ファミリーレストランなどを運営するロイヤルホールディングス(HD)は、正社員200人ほどの希望退職を募集――。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの外食チェーンが苦しんでいる。このようなニュースを目にすると、「まあしょうがないでしょ。経営の教科書にも『人件費を抑えて、収益力を改善すること』なんて書かれているからな」と思われたかもしれない。

 確かに、その通りである。新型コロナの影響が長期化すれば、今後さらなるリストラに踏み切らなければいけなくなるので、その前に手を打つことは悪いことではない。しかし、である。「コロナ拡大=客数減=収益悪化」と考えると、全ての事業がダメといったイメージを受けるかもしれないが、ロイヤルHDの場合、よーく見ると「キラーン」と輝きそうな事業もあるのだ。例えば、「ロイヤルデリ」である。

 「うーん、ごめん。聞いたことがないや」という人のために、簡単にご紹介しよう。ロイヤルデリは、一言でいえば「冷凍食品」である。「シェフが鍋でつくる温かな味」をコンセプトに、昨年12月にスタート。当初、ECサイトと1店舗のみでの展開だったので、認知が広がらず、売り上げは伸び悩んだ(現在は、全国のロイヤルホストで販売)。しかし、春先に追い風が吹き始める。

 新型コロナ感染の広がりを受けて、多くの外食はシャッターを下ろすことに。その一方で、ロイヤルデリは客数を伸ばしていく。4〜6月の売り上げをみると、1〜3月の5.8倍。緊急事態宣言が解除されても客数は途絶えることなく、7〜9月も同4.2倍である。

 デリバリーやお弁当需要が増していく中で、なぜ同社の冷凍食品も売れに売れているのか。同事業を担当している庵原リサ部長に、消費者の食行動を分析してもらった。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●同じ「ドリア」でも違う

土肥: ロイヤルHDが展開する「ロイヤルデリ」の事業が伸びていますね。リリースを見ると、「フローズンミール」と書かれていますが、日本語で言えば「冷凍食品」。ロイヤルホストで扱っているメニューだけでなく、オジリナル商品もたくさん販売したところ、売り上げが伸びているそうで。

 冷凍食品の市場って、どうなっているのか。ちょっと気になったので、日本冷凍食品協会のデータを確認したところ、びっくりしました。国民一人当たりの消費量を見ると、1968年は年間0.8キログラムに対して、2019年は23.4キログラム。50年ほど前の日本人と比べて、いまの人たちは30倍ほど食べているわけですが、ロイヤルデリの商品は他のモノとどのような違いがあるのでしょうか?

庵原: 例えば、「ドリア」。ロイヤルホストでもロイヤルデリでも扱っているので、多くの人から「同じ商品ですか?」と聞かれるのですが、どのような違いがあるのか。当社には東京と福岡にセントラルキッチンを構えていまして、そこで商品をつくっているんですよね。

 店舗に提供するドリアの場合、ソースをつくって、それを店舗に配送する。そして、店のキッチンでソースを加えるといった流れなのですが、ロイヤルデリは違う。電子レンジまたは湯煎によって温めて仕上げる形になるので、出荷する段階で9割ほど完成させていなければいけないんですよね。

土肥: 共通しているのは、どちらもセントラルキッチンでつくっていること。しかし、ラストワンマイルのところで違いがあるということですね。ところで、この事業は2019年12月にスタートしたわけですが、立ち上げにあたってどのような苦労がありましたか?

●商品開発の秘けつは「逆算」

庵原: コンセプトは「シェフが手鍋でつくる味を再現」。しかし、これを実現させることがものすごく難しいことが分かってきました。通常、メニュー開発はどのようにして行われるのか。例えば、専門料理店で提供されるハンバーグをつくってみようとなった場合、フライパンや鍋などを使ってレシピを完成させるわけですが、この時点で難しい。どういうことか。

 開発段階で1リットルの鍋を使っていても、セントラルキッチンでは60リットルの鍋を使っているんですよね。それでも同じ味を出すことに難しさがあるんです。調理器具の大きさが違えば、プロセスは同じでも仕上がりが全く違ってくるんですよ。

土肥: ロイヤルホストで調理する場合、店舗でシェフの手が入るので、ラストワンマイルを任せることができる。しかし、ロイヤルデリの場合、素人が行う。例えば「湯煎7分」と書かれていれば、それを行うだけでシェフがつくった味を再現させなければいけない。ここに難しさがあると?

庵原: はい。シェフがつくった味を再現させるには、“逆算”の発想が必要になってくるんですよね。「湯煎7分」であれば、そのためにセントラルキッチンでどのくらいの硬さでつくらなければいけないのかといった感じで。

 少し細かな話になりますが、「チキンカチャトーラ」(780円)という商品があるんですよね。この商品の特徴は、酸の香りが強いこと。しかし、冷凍したり、時間がたったりすれば、香りのチカラが落ちてくる。シェフがレストランのキッチンでつくって、「はい、どうぞ」と提供したときと同じ酸の香りを出さなければいけません。この塩梅(あんばい)がものすごく難しいんですよね。

土肥: その課題をどのようにして解決したのですか?

庵原: 基本的には調整するだけ。「ああでもない、こうでもない」と調味料や火加減などを少しずつ変えていきながら、レシピを完成していかなければいけません。

土肥: いま、目の前に「チキンカチャトーラ」が出てきました。(においをかぐ)くんくん。た、確かに、酸の香りが漂ってきます。この香りを出すために、現場の方の苦労があるわけですね。

●内食の「ケ」需要が拡大

土肥: 新型コロナの感染が拡大したことで、家での生活が長引きました。多くのレストランや居酒屋などが営業自粛に追い込まれていく中で、デリバリーやお弁当の需要が増していきました。「自宅でちょっと贅沢(ぜいたく)したいなあ」という人が増えていったと思うのですが、冷凍食品を扱うロイヤルデリの売り上げも伸びていきました。その勢いは緊急事態宣言が解除されてからも、続いていますよね。消費者の行動に、どのような変化があったのでしょうか?

庵原: 特別な日のことを「ハレ」、日常的な生活のことを「ケ」と呼んでいますよね。では、外食と内食はどちらなのか。コロナ前でみると、外食は「ハレ」、内食は日々の食事をつくるだけの「ケ」でした。「いやいやそんなことはないよ。家でパーティーを開けば、それは『ハレ』でしょ」と思われたかもしれませんが、それは食べるだけの人の声であって、料理をつくる人にとっては「ハレ」ではありません。「あれをつくって、これをつくって」といった形で、やらなければいけないことがたくさんあるので、「ハレ」は存在していません。

 一方、外食にはいくつかのパターンがありまして、ハレの中に「大ハレ」と「小ハレ」がある。大ハレは誕生日などのイベントのことで、小ハレは仕事仲間や家族との食事のこと。ちなみに、外食でも、ファストフードなどで一人で食事をする場合は、「ケ」に属することにしますね。

土肥: ふむふむ。

庵原: では、緊急事態宣言中はどうなったのか。外食を控えることになったので、ハレもケも存在しなくなりました。ただ、先ほどコロナ前、「内食の『ケ』は日々の食事」といった話をしましたが、ここのポジションが一気に膨らんできたんですよね。テレワークを導入する企業が増えて、学校は臨時休校に。家族のために、毎日3食つくらなければいけない。でも、それってつらいですよね。外食をして気分転換したいけれど、それもできない。では、どうすればいいのか。「家で食事を楽しむ方法はないか?」という人が増えてきました。

土肥: 「今日のランチはデリバリーで」「明日は、お弁当にしようかな」といった会話が増えて……はっ、そこで「冷凍食品にしよう」という人が出てきた?

庵原: ロイヤルデリを利用している人にアンケートを実施したところ、多くの人が食事をつくることに不満を感じていました。「自分でつくったモノばかり食べたくない」「家族に手抜きと思われたくない」などと。こうした背景があって、4〜6月の売り上げは大きく伸びました。

土肥: ふむふむ。そこまでは理解できるんですよね。「自粛ムード広がる→外食控える→家で贅沢」という流れがありましたが、売り上げの推移を見ると、緊急事態宣言解除後も好調ですよね。家で贅沢をする必要がないにもかかわらず、なぜ売れているのでしょうか?

●マーケットインの考え方で

庵原: ご指摘されたように、緊急事態宣言が解除されて、多くの外食は営業を再開しました。しかし、お客さんの数はすぐには戻らなかったですよね。

土肥: 日本フードサービス協会の集計(売上高)によると、9月のファストフードは前年同月比95.5%まで戻っているのに対して、ファミリーレストランは80.3%。このような数字を目にすると、「まずまずだな。もうちょっとで回復するよ」と思われる人も多いかもしれませんが、居酒屋は52.8%。まだまだですよね。

庵原: 誕生日などの「大ハレ」需要は戻りつつありますが、「小ハレ」は違う。つまり、大事な食事には参加しているものの、そうではないケースの場合、控えている人がまだまだ多いのではないでしょうか。例えば、会社の同僚と飲みに行くとか。

 で、内食はどうなったのか。「家で楽しく食べる」というスタイルが増えたこともあって、「ケ」の需要が増えてきました。また、それだけでなく、コロナ前には存在していなかった家の中での「ハレ」を楽しむ人が出てきました。

土肥: 内食の「ハレ」は存在していなかったけれども、withコロナの生活を送っていく中で、ここの需要が生まれた。だから、売り上げが引き続き好調というわけですね。とはいえ、まだまだ産声をあげたばかり。内食の「ハレ」ポジションを確保するために、何か手を打つ予定は?

庵原: スタート時、「もっと便利にしたほうがいいのではないか」と考えました。電子レンジと湯煎、どちらのほうが楽なのか。電子レンジですよね。湯煎の場合、お湯を温めなければいけないので。ただ、利用者に話を聞いてみると、「湯煎は面倒ではない。それよりもおいしいモノを食べたい」という声がありました。便利さを追求するのも必要ですが、それよりも「おいしさ」を追求することが大事。商品から入るのではなくて、お客さんの視点から入ることの大切さを痛感しました。

土肥: プロダクトアウトではなく、マーケットインの考え方ですね。

庵原: ということもあって、10月に品数を増やしました。以前は20品でしたが、45品に。なぜ増やしたのかというと、定期的に食べていただくために、バラエティが必要だと判断したから。繰り返しになりますが、大事なことは商品から入るのではなく、お客さんの視点から入ること。「今日はどんなシーンで、どんな食卓を囲むのか」「家族は何人いるのか」「アウトドアのランチに何を食べるのか」など、さまざまなシーンに合わせて、料理を提供できればと。

土肥: ということは、今後も消費者をあっと驚かせるような仕掛けを考えているわけですね。本日はありがとうございました。

(終わり)