新型コロナウイルスの影響によって街の喧騒(けんそう)は大きく変わった。繁華街や観光地にあふれていた訪日外国人観光客も一切見かけなくなり、店頭への集客が生命線でもあった小売事業者にとっては厳しい情勢が続く。

 規模の追求という従来の基本戦略が機能不全を起こしつつある今、新時代のチェーンストアビジネス戦略はどうあるべきなのか――。サツドラホールディングスの富山浩樹社長に聞いた。

●「規模の拡大」では他社に勝てない

――新型コロナウイルスによる影響を、どう考えているか。

 2021年5月期の第1四半期は、売上高は前年同時期から微減したものの、販管費を抑制した結果、経常利益ベースでは1億3400万円の黒字へ転換することができた(前年同時期は1200万円の赤字)。一部店舗(旧本社含む)の閉鎖による特別損失があり純利益ベースでは500万円のマイナスという結果だった。

 だが新型コロナの影響で、売上の10%弱を占めていたインバウンド(訪日外国人)向けフォーマットの店舗の売上が大きく減っていることは事実だ。インバウンドフォーマットの店舗は、限界利益率が高い一方で固定費が高く、減収が利益に与えるインパクトが大きい構造になっており、コロナの影響を大きく受けることになった。

 これらの店舗については、店舗の採算性を見ながら閉店・休業・家賃交渉をすることによって固定費の削減を進めている。元の状況に戻るまでには1年以上かかる可能性もあるものの、インバウンド自体は今後の事業成長には不可欠だと思っているので、フォーマットとしては残しておきたい。客足が戻るタイミングで再開できるよう準備は進めたいと考えている。

――今後取るべき戦略についてどのように考えているか。 

 ドラッグストア単体のビジネスから「地域コネクティッドビジネス」に進化させることを戦略の中心に位置付けている。サツドラというブランドは北海道内では知られているし、地域目線では大企業として見られているかもしれない。だが、同じ北海道発のドラッグストアであるツルハが全国のトッププレイヤーであり、他にも各地に全国企業がある中で比較すると、当社は決して規模の大きいプレイヤーとはいえない。

 チェーンストアビジネスの本質は、拡大を続けることで経済合理性を出していくことにある。一方で、サツドラが現状の立ち位置から「規模拡大」にフォーカスしてナンバー1を目指していくには高いハードルがある。そういう状況で自分たちの価値をどう出していくかを考えたときに、「地域のインフラ産業をチェーンストアが担う」ことをコンセプトとした戦略を取っていくことを考えた。

――とはいえチェーンストアは本社の決めた基準を各店舗に浸透させ標準化を進めていくビジネスで、例外行動をいかになくしていくかがカギになる。貴社の戦略はその原則から外れているようにも見受けられるが。 

 地域を軸とした戦略を取るというといつもそのように勘違いされがちだが、決してチェーンストアの標準化の考え方から外れようとしているわけではない。

 例えば、当社は利尻島(北海道北部の人口5000人程度の島)にも出店をしているが、利尻島におけるサツドラの役割は「利尻島ならではのサービス」を提供することではなく、「利尻島にいても都市部と変わらないサービス」を提供できるようにすることだと考えている。地域格差、経済格差を無くしていくことこそがインフラとしてのチェーンストアの意義だ。いかに店舗の標準レベルを上げていくかがチェーンストアとしての差別化だと考えている。

 一方でそれはとても時間がかかることでもあるので、別の軸として「地域コミュニティー」というテーマに着目している。当社では、”つながる、集う、楽しい”をコンセプトに「地域で活動するコミュニティー」を積極的に応援する仕組みを提供している。これはサツドラの利益に直結する類のものではないが、時間をかけて地域住民とのウェットな関係作りを継続していくことが将来的にサツドラならではの資産になっていくと考えている。

●地域コミュニティーに着目

――地域コミュニティーという考え方で、既に動き始めている取り組みはあるか

 まず初めに「EZOCA(エゾカ)」という共通ポイントカードのサービスを展開して、地域のプラットフォームとしての存在になろうとしている。EZOCAはサツドラを始め道内650店舗以上の提携店で利用できる年会費無料のポイントカードだ。

 EZOCAは単なる”お得なポイントカード”ではなく、地域だからこそ生きるコミュニティーの概念を、どのように仕組みとして盛り込むかを意識してサービスを設計した。現在は、サツドラだけではなくホクレンなど北海道で活躍する企業にも加盟店として入ってもらい、道内の世帯カバー率は約7割まで普及した。

――具体的にはどんなことに取り組んでいるのか?

 ターニングポイントの1つとして分かりやすい事例が、プロサッカーチームの北海道コンサドーレ札幌のサポートプログラム「コンサドーレEZOCA」の取り組みだ。これはEZOCAの加盟店で買い物をすることで、その一部を北海道コンサドーレ札幌に資金として還元し、チームを応援できる取り組み。主婦層などライトなファン層の獲得を課題としていた北海道コンサドーレ札幌に対し、当社から提案した。

 主婦などライトなファン層が自分の身銭を切って北海道コンサドーレ札幌に寄付する行為はかなりハードルが高い。だが、このようなプログラムがあると「せっかくだしEZOCAを使おう」というインセンティブが働く。このように経済合理性に加えて感情が乗ってくる仕組みをうまく提供できると、「日常の生活で使うチェーンストアを持っている」当社の強みがより生きてくると考えている。

 最近では北海道コンサドーレ札幌以外にも、バスケットボールのレバンガ北海道、バレーボールのヴォレアス北海道、Jリーグを目指す北海道十勝スカイアースなど地域のスポーツクラブとも類似の取り組みを進めていて、輪が広がってきているところだ。

――実験店舗として位置付けている「サツドラ北8条店」ではどんな取り組みをしているのか。

 これからは小売の店舗も”単に商品を買う場”というだけでは不十分だ。何らかのサービスを提供したり、人が集まる場を作ったりすることで、「暮らしの質を高めていく」ことにフォーカスしていく必要がある。その前提でサツドラ北8条店ではいろいろな取り組みを進めている。

 その中の1つが、サツドラ・サイバーエージェント・リテール向けAI(人工知能)カメラソリューションを提供するAWL(東京・千代田)の3社で共同事業化を目指している「リアル店舗のWeb化」だ。

 北8条店では店舗内に約80台のAIカメラを設置し、顧客の店内回遊状況の分析やデジタルサイネージ広告の閲覧状況といったアクション動向に加えて、年齢や性別など顧客自体の属性も分析している。AIカメラが客の視線を分析していてどの商品をどのくらい目にしたのか、手に取ったのかまで把握している。

 コロナ流行後はマスクをしている状態でもそれが検知できるよう、ソフトウェアをアップデートした。

●宝の山を掘り当てる

――AIカメラの真の狙いは何か?

 Webの世界では、サイトのどの部分にユーザーがどのくらい滞在して、結果としてどのくらいコンバージョンしたかが分かるのは当たり前だ。一方のリアル店舗ではまだまだ「〜だろう」というレベルでの可視化しかできていない。せっかく頑張って売り場作りをしても当然ながらそこに人が通らなければ購買はされない。売り場や商品を見たのに買われなかったのか、そもそも人が通らなかったのかによって、改善の打ち手は変わってくる。そこを可視化することには大きな価値がある。

 購買における顧客動向としては、非計画購買が7割以上といわれており、リアル店舗の強みは非計画購買を意図的に増やしていけることにある。ECもかなり一般化してきた一方、購買全体のボリュームから見ると全体の3割の中で市場の奪い合いをしているにすぎない。リアルの部分をしっかりデジタル化していくことで、その宝の山を掘り当てられると思っている。

――店舗のデジタル化は、競合他社でも取り組んでいるのでは。

 取り組んでいる企業も当然ある。だが、どこもPoC(コンセプトとしての取り組み)止まりが多く、全店導入を見据えた本格的な施策としては進んでいないのが実情だ。特に導入のハードルとなるのはコスト面で、一般的な小売企業が1店舗に掛けられる運営コストは多くのデジタル企業が考えているほど高くない。

 AWLとの共同ソリューションでもそこは強く意識していて、1店舗当たり月額2万円程度まで運営コストを下げている。既存の防犯カメラをネットワーキングしてエンジンと結合するのがAWLのアプローチで、ハードとしてのカメラを新規に導入する必要がない。さらにクラウド型でなくエッジ型のデータ処理を行うことでコスト抑制を図っている。

 また、店舗のデジタル化を推進するときにボトルネックになることが多いのがPOSシステムだ。多くの小売企業では、ハードとソフトがセットになった大手企業のPOSシステムを導入している。一方で当社はPOSシステムを自社で開発した。今期に予定している基幹システムのリプレースと合わせて、本格的に店舗のデジタル化を推進する体制を整えている。

――サツドラの新社屋移転に伴って、北8条店の2階の全フロア(3057平米)をインキュベーションオフィスとしてさまざまな企業や地域の人が利用できるようにした。北海道新聞社も社内にコワーキングスペース「SAPPORO Incubation Hub Drive」を作ってスタートアップの交流の場にしているが、それよりもかなり大きく道内でも最大の規模感だ。ここまで盛大に一般開放する狙いは。

 新しい文化を自社だけに閉じた状態で作っていくのは難しいというのが私の考えだ。この新社屋のインキュベーションオフィス(EZOHUB SAPPORO)を、コラボレーションが増長する場にしていきたい。AWLをはじめとしたスタートアップ企業をシェアオフィスに入れ、9月にデジタルハリウッドと提携して誘致した起業家・エンジニア養成スクール「G’s ACADEMY UNIT_SAPPORO 」の拠点にもする。イベントスペースでさまざまなイベントを開催すれば地域の人たちも集まってくる。

 昔から小売業界は、オフィスをコストセンターとして捉えがちだった。逆に私たちは新社屋を次のイノベーションを起こすためのプロフィットセンターと位置付けている。1階が実験店舗、2階がインキュベーションオフィス、3階が本社という構造だから、今まで小売業だけに携わってきたサツドラ社員にとっては戸惑うことや違和感も多いと思う。だが3階に通勤する本社のスタッフたちがこのインキュベーションオフィスに来て異文化の集団に触れ、違和感をどんどん生んでいくことが重要なのだ。多様性のある文化を作っていくためのツールとしてこの場を使っていきたい。

●北海道でスタートアップを生むために

――多様性をチームの中に生むことがイノベーションにつながるということか。

 その通りだ。北海道でベンチャー・スタートアップを生み出すポイントもそこにあると考えている。ずっと北海道内の価値観でビジネスを続けてきた人たちが、ある日突然イノベーションを起こせるかどうか。難しいとも思える部分もあるが、EZOHUB SAPPOROを活用して、道外や海外の価値観を持った人たちと接する機会が増えれば、イノベーションはより起きやすくなるかもしれない。

 ウィズコロナ時代にはワークスタイルの変化が進み、首都圏から地域へ人材が流れてきやすくなるはずなので、このインキュベーションオフィスを活用して「場としての北海道」を強くしていきたい。今後の展開として、帯広や釧路など、札幌以外のエリアにも同様に「EZOHUB」を開設していくことも検討している。

――今年の5月にスタートした”えぞ財団”の取り組みについても教えてください

 えぞ財団は北海道を盛り上げたい企業や個人が、共に学び、行動していくためのコミュニティーだ。まずは「北海道の新しい経済メディアを作る」という点を主軸にスタートし、今後はスクール事業や投資事業など活動の幅を広げていく。

 えぞ財団はサツドラではなく私個人としての取り組みになるが、テクノロジーやスタートアップの文脈とは少し離れて、より「地域に根ざした経済コミュニティーを作っていく」というコンセプトにフォーカスしている。

 えぞ財団には、フリーランスなど比較的新しい働き方を実践している人だけでなく、自治体の関係者や、いわゆる伝統的な企業に所属している人も入っている。地域や会社を変えたい人たちの集まりで、組織横断的なプロジェクトによって地域を変えていく取り組みだ。noteに月額課金をしてもらうことで会員(団員)になることができ、既に北海道内外200人以上のメンバーに参加してもらっている。

 北海道では地域のメディアも経済の仕組みも、昭和の仕組みをそのまま踏襲していることが多い。変えていこうとする小さな取り組みは各地にたくさんあるものの、それらの取り組みが北海道全体としてつながっていくことで、より大きなインパクトを生み出すことができると思っている。そのためのコミュニティー作り・仲間作りの場になれば良いと考えている。

●北海道経済の活性化を見据えて

 以上が富山浩樹社長へのインタビューの内容だ。小売業界におけるサツドラホールディングスの立ち位置を冷静に分析し、今後訪れるウィズコロナの時代に向けて地域コネクティッドビジネスや店舗のWeb化など、従来の小売業とは一線を画す新しい打ち手を仕掛けてく発想が印象的だった。

 イノベーション創出のための仕組みについては自身の哲学を強く持っており、そのためのコミュニティーやコラボレーションの場作りに懸ける意気込みを感じた。これから少子高齢化がより進んでいく北海道という市場において、現状維持では先細りだという危機感があるのだろう。

 平成の北海道経済を支えた先代創業者からサツドラの経営を託された富山浩樹社長。自社の経営のみならず、その市場基盤である北海道経済の活性化までを見据えて、さらなるイノベーションの取り組みを見せてくれるに違いない。

(POLAR SHORTCUT 代表取締役CEO 大久保徳彦)