韓国の航空最大手である「大韓航空」が、同国2位の「アシアナ航空」を買収することが決まった。新型コロナウイルスのまん延による航空需要の激減で、経営危機に陥っている航空2社を政府主導で統合することで、生き残りを目指す。政府系の「韓国産業銀行(KDB)」が大韓航空の持ち株会社「韓進KAL」の第三者割当増資を引き受け、大韓航空はその資金を使ってアシアナの第三者割当増資を引き受けて同社を子会社化する。買収総額は1兆8000億ウォン(約1700億円)を見込む。

 両社の統合によって、旅客と貨物の輸送量を単純合算すると、世界で10位程度の大航空会社になると報じられている。もっとも、これは新型コロナ前の数字の単純合算で、決して、規模の拡大による成長を狙った前向きな統合話ではない。新型コロナで国際間の人の移動が止まり旅客の激減に直面している世界の航空会社は、生き残りをかけてさまざまな手を打っている。早々に法的処理を決断、いったん経営破綻させたうえで、再建の道筋を探っているところも多い。タイの航空大手「タイ国際航空」やメキシコの航空大手「アエロメヒコ」、ブラジルの航空最大手「LATAM航空グループ」のブラジル部門などだ。

 一方で、欧州の航空大手「ルフトハンザ」や「エールフランスKLM」のように、政府が資本注入したり資本性資金を融資したりすることで、危機を乗り越えようとしているところもある。ルフトハンザはドイツ政府が20%出資するなど90億ユーロ(約1兆1000億円)にのぼる救済策を実行に移した。もっともEU(欧州連合)は競争法で政府の出資を厳しく制限していることから、政府からの資本注入は受けたものの、政府支援からの早期脱却を前提に、2割近い社員の削減など大規模な事業構造の見直しを行っている。

●「JAL、ANA統合論」の行方は?

 大韓航空によるアシアナの買収は、これまで韓国政府が進めてきた民間企業同士の競争促進という政策を事実上棚上げするものだ。韓国ではこれまでLCC(格安航空会社)の参入が盛んで、競争激化によって、新型コロナ前からアシアナは経営難に喘(あえ)いでいた。国の支援で巨大航空会社が誕生することにLCC各社は猛烈に反発している。LCCも経営が成り立たなくなっており、このままでは「実質国営」の1社に収斂(しゅうれん)されていくのではないか、という危機感がある。

 大韓航空とアシアナ統合のニュースを受けて、日本でも「JAL、ANA統合論」などが語られ始めている。航空需要の激減は日本でも状況は同じで、両社の業績が急速に悪化しているためだ。

 全日本空輸(ANA)を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD)が発表した2020年4〜9月中間期の連結決算は、純損益が1884億7700万円の赤字(前年同期は567億8700万円の黒字)に転落した。新型コロナの影響で、売上高が2918億3400万円と前年同期に比ベて72.4%の大幅減少になった。売り上げが1割減っても大打撃なのに、4分の1近くに減ったのだから凄(すさ)まじい。

 国際線の旅客数が19万人あまりと、前年同期の517万人に比べてわずか3.7%にまで落ち込んだほか、国内線の旅客数も467万人と、前年同期の5分の1になった。運休・減便や、使用航空機の小型化などを行ったものの、固定費負担が重く、営業損益は2809億5000万円の赤字(前年同期は788億8000万円の黒字)に転落した。

 夏以降、政府の「Go To トラベル」施策などによって、国内線は観光客が戻ってきたものの、国際線は相変わらずの運休・大幅減便が続いている。秋になって欧米での感染者が再び急増、死者も増えている。11月後半以降、日本国内でも感染者数が増加しており、Go To トラベルの一部利用自粛などが呼びかけられている。このままでは下期も大幅な営業赤字が続く。2021年3月期通期は連結決算としては過去最大の5100億円の最終赤字(前期は276億5500万円の黒字)を見込んでいる。

●年収は3割減 希望退職募集のANA

 ANAの経営は大丈夫なのか。

 9月末現在の「利益剰余金」、いわゆる「内部留保」は3612億円と、半年で1896億円減少した。ただし株主資本は8791億円あり、今期の赤字が多少膨らんでも債務超過に転落する懸念は薄い。

 問題は2022年3月期以降だ。仮にワクチンの普及などで新型コロナのまん延が早期に終息したとしても、人々の行動が元通りに戻るかどうか。特に不要不急と見ることもできる観光客などの航空需要が新型コロナ前に一気に戻るとは考えにくい。航空業界のような装置産業では売上高が1割減っても赤字になりかねない構造で、そうした中で黒字化に向けて、大幅なリストラが行われることになるだろう。

 すでにANAでは、大型機を中心に経年機35機を退役させる一方で、導入が決まっているエアバスA380型機やボーイング777Xの受領を遅らせることを決めている。利用者減に対応して利用機材を小型化することで燃料費を圧縮することもできる。2021年3月期に、変動費を3910億円圧縮、人件費など固定費も1520億円減らす計画だ。

 11月30日、ANAホールディングス傘下の全日本空輸が従業員組合に提示していた「冬のボーナスゼロ」を受け入れたことが明らかになった。一般職の基本給の削減については労使協議が続いているが、合意すれば、年収は3割減になるという。ANAは希望退職も募る方針を示しているが、基本的に給与の大幅減額などで雇用を維持する方針を示している。家電量販店のノジマや高級スーパーの成城石井、各地の自治体などの社外に12月までに約10社100人程度を出向させるほか、来春には受け入れ先を拡大して400人以上の社員を出向させるとしている。2022年3月期にはさらに2500億円の固定費削減を見込む。

 来年度以降、顧客がどれぐらいの水準まで戻るか。ANAでは2021年3月末時点で国内旅客がコロナ前の7割の水準、国際旅客が5割の水準に戻ることを、前提条件にしている。顧客数の戻りがこれよりも鈍くなれば、2020年3月期の5100億円という赤字額がさらに膨らむ可能性がある。また、2021年3月期に黒字化を目指すには、さらに大幅なリストラに踏み切らざるを得なくなる可能性が強まる。欧州のルフトハンザやエールフランスKLMは、すでに従業員の2割に当たる人員削減を打ち出している。ANAが希望退職だけで危機を乗り切れるかどうかは予断を許さない。

●JALとの合併は?

 当面の資金繰りには不安はない。9月中間期の営業キャッシュフローは1909億円の赤字だったが、投資を抑えたほか、長期借入金4356億円の借り増しで、9月末の現金及び現金同等物は4510億円と3月の2398億円から大幅に増加している。また、金利が高い代わりに返済の優先順位が低く、一部を資本に組み入れられる「劣後ローン」を、10月30日付けで4000億円調達した。2000億円ずつの返済期間が35年と37年という長期にわたる契約で、政府系の政策投資銀行がアレンジャーを務めている。手元資金が枯渇する前に、ポスト・コロナの市場規模に合わせた事業規模に縮小できるかが問われるわけだ。

 あるいは、それを回避するには、新型コロナ後を見据えて、成長市場を取り込むしかない。むしろ、こうした世界中の航空会社が苦境に立たされている時にこそ、将来の需要増が見込めるアジアなどの航空会社を傘下に収めたり、提携を拡大したりしていくべきだろう。政府系金融機関などからの長期資金を、「守り」のためだけに使うべきではない。

 ではJALとの合併はどうか。市場が急速に縮小している際に、ライバルの2社が合併するということは、1+1を1にするということに他ならない。しかも、国内航空市場が1社独占になれば、競争がなくなり、料金が固定的になり、利用者にデメリットが生じることになる。そうでなくても人口縮小で市場縮小が懸念される国内での合従連衡は最悪のシナリオである。(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)