この1年の鉄道業界は、コロナ禍で利用者減少、決算見通しも今期は悪化という状況だ。そんな中、そろそろ来春のダイヤ改正の話が出始めている。今回のダイヤ改正で注目されているのが、「終電繰り上げ」の話だ。各社発表の概要を見ていこう。

●口火を切ったJR西日本

 最初に「終電繰り上げ」を打ち出したのは、JR西日本だった。JR西日本は2019年10月時点の社長記者会見で、近い将来に深夜帯ダイヤを見直すと言及していた。日付から分かるように、そのころはまだコロナ禍なんて存在していなかった。

 終電繰り上げの理由として挙がったのは、保守人員の不足、深夜帯利用者の減少といったもので、深夜帯利用者の減少については、夕方から夜にかけての利用者が増えているといった話もあった。

 20年3月のダイヤ改正では終電繰り上げを行わなかったものの、近い将来に実施されることは確定的だった。そして20年9月17日にその詳細を発表し、東京〜新大阪の「のぞみ」最終便で到達できる範囲が狭まることとなった。結果的には48本の列車が減るが、人件費や電気代などを節約できるという。

 またその他のメリットとして、深夜に保線作業の時間を長く確保できることから、労働環境を改善できるという。厳しい作業に従事してくれる作業員を確保できるということだが、実際には作業員の労働密度を落とし、あるいは長時間作業に従事できるようにするのだろう。

 筆者は、この動きが他社にも広がるか、大変気になっていた。

●コロナ禍と絡めて、大幅繰り上げを発表したJR東日本

 10月21日には、JR東日本が終電繰り上げの概要を発表した。その後28日に、公式ホームページに「2021年春 首都圏における終電繰り上げ等のお知らせ」を掲載。JR東日本が終電を繰り上げた理由が、このお知らせにかなり詳しく書かれているので見ていこう。

 まずは深夜帯の利用者数の減少だ。例として挙げられているのは、山手線の上野〜御徒町間の利用状況で、終日で32%、0時台で40%も減少しているという。首都圏の主な路線でも、利用者はおよそ30%減少しているという。

 鉄道工事を取り巻く環境が変化したことも理由に挙がっている。生産年齢人口の減少により線路保守作業員も減少したことで、現在およそ7000人いる保守作業員は、30年には10〜20%減少。にもかかわらず現在の工事量は、2010年比で10%増加しており、人材確保に向けた働き方改革が必要になっているという。

 工事の効率改善のために導入した保守用機械は、現在のところ準備面や実作業面で、手作業の工事より時間がかかっていた。終電を繰り上げ、始発を繰り下げることで、機械での作業時間を増やし、効率的に作業ができるようにするという。

 またホームドアやバリアフリー設備といった、安全やサービス向上のための工事を効率的に進めるためにも、作業の近代化や機械化が必要だとしている。

 実際の終電繰り上げは、路線によって異なるが15分から37分程度。東京着の最終新幹線からの乗り継ぎで到達できないエリアも出てくる。

 この動きを見て、私鉄各社はどう動いたか。

●続く私鉄の終電見直し

 小田急電鉄は11月4日に終電繰り上げを表明、西武鉄道は9日、東急電鉄は10日、京王電鉄は18日に相次いで終電繰り上げを表明した。理由は各社とも深夜時間帯の利用者減少と保線作業時間の確保で、JR東日本と同じだった。関西では京阪電気鉄道が5日に終電繰り上げを発表している。

 各社とも事情は同じなのだろう。終電の繰り上げは、列車の接続を図る上でも、各社一斉に繰り上げないと、乗り換えができなくなるという不便もある。

 特に京王電鉄はこれまで、都営新宿線と同時にダイヤ改正を行うことはあっても、他社と同日のダイヤ改正はあまり行っていない。その京王電鉄が、3月に他社などと合わせてダイヤ改正を行うと表明したのは異例のことだ。

 さらに同社は、10月30日にダイヤ修正を行っており、22時以降の列車を減少、深夜帯の京王ライナーの運転を中止。代わりに18時台に京王ライナーの運行を開始している。

 また来春のダイヤ改正の概要で、同社は京王八王子・橋本方面は、下りは15分から20分程度繰り上げ、上りは30分程度繰り上げると公表している。上り列車の繰り上げを行うと、都心に着いたとき接続する列車がないこともあるが、上りの繰り上げは、多くの場合あまりしっかりと伝えない。これをしっかりと明記するのは異例で、利用者を考えて注意喚起を行っていると言える。

●終電の繰り上げは、社会情勢が積み重なった結果

 JR西日本は、繰り返しになるが、コロナ禍以前から終電の繰り上げを検討していた。さらに世間で「働き方改革」が叫ばれ、長時間労働は悪いものとされる風潮が高まる中では、「ブラック企業」問題も看過できない。パワハラなどもあるが、主な問題は長時間の過酷な労働だ。一方、きちんと残業代を支払っている会社でも、人件費削減による残業代や、超過勤務の手当支払いをどう削減するかも課題になっていた。

 鉄道の保線作業員の不足も、コロナ禍以前から続く課題だ。人員不足を前提とした社会に適応すべく、機械化が行われている。またホームドアなどの工事が増えているのも、鉄道の安全性を高める目的だ。そのための工事時間も必要だ。こんな状況下で、朝早くから夜遅くまで運行を続けていたらどうなるか。働く人の過酷さは増すばかりだ。

 さらに現在の日本では生産年齢人口が減少し、一般の企業で働く人たちの数も減少している。社会全体の高齢化により、夜遅くまで働いたり、外でお酒を飲むことも減る傾向にある。大手居酒屋チェーンが業態転換を繰り返すのも、この中で生き残るためだ。

 そこへコロナ禍が到来した。飲食店への直接的な打撃に加え、終電繰り上げで飲食店はさらに厳しくなったが、すでに述べた通り、終電の繰り上げ自体は予想されていたものだった。

 鉄道各社は減収傾向が続いている。JR東日本に至っては、元に戻ることはないと予想する。しかしコロナ禍以前から、鉄道事業者は深夜の工事時間確保が必要であり、利用者は深夜に鉄道を必要としなくなっている状況があった。

 「安全」「コスト」「利益」を考慮すると、鉄道事業者としては終電をどのタイミングで繰り上げるかが悩みどころだったはずだ。少ないながらも、確かに終電は利用されていたからだ。だがコロナ禍で、その利用者も大幅に減少したことが、今回の各社による終電繰り上げ表明につながったと考えられる。

(小林拓矢)