ヤフーは2月1日から、ヤフーの各種サービスでの特典として付与されるポイントを、従来の「PayPayボーナスライト」から、有効期限のない「PayPayボーナス」に変更すると発表した。

 「有効期限を気にせず買い物が可能になる」と同社はコメントしているが、そもそもなぜ似たような残高やポイントに、複数の種類があって有効期限などが異なるのだろうか。また、どうして手間のかかる本人確認が必要な場合と、必要でない場合があるのだろうか。代表的なサービスとしてPayPayを例に、どんな仕組みなのかを見ていこう。

●電子マネーを取り巻く法律

 まずPayPayが用意している4種類の残高について概要を確認しよう。

 PayPayマネーは残高の中でも最も自由度の高いものだ。支払いを行う場合も、使用の優先順位は最後になる。この残高は、資金決済法に基づいてPayPayが取得した資金移動業の登録のもと、ユーザーから預かったお金にあたる。

 日本では、ユーザーのお金を送金するいわゆる「為替取引」は銀行でないと行えなかった。しかし2010年に施行された資金決済法によって、別のユーザーへお金を送金できる資金移動業者が生まれることになる。これによって、銀行口座から現金をチャージしたり、チャージしたお金を口座に現金として出金できるようになった。

 ただし銀行とは違い、いくつかの制約もある。扱える取引や送金は100万円まで。さらに基本的に預かった金額の100%以上を法務局に供託して、資産を保全しなくてはならない。そして、マネーロンダリングを防ぐため犯罪収益移転防止法の規制を受けるため、本人確認を行わなければならない。

 Fintech協会理事の落合孝文弁護士(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業)は、「本人確認自体が目的ではなく、アンチマネーロンダリングやテロ資金対策には、誰がこの行動をしているのか分からないと対応できないので、資金移動業者は本人確認を行っている」と話す。

 さらに銀行口座への出金が可能なため、クレジットカードからのチャージも行えない。これは、クレジットカードのショッピング枠を現金化できてしまうからだ。消費者への被害が出たことなどを背景に、クレジットカード各社は自主規制的に対策、規約で禁止としている。

 なお、こうした規制は海外ではあまりないようだ。英国発のチャレンジャーバンクで、国内でも資金移動業の登録のもとにサービスを行うレボリュートによると「日本特有」だという。

 もう一方のPayPayマネーライトは、いわゆる電子マネーだ。商品券やテレホンカードなど、また交通系電子マネーのSuicaもこの仲間に入る。法的には、資金決済法で定められた「前払式支払手段」にあたる。

 PayPayマネーとの違いはクレジットカードからチャージできること。また、銀行口座への出金ができないことだ。Suicaは解約時に残高の払い戻しが可能だが、これは例外的な扱いになる。また、口座に出金できないことからマネーロンダリングの可能性が低く、本人確認も必須ではない。また未使用残高の2分の1以上を供託する必要もある。

 いわゆる送金について、法的には「移転の明確な制約はないが、元々譲渡制限を付けているサービスがほとんどで、従来は移転できないものが多かった」(落合弁護士)。また、入金額の上限も規制されていない。

 3つ目のPayPayボーナスは、いわゆる企業発行のポイントにあたる。PayPayでは、決済額の一定率を還元する際に付与している。法的には、ユーザーが対価を払って得たかどうかが、基準になる。銀行口座からのチャージやクレジットカードからの支払いのように、対価を払えば資金決済法の規制対象になるが、「おまけ」や「景品」として提供されるなら、規制適用外だ。

 つまり「購入できない」のがポイントの特徴だ。資金決済法で規制されていないため、供託は必須ではなく、ほとんどの企業では自社内に引当金を積むことで対応している。PayPayでは「前払式支払手段の一種で譲渡ができないもの。無償発行なので、供託金は積んでいない」としている。つまり、企業が倒産した場合はポイントは消滅してしまう可能性もあるわけだ。

 一方で、割引や景品として提供されるものであるため、景品表示法(景表法)では規制される。例えば、大規模なポイント還元の際に「20%還元」がうたわれることがあるが、この20%以内を定めているのが景表法になる。そのほかには特段ポイントを規制する法律はなく、他人への譲渡(いわゆる送金)可否も事業者の判断となる。

 前払い支払手段の電子マネーとは違い、投資信託などの価格に連動して増減する疑似投資も可能になっている。PayPayの場合、「PayPayボーナス運用」という名称でサービスを提供している。dポイントや楽天ポイントでも同様のサービスがある。

 最後のPayPayボーナスライトは、PayPayボーナスに有効期限を設けたものだ。PayPayの場合、キャンペーンなどの特典で付与することが多い。楽天ポイントでいえば「期間限定ポイント」、dポイントでいえば「期間・用途限定」にあたる。

 有効期限は利用者には制約となるが、発行する企業側にはメリットもある。失効した分は引当金を積む必要がないだけでなく、利用されると見積もった分だけを引き当てればいいからだ。過去の実績から、ポイントの半分が使われずに失効しているようなら、引当もそれに応じて減らせるということになる。

●デジタル金融サービスの進展に法は追いつけるか

 このように複数の法律により、一口に「残高」といっても種類が分かれる。複雑であり、利用者から見ると判別のつきにくい各種残高だが、落合弁護士はそのメリットもあると話す。

 「複数の類型が入り混じっているのは確かに分かりにくい面があり、事業者が説明をより一層分かりやすくしていく必要がある。一方で、いくつかの枠組みがあることで、それぞれのリスクに応じて、できることとできないことがあり、規制を合理化できる利点もある。必ずしも規制を単純化することが良いわけではない」

 ただし各サービスで呼称が異なるのは混乱を招きそうだ。残高、マネー、バリューなど呼び方は多種多様で、どれが預り金で、どれが前払い支払手段で、どれがポイントなのかは一見すると分かりにくい。企業の倒産時にも保護されるのはどれなのかも、明確には判別できない状況だ。

 そもそも既存の法律は、いわゆる昔ながらの商品券の発行を行う事業者を前提に作られたような規制もあり、日進月歩で進化するデジタル金融の実態に必ずしも即していない。例えば、アマゾンギフト券のように、資金決済法が定める前払式支払手段が譲渡されて、そこから悪用がされることは想定されていなかった。そもそもKyashのようなチャレンジャーバンクは、適切な法がないまま、既存の法律の解釈の中で事業を行っているといってもいいかもしれない。

 法自体も世の中の実情を反映して変化している。20年6月に成立した改正資金決済法では、一律100万円だった取り扱い額にバリエーションを設け、100万円を超える送金も可能な第一種資金移動業者(認可制)や、従来と同様の第二種資金移動業者、少額送金に限定されるが供託ではなく分別管理も認める第三種資金移動業者の3つが新たに定められた。また、資金移動業者が銀行のように信用創造を行うことを禁止する整備も行った。

 デジタル金融サービスの歩みを止めないためにも、実情に合わせた法の整備とともに、利用者が保全や制約についてしっかり理解できる形にしていくことが求められるだろう。