新型コロナウイルスの影響に対する飲食店への支援策として、「感染予防対策に取り組みながら頑張っている飲食店を応援し、食材を供給する農林漁業者を応援する」目的の「Go To Eatキャンペーン」が、10月1日に始まった。

 キャンペーンには、オンライン予約サイトを利用することでポイントが付与されるオンライン飲食予約事業と、プレミアムが付いた食事券を都道府県ごとに販売する食事券事業がある。しかし、自分の地域でいつから、どの店で使えるのかを把握している消費者は決して多くはないのが実態だ。

 店によって使える予約サイトが違うなど仕組みも複雑で、食事券に関しては発売されるとすぐに売り切れる地域もある。誰でも気軽に利用できる仕組みになっていないため、消費者にとって不公平な状況が生まれていると言わざるを得ない。

 不公平なのは、事業者にとっても同じだ。オンライン予約サイトについてはもともと利用していない飲食店も多い。予約サイト事業者の大半は送客手数料を取るため、躊躇(ちゅうちょ)する店も少なくないだろう。オンライン予約が一般的ではない地方の飲食店にとっては、あまり恩恵もないといえる。

 しかも、オンライン飲食予約事業をめぐっては、問題も起きている。焼き鳥チェーンの「鳥貴族」では、ディナーの時間帯に1000円分のポイントが付く仕組みを利用して、327円の一品だけ頼んで差額を得る利用者が現れ、「鳥貴族」ではサイト経由の予約をコース限定に変更した。

 また回転寿司チェーンでは「くら寿司」が、得たポイントで予約して食事をすると、さらにポイントがつくことから、“無限くら寿司”と話題になった。「かっぱ寿司」も同じ仕組みを導入するなど、ポイント利用をめぐる攻防は過熱しつつある。

 しかし、これで飲食業界全体の支援につながると言えるのだろうか。実は、飲食業界は「Go To Eat」キャンペーンに対して、計画段階から反対を表明し、事業者や生産者への救済を訴えてきた。キャンペーンが始まって見えてきた問題点をお伝えする。まず初めに、「Go To Eat」キャンペーンが飲食店のためになっているのか、疑問点を提示したい。

●消費者にも事業者にも不公平

 「全国の飲食店のうち、特に居酒屋などアルコールを出す業態は、緊急事態宣言の解除後も売上の回復が鈍く苦しんでいます。本当に困っている事業者を救済するためには、Go To Eatでポイントや食事券をばらまくのではなくて、経営危機に直面している事業者を救うべきではないでしょうか」

 こう話すのは、日本フードサービス協会の石井滋常務。協会は正会員と賛助会員をあわせて全国で800社以上、8万5000店以上が加盟する、外食産業では国内最大規模の組織だ。「Go To Eatキャンペーン」には、オンライン飲食予約事業とプレミアム付き食事券事業という2つの異なる参加方法がある。しかし、いずれも全ての飲食店が公平に恩恵を受けられるものにはなっていない、と石井常務は指摘する。

 オンライン飲食予約事業は、予約サイトを利用して来店した消費者にランチタイムなら500円分のポイント、ディナータイムなら1000円分のポイントが付与される。飲食店が参加するには、オンライン予約サイトに登録する必要がある。多くの予約サイト事業者には送客手数料を支払わなければならない。

 食事券事業は、都道府県ごとに開始時期が異なる。東京都は11月20日から販売が開始されるなど、11月に入ってから始まった地域も多い。飲食店側が食事券事業に参加するためには各都道府県の事務局に予め登録しなければならないが、「感染対策が不十分」との理由で登録を拒否されることもあるという。

●オンライン予約事業は誰のためなのか

 日本フードサービス協会では、「Go To Eatキャンペーン」の初期段階から、農林水産省との打ち合わせやヒアリングに応じてきた。しかし、最初の話では飲食店事業者のための事業とはいえないものだったと石井常務は説明する。

 「Go To Eatの予算は約2000億円といわれ、計画段階で国が示していた内訳では、オンライン飲食予約事業が1900億円、食事券事業はわずか100億円でした」

 オンライン飲食予約事業は、そもそも全ての飲食店が参加できるものではない。参加してもどれだけの恩恵があるのかは分からず、個々の店舗で効果にばらつきが出てくる。その一方で、多くの予約サイトの事業者には送金手数料が入る。確実に儲(もう)かるのは、飲食店ではなく予約サイト事業者なのだ。

 「私どもとしては、地方の飲食店の多くは予約サイトを利用していないし、高齢の経営者は使いづらいので、予算の組み替えが必要だと再三、農林水産省に申し上げました」

 最終的にはオンライン飲食予約事業が616億円、食事券事業が868億円となった。しかし、石井常務は語る。

 「それでもオンライン予約に多額の予算が使われることは、いまだにおかしいと考えています。税金の無駄使いではないでしょうか」

●感染防止ガイドラインが参加要件に「利用」された

 一方、飲食店が困る事態も起きている。困る事態とは、「Go To Eatキャンペーン」に登録する場合、飲食店が感染防止のガイドラインの全ての項目を守っているかどうかによって、登録の可否が判断されていることだ。

 「外食業の事業継続のためのガイドライン」は、日本フードサービス協会と、全国生活衛生同業組合中央会が共同で作成した。消毒液の用意やマスクの着用、アクリル板などでパーティションを設けることなどを感染防止策として盛り込んでいる。ガイドラインは感染防止のためにできることを取り組んでいこうと、業界団体が自ら考えたガイドラインだった。

 ところがガイドラインは、いつのまにか「Go To Eatキャンペーン」に飲食店が参加するための要件に定められていた。その要件を満たしていないからとの理由で、登録できない飲食店が出てきているという。

 「ガイドラインは飲食店に対して義務化されるものではないことを、作成に当たって厚生労働省にも農林水産省にも、経済産業省にも確認していました。あくまでもガイドラインであって、あの中でできるものは個々のお店の事情に応じて実施してくださいというものです。

 それがいつのまにか、Go To Eatの参加要件になっているので困惑しています。Go To Eatを念頭において作ったガイドラインではありません。小さな飲食店はただでさえ経営が大変で、アクリル板などを用意する追加コストを負担できないお店も当然あります。ガイドラインの強制という要件は緩和することも必要です」

 実際、小規模な飲食店から日本フードサービス協会に対して、「食事券事業の登録申請を認めてもらえない」との相談がきているという。協会では相談があった飲食店がある都道府県の事務局に対し、ガイドラインは登録の要件にするべきものではないことを直接説明している。

●地方にはあまりお金が落ちない?

 日本フードサービス協会によると、日本の外食産業の規模は約26兆円で、外食産業で働く人は約468万人。特に大企業がほとんどない地方では、飲食店は地域の経済を支える重要な業種でもある。

 地方の経済界からは、「Go To Eatキャンペーンによって恩恵を受けられる店舗の数や経済効果は、大都市に比べて著しく少ない」という声も聞こえる。

 「これまで持続化給付金や家賃支援給付金、雇用調整助成金、自治体の協力金などをもらって、金融機関の融資も受けながら何とか続けているところが大半です。経営者の高齢化も進んでいて、先が見通せないなかで、これ以上お金を借りるよりもこのタイミングで事業を継続するかどうかを考える経営者も多いです。

 オンライン予約サイトを利用している飲食店は地方では少ないですし、お客さんもわざわざサイトを使いません。食事券事業で地方に落ちるプレミアム分の金額も、Go To Eatキャンペーンの予算全体から見れば少ないと思います」(地方の商工会議所関係者)

 筆者は、農林水産省にオンライン飲食予約事業で都道府県ごとにどれだけの金額が支払われているのかを聞いたが、「地方別には精査していない」との回答だった。今後、実施期間中に精査する予定があるかどうかについても聞いたが「現時点では分からない」という。

●Go Toよりも消費税の減税を

 日本フードサービス協会が毎月実施している「外食産業市場動向調査」によると、今年9月の外食産業全体の売上は前年比86%。特にパブ・居酒屋業態については、新型コロナの感染が再拡大するなかで「パブ・ビアホール」が44.4%、居酒屋が52.8%と壊滅的な状況が続いている。

 協会は、このままでは年末に向けて外食各社は危機的な状況に陥るとして、8月7日に緊急理事会決議を行って、決議文を農林水産大臣宛に提出した。決議文は次の通りだ。

●不公平なバラマキよりも事業者の支援を

 決議文に書かれた「Go To Eatキャンペーン事業の予算については執行せず、コロナ禍で苦しむ外食事業者の振興、そして食と農の連携パートナーである生産者の振興に寄与する事業、あるいは医療体制に役立つ予算の財源に充てることを政府に求める」という考えは、いまも変わっていないという。

 「Go To トラベルでも高級旅館に予約が集中して、中堅どころや小規模の旅館が苦労されている。全体的にホテルと旅館の売上があがったとしても、個々で見ればどれほどの恩恵が生まれたのかは読めません。それは外食産業も同じです。少なくともオンライン予約事業はやるべきではないと思っています」(石井常務)

 しかも、「新しい生活様式」が浸透するなかで、酒を飲みに行く人が少なくなり、居酒屋などの業態は以前のような売上が見込めない。決議文は「営業自粛などの要請によって消費全般が大きく落ち込んでいる状況において、この際、コロナ禍が収束するまでの一定期間、2年程度の期間は消費税を一律に5%に引き下げ、消費需要を大きく喚起していただきたい」と結んでいる。

 農林水産省によると、「Go To Eatキャンペーン」ではオンライン予約事業で10月1日から16日までの期間で98億円がポイントとして給付された。しかし、参加している飲食店はまだ一部にすぎない。食事券事業も始まるのはこれからという地域が多い。まだまだ多くの混乱が予想される。

(ジャーナリスト 田中圭太郎)