世界中で感染拡大がおさまらない新型コロナウイルス。

 そんな中、新型コロナ発生源とされる中国では、世界経済が大変な状況にある中で経済が復活しているという。2020年のGDP(国内総生産)の伸び率は前年比でプラス2.3%。プラス成長を保っている。

 一方、世界の国々はまだコロナ禍の影響から抜け出せない状況が続きそうだ。そんな中、特に米国のIT業界では新たな動きが出ているという。米ITビジネスの中心地だったシリコンバレーに大きな変化が起きているのだ。

 コロナ禍で行われた大統領選以降、国内情勢が混乱している米国だが、バイデン政権が発足したことで次の時代に移っていくことになる。その流れとともに、IT企業でも変化が加速しているようだ。

●テレワークが変えた“オフィスへの投資”

 シリコンバレーをめぐる近年の大きな変化は、IT企業などのシリコンバレー周辺からの脱出である。いくつもの有名企業がシリコンバレーを去り、数多くのIT関係者らもシリコンバレーと近隣のサンフランシスコから離れているという。実は少し前から始まっていた傾向だが、最近特に名だたる企業のシリコンバレー離れが目立っている。

 その理由はいくつかあるが、まずはIT企業でリモートが推奨され、テレワークが普通になっていることだ。シリコンバレー周辺はオフィス賃料や住宅価格がかなり高いことで知られているが、もはやそんな高い家賃を払わずとも、従業員たちももっと暮らしやすい地域に移動して仕事をしても支障がなくなりつつある。

 シリコンバレーではかつて「20分ルール」なるものが囁かれていたことがある。シリコンバレーの投資会社はオフィスから車で20分以内のところにある企業以外には投資しない、という話だ。投資先のスタートアップなどに頻繁に関わっていくべきという意味なのだが、コロナ禍でリモートワークがトレンドの今なら、もうそんなルールは時代遅れだろう。

 日本でも緊急事態宣言が発出されてから、良い環境で外出制限期間を乗り切るため、熱海など各地の温泉地でテレワークをしながら滞在してもらおうとする動きがある。多くの職種で、どこにいてもテレワークさえできれば仕事に大きな支障はないからだ。

 さらに最近では、人材サービス大手のパソナグループが瀬戸内海東部の淡路島に移転すると発表して話題になった。芸能プロダクション大手のアミューズが山梨県の富士山麓に本社機能の一部を移転する計画があると週刊文春が報じている。また、電通グループも、東京都港区の本社ビルの売却を検討しているという。いずれも、コロナ禍でリモートワークが普及したことがその理由だ。

 米国企業では、TwitterやDropbox(ドロップボックス)が完全に自宅で勤務する選択肢を与えており、企業としても広大なオフィスを維持する必要性がなくなりつつある。Yelp(イェルプ)やAirbnb(エアビーアンドビー)などと同様に、彼らはオフィスをサブリースに出そうと画策しているという。

 また写真共有サービスを提供するピンタレストは、現在サンフランシスコで借りている本社から、さらに拡大した新築オフィスへ移転しようとしていたが、20年8月に中止。新型コロナでリモートなど働き方が変わってきたことで、オフィスよりも「さらに幅広い人材に投資する」ほうが賢明だと方向転換した。

 ヒューレット・パッカード・エンタープライズもオフィスの維持費などを鑑みて、本社をテキサス州ヒューストンに移す方針だ。

●「リベラルすぎる空気」に違和感

 IT企業がシリコンバレーを含むサンフランシスコ湾岸地帯を離れるもう一つの理由は、「イデオロギー」的なものもある。シリコンバレーのリベラルすぎる空気に違和感をもつIT企業などがシリコンバレー周辺に見切りをつけている。

 例えば、最近世界一の資産家になった米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)もその一人だ。カリフォルニア州はマスクにとってはいい場所ではなかった。労働組合にからんで労働関係法違反と認定されたり、新型コロナの脅威を否定して会社を最後まで閉じなかったことで当局とももめた。「新型コロナウイルスのパニックはバカだ」とツイートしたり、工場再開のタイミングについても当局にかみ付いたりしている。

 そして結局、20年12月にはテキサス州に移住してしまった。テキサス州は州所得税もなく(カリフォルニア州は13.3%)、資本利得税もない。

 マスク以外にも、PayPal(ペイパル)の共同創業者であるピーター・ティールも、少し前だが、イデオロギー的にシリコンバレー周辺には暮らせないとして引っ越した。彼がトランプ支持者だったことも、シリコンバレー周辺にいづらくなった理由だとの話も出ている。いまはロサンゼルスを拠点にしていると報じられている。

 こうした脱出組は、テキサス州やフロリダ州、ワシントン州シアトル、ジョージア州アトランタといった土地に流れているという。

 テキサスに移住した人たちといえば、例えば次のような有名人がいる。ビッグデータ分析のパランティア・テクノロジーズの共同設立者ジョー・ロンズデールや、ドロップボックスのドリュー・ハウストンCEOだ。テキサス以外では、オラクルの創業者ラリー・エリソンはハワイに移住、パランティアのCEOであるアレックス・カープはコロラド州デンバーに居を移している。

●見たことがないレベルの空室率に

 こうした動きから、現在、シリコンバレーでは空室率が16.7%になっており、この数字はここ10年で見たことがないレベルだという。さらに賃料も、1年前から27%も下がっている。売り物件も増えており、不動産業者への問い合わせはサンフランシスコ周辺から引っ越す相談のケースがかなり増えているという。

 米ケーブルチャンネルのCNBCの取材に応じた、シリコンバレーからフロリダ州マイアミに移住したある起業家は、「ここのほうが人はハッピー。1日が終わって人と会っても、彼らは笑顔でいる。サンフランシスコならそんなことはあり得ないね」と語っている。

 またニューヨーク・タイムズ紙によれば、Facebookの「リービング・カリフォルニア(カリフォルニアを去ろう)」というページには3万3000人の会員がいるという。さらに「ライフ・アフター・カリフォルニア(カリフォルニア後の生活)」というページには5万人以上の会員がいるらしい。コロナ禍を背景に、シリコンバレー周辺から脱出する人たちが少なくないという記事もよく見かけるようになっている。

 もう流れは、「脱シリコンバレー」ということなのだろう。

 もちろん大手はまだシリコンバレー周辺から離れずビジネスを続けているが、それでも、特筆するほど多くの企業がシリコンバレーを後にした。もっとも、これまでシリコンバレーに企業などが集中しすぎていたため、それが分散されつつあるということで、「普通」に戻りつつあるのかもしれない。イノベーションの象徴だったシリコンバレーが新たな次元に入っている。

●シリコンバレーは“過去のもの”となるのか

 米国ではバイデン政権がスタートした。これからGAFAやシリコンバレーのIT業界に対してバイデン政権がどんな対応をしていくのか、ビジネスパーソンにとっても関心事であろう。GAFAなどは大統領選ではバイデンを支持してきたのだが、独占禁止法違反や課税、コンテンツ規制など、ここのところ特に厳しい当局の姿勢が大きく変わることはないだろう。

 バイデンは米国通信品位法の230条(ネットのコンテンツやSNSなどの投稿に対して、一部例外を除きSNS企業やプロバイダーに法的責任はないとする法律)の撤廃を主張しているし、民主党内では、GAFAなどの解体論や規制強化を主張する人たちもいる。GAFAと蜜月だったオバマ時代に副大統領だったバイデンだが、大統領になった今、GAFAをめぐる環境も様変わりしている。

 そうした政権からのプレッシャーも強まれば、IT企業のパワーがそがれ、ますますシリコンバレーは過去のものとなるかもしれない。2021年、イノベーションの象徴だったシリコンバレーから離れていく米テック業界には注目だ。

(山田敏弘)