11月20日から2日間の日程で、オンライン形式で開催されたG20サミット=主要20カ国の首脳会議。

 史上初めて全てオンラインで行われ、NHKによれば、首脳宣言では「世界経済の回復を支援するため、全ての利用可能な政策手段を引き続き用いることを決意する」とまとめられた。

 今回のG20では、会議途中でゴルフに行ってしまったドナルド・トランプ大統領以外にも話題になったことがある。中国の習近平国家主席のスピーチだ。習国家主席は、コロナ禍で国家間の移動を安全に行うために、国際的に受け入れられているQRコードを使うべきだとし、「多くの国がQRコードのシステムに加わることを望む」と語っている。

 あたかも中国が新型コロナ対策のQRコード・システムを構築しているかのような口ぶりだ。とにかく2025年までに「中国製造2025」でハイテク覇権を握り、35年までに「中国標準2035」で中国の技術規格を国際標準化すると標ぼうしている中国だけに、とにかく何につけても世界的な動きで主導権を取ろうとする姿勢が見え隠れしている。ヘルス分野についても、「中国標準2035」の重要項目の一つになっていることから、ここぞとばかりに声を上げたということだ。

 ただ中国の思惑は別にしても、今、QRコードそのものの利用については、世界的にもこれまで以上に注目が高まっている。そこでなぜ今、QRコードが話題なのか、探ってみたいと思う。

●中国が胸を張る、感染拡大防止へのQRコード利用

 まず、もはや言うまでもないが、QRコードは日本で生まれた技術である。1994年に自動車部品メーカーであるデンソーが開発し、日本の工場での生産管理用に使われていた技術だ。それが、徐々にではあるが、一般に普及するようになった。

 そんなQRコードが今またスポットライトを浴びているのには訳がある。新型コロナの蔓延である。

 特に中国では新型コロナ対策にQRコードが積極的に使われていた。もともとスマホ決済などでQRコードが普及していることもあって、国民にとっても導入には違和感がなかったようだ。

 国民は、健康状態に応じて色分けされたQRコードをスマホで持ち歩き、公共機関などを使う際にそれをかざすようにすることで、新型コロナの拡散を阻止しようとしていた。

 アリババやテンセントといった中国IT企業が運営するQRコードの健康サービスは、登録が義務化されており、個人情報に加えて、移動履歴や感染者との接触、体調などを登録する。それによって赤、黄色、緑の信号のような色がQRコードに付けられるのである。

 この施策が感染拡大を食い止めるのに効果があったと習近平は見ている。それゆえに、そのシステムを中国主導で世界に広げたいようで、わざわざ世界中が注目するG20で言及した。また中国が開発しているワクチンも一緒に提供するようなニュアンスで話をしている。おそらくQRコードについては、互換性などの理由をかざして、中国のシステムをそのまま導入させたいという目論見(もくろみ)もあったのだろう。

 ちなみにアリババやテンセントは広範囲なモバイル決済サービスを提供していて、大量の個人情報を収集することで知られており、また中国には、全ての企業の持つ情報を中国当局が強制的に収集できる国家情報法もある。つまり、新型コロナ対策で集められた情報は全て中国当局に筒抜けになる恐れがある。事実、米ニューヨーク・タイムズ紙の検証では、アリババの新型コロナアプリでは、個人のデータが中国警察にも共有されることが分かっている。

 そうしたリスクを知ってか知らでか、現時点では習近平の発言に呼応した首脳の話は聞こえてこない。

●QRコード“軽視”の欧米でも普及が進む

 ただこうした国家的な思惑とは別に、日本を含めた世界に目をやると、QRコードの利用は増えつつある。実は欧米ではこれまでQRコードは軽視されてきた歴史があり、あまり普及してこなかった。それがついに変わってきており、その理由はやはり新型コロナである。

 というのも、レストランなどでも人との接触が感染拡大のリスクになるとして、QRコードによるサービスを始めるところが増えているからだ。使われ方は、お店の前でQRコードを読み込んでスマホなどでメニューにアクセスして、オーダーを行う。料理ができたらメッセージが届き、あとは決済をして受け取るだけである。最小限の接触で済むため、安全だ。

 また米国では、大手決済サービスのPayPal(ペイパル)がQRコードの導入を始めているし、若者の間で人気のVenmo(ベンモ)といった個人送金サービスもQRコードを使い始めている。有名薬局チェーンのCVSではペイパルやベンモをQRコードで使える店舗を次々と増やしている。

 今のところ、米国ではまだ広く普及していると言い難いが、コロナ禍でこれから広がっていく可能性があるという声もある。

 統計調査会社スタティスタによれば、米国や英国の消費者の47%が、新型コロナが蔓延してからQRコードを以前よりもよく見るようになったと答えている。

 シンガポールやインド、香港、フィリピン、ガーナなどではQRコードによる決済システムが最近導入されている。シンガポールでは政府が主導して管理するために「SG(シンガポール)QR」という名前が付けられている。新型コロナでこの流れが加速するのは間違いないだろう。

●日本では利用範囲が拡大

 また世界的に、QRコードで独自の感染者管理の試みを行っているところは少なくない。メキシコの首都メキシコシティでも、11月から商業施設の利用者にQRコードで来店記録の登録を義務付けている。その施設で感染者が出た場合に利用者を追跡し、衛生当局が感染者を管理できるようにしている。

 オーストラリアのニューサウスウェールズ州でも、11月23日から、カフェやレストラン、美容院、ネイルサロンなどで、個人情報を登録したQRコードなどを使ってホテルのように「チェックイン」することを義務付けている。新型コロナに感染したり、感染者と接触したりした人の動きを、大量かつ迅速に把握するためである。顧客はそのためのアプリをダウンロードして、お店に入るときにQRコードにかざしてチェックインする。そこで記録された個人情報は、28日後には自動的に消去される仕組みだ。

 ニュージーランドでも8月から、同じようにQRコードによるチェックインが義務付けられている。

 こうしたところから、新型コロナが落ち着いたあとでも、QRコードの多様な利用が促されていく可能性がある。QRコードはお店など導入側もコストが安く済むために、取り入れやすいという特徴もあり、それも普及にはプラス材料である。

 そしてすでにQRコードが広く使われている日本でも、その利用が拡大しつつある。例えば、国として取得を促しているマイナンバーカードについて、平井卓也デジタル改革相は、まだカードを申請していない約8000万人に向けてQRコードで申請ができる交付申請書を送る方針だと発言している。

 また電車のホームドアと車両のドアの開け閉めをセンサーとQRコードを使って自動で行うシステムも開発されており、都営地下鉄浅草線で導入され、JR東海でも実用実験が開始される。

 全日空(ANA)は最近、QRコードを使ったスマートフォンアプリのサービスを開始すると発表している。ANAのマイレージ会員(約3700万人)を中心に「ANA Pay」という決済サービスを提供し、日常の買い物でマイルがたまるようになるという。

 とにかくQRコードが世界中で存在感を増していることは間違いなさそうだ。

 2020年を混乱に陥れた新型コロナは、そのインパクトゆえに世界のビジネスの在り方を一変させてしまう可能性が強い。そしてその変化を、QRコードも支えることになりそうだ。

(山田敏弘)