JR東日本が、通勤向けの特急に力を入れている。常磐線の「ときわ」が時間帯によって通勤客を意識しているほか、高崎線方面「スワローあかぎ」は上りは朝だけ、下りは夕方から夜だけ平日のみ運行する。また中央・青梅線方面の「はちおうじ」「おうめ」も、どう見ても通勤客を対象にした特急だ。

 さらに来春のダイヤ改正では、特急「湘南」が東海道本線方面にデビューする。「通勤ライナー」が特急に格上げされ、車両も新しい車両になっていく。

 なぜ、このような列車が運行されるようになったのか。

●通勤ライナーと新特急

 国鉄時代の末期に、上野から北へ向かう列車の中に「新特急」と呼ばれる列車があった。列車種別としては「特急」だが、手軽に乗れることを意識して運行される近距離の列車で、黒磯方面への「なすの」、前橋方面への「あかぎ」、草津温泉への観光客を意識した「草津」があった。

 さらに「通勤ライナー」と一般に呼ばれる列車も運行されるようになった。特急車両の運用間合いを利用し、通勤客に料金を上乗せして着席してもらおうという列車だった。

 これらの列車は1990年代に多く運行され、特に帰宅時間帯は人気だった。その中でも多く運行されていたのが「湘南ライナー」だ。

 「湘南ライナー」は、東京〜小田原間で運行されている。また、新宿〜小田原間では「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」も運行されている。さらには特急車両を中心に、ライナー列車専用車両として製造された215系も使用されている。

 これら列車の人気が、JR東日本に「通勤向け特急」を走らせようという意識を抱かせた。

●短距離特急の隆盛

 加えて、特急券と定期券を組み合わせて利用できる列車が徐々に増えたこともあり、JRの特急にも通勤利用客が乗るようになった。房総方面への特急や、中央線方面の「かいじ」などは、そういう利用がよく見られる列車である。

 さらに房総方面への特急に至っては、通勤客が利用する時間帯にしか運行しない路線もある。もともとはビジネスや観光客に利用されていた列車が、通勤客にも利用されるようになったという経緯がある。

 また、私鉄の有料特急が通勤利用として普及したこともある。典型例が小田急のロマンスカーだ。一般の特急列車の停車駅を増やすほか、「モーニングウェイ」「ホームウェイ」という通勤利用をメインにした特急を運行することで、着席可能列車の新たな可能性が開拓されていった。

 西武鉄道は池袋〜飯能間の「むさし」、西武新宿〜本川越間の「小江戸」に力を入れ、東武鉄道も特急停車駅を増加、近年では「アーバンパークライナー」を運行させるようになった。

 そんな状況の中、JRも短距離の通勤向け特急に力を入れる。そしてこのタイミングで、消えていった「新特急」と「通勤ライナー」が交わっていくことになる。

●「スワローあかぎ」の登場と「えきねっとチケットレスサービス」

 従来の「通勤ライナー」は、乗車時に乗車整理券を購入して自由な席に乗るというシステムで、整理券は定員分のみ販売されていた。しかし座席を事前に予約したい、他地域からの利用者でも普通の特急として利用したいという要望も生まれてくる。そこへ、スマートフォンなどでの列車予約を簡単にできる状況が到来した。

 これらの要望に応えられるのは、車両を変えるときくらいしかない。そんな中、列車の車両は老朽化が進んでいた。だからこそ、車両を新しくする際にリニューアルするという考えも必然的に生まれた。

 短距離特急として通勤客の支持を得ていた「あかぎ」や、通勤ライナーとして人気があった「ホームライナー鴻巣」が一つになり、平日は「スワローあかぎ」となった。土休日には「あかぎ」も残されている。

 この「スワローあかぎ」の開始時に導入したのが、「スワローサービス」だ。交通系ICカードによる定期券を利用していることを前提として、特急券だけを事前にスマートフォンなどで購入できる。車内での特急券購入は事前購入よりも高く設定されているが、券売機で指定券だけ購入した場合は事前予約と変わらない。

 このシステムが導入されたことで、気軽に帰宅時に着席が保証されることになった。

 このシステムは、常磐線の特急で使用されていた651系車両に手が加えられて実現した。それもあり、同様のサービスが「えきねっとチケットレスサービス」として、「ひたち」「ときわ」にも広がった。

 「通勤ライナー」から特急への変更に対し、単なる値上げだという意見も当然ある。確かに、増収策である点は否定できない。しかし、一部座席指定制の定員制から、全座席指定制に変え、車両の質も向上させている事実から考えると、特急料金としては比較的安く設定されているとも考えられる。

●JR東日本は通勤特急の時代へ

 一方、中央線特急のE351系やE257系はE353系に置き換えられ、「あずさ」「かいじ」だけでなく、「はちおうじ」「おうめ」といった新しい列車が登場した。「はちおうじ」は東京〜八王子間、「おうめ」は東京〜青梅間の列車だ。「中央ライナー」「青梅ライナー」を置き換えた格好だ。

 そして来春、「湘南ライナー」を始めとする東海道本線方面のライナー列車は、特急「湘南」へと変わる。

 「湘南ライナー」は、数ある通勤ライナーの中でも人気の高い列車である。しかし使用されていた車両の多くが、老朽化した185系や、2階建て車両ながらもボックスシートの215系となっている。185系は国鉄時代の車両で、その全車両を中央本線や房総方面への特急車両だったE257系に置き換えるのを機に、「湘南ライナー」は特急「湘南」へと格上げされるのである。

 中央本線に新車が入り余剰となったE257系が、今年の3月に「踊り子」へ導入された。そのタイミングで「えきねっとチケットレスサービス」への対応、湘南や伊豆の海をイメージした座席への変更、充電用コンセントの設置といった改造を行った。来春にはすべての車両が置き換わり、「湘南」はこの車両を使用する。

 朝の時間帯は、小田原や平塚から品川や東京、新宿へ向かう列車が運行され、夕方や夜間は東京や新宿から小田原へと向かう列車が運行される。東京発のダイヤは、18時00分から23時00分まで毎時00分と30分で、利用しやすい。また大船から国府津までの停車駅は、細かく設定されている。

●テレワーク時代こその通勤特急

 コロナ禍の中で、人々のライフスタイルは大きく変わりつつある。毎日通勤することが重要だった時代には、より都心部に近い場所で暮らすことが重要視された。家は帰って寝る場所という認識しかないため、最低限の賃貸物件が注目されていた。

 しかしコロナ禍によりテレワークが普及し、在宅勤務が当たり前になると、そういった物件は好まれない。たまにしか会社に行かないのであれば、都心部から離れていても比較的広い家に住みたい、という志向が出てくる。

 そんな時代だからこそ、通勤向けの特急が注目されるのだ。有料特急での快適な通勤は、在宅勤務時代だからこそ注目される。

 通勤向け特急は、単に値上げしただけでなく、金額に見合った快適性も備えている。私鉄の見よう見まね、間合い運用といった試行錯誤の時代は、終わりを告げて久しい。快適な通勤を志向するこの時代だからこそ、JR東日本は、通勤向け特急を企業戦略として普及させようとしているのだ。

(小林拓矢)