企業の規模を問わず、新たなビジネスを始めるときに広く知られている理論があります。特にインターネット産業が花開いた2000年代以降、さまざまな事業が生まれ廃れていく中で、「再現性の高い理論」は新規事業を考えるうえでの王道として地位を固めています。

 しかし、いつの時代でも、大きな成功を収める新規事業は、常識にとらわれないビジネスモデルを展開して新たな市場を切り開いてきました。

 オンラインサービスの先進地である欧米に目を向けると、いくつかのスタートアップは、「常識的な目」では一見、王道と外れたビジネスモデルを展開しています。このような常識へ逆張りするスタートアップの動向を常にウォッチし、新しい勝ち筋を早期に発見することは、日本企業の新規事業を考えるうえでも大事になってきます。

●デジタル調剤薬局を目指すAlto

(1)Alto

・提供サービス:デジタル調剤薬局

・地域:米国サンフランシスコ市

・設立:2015年

・投資家:DST Global、Softbank Vision Fund 2など

 事業の立ち上げ期には大きな固定資産を持たないアセットライトな運営に徹することは、インターネット関連新規事業の一つの定石となっています。実際に、さまざまな業種で生まれている領域特化ECの多くはオンライン上での取組みに特化し、製造、物流、店舗対応などのハードアセットを保有しないビジネスモデルを志向しています。

 これに対し、Altoは物流拠点を自前で有し、かつ配達員や調剤技師なども自社雇用するなど、リアルとオンラインの両面において新時代のデジタル調剤薬局を目指しています。

 Altoが提供するWeb/アプリサービスは患者と医師の両サイドをつなぐプラットフォーム。患者はアプリ上で医師や薬剤師に医療相談をすることができ、実際に処方を受けたのちは処方薬の配達スケジュール設定や服用した薬剤の管理が可能です。一方、医師の視点では、自分をかかりつけ医とする患者の管理や服用薬のチェックが可能となります。

 Altoがユニークであるのは、患者と医師の単なるマッチングプラットフォームではなく、URAC(米国の非営利の医療機関認証組織)で認証された認証薬局であることです。これは各種文献からの想像に過ぎませんが、恐らくAltoのマネタイズポイントは、一般的なオンラインサービス事業者が好むユーザーからのサービス利用料や、デリバリー手数料、広告収入などに頼るのではなく、伝統的な調剤薬局と同様の調剤売上がメインです。また、物流拠点、配送網も自前で保有しているため、一般的なオンラインサービス事業者に比べて高固定費であり、地理的な視点での拡張性にも制約があるはずです。

 あくまで患者にとっての医療プロセスの最適化を目指し、リスクを取りつつもオンラインとリアルの両面にまたがって事業展開をしているAltoの取組みは、このパンデミック化においては医療業界だけでなくさまざまな異業種からの注目が高まってくるかもしれません。

●”前払い”で注目を集めるPurple Dot

(2)Purple Dot

・提供サービス:ECサイトへの前払い機能のプラグイン

・地域:英国ロンドン市

・設立:2019年

・投資家:AI Seed Fund、Connect Venturesなど

 現在のEC業界、決済業界を語るうえで、いわゆるBNPL事業者(=Buy Now, Pay Later クレジットカードなどの既存インフラに依拠しない後払い)の存在を欠くことはできません。海外ではAfter Pay(豪)、Klarna(スウェーデン)、Affirm(米)などが時価総額1兆円を超える勢いで成長しています。

 さて、後払い事業者の台頭を尻目に昨年ロンドンで創業したのが、消費者に事前デポジットをさせることでECサイトに確実な販売機会を提供する「Pay Now, Buy Later(前払い)」とでも呼ぶべきコンセプトを提唱するPurple Dotです。この前払いの仕組みは以下の通りです。

(1)消費者はPurple Dotを導入するECサイトにおいて購入したい商品を選択し、定価よりもディスカウントされた金額(およそ25%減)を前払いする

(2)そのディスカウント金額での販売を受け入れるかどうかはECサイト事業者が都度決定できる

(3)ECサイト事業者が販売を受け入れた場合は、前払い済みのディスカウント金額で売買完了する

(4)逆に販売を受け入れない場合は、消費者は前払いした金額の返金を受けることができる

 Purple Dotは上記のような前払い機能をプラグイン形式でEC事業者に提供し、売買が成立したときに売買金額の5%を手数料としてECサイトから徴収します。現時点ではファッション系ECに注力しており、ECサイト視点では季節要因や売れ行き状況などを考慮してディスカウント販売を行うことで、在庫ロスの最小化を図ることができるプロダクトです。

 先に紹介したAltoとは対照的に、Purple Dotは固定費やリスクを極力排除する、アセットライトなビジネスモデルという印象です。Purple Dotを導入するECサイトが全ての商品販売責任を負い、ユーザーとなる消費者に前払いを課すことで信用リスクからも解放されます。

 まだ事業立ち上げから1年強という若い企業ですので、ディスカウント設定を含む業務プロセスは手運用の部分が多く残されている可能性は高いですが、取引量の累積が進めば商材ごとの(ECサイトと消費者の両方にとっての)最適価格についての学習が進み、データカンパニーとしても存在感を持ちうるポテンシャルを秘めています。

●オンラインの行動変化に対応するOnce App

(3)Once App

・提供サービス:ノーコードでのECサイトUI構築(モバイル最適化)

・地域:仏国ヌイイ=シュル=セーヌ市

・設立:2019年

・投資家:Y Combinatorなど

 最後にご紹介するのがInstagramに代表される、若い世代の消費者のオンライン行動変化に対応するスタートアップであるOnce Appです。

 Shopifyなどのインスタントカート事業者やマーケットプレイス事業者の成長によって、あらゆる業種で中小企業や個人事業主のオンライン化が加速しています。海外でも日本でも、誰もが簡単にオンラインサービスを開始できるようにするプロダクトが存在しますが、それらの多くはパッケージ化された商材管理機能、顧客管理機能、決済管理機能などを提供するものです。

 Once Appが目指す世界観はそれとは一線を画しています。ECサイト運営者はShopify、Wix、WooCommerceといった既存のプロダクトをそのまま利用し続けたうえで、消費者との接点にあたるECサイトのストアフロントのみをOnce Appは提供します。

 Once Appが提供するストアフロントは極めて直感的です。分かりやすく一言で言うならば、Instagramのストーリーのような印象です。

 ECサイト運営者は、難しいコーディングなどの手間なく、ノーコードにて現在の最新トレンドに即したUIを実現できます。ECにおいてカゴ落ち率の削減は長年の業界全体課題ですが、Once AppのようなストアフロントのUIに特化したサービスは、カゴ落ち問題の一つの解につながるかもしれません。

 今回ご紹介した企業はまだ非常に若く、このビジネスモデルが社会に受け入れられるかどうかは分かりません。しかし、国は違えど、新規事業を考える人たちにとって、常識にとらわれない逆張りスタートアップの取り組み研究は面白い示唆を得るチャンスだと思います。

(中山悠介)