私は2021年から「コロナ」「新型コロナウイルス」という言葉をやめて「COVID-19」を使おうと思う。コロナはもともと「明るい言葉」だ。ラテン語で冠、そこから太陽の外周という意味に転じた。それがウイルスに似ているからと、コロナが病気の代名詞になった。人々の意識の問題として、まず、コロナという言葉のイメージ回復が必要だと思う。

 さて、鉄道業界に限らず、2020年は世界的に散々な年だった。COVID-19のせいだ。鉄道業界がどれだけヒドいことになっていたか、誰もが知っていることを書いても気持ちが落ちるから繰り返さない。私たちの関心は、2020年を「どん底にする」方法だ。そのために21年をいかに上向きにしていくか。その手掛かりになる。

●「終電繰り上げ」ダイヤ改正を前向きに捉える

 21年の鉄道業界の大きな動きは、3月に実施される全国ダイヤ改正だ。毎年恒例のことではあるけれど、今年は新線、新列車の誕生のような華々しさより、「終電繰り上げ」の印象が強い。不便になる人も多いかと思う。しかし、実は前向きな施策といえる。

 終電を繰り上げると利用者以外にも影響が大きい。飲食店や遊興施設などナイトタイムエコノミーはビジネス機会を失う。実は都会の真の終電は始発電車だった。都会の始発電車に乗ると、釣りやゴルフなど、早朝から出掛けて休暇を過ごす人の中に、前日を引きずる酔客や飲食店関係者、夜勤明けの人々が混じる。「終電が無ければ始発まで店内で過ごしてもらえばいい」という逆転の発想も、今は自治体からの時短営業要請でままならない。

 鉄道事業者は乗客減に悩み、少しでも経費を削減したい。だから利用率の少ない時間帯で減便する。これは事実。しかし、保守時間帯を延長して、携わる人員を確保したい。負担を軽減したい。これも事実。どちらも大都市の鉄道事業者では長年の課題となっていた。語弊があると承知で言うけれど、COVID-19のおかげで対策実施を決心できた。

 言うまでもなく、社会経済の問題はCOVID-19対策が解決する。鉄道業界のみならず、あらゆるビジネスがそうだ。しかし解決を信じた上で、その時のために今やるべきことはある。それが終電繰り上げだ。終電を繰り上げたとしても、車両や線路がある限り、すぐに元に戻せる。終電繰り上げは「元に戻せる施策」だ。

 しかしCOVID-19対策が長期化し、電車の寿命が来た場合、鉄道事業者は同じ数の代替車両を導入しにくい。しなの鉄道のように、新型車両の導入計画を遅らせ、古い車両を延命する会社もある。このまま車両延命の限界が来て、旅客需要の低迷が続き、新車導入を絞ったら、現在の運行本数にはすぐに戻せない。医療関係者が外出を控え、会食を控え、移動を控えろという理由は、人々の健康だけが理由ではない。COVID-19対策が長期化すれば、いずれ社会資本が持たなくなる。

 線路保守がはかどることは良いことだ。2020年終わり頃、高輪ゲートウェイ駅周辺で、明治5年の鉄道開業時の築堤が出土した。つまりここでは約150年にわたって線路を使っていた。もちろん整備改良が続いていたから現在まで使えたわけだ。大都市圏の鉄道は長期にわたって整備し続けていた。とはいえ、機会があれば刷新したい箇所もあるはず。東海道新幹線だって開業50年を超えて大改良の必要があり、それがリニア中央新幹線の建設理由の一つになっている。

 いつかCOVID-19対策が成し、再成長に転じたとき、より良い線路状態にしておく。今年のダイヤ改正はその準備と考えたい。

●堅調なSIT(Special Interest Tour)が景気回復のカギに

 医療関係者や自治体が旅行を控えろ、という一方で、民間企業では旅に出よう、経済を回そう、という動きがある。旅行する側としては矛盾しているように感じる。しかし、それぞれの立場は矛盾していない。どちらを支持するか、あとは自分で判断しなさい、ということだ。国が休日を定めないと会社を休めない、というタイプの人は戸惑うだろう。「自分で決める」という習慣を根付かせる良い機会かもしれない。

 鉄道に関していえば、COVID-19の対策として「3密」については回避できている。車両の換気は十分で、新幹線・特急の指定席を予約する場合は、利用者は画面に表示されたシートマップで空いている場所を選べるし、それができないシステムはいずれ改修されるだろう。座席選択できない場合も配慮されているようだ。私は昨年12月に東海道新幹線を4往復し、うち2往復は座席を指定できないツアー商品を予約した。どれも隣の席は空いていた。担当者の気配りがあったと思う。

 東海道新幹線では、アナウンスで車内換気の説明と、飲食以外のマスク着用、座席を回転して向かい合わせで利用しないよう呼びかけられていた。私の席の通路を隔てた隣のグループが座席を回転させていたけれども、いつの間にか戻していた。車掌の助言があったようだ。

 20年に低調だった旅行業界でも、「SITは堅調だった」という声がある。SITは「Special Interest Tour」の略で、博物館めぐり、史跡めぐりなど、趣味性の高い団体旅行だ。鉄道で言えば「SL列車に乗ろう」「観光列車に乗ろう」というツアーである。旅行会社は自主的に感染予防施策をとっており、参加者に健康申告書の提出や体温測定を義務付け、列車やバスでは1人分2席利用などの配慮がある。観光施設も入場制限しており、ツアーで申し込みを受ければ人数を把握できる。今後は感染対策で休館している施設も、対策を取った少人数のツアーなら受け入れる、となるだろう。

 旅行会社にとって、20年は企業の研修旅行、慰安旅行のキャンセルが痛手だった。それを補う意味もあり、企業向け旅行担当者はSITの開発、催行に努力していたという。そもそも旅行に関していえば、長距離の移動と宿泊が特殊なだけで、現地での観光、買い物、飲食は日常生活と変わらない。COVID-19対策の要点を押さえやすい。

 安心できる旅行商品は、景気の維持回復にとって大きな役割を果たせる。定員が少なくコストが上がってしまうけれども、それを感じさせない付加価値があれば集客できる。交通事業者と旅行会社の連携が重要だ。

 人間は衣食住を満たせば身体を維持できる。しかし、遊ばなければ精神(こころ)を維持できない。21年に必要なビジネスは「安全な遊び」の提供だ。そこに鉄道の商機もある。

●前向きなチャレンジに希望を

 20年に国民一人一人に実施された10万円の「特別定額給付金」については、「将来の不安から貯蓄に回ってしまった」「実質的に1万円しか消費に結びついていなかった」などの批判報道がある。私は食洗機を買って経済を回そうと思っていた。老母の負担を減らしたいという口実で、本音は「面白そうだから」。江戸っ子だからあぶく銭は楽しいことに使いたい。

 しかし、実際には被災したローカル線の寄付金、クラウドファンディングで使い切ってしまった。鉄道のネタでメシを喰ってるわけで、流行ったドラマのせりふを借りて言えば「恩返し」だ。もちろん返礼品目当てのクラウドファンディングもある。初めてふるさと納税を経験し、秋田県の電車「アオガエル」の修理に寄付した。それだけでも満足だったけれども、返礼品のきりたんぽ鍋が美味だった。

 本稿執筆中に四国からクラウドファンディングの返礼品が届いた。「リベンジ!寝台特急『なは』B寝台車両、同時輸送を叶えたい」だ。かつて寝台特急「なは」で使われていたブルートレインの客車が列車ホテルとして再生されたはずが破綻していた。現在は鹿児島県で放置されている。それを四国のうどん店店主が引き取り、再び列車ホテルとして再生したいという。

 私は最も低価格な1万円コースを申し込んだ。ただ車両を保存するだけなら見送っていたけれども、このプロジェクトは「ビニールハウスで車両を覆い劣化を防ぐ」というアイデアが面白かった。うまくいけば、今後の車両保存プロジェクトの参考になるだろう。その実験的な意義もある。

 このプロジェクトは目標額450万円に対して732万円を集めて成功した。手元にある返礼品のステッカーと記念きっぷ、礼状を読んで涙が出た。何かと暗いニュースが多い中で、前向きなチャレンジをした人がいた。私も含めて、そこに希望を持った人たちがいた。

 私がJR北海道の「流氷物語号」とゲーム『オホーツクに消ゆ』のコラボを手伝った理由も、自分にできる範囲で、何か明るいニュースを作りたかったからだ。JR北海道についてはつらいニュースが多いし、その施策に疑問もある。しかし、私が北海道の鉄道を応援したい気持ちに変わりはないから、自分にできる範囲でできることをした。窓口になってくれたJR北海道の関係者はどうか。直接やりとりはしていないし、30年前のゲームを知らないかもしれないけれど、明るい気持ちになってくれたらいいと思う。

●自分とそのまわりを明るくしよう

 1957年から60年以上も続くラジオ番組「心のともしび」は「暗いと不平を言うよりも、すすんであかりをつけましょう」と言い続けている。85年4月にユナイテッドテクノロジーズ社がウォールストリートジャーナルで掲載した意見広告は「You're in control of your small corner of the world. / Brighten it ... / You can.」と結んだ。「世界の中の一角、キミのまわりを明るくしよう。キミならできるよ」だ。同社の広告をまとめた本『アメリカの心』(学生社)によると、この広告のポスタープレゼントサービスに3万4676枚の応募があったという。

 国を憂う。世界を憂う。人類の将来を憂う。そこにとらわれると気持ちが押しつぶされそうだ。しかし、もっと小さな単位なら、なんとかなる。自分自身が明るい気持ちになること。次に、まわりに暗い人がいたら明るく照らすこと。一人一人が自分のまわりを明るくしたら、世界全体がもっと明るくなる。

 失敗してもいいじゃないか。失敗したらCOVID-19のせいだ。そう思えば気楽にチャレンジできる。そんな取り組みを応援し、伝えたい。

(杉山淳一)