2020年の自動車業界の最大トピックは、テスラの時価総額がトヨタを抜いて世界首位に立ったことだろう。テスラの20年7〜9月の世界販売台数は前年同期比で44%増の13万9300台だった。そのうち3〜4割が中国で販売されたようだ。

 販売台数では、トヨタや米ゼネラルモーターズなどの10分の1にも届かないが、新型コロナ感染が抑え込まれたことで、早くから経済活動が活発な中国マーケットを取り込み、業界に変革を起こした。

 テスラの成功を機に、19年は苦難の日々だった中国新興EVメーカーも息を吹き返すと同時に、アップルなどメガIT企業の自動車参入も報じられている。ここでは、21年に台風の目となりそうな、中国自動車業界の注目トレンドを紹介する。

●テスラは「モデルY」と充電器の現地生産で低価格を実現

 テスラは19年12月に上海工場で量産車「モデル3」の生産を始め、製造コストを大幅に削減。中国政府の販売助成金を受けられる価格にまで値下げした。モデル3の標準グレードは25万元(約400万円、助成金適用後)以下で買えるようになり、中国でEVブームのけん引役になっている。

 アフター・コロナの経済政策だったEV販売補助金は2020年いっぱいで打ち切られるが、テスラの勢いは来年も止まりそうにない。

 21年は中国で人気が高い小型SUV(多目的スポーツ車)の「モデルY」の現地生産も始める。また、テスラは12月23日、4200億元(約6兆6500億円)を投じて上海に充電器工場を建設すると発表した。

 同社は今年末時点で、既に中国290都市以上に充電設備を整備しているが、コストを下げながら充電インフラを拡充することで、消費者にとってEVをより身近な存在にし、市場拡大を図る。

●不動産大手は「35年にEV年間500万台販売」を宣言

 20年はテスラに引っ張られる形で、同社を追いかけて設立された中国の新興EVメーカーも業績を伸ばした。活気づく市場では、さらに異業種参入が相次ぐ。来年に向け最も注目されているのは、不動産コングロマリットの「恒大集団」だ。

 恒大集団の創業者で現会長の許家印氏は、一代でコングロマリットを築き上げ、17年に中国の長者番付で首位に立った。その後もアリババ前会長のジャック・マー(馬雲)氏、テンセントCEOのポニー・マー(馬化騰)氏とトップ争いをしている。

 恒大は18年から、医療・介護機関の運営を手掛ける「恒大健康」を通じて、自動車生産に必要な事業を“爆買い”してきた。そして20年8月、EV6車種を21年に発売すると発表し、翌9月には恒大健康の社名を「中国恒大新能源汽車集団(以下、恒大汽車)」に変更した。

 許会長は「25年までに(恒大ブランドEV車の)年間販売100万台、35年までに500万台体制を目指す」と宣言。さらに今年12月には、ビー・エム・ダブリューのMINI部門の設計責任者、アンダース・ワルミング氏がデザインし、テスラ「モデルS」がベンチマークとなる、量産1号EVの「恒馳1」に自ら試乗してアピールするなど、熱が入っている。

●データ収集するコネクテッドカーに注目

 恒大汽車は今年9月、テンセントや配車サービス最大手のDiDi(滴滴出行)、ジャック・マー氏のファンドなどから約40億香港ドル(約540億円)を調達した。

 同社以外の新興EV企業にも、アリババ、テンセント、シャオミ、バイドゥ、美団、バイトダンスなどメガITの資金が入っている。メガITやその創業者は資金力によって新しい産業を育て、既存産業をテコ入れする役割も担い、それが異業種提携を進める素地にもなっている。

 メガITが出資者にとどまらず、プレイヤーとして本格的に動き出したのも、20年のトピックだった。

 19年5月にコネクテッドカーソリューションを手掛けるビジネスユニット(BU)を設立したファーウェイ(華為技術)は、今年11月、同BUを従来のICT事業管理委員会から、スマホなどを管轄するコンシューマー事業管理委員会に移管した。

 ファーウェイは、スマホ事業が米国の規制を受け生産危機に陥っていることを受け、自動車メーカーに対し、ネットにつながる座席やハンドルを供給することで、新たな成長事業に育てようとしている。ファーウェイはさらに今年11月、国有大手の長安汽車、車載電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)と共同で、EV車を開発すると発表した。

 また、配車サービスのDiDi(滴滴出行)は11月、深センの自動車メーカーBYDと共同で、配車サービス専用コネクテッドカー「D1」を発表した。

 D1は、ディスプレイを使ってドライバーや乗客を監視するシステムや、ユーザーがカスタマーサポートと簡単にやり取りできる機能を導入。また、右の後部座席は電気モーターで開閉するスライドドアを採用し、音声かボタンでドアを開け閉め可能にするなど、配車サービスに特化した設計になっている。

 DiDiは20年10月に、国内の月間アクティブユーザー(MAU)が4億人を突破し、9月にはグローバルで1日6000万回配車を手配したとしている。製造した車両からユーザーの利用データと交通データを収集できるようになれば、想像もつかない新しいサービスが生まれるかもしれない。

●中国自動車業界は、変革可能性大のレッドオーシャン

 調査会社のIDGアジアは、20年から25年の5年間で、コネクテッドカー市場が年平均36%成長すると予測する。アリババも最近、自動車メーカーや地方政府と合弁でEVメーカーを設立しており、メガITが次世代自動車を成長の新たな柱として捉えていることが分かる。

 一方で、アリババ、ファーウェイ、DiDiのいずれもが、自動車メーカーと提携し、共存共栄する道を選択したことは興味深い。

 中国の自動車市場は、国有大手、「民族系」と呼ばれる民営企業、そして新興EVメーカーが入り乱れて競っており、成長が緩やかになれば、今度は淘汰が加速する可能性が高い。21年の台風の目玉と言われる恒大汽車も、先行する中国メーカーとの差を埋められるかは不透明だ。

 自動車産業は、IT企業の間でも変革の余地が大きいと同時に、レッドオーシャンでもあるという認識が広がっているのだろう。

(浦上早苗)