日本が世界に誇るゲーム産業でも、特に家庭用ゲーム業界では任天堂とソニーが2大企業として君臨している。そのソニーの「プレイステーション」陣営の、新型ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」が11月12日に発売する。実に7年ぶりの発売だ。

 PS5の価格は、4K画質対応の最新ブルーレイディスク規格「Ultra HD Blu-ray」も再生できるディスクドライブを備えた通常モデルが4万9980円(以下、税別)、ディスクドライブのない廉価版の「デジタル・エディション」が3万9980円。3万9980円という価格は、先代の「PS4」発売当初の3万9800円という値段とほぼ同価格であり、ディスクドライブを省いたとはいえ、同程度の価格を維持したことも注目された。

 注目された理由の一つに、PS4のさらに先代にあたる、2006年発売の「PS3」が当初の販売価格を1万円高い4万9800円に設定したことで、PS3の売り上げが振るわなかった経緯がある。3万9800円という価格は、1994年発売の初代「PS」からの伝統であり、初代発売から26年たった今でも、この価格が守られたことに安堵するゲームファンの声も少なくない。

 一方で、懸念されているのが定価やそれ以下の価格で手に入れた商品を、定価以上の高値で転売する「転売屋」の存在だ。「転売屋」の存在は90年代の初代PSの時代からあり、特に96年のヒット商品「たまごっち」では定価以上で売る店の存在が社会問題となった。だが、当時はまだまだ実際の店舗で販売する方法が多く、現在に比べれば数も限られていた。そのため、少し待てば流通在庫も回復し、定価以下で買うことも難しくなかったのだ。

 ところがインターネットでの通販が広まり、また個人でもメルカリやラクマなどのフリマサイトや、個人事業主としても楽天やAmazonといったEC系サイトへの出店が容易になり、「転売屋」が社会問題化してきた。

 こうした転売行為に対し、法規制をする動きもある。例えばライブやコンサートなどのチケットの定価以上の転売は、かねて「ダフ屋行為」として問題視されてきた。「ダフ屋行為」を条例で取り締まる都道府県も少なくなかった。19年6月には、こうした行為を法律で禁止する「チケット不正転売禁止法」が、2020年東京オリンピック・パラリンピックを前に施行されている。

 また2月以降、新型コロナウイルスの感染が国内で拡大し、マスクやアルコール消毒製品の転売が横行。これに対し政府は「国民生活安定緊急措置法」に基づき、マスクやアルコール消毒製品の転売禁止措置をとったのは記憶に新しい。

●PS5の生産体制は整いつつある

 マスクやアルコール消毒液などに転売禁止の措置が取られた一方、「生活必需品」とはいえないゲーム機は、コロナ禍においても取引制限がされることはなかった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、外に出歩かなくなる人が増えると、家でゲームをする需要も急増する。この傾向は緊急事態宣言が発令された国内だけでなく、これ以上に厳しい外出禁止令などのロックダウンを実施した欧米をはじめ、世界的にみられた。

 この需要は「巣ごもり需要」とも呼ばれている。この間、PS4と並ぶ任天堂の「ニンテンドースイッチ」の取引にも転売が横行し、現在に至るまで両機種とも定価で入手しづらい状況が続く。

 この状況下で、7年ぶりの新ハードPS5がいよいよ登場する。9月18日から予約販売が始まったものの、ネット通販サイトには定価の10倍以上の値段をつけたPS5が一時ではあるものの登場した。各販売店は予約を有料会員や一部の会員に限定したり、時間で区切る形での抽選予約を受け付けたりと対策をしているものの、こうした中で予約を勝ち取った人物が出品したとみられる。販売店側がいかに対策を講じようとも、いたちごっこが続いているのだ。

 転売屋の存在を除いたとしても、「巣ごもり需要」による需要増は深刻だ。ソニーの常務で、PS5の製造・販売をする「ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)」の社長を務めるジム・ライアン氏は10月28日、「米国でのPS5の予約販売台数は、発売から12時間以内にPS4の予約販売台数と同数に達した」と明かした。

 こうした状況に対し、SIEはただ手をこまねいているわけではないようだ。事情に詳しいジャーナリストの河村鳴紘氏はこう解説する。

 「SIEはPS4の上位機種である『プレイステーション4 Pro』の日本向けの出荷が9月に終了していたことを発表しました。理由は、11月12日に発売されるPS5の生産へシフトするためです」

 また河村氏は、コロナ禍でもPS5の生産体制は整いつつあり、転売屋に対し物量で勝負する狙いがあると話す。

 「具体的な数字は明らかにしていませんが、PS5の出荷計画数は、新型コロナウイルスの影響があったにもかかわらず、PS4のローンチ時よりも上であることを明かしています。SIE社長のジム・ライアン氏は『発売日の段階でPS5を手にしようとすれば、かなりの努力が必要』とは言っていますが、同時に増産体制についても肯定しています。

 この増産体制に対して『転売屋』の資金が無限にあるわけではありませんから、全てのPS5を買い占めることはできないと考えます。さらに今回の販売方法は個人確認も徹底しています」

●増産体制によって在庫量確保か

 発売日に十分な供給ができるかどうかはジム・ライアン氏も難しいとの認識を示しているものの、その後の増産体制によって、転売屋が買い占められない程度の在庫量を一気呵成に供給することで、転売屋への対策を取っているとも思われる。

 一方で「転売屋」対策については、河村氏は法ではなくシステムで対処すべきとも話す。

  「『転売』を目の敵にする人は少なくなく、『マスクのように法律で取り締まれ』という声も見かけます。しかし命にかかわる緊急時と、そうでないエンタメ商品を同一に並べて論じるべきではありません。例えば米国では、ゲームのプレー履歴にひもづけてPS5の予約の権利を与える方法がとられていますが、転売対策には効果的な仕組みといえそうです。

 日本では直売が難しいので米国と同じようにいかないでしょうが、国内の多くの販売店や販売サイトも転売を強く意識し、工夫をこらしています。確かに転売は厄介なものですが、安易に法に頼らず『仕組み』で解決するべきです」

 河村氏は、「焦りこそ禁物」と警鐘を鳴らす。

 「今後もPS5の過熱ぶりを取り上げる記事も多く出るでしょうし、その中で『発売日に欲しい』という焦りも出るかと思います。しかし、その焦りこそが『転売屋』を増長させるのです。PS5を発売日に手に入れる必然性を含めて、冷静に考えてはいかがでしょうか」

(フリーライター 河嶌太郎)