飲食店や生産者などを支援する目的で実施されている「Go To Eatキャンペーン」。この連載では、本当に困っている飲食店のためになっていないことを“トリキの錬金術”や“無限くら寿司”で課題噴出 Go To Eatが飲食店事業者を救わない、これだけの理由で指摘した。

 さらに、ポイントを付与するオンライン予約事業が税金の無駄使いではないかということも“トリキの錬金術”は他でも起きていた Go To Eatオンライン予約事業は「税金の無駄使い」で、お伝えしてきた。11月13日には農林水産省がオンライン予約事業の予算が近日中に上限に達するとして、近くポイント付与を終了すると発表し、波紋が広がっている。

 「Go To Eat」で今後混乱が起きそうなのが、プレミアム付き食事券事業だ。25%のプレミアム分を含んだ食事券を都道府県別に販売するものの、開始時期は地域によってバラバラだ。すでに販売を開始した地域では、食事券がすぐに売り切れてしまうなど、必ずしも多くの人が利用できるものになっていない実情が浮かび上がっている。

 食事券の販売は、10月下旬から販売する地域が増え、11月中には全国に広がる。最大規模の販売額になる東京都で始まるのは11月20日からで、今後さらなる混乱も予想される。現時点での問題点を提起してみたい。

●食事券を販売した各地域で混乱

 「Go To Eat」の食事券事業は、都道府県別に25%のプレミアムが付いた食事券が販売される仕組みだ。予約サイトを通じて予約・来店した人にポイントが付与されるオンライン飲食予約事業に比べると、飲食店にとっては比較的参加がしやすいため、より多くの飲食店が参加できると期待されている。

 しかし、その仕組みはオンライン飲食予約事業とはまた違った意味で複雑だ。食事券を販売する事務局は都道府県別に置かれ、販売方法、発売や利用開始の時期、食事券のデザインもそれぞれで異なる。

 すでに販売し始めた地域では、混乱の状況が報じられている。対面販売をしている地域では、窓口に希望者が殺到し、長蛇の列ができた。

 ファミリーマートで食事券を発券する地域では、端末の用紙が切れて、発券できない店舗が続出している。1人当たり数十枚単位で発券するケースが多いためだ。事前受付をしている地域は即日完売。Web予約を受け付けている地域では、アクセスが集中してなかなかつながらない状況が生まれた。

 最初に販売が始まったのは新潟県の10月5日。10月下旬から販売する地域が増え、11月中を予定している地域も多い。各都道府県の状況は、農林水産省が開設しているGo To EatのWebサイトで確認できる。しかし、キャンペーンの恩恵を受けるはずの飲食店が、参加しづらいという問題が起きているのだ。

●都道府県によって違う参加要件

 飲食店が食事券を利用できるようにするためには、各都道府県の事務局に登録する必要がある。しかし、地域によって登録の条件が違うことから、中には条件が厳しすぎて、飲食店が登録を申請しても認められないケースが出てきている。

 Go To Eatキャンペーンに参加するには、新型コロナウイルスの感染防止対策に取り組むことが前提となっていて、「外食業の事業継続のためのガイドライン」が、その基準として使われている。

 しかし、ガイドラインを作った日本フードサービス協会などは、「あくまでも各店舗で実施できることに取り組んでいただきたいとして作成したもので強制力はなく、Go To Eat登録の条件として使われるのはおかしい」と、異を唱えている(“トリキの錬金術”や“無限くら寿司”で課題噴出 Go To Eatが飲食店事業者を救わない、これだけの理由参照)。

 さらに、食事券事業では、ガイドラインよりも厳しい条件を定めている地域もある。感染防止対策は、消毒液を置く、アクリル板を設置するなどさまざまだが、定めた項目全てをしなければならないとなると、すでに経営難に陥っている店舗にとっては大きな負担になる。また、客席を減らしている以上、売り上げが以前と同じ状態に戻ることはない。「飲食店にとってはできることとできないことがある」(日本フードサービス協会関係者)のが実情だ。

 例えば、山梨県は「やまなしグリーン・ゾーン認証」を受けていることが登録の条件になる。この制度では宿泊業、飲食業、ワイナリーを対象に、山梨県独自で感染症予防対策を定めている。飲食業の場合、来店者や従業員の感染症予防、施設・設備の衛生管理の徹底などが細かく規定され、その数は40項目以上に及ぶ。

 大手飲食チェーンの中にも、全国で食事券事業に参加する方向で調整を進めているものの、条件が厳しい山梨県では食事券事業への参加は厳しいとみている企業もある。そして、山梨県に限らず、個人経営など小規模の飲食店も、登録申請が大変なことから、参加を躊躇(ちゅうちょ)する店舗も出てくるだろう。飲食店にとってはオンライン予約事業ほどではないにしろ、食事券事業でもやはり不公平感は拭えない。

●都道府県の事務局も戸惑い

 戸惑っているのは飲食店だけではない。都道府県の事務局も同様だ。食事券事業は868億円を注ぎ込む大型事業にもかかわらず、農林水産省は食事券の販売方法や、換金などのスキームを示さなかった。つまり、各都道府県の事務局に丸投げしているのである。

 そのため、各都道府県の事務局はそれぞれでスキームを作ることになった。販売方法も地域でまったく異なる。コンビニエンスストアではセブンイレブンが窓口になる県や、ファミリーマートが窓口になる県が比較的多い。郵便局で販売する県もあれば、郵便局から断られた県もあるという。地方銀行や信用金庫が窓口になるところもあれば、スーパーで販売する地域もあるなどさまざまだ。

 ある地域の事務局は、金融機関を通じて換金をしようとしたが、手数料が高すぎて事務費では賄えないことから断念し、最終的に比較的安い手数料で飲食店に送金することが可能なJTBの送金システムを利用したという。事務局の担当者はこう憤る。

 「全国規模で事業を行う場合は、それなりのノウハウを持っているところが担当しないと、スキーム自体が成り立ちません。各都道府県にスキームから作れというのはおかしいのではないでしょうか。おそらく、農林水産省もノウハウを持っていないのでしょう。制度設計もなく、時間もないのに、押し付けられた感じがします」

 また、地方では、どれだけの効果があるのかも疑問視されている。東京都ではプレミアム分100億円を含む、500億円の食事券が販売される。一方、最も少ないのは宮崎県で、プレミアム分を含んで21億円。都市と地方では予算が大きく違う。

 オンライン飲食予約事業では616億円の予算が投入されているものの、地方ではオンライン予約をする商習慣がなく、首都圏など大都市での利用が中心と見られている。前出の事務局の担当者は「Go To Eat」自体の効果を疑問視している。

 「新型コロナウイルスの感染が7月以降に再拡大したこともあって、地方の飲食店も本当に困っています。食事券事業はオンライン飲食事業よりは期待はできますが、それでも地域で根を張って営業してきたお店に、多くのお金が落ちる仕組みにはなっていないのではないでしょうか」

●食事券事業の本格化でさらなる混乱か

 食事券事業は11月中に販売を始める地域も多く、これから本格化する。前述の通り事業規模が500億円と最もマーケットが多い東京都で11月20日から販売と利用が始まると、さらなる混乱が起きる可能性もある。

 東京都で購入できるのは、はがきかスマートフォンで申し込んで事前に引換券を取得するアナログ食事券と、ヤフーが運営する電子チケットプラットフォームのPassMarketを通じて販売されるデジタル食事券の2通りがある。アナログとデジタルともに、スマートフォンやPCを使って取得する方法をとっていることから、機器に不慣れな人には買いづらいものになっている。また、東京都以外でも購入できるため、アクセスが集中することも予想される。

 懸念される点は他にもある。一部のグループによる買い占めが起きて、金券ショップやオークションサイトなどに転売される可能性も否定できない。あってはならないことだか、食事券の偽造も起きるかもしれない。飲食の大手チェーンからは、実際に偽装を心配する声が出ている。日本フードサービス協会も「東京でどんなことが起きるのか、注視しておく必要がある」と警戒する。

 食事券事業も、オンライン飲食予約事業と同様に、全ての飲食店を支援するものになっていないうえ、食事券の購入に殺到するため、利用できる人も一部の人に限られそうだ。一方で、新型コロナの感染が11月から再び拡大し、北海道では営業時間の短縮が要請されるなど、政策と実情が矛盾する事態も起きている。

 いずれにしても、「Go To Eat」が本当に飲食店のためになるのかどうか、事業の途中や終了後に地域ごとの参加店舗数や利用額などを明らかにして、その効果を検証するべきではないだろうか。

(ジャーナリスト、田中圭太郎)