん)

 万引きを含む商品ロスの割合は、レジゴーを導入している店舗の方が、導入していない店舗よりも低いという。山本さんは「日本人は真面目で、わざわざ自分で機器を使ってスキャンや決済をセルフで行う中で、(意図的に)決済をしない方はほとんどいない」と話す。

 「2000年代半ばにセルフレジの導入を進めた際も同じようにリスクを問われましたが、現実はほとんどロスの変化はありませんでした。むしろこの10年余りでロスの量はずっと改善しています」(山本さん)

 一方で、スマホの盗難や商品の万引きとは別の問題が出てきた。

 「全てスキャンが完了できたか自信がない」「決済が完了しているか分からない」という声が店舗スタッフに多く寄せられた。そこで、購入点数や決済したかどうかを確認できるゲートを「イオンスタイル有明ガーデン」に試験導入し、検証している。決済ができていなかったり、購入品と金額に大きな差異があったりすると警告音が鳴り、ランプが付く仕組みになっている。

 導入時には、端末の選定に苦労したという。19年5月に開始した実証実験の際、レジゴーの利用端末はスマホとタブレット端末の2種類を用意していた。タブレット端末は充電が切れやすく、利用者が使っている途中に充電が切れてしまったこともあった。充電する時間を考慮すると、本格導入した際に必要になる台数も多くなり、コストが見合わないと判断。タブレット端末は断念し、現在はスマホのみを採用している。

 「スマホは若い方はもちろん、高齢者の方も普通に使っている方が多いです。1度慣れてしまえば戸惑うことも少なく、お客さまの習熟度がかなり高かったです」(山本さん)

●アプリ版リリース後は、個人のスマホでスキャン可能に

 イオンリテールは20年内中をめどに、貸し出し用のスマホだけでなく、利用者のスマホでもスキャンができるように、レジゴーのアプリをリリース予定だ。21年以降には決済まで利用者のスマホで完了できるように開発を進めている。

 この構想自体は、新型コロナの感染が広がる前からあったが、コロナの影響もあり利用者から要望が上がっているという。イオンが実施したアンケートでは、買い物客の6割以上が「自分のスマホでスキャンできるアプリがあれば使いたい」と回答した。

 利用者のスマホ向けにアプリをリリースした後は、アプリに残る購入情報を活用し、商品をレコメンドする機能などの導入も検討しているという。

●コロナ禍で加速する“顧客のためのデジタル化”

 イオンリテールでは、レジゴーの他にも店舗のデジタル化に取り組んでいる。

 特に新型コロナの影響では、ネットスーパーとリアル店舗の融合を意識した「ピックアップ」を拡大した。ロッカーやカウンターでの受け取りなどがある中、特に人気なのは、ネットスーパーで注文したものを自動車に乗ったまま受け取れる「ドライブピックアップ」。非接触・非回遊というネットスーパーの良さを生かしつつ、送料や宅配を待つ時間の負担を減らすというオンラインとオフラインの利点を融合した施策だ。

 店内にAIカメラを搭載したサイネージを置き、レシピの紹介やイベントの生配信をする取り組みもイオンスタイル有明ガーデンで実験中だ。新型コロナの感染拡大以降、実施できていなかったマグロの解体ショーを作業場で行い、サイネージで中継した。マグロの販売には引き換え券を配布し、3密にならない形でマグロの解体ショーを実施することができた。

 このような取り組みでイオンリテールが目指すのは100%のデジタル化ではなく、顧客がより良い体験をするためのデジタル化だと、山本さんは話す。

 「店舗はお客さまにとってサービスを楽しむ場です。デジタル技術も、お客さまの体験を高めるものの一環として考えています。例えば今は(新型コロナの影響で)洋服の採寸や試食が難しいけれど、技術を使えばある程度克服できると思います。採寸のシステムはアパレル企業で導入事例がありますし、味自体の再現は難しいけれど、香りはデジタル技術で作れますから、香りを出す技術を採用するのはどうかと考えたり……。これからもリアルに近いものやリアルに代わるものを、デジタル技術で提供できるか探っていきたいです」(山本さん)