居酒屋大手「ワタミ」に対して、高崎労働基準監督署から残業代未払いに関する是正勧告が出されたとの報道があった。本件を報道したYahoo!ニュースの記事によると、被害者であるAさんは「ワタミの宅食」で正社員として勤務していたが、長時間労働による精神疾患のため現在休職中という。また同社においては長時間残業が常態化しており、6〜7月には過労死ラインの2倍となる月175時間の残業があったとして、「長時間労働で労働者を使い捨てにする『ブラック企業』ぶりを改めて露呈」と厳しく批判している。

 筆者は、ワタミがブラック批判にさらされていた2013年前後、ワタミを批判する側の筆頭のような立場にいた。しかし、同社のその後の変革と改善を目の当たりにし、現在はむしろ同社のホワイト化を伝道する立場へと“転向”している者だ。これまでの環境改善の経緯はリアルタイムでたびたび報道していたこともあり、今回の労災事案を機に「お前の書いた『ワタミホワイト化』の記事はまるでウソではないか」といった批判も頂戴している。

 そこで筆者は、これまでの長年にわたる同社取材をへて構築したネットワークを基に、本件の真相を探るべく調査と、関連各所への取材をおこなった。本稿はその結果をまとめたものである。筆者は何もワタミを全面的に擁護しようとしているわけではない。利害関係が一致しない者同士では言い分が真っ向から対立することはあるし、第三者委員会の調査も、ワタミとユニオン間での団体交渉も始まったばかりで、これから段階的に明らかになっていくことも多々あるだろう。

 本記事は今のところ数少ないワタミ側の立場に拠り、既に報道されている一方でこのような事象が発生している、という事実を広く知らしめる意図のものであることを強調したい。

●ワタミの宅食、何がアウトだった?

 さて、当該記事中で、Aさんが被害を訴えている事項は次の通りだ。

<業務範囲>

・所長として2つの事業所を担当させられ、たった一人で20人以上の配達員を管理。その他文書作成、商品管理、販促準備、営業所清掃、備品補充、配達の間違いや代金着服などの問題が発生した際の対処とクレーム対応など、業務は多岐にわたる

・配達員の朝礼をグループごとに4回行う。その後も配達員の「道が分からない」などの質問への対応や、当日欠勤した配達員の代理で配達(代配)を行う

・配達員に十分な研修がなされないため、同行してルートを教えるなどのフォローも必要

<労働時間>

・通常午前7時台、早いときは6時台の出勤

・配達員の退勤後も事務作業があったり、上司からの電話対応などで自身の退勤は午後11時を過ぎたりすることも珍しくない。1日6〜7時間の居残り残業は日常的

・帰宅後にも代配対応や納品対応、機器の不具合などで出勤する必要があったほか、土日にも宅配を行う拠点のため、週末も電話対応せざるを得なかった

・多くの顧客を抱えていた配達員が辞めた際は、土日を含めて毎日「代配」を行い、多い日には40軒ほど回った

<待遇や労働環境>

・何時間働いても残業代は固定されており、追加で払われなかった。これだけの業務量にもかかわらず、給料はわずか月26万円だった

・配達員の採用ハードルは低く、不適任だと思っても所長に拒否権はない

・上司に相談しても「配達員の教育がなっていない」と、むしろAさんの管理能力のせいにされてしまう

 確かに、これだけを見聞きすれば「ブラックな環境」と断言して間違いないだろう。

●ワタミ側は即座に謝罪の意と対策を発表

 一方、ワタミは当該報道に対して即日リリースを発表した。記事内容を受けて謝罪の意を示すもので、「当社では、当該社員の主張を真摯に受け止めて、当該社員に深く謝罪いたします」「全面的に当該社員の主張を受け入れる所存です」と表明。労基署の指示に基づき、時間外労働、深夜労働、休日労働の割増賃金不足分を過去にさかのぼって再計算して支払うとともに、

・事前に時間外労働に関する残業及び休日出勤申請の厳格化を行うなど、勤務管理を適切に実施できる体制を再構築する

・「ワタミの宅食」全国所長会議を実施し、現場の声に一層耳を傾け、再発防止を徹底する

・代表取締役会長兼グループCEOは月額報酬 50%の減俸を6カ月間、代表取締役社長兼 COOの月額報酬 30%の減俸を6カ月間とする

と発表した。

 しかしYahoo!ニュースの続報記事では、この謝罪を「パフォーマンス」と断言。ワタミにおける労働時間短縮の取り組みについても「現場レベルではあくまでも労基署対策として位置付けられていた」と説明する。

 具体的にはAさんの証言を基に、

・休日に社用携帯電話を切ることもできず、煩雑な配達の管理システムの見直しもされず、具体的な業務削減策による長時間労働削減の対策は全くなされなかった

・出勤時間や退勤時間が上司によって改ざんできるようになっており、月の残業時間上限である「30時間」に合わせるために自発的に修正するような圧力があった

・1日10時間の「勤務インターバル制度」は守られておらず、対外的なアピールでしかなかった

・長時間労働や理不尽な働かされ方について上司に何度も対応を訴えたが、会社側はなんら誠実に対応しなかった

 といった問題点を列挙した。改ざんや長時間労働・パワハラにまみれたワタミの謝罪は信頼できないが、当該記事執筆が代表を務める団体と、関連するユニオンのサポートによってまずは謝罪という成果につながった、と結んでいる。

●Aさんの言い分「だけ」をうのみにしてよいのか

 14年以来「労働環境改善」を経営最重要項目と設定し、実際に労働時間短縮や離職率改善を成し遂げ、対外的にも「ホワイト企業」アピールをしてきたワタミに、再度発生した今回の事件。ここぞとばかりに、識者からも「ホワイト化アピールはウソだったのか!?」「やはり渡邉美樹が復帰したらブラックに逆戻り!!」などと批判が相次いだ。

 実際、高崎労働基準監督署から9月15日付で是正勧告書が出されたことは事実であるし、上司によってAさんの勤怠記録が事後的に修正されたことも事実だ。ワタミは労務管理がなっていなかった、と非難を受けても致し方ないだろう。また、パワハラ的な事象も発生しており、職場でのパワハラ防止のために必要な措置を講じることを定め、本年6月から施行された「パワハラ防止法」(改正労働施策総合推進法)にも違反していることになる。まさに当初報道の通り、ワタミは改ざんや長時間労働・パワハラにまみれた悪徳企業として断罪されるべきであろう――Aさんの言い分を全て信じるならば。

 というのも、ここまで述べてきたことは、あくまで当事者である被害者のAさんと、AさんをサポートするNPO、及び外部ユニオンの側から語られた情報だからだ。そして、当該記事以外の大手メディア報道もほぼ全てが、同じ被害者サイドに立った情報を発信している。

 それはそうだろう。東証1部上場の大手企業を相手に、たった1人で被害を訴える告発だ。しかも相手はこれまで散々ブラック企業のそしりを受けてきて、改善されたかと思いきや「やはりブラックのままだった」という文脈に置かれた企業。明らかに企業側が怪しく、どこまでその裏の実態が暴かれるのか、読者の耳目を大いに引く構図といえる。

 しかし当該報道はまた一方で、ワタミのホワイト化に寄り添った筆者をして大いに疑念を抱かせるものでもあった。

 なぜなら、既に同社はホワイト化路線で従業員からも顧客からも高い評価を得ているからだ。レピュテーション(評判)リスクを考慮しても、ワタミが社員に対してあえてそのようなムチャな働かせ方を強いる合理的な理由がないはずだ。しかも、ワタミの宅食部門は今や同社にとって飲食事業以上の稼ぎ頭として期待されており、システム化もある程度進んでいる。当初報道にあった「175時間」という残業時間について、実際のところそこまで残業するほどの業務がそもそも存在するのかどうか、率直に疑問であったのだ。

 さらに、ワタミ社内には自前の労働組合「ワタミメンバーズアライアンス」が存在するにもかかわらず、Aさんは同組合に頼ることなく、わざわざ外部のユニオン(合同労組)である「総合サポートユニオン」およびその支部である「ブラック企業ユニオン」に駆け込んでいることについても不自然さを感じた。そこで筆者は、これまでの長年にわたる同社取材をへて構築したネットワークを基に、本件の真相を探るべく調査と、関連各所への取材を行った。

●報道で語られなかった「もう一つの事実」

 ワタミは今般の労務問題発生を受け、再発防止のために本件を会社から独立した立場で調査する「特別調査委員会」を10月7日に立ち上げた。調査目的として挙げられた事項の一つに、このような文言がある。

(2) 本件に関する報道内容について、一部の従業員から事実と異なる部分があるとして申入れが行われている事実関係の有無に関する調査

 すなわち「先述の報道内容において事実と異なる部分がある」と、従業員側から指摘がなされているというのだ。そして実際、これは筆者の調査結果とも合致する。筆者がインタビューした、Aさんの元同僚やAさんの部下として働いていた人たちは異口同音に、報道では明らかになっていない事実を詳しく語ってくれた。

 結論から申し上げておくと、これから述べる調査結果は、今般の騒動においてAさん側から発信されている情報、既に各メディアで報道されている情報とほぼ真逆である。では、具体的に詳説していこう。

●Aさんを被告とした訴訟が提起されていた!

 10月19日、一つの訴訟が提起された模様だ。原告はワタミ宅食部門の一部従業員。そして被告は、今般の労務トラブルの被害者である営業所長のAさんであった。訴訟の趣旨は「Aさんによるパワハラとセクハラに対する損害賠償」。原告の「一部従業員」とはAさんの元同僚や部下たちであり、その訴状には「事実検証を行うことなく被告(Aさん)の主張を前提とした報道も存在するが、真実は異なる」「被告は営業所長としての十分な業務を行うことなく、自分の意に沿わない原告(Aさんの元同僚や部下)らに対してハラスメント行為を行っていた」という趣旨の主張がなされていたのである。

 そう、Yahoo!ニュースをはじめとする今般の報道とは逆で、Aさんが加害者という位置付けなのだ。なぜそんなことになっているのか。筆者の独自取材と本件訴状内容から見えてきた、既報では語られていない一面を解説していく。

●独自取材で見えた、告発の“真相”

(1)Aさんを巡るトラブルが、19年から複数回発生していた

 まず、19年夏頃より複数回にわたって、Aさんは同僚社員に対する誹謗中傷や脅迫的な言動、頻繁なメール送信などによってトラブルを起こしており、被害者が「精神的に追い込まれた」との訴えを会社に行っていたことが判明している。結局これらのトラブルは、会社と上司が間に入る形で話し合い、Aさんが被害者に謝罪する形で収まったようだ。

(2)2拠点のマネジメントは本人の意向だった

 Aさんは20年2月、群馬県高崎市内にある2拠点の所長として赴任した。これは、Aさん本人が「将来的には(所長の上位職である)エリアマネジャー(以下「AM」と表記)にキャリアアップしていきたい」という意向であったため、Aさんの上長がその意志をくんで就任させたものであった。当初報道にあった「所長として2つの事業所を担当させられ……」という文脈とはややニュアンスが異なってくる。

(3)所長として赴任後すぐに発生したトラブルとハラスメント

 Aさんが赴任した拠点は、当時業績不振状態であったことから、Aさんも立て直しを託されたと感じ気合いが入り過ぎたのかもしれない。「強い意志で改革を進める」と宣言して業務にまい進していったそうだが、その進め方があまりに一方的であったようだ。中にはハラスメント的な言動・行動もあり、既存のスタッフは当初から困惑していた。具体的には、次のような証言があがってきている。

歴代所長と異なる手法

 歴代の所長は赴任後、既存の体制は維持しつつ業務をスタートして、ある程度慣れたところで改善を提案、スタッフの意見も聴きながら順次変えていくという形をとっていたが、Aさんは赴任後すぐに多くのものごとを変えようとしたという。例えば事務所のオフィス家具の配置を変え、まだ使える備品も捨てて新たなものに買い替えた。既存スタッフからは「何の相談も声がけもなかった。一言くらい相談してくれてもいいのに」との証言もある。

 また、これまでの所長は「拠点によっていろんなやり方があるから」という姿勢で、既存の仕事の進め方を尊重していたが、Aさんは「こうしてください」と一方的に命令するスタイルだったという。

 例えば、利用客からの宅食発注締切は、会社側の公式アナウンスでは毎週「水曜日中」だが、Aさんはそれを「水曜午後3時まで。以降は変更キャンセルも一切不可」と決めてしまった。実際、新規受注した顧客において、なかなか連絡がとれず、ようやく午後3時過ぎに連絡がとれてキャンセルになった件に対して「時間を過ぎたからダメ」と一蹴し、スタッフが「まだ水曜中だからキャンセル不可とは伝えられない」と反論すると、Aさんはキャンセル分の弁当をスタッフに買い上げさせた。そのようなことが何度も発生していたという。

社員ごとに不公平な対応やパワハラ的な言動も

 異動前から在籍していた古参スタッフには厳しくルールを押し付ける一方で、Aさん自身が採用したスタッフについては締切を過ぎてもキャンセルを許可するなど、不公平な扱いがみられたという。

 また、自分の気に入らない人がいれば、ベテランでも関係なしに辞めさせることもあった。「あなたがいると悪影響を与える」がAさんの口癖だったとあるスタッフは話す。常に高圧的な態度で、「自分の言うことを聞かない人は許しておけない」という感じだったという。何かあれば外に呼び出されて「どうするんですか!?」と強い調子で詰問されることもあった。

 スタッフに対しては「裏紙を使え」「カラーコピーは経費がかさむ」などと命じておきながら、自身はカラーコピーをバンバン使って資料作成していたこともあった。こうしたAさんの態度を受けて現場は萎縮し「何を言っても、言った者がばかを見るから言わないでおこう」というのが皆の共通の思いだったという。

「公開処刑」的なメールも

 筆者が手に入れた資料の中には「まごころさん(注:宅配スタッフのこと)が足りないからといって遠慮せず、辞めたい人は辞めてもらって大丈夫」という趣旨のメールを一斉送信した記録も残っている。

 さらに、スタッフにミスがあった際、個別に指摘するのではなく、そのミスをあげつらうようなメールを、全スタッフが閲覧できる一斉メールで送信することもあった。あるスタッフは「仕事中も土日もメールが多い。ドキッとする内容も多く見るのが大変」と証言している。

 ちなみに厚生労働省の定義によると、職場のコミュニケーションにおいて「(1)優越的な関係を背景とし」「(2)業務上必要かつ相当な範囲を超え」「(3)労働者の就業環境が害される」という3条件を全て満たす言動はパワハラとされる。上記のようなAさんの言動や行動の多くはパワハラだといえよう。

(4)Aさんが赴任後、大量に退職した既存スタッフ

 Aさんが着任する前、一方の営業所には13人、もう一方には10人のスタッフが在籍していたが、Aさんの所長就任から半年間が経過した時点で、2拠点合わせて延べ約20人ものスタッフが退職する事態となってしまっている。

 スタッフは「とにかく高圧的」「あのままAさんがいたら皆辞めていたと思う」「10年選手のスタッフが何人も辞めているのに、本社の人はなぜ気づいてくれないのかと思っていた」と証言。また別の所長にも確認したところ、「他の営業所でもスタッフが辞めることは年に数人程度あるが、半年という短期間のうちにこんなに辞めているのは明らかに異常」との見解であった。

(5)当初報道とは全く異なる、Aさんの実際の働きぶり

Aさんと同じ拠点に勤めていたスタッフによると、当初報道をネットニュースで見た際、「どうしてそこまでウソがいえるのか」とあきれ返ったという。実際、当初報道と実際の働きぶりの差異は次のような点である。スタッフの証言を基に対比を見ていこう。

報道と実際との差異:<業務範囲>

・所長として2つの事業所を担当させられ、業務は多岐にわたる

→2拠点担当は本人の希望を上司が受け入れ形にしたもの。業務についても、検品作業はスタッフが、また事務作業についても専任の事務スタッフがほぼ全てを行っており、Aさんはタッチしていない。

・配達員の質問への対応や、当日欠勤した配達員の代配を行う

→利用客から問い合わせがあってもスタッフに対応を任せ、Aさん本人は特に対応しない。「代配は所長の仕事ではないから私は代配しません」と口癖のように言っていた。

・配達員に充分な研修がなされないため、同行してルートを教えるなどのフォローも必要

→「Aさんに新人さんの同行をお願いしたが『時間がない」といってやってくれなかった」とあるスタッフは証言している。

報道と実際との差異:<労働時間>

・通常午前7時台、早いときは6時台の出勤。退勤は午後11時を過ぎる

→「実際に朝来るのは9時過ぎくらい。やらなければならないことをやっているわけではなく、『ふかしいも』(顧客に配送する、隔週刊の宅食メニュー献立表)にメモをホチキス留めするとか、朝礼の場で言えばいいような事項をわざわざA3用紙に何枚も細かくメモする作業などをわざわざ出社してやっていた」「会社の指示でも義務でもなく、Aさん自身の意志でやっていたことではないか」とスタッフは証言している。

・帰宅後にも代配対応や納品対応、機器の不具合などで出勤する必要があったほか、土日にも宅配を行う拠点のため、週末も電話対応せざるを得なかった

 →土日の配送はスタッフ任せだったし、仮に対処しなければならないとしても数分で終わる程度の業務量だった。実際、休日にお客さまから弁当が届かないという連絡があり、Aさんに連絡したところ「土日まで私に連絡しないでください」と言われた。また冷蔵庫や冷凍庫が止まるようなトラブルもあるが、年に1回程度。「代配もしていないし、何にそんなに時間がかかっていたのか分からない」(一部スタッフ)

・多くの顧客を抱えていた配達員が辞めた際は、土日を含めて毎日代配を行い、多い日には40軒ほど回った

 →Aさんは「従えないならどうぞお辞めください。新しい人はどんどん入ってくるので困りませんから」と豪語していた。そのような普段からの言動や行動によってスタッフが辞めてしまい、どうしようもなく代配したことが数日ある程度。会社のせいではなく自業自得ではないか。休日については「家族がいるから休みます」「自分達のお客さまなのだから、自分達が担当してやればいいから」とスタッフにやらせていた。

報道と実際との差異:<待遇や労働環境>

・上司に相談しても「配達員の教育がなっていない」と、むしろAさんの管理能力のせいにされてしまう

 →スタッフからは以下のような証言がある。

 「Aさんは目も合わせず口もきいてくれず、あれだけ嫌な思いをしてよく皆さん事故など起こさなかったと思う」「Aさんは上長からのハラスメントを証言していたが、上長に対して『逆パワハラ』みたいなことをしていたこともあった。電話を横で聞いていたことがあったが、『悪いのは私だけじゃない! お互いさまだ』と怒鳴り散らしていて、これを朝から晩まで聞かされるAMは大変だろうと思った」

 ちなみに、報道ではハラスメント加害者のような扱いを受けているAMだが、Aさんとは元同僚同士であり、以前は仲も良かったらしい。しかし先にAMのほうが昇格して「上司・部下」の関係性となってしまった。上昇志向の強いAさんにとっては、複雑な心境であった可能性も考えられる。

 これらの告発を見る限り、当初の報道内容と実相との間には溝があり、恐らくAさんをサポートするユニオン側も、「有名企業のワタミをたたくチャンス」とばかりに、Aさんの証言をうのみにして、全てワタミ側の悪意かのように書いてしまったのではないかと考えられる。記事論調を見ても、ワタミが悪であるという大前提に立脚しているようであり、個人のブログであればまだしも、「ニュース」を名乗る報道においてこの一方的な書きぶりは「偏向」といわれても反論できないのではないだろうか。

(6)抑圧されていた内部告発

 Aさんによるハラスメントがそれほどまでに横行していたのであれば、なぜスタッフの皆さんはAさんの上司や本社宛にハラスメントを訴え出なかったのか、またAさんの上司が気付かなかったのか、という疑問が生じる。

 これに対してスタッフの一人は「パワハラ的なことは日々言われていたが、Aさんから『AMや上司は私と同じ視点に立っている、告発してもムダ』だといわれて抑え込まれていた」と証言。また訴え出ようにも「どこに言えばいいのか分からなかった」「ヘルプラインを知らなかった」とのことであった。このあたりの対応については、会社側も周知不足であったとの非難は避けられないだろう。また、仮に内部告発できていたとしても「話の内容によって、誰が告発したのかAさんにバレてしまう。その後逆恨みされて、矛先が自分に向くのが怖い」という意見もあった。

●「勤怠記録改ざん」疑惑の真相

 さて、普段の仕事の様子については、Aさん本人の言い分と、Aさんの元同僚や元部下だったスタッフの方々の言い分に大きくギャップがあることが判明した。ではもう一つの重大な問題である「勤務記録の改ざん」についてはどうだろうか。

 「出勤時間や退勤時間が上司によって改ざんできた」「月の残業時間上限である30時間に合わせるために自発的に修正するような圧力があった」との報道がなされた後、ワタミ側でも、「Aさんの上司にあたるAMが、Aさんの打ち込んだ出勤記録を事後的に修正した」点については認めている。さすがにこれについては申し開きができないように思われる。

 しかし、調査を進めたところ、この経緯についても当初報道で語られていない背景が明らかになった。確かに事後的な勤怠記録の変更がなされたことは事実なのだが、これは本人意向を無視した「改ざん」などではなく、Aさん本人の同意があった上での「修正」だったのである。

「改ざん」ではなく、「修正」だった

 Aさんの勤怠記録が「改ざんされた」と報道されているのは、社内資料によると本年7月のとある週末、土曜と日曜のそれぞれ午前中に勤務した分であった(ちなみに、Aさんについて打刻修正が行われたのはこの1回のみだ)。

 Aさんは当該週、月曜から金曜までフル出勤した上で、土曜午前中の半日出勤をあらかじめAMに申請した上で行った。そしてAさんは、翌日日曜の午前中も出勤し、出勤翌日になってその日曜分の休日出勤申請を行ったのである。

 しかし、日曜の休日出勤を承認してしまうとAさんは「7連勤」となってしまい、内規に抵触する。そこでAMの上司である支社長は「Aさんの連勤は認められない。振替休日にして平日に休むように」という指示を出した。結局AMは、Aさんの日曜出勤については事後申請ということもあり承認せず、Aさんに対して「支社長から7連勤は認められないと言われた。休日出勤の事後申請も認めない」と伝えたところ、Aさんは「今週(週末出勤した翌週)の金曜午後を半休にする」と返答し、AMはそれを認めた。

 ただ、Aさん側で勤怠システムの振休登録ができなかったため、AM側で「前週土曜午前中に出勤した実績を削除」し、半休と相殺して「今週金曜午後に出勤した形にする修正」を行った。すなわち、連勤となってしまう「前週土曜半日勤務分」を「今週金曜半休分」に移し替えたわけだ(この際AMはカン違いしており、本来は未承認である「日曜勤務分」を付け替えるべきであったが、承認済であったはずの「土曜勤務分」を移し替えてしまっている。ただし、全体での総労働時間は不変である)。

 一連の経緯を振り返る限り、これは単に「本人了承のもとで行われた勤務実績の付け替え」でしかなく、総労働時間も変化していない。ましてや、過重労働の隠蔽などでは決してない。実際、AさんからAM宛に送られた勤怠記録の修正依頼も記録として残っている。これを「改ざん」と報じるのはいかにも大げさであり、まるで「長時間労働をもみ消している」とでも言わんばかりの印象操作ではないだろうか。

●Aさんが訴えた「パワハラ」と「休職」の経緯

 Aさんが上司から受けていたと訴えるパワハラについても、休職前後の出来事から振り返ってみよう。

 本年7月上旬、Aさんとの間でトラブルがあり辞めていた元スタッフからAM宛に連絡が入った。元スタッフが在職中に担当していた顧客から「注文した弁当が届いていない」との問い合わせがあったというのだ。それも2日連続の出来事だった。AMからAさんに連絡したがつながらず、その日の夜になってメールで「お届け完了」との報告がなされたという。

 しかし翌日確認したところ、まだ弁当は顧客の元に届いていなかった。AMからスタッフに確認を入れたところ、スタッフより「お届けが完了していない顧客が他にも複数いる」ことと、「Aさんより返金対応するよう指示があった」旨の報告を受けた。異常を感じたAMとその上司である支社長は即日営業所を訪問し、Aさんに事実確認を行った。

「お弁当はお届けしている」

 しかしAさんは「お弁当はお届けしている」と回答するのみ。支社長から「お客さまとスタッフに事実確認している」旨を伝えたところ、Aさんは観念した様子で、弁当を届けていない事実を認めたのだった。このときAさんは、AMと支社長に次のように語った――「正しい判断ができない状況だった。医師より休むように言われている」「しかし、休んだら復職した後の配置がどうなるか不安」。

 心配した支社長は、Aさんの体に配慮して配置転換を考えることを伝えた。するとAさんは「所長としてやり切った。現在の営業所に未練はない」「いつから休みに入るか家族と相談して、明日AMに伝える」と回答したので、その日の面談はそれで終了したのだった。しかし翌日、事態は急展開する。

 これまでの態度を大きく変え、AさんはAMへ「支社長より休みを強要された。これはパワハラであり、休みは撤回する」と伝えたのだ。その後、営業所に出社したAさんは、朝礼でスタッフに対して「私に対する皆さんの誹謗中傷によって異動が決まった。誰が告発しているのか?」と発言。AMがAさんを地道に説得した結果、一時は異動に対して前向きな姿勢を見せたのだが、AMが主催した営業所ミーティングにおいてAさんの異動が伝えられた際、一部のスタッフが安堵の表情を見せたことがAさんの気持ちに変化を起こさせたようだ。

執拗に内部通報者を知りたがる

 後日、Aさんからスタッフ宛に一斉メールが送られ、そこには「私の異動を喜んでいる者がいる。1人でもそのような者がいる限り、異動を拒否する」と書かれ、AMに対しても「今の営業所で引き続き所長を全うする」との連絡が入った。AMは営業所に直行してAさんと面談したが、Aさんは「新しい営業所へ行っても、自分の言うことを聞かないスタッフはどんどん辞めさせる」という趣旨の発言をしたため、AMは「Aさんも苦手な人がいるように、スタッフからもこれまでのAさんの営業所運営について訴えたいという人も出てきている。お互いのために離れた方が良い」と説得を続けた。

 その後Aさんからは休暇申請が出されて休職に入ったが、休職初日、Aさんは後任の所長が着任して朝礼をしているときに突然営業所に来訪し、スタッフをにらみつけて居座り、メールを送り付けるような脅迫行為をしたと報告されている。またその時期に並行して、AさんやAさんの家族からはAMや会社宛に「(Aさんを)訴えようとしているスタッフは誰だか教えろ」と執拗(しつよう)に連絡が入っていた。Aさんから渡邉会長あてに手紙が送られたり、労基署に労災申請が出されたりしたのはその騒動の後のことであった。

●なぜワタミの社内労組は機能しなかったのか

 先述したようにワタミには、アルバイトを含む全従業員を対象とした労働組合「ワタミメンバーズアライアンス」が存在する。当然Aさんも組合員であるはずなのだが、今回の報道にもある通り、Aさんは外部のユニオン(合同労組)である「ブラック企業ユニオン」に加盟してワタミと交渉を行っている。記者会見でもAさんは「(社内労組に)一度相談したのに何もしてくれなかった。信用できないから依頼しない」と発言しており、当然「社内労組は何をしていたのか?」という疑問が生まれるところだ。

 しかし、Aさんが社内労組へ連絡をしたタイミングは、前述のやりとりが全て終わった休職後で、労災申請がなされ、労基署から出頭要請がなされた後のことであった。そして問い合わせ内容も未払金などに関するものではなく、「誰が私を訴えようとしているのか、個人の名前を教えろ」という要望だけだったのだという。

直接やりとりしたが……

 事態を重く見た労組委員長は直接Aさんとやりとりし、「会社にも確認をとったが、個人情報なので伝えられない。未払金などは相談に乗る」と伝えたが、Aさんからは「聞きたいのは私を訴えようとしている者の名前だけ。自分も組合員なのに教えられないのか。ワタミ労組も会社寄りなのか」と言い放たれて会話が終わってしまった。

 労組委員長は一連のやりとりに対し、こう述懐する。「Aさんとは職場集会で以前会っている。その時点でアライアンスの存在は認識していたはずだし、単に未払賃金に関する相談であれば、先に組合に連絡していたはず」「訴えると言われたことにナーバスになっていたタイミングで、こちらからアクションを起こし、直接会って話すなどのことができなかったのが心残りだ」

 なお、ワタミメンバーズアライアンスは民間労組として日本最大規模を誇る「UAゼンセン」傘下にあり、アライアンス委員長もAさんのサポート方針についてゼンセン幹部に相談した。Aさんが社内労組を脱退せず、かつ組合員であることを認めているのにサポートを断っていることについてはゼンセン幹部も疑義を抱いており、ブラック企業ユニオン側にもただしていくという姿勢とのことだ。

 報道の裏側でどんなことが起きていたのか。これらは取材を通じて、明らかになった一部始終である。いかに、既報がAさん側からの一方的な情報しか出していないかお分かりいただけたのではないだろうか。本件の取材にあたっては、Aさんの元同僚や元部下の方々にも話を聞いたが、皆さん口々に報道の異様さを指摘され、かつ加害者扱いされているAMへの配慮、そしてAさんへの非難を口にされていたことが大変印象深い。

 また、繰り返しとなるが、インタビューの最後に念押しのように皆さんから言われたのが、「Aさんからの報復が怖いから、自分が発言したと分からないように書いてほしい」ということであった。「Aさんが復職するなら自分達が辞める」「Aさんがいなくなったことで復職してきたスタッフもいる」「Aさんが辞めたとしても、日常の業務を妨害されるリスクが恐ろしい」と、尋常ではない恐れられ方であったことも特筆すべきであろう。

●一連の騒動について、ワタミは何と答えた?

なお一連の騒動について、筆者はワタミ側の見解も聞いた。

――Aさん自身の問題もあるが、そもそも労務管理がきちんとなされていなかったことも問題では?

ワタミ担当者: その通りであり、引き続き改善を施していく。システム的にはまだまだ改善余地があると考えている。長時間労働につながる要因は実際存在するので、例えば「営業リーダーだから電話対応は当然』といった考え方ではなく、「土日にかかってくる電話はコールセンターで受けるようにしよう」など、会社として取り組んでいこうとしているところだ。

――この機に、社内労組から会社側に対して何かしらの申し入れはあったのか?

ワタミ担当者: 組合から要求があったこととしては、未払金があるなら明確にした上で支払いをすること、事実を明らかにしてほしいこと。あとは実務的な部分については、配達する弁当を冷凍対応にするなどだ。所長の週末対応をなくすために土日配送をなくすべきか、という議論もあったが、土日専属で対応してくれるスタッフの雇用を無くすわけにはいかない部分もあり、難しいところだ。

――本件には今後どのように対応するつもりか?

ワタミ担当者: Aさん本人は復職を希望しており、所属するユニオンから団体交渉依頼が来ている。こちらとしては公正な情報を提供すべく、第三者による「特別調査委員会」を設置して調査を開始している。団体交渉ではその調査結果を基にお話をすると伝えている。

●弁護士の見解は?

 アクト法律事務所の安田隆彦弁護士は、一連の事案について次のように語る。

 「これまでのワタミの労務管理にもずさんなところがあり、問題はありました。しかしユニオン側の情報には偏りがあります。

 確かに、被害者Aが自分に都合の悪いことをユニオン側に伝えなかった可能性もありますが、『ワタミの労務管理のずさんさをただす』目的を超えて、『ワタミが悪意にまみれた会社であるかのような一方的かつ名誉毀損的表現』になっていることは、誹謗中傷になってしまい行きすぎでしょう。

 このような表現は、かえってユニオンの信用性を損なっております。今般、ユニオン側の主張と異なる見解がワタミ従業員側から出てきたことで、ユニオンがどう向き合うのかが注目されます」

 初報以降、Aさん側の一方的な情報を後追い報道するだけのメディア各社の姿勢にも疑義がある。Aさん以外の関係者にヒアリングするだけでも、既報とは異なる情報がこれだけ出てくるにもかかわらず、自分たちの足で取材するという気概に乏しいのではないだろうか。ぜひ多角的な視点で報道がなされることを期待したい。

●ユニオン側へ取材を申し込むも……

 なお、本記事が「一面的」な記事にならないよう、筆者はAさんをサポートしている「総合サポートユニオン」に対しても取材を行った。しかし、当初設定した返答期限までに返答は得られず、再度日程を延長して申し入れた取材に対しても回答が返ってくることはなかった。

 本件については今後、12月中にも第三者による特別調査委員会の報告が公開される予定である。筆者も引き続き経過を追ってお伝えしていく。

(新田龍)