仕事の合間に、タバコをプカ〜。愛煙家にとってはたまらない時間かもしれないが、ご存じの通り、喫煙率は年々減少している。厚生労働省の調査によると、2019年に「タバコを習慣的に吸っている」人の割合は16.7%(男性27.1%、女性7.6%)。調査を始めた1986年以降、最も低い数字となっている。

 喫煙者の数が減っている理由として、何があるのか。プラネットの調査によると、「自分の健康のため」(61.4%)を挙げる人が最も多く、次いで「タバコ代が高いから」(37.4%)。タバコを吸わない人からも「分かる、分かる」「そりゃ、そうでしょ」といった声が聞こえてきそうだが、個人的に気になったのは3位の「喫煙可能な場所が減ってきたため」(17.5%)である。

 その昔、飛行機の中、電車の中、映画館の中などでも吸えたのに、いまではオフィスで吸えなくなって、居酒屋でも禁止のところが増えてきた。愛煙家の肩身は狭くなるばかりで、「どこで吸えばいんだよ」といった嘆きの声が聞こえてきそうだが、そこにビジネスチャンスがあるのでは? とキラーンと目を輝かせ、東京都内で喫煙所をじわじわ設置している会社がある。「スキマ デパート」(東京都千代田区)だ。

 自動販売機に可能性を感じ、飲料以外の販売にチカラを入れている同社は、なぜ喫煙所に着目したのか。また、喫煙所にデジタルを加えることで、次の未来をどのように描いているのか。スキマ デパートの岡部祥司取締役に話を聞いた。

●狭いスペースに広告を表示

土肥: スキマ デパートは飲料だけでなく、ちょっとユニークな商品を自販機で仕掛けていますよね。サイバードの恋愛ゲーム「イケメンシリーズ」とコラボして、「缶バッジ付き天然イケメン水」(800円、税込、以下同)を販売したり、グラノーラ専門店でお試しサイズの「限定グラノーラ」(250円)を扱ったり。こうした自販機のことを「自由販売機」と命名して、現在は20台ほど稼働している。2021年中に100台以上の設置を目指しているようですが、なぜ個性的な自販機を扱うようになったのでしょうか?

岡部: 当社は2015年に、自販機ベンダー事業を手掛ける会社を買収しました(旧エスディ・ジャパンから20年に商号変更)。当初の契約台数は600台ほどでしたが、飲料メーカーの商品を横断的に扱う「100円自販機」に注力し、21年1月末時点では約3300台、2月末には5000台を超える見込みなんですよね。

土肥: 自販機の台数を順調に増やしているようですが、もともとは自販機事業をやっていないですよね。ちょっと調べたところ、不動産に関わる管理や税務などのほかに、投資関連の事業を行っています。

岡部: 自販機ベンダーを買収する前の話になりますが、不動産関連の事業を展開していることもあって、マンションなどのオーナーさんからいろいろな声がありました。ある人からは「敷地内の植え込みスペースにゴミを捨てられて、困っている。なんとかできないですかね」といった相談がありました。

 場所は原宿。立地は悪くないのですが、とても狭いスペースでした。月3万円で借りて、そこに広告を表示することに。すると、15万円で貸すことができたんですよね。「これはちょっと面白いビジネスができるかもしれない」と考え、街中を歩いてみると、使っていない狭いスペースがたくさんあることが分かってきました。狭いスペースを見つけて広告を表示したり、自販機を設置したりすれば、もうけることできるのではないか。しかし、強力なライバルがいました。

土肥: 飲料メーカーでしょうか? 狭いスペースに自販機を設置していますからね。

●カレーのルーを販売して「大成功」

岡部: はい。こちらが安く借りようとしても、飲料メーカーさんが高く借り上げる。なぜ、そんな高額で借りることができるのか。自販機って、そんなにもうかるのか。いくつかの疑問が出てきたので調べてみると、自販機での売り上げだけでなく、筐体に社名や商品名などを表示することで広告的な要素も含まれていることが分かってきました。

 当社のような小さな規模の会社で、大手飲料メーカーさんとの競争に勝つことはできません。本業の不動産関連にチカラを入れながらも、「狭いスペースで何かすることができないか」と考えていたところ、自販機ベンダーの会社を買収することができ、そこから自販機にもチカラを入れていくことになりました。

土肥: 2015年の買収時には639台でしたが、2年後には1000台を突破。その後も順調に伸ばしていき、20年には3300台に達している。どういったきっかけで「自由販売機」を始めることになったのでしょうか?

岡部: インド料理のチェーン「サムラート」さんの店前に自販機を設置したところ、店側から「カレーのレトルトをつくったので、自販機で売ってくれませんか?」という話がありました。「うーん、カレーのルーって売れるのかな」と思ったのですが、商品を並べてみることに(350円)。缶に入れて販売したところ、予想以上に売れたんですよね。

 その自販機は30商品を販売できますが、ルーは3商品だけ。にもかかわらず、ルーだけで月に6万〜7万円ほど売れました。一般的な飲料自販機の場合、月の売り上げは5万〜6万円ほどなので、カレーのルーを販売したことは「大成功」だったんですよね。こうした経験があったので、事業コンセプトを「小さなスペースから世の中を面白くする」として、空きスペースと商品を売りたい人をつなぐ役割ができないかと考え始めました。

土肥: 具体的にはどんなことを?

岡部: 読売ジャイアンツや横浜DeNAベイスターズのオリジナルグッズなどを販売したり、ジンズさんのコンタクトレンズを扱ったり。このほかにも宝飾品を扱うブランドの香水や、アニメのグッズなど、さまざまな商品を販売してきました。そんな中で、20年に喫煙所をオープンしました。渋谷や市ヶ谷など都内で12カ所展開していて、今年の3月末までに20〜30カ所に増やす予定。今後は都内で200カ所の設置を計画していて、将来的には大阪などにも展開することができればと考えています。

●喫煙所と自販機の相関関係

土肥: 「喫煙所でビジネスを……」といった発想はなかったのですが、どういったきっかけで始めることになったのですか?

岡部: 自販機を設置するにあたって、土地のオーナーさんに「ここ空いていますか?」といった感じで、情報をとりにいくのですが、そうしたときに自販機を置くには「ちょっと広いなあ」といったところがあるんですよね。例えば、喫煙所1号店を代々木にオープンしたのですが、そこの土地は10坪。このくらいの広さになれば、自販機を設置するだけだと広すぎる。「じゃあ、なにか他のモノを設置して、有効活用することはできないかなあ」といった話になったんですよね。

 「自販機の台数を増やすのはどうか」「キッチンカーの運営者に貸すのはどうか」といった議論をしていたときに、相関関係に注目しました。とある場所に、自販機を設置したところ、売り上げがものすごくいいんですよね。ロケーションはそれほどよくないのに、なぜか売れている。理由を調べてみると、近隣にある酒屋さんの店内に灰皿が置かれていて、そこでタバコを吸っている人たちがたくさんいたんです。

 つまり、タバコを吸っている人たちが近くにある自販機で缶コーヒーなどを購入していました。ということがあったので、喫煙所1号店をオープンしたところ、そこに設置した自販機の売り上げはものすごくよかったんですよね。

土肥: 確かに、タバコを吸っている人たちは缶コーヒーなどを片手に持ちながら、プカ〜と吸っている印象があります。ただ、気になることが一つ。この記事を読んでいて、タバコを吸わない人たちから「家の近所に喫煙所ができたら、煙がくさくて嫌だな」「通勤の途中に喫煙所ができたら、スモーカーがたくさん群がっていて近づくのが嫌だな」といったネガティブに受け止めている人もいるはず。

岡部: 誤解していただきたくないのですが、当社は喫煙所を設置することで、タバコを吸う機会を増やしたいと思っているわけではありません。受動喫煙防止条例など法律が変わって、喫煙所が減少しました。ということもあって、隠れてこっそり吸う人が増え、街の環境が悪くなることを懸念しています。マナーをきちんと守ってもって、吸う人と吸わない人にとって快適な環境をつくることができればなあと思って、喫煙所をオープンしました。

 タバコを吸わない人にとって、タバコの煙って嫌ですよね。喫煙所の近くを歩いて、「臭いなあ」と感じるのはよくないことだと思っているので、喫煙所は基本的に室内。タバコの煙が外に出ない設計をしています。また、移動車両を設置して、その中でも吸えるようにしました。

●喫煙所にカギを設置して

土肥: ちょっと広いスペースの土地があれば、そこに喫煙所を設置して、いわば“集客装置”の役割で人を集める。タバコを吸っている人たちは、敷地内にある自販機を目にして、「ちょっと缶コーヒーでも買おうか」となる。結果、スキマ デパートの売り上げが伸びるという形ですね。ちなみに、喫煙所の広さはどのくらいで、1日にどのくらいの人が利用しているのでしょうか?

岡部: 10坪前後のところが多く、利用者は1日1000人から1500人ほど。多いところだと、2000人を超えることも。

土肥: 2000人! それはスゴい。人がたくさん集まれば、自販機の売り上げを伸ばすだけでなく、違う展開もできそう。

岡部: 都内在住の人で喫煙家はどのくらいいるのか。ちょっと調べたところ、300万人ほどいるんですよね。ただ、そうした人たちがどういった行動をしているのかといったデータは、ほとんどない。喫煙所を利用しているのはどういった人たちなのか、いつ吸っているのか、どこで吸っているのかなど。行動分析ができるデータを集めることができれば、なにか違ったことに役立てることができるかもしれません。

土肥: その情報は、どのようにして手にいれるのですか?

岡部: 現在、喫煙所にはカギがついていません。20歳以上であれば利用できるわけですが、そこにカギをつけてみてはどうか。じゃあ、どうやってそのカギを開けることができるのか。QRコードを使えば、うまくいくのではないかと考えているんですよね。

 アプリをダウンロードして、個人情報を登録してもらう。個人情報をどこまで登録してもらうかといった課題はありますが、年齢は必要。喫煙所を利用する際には、QRコードをかざせば扉が開く、といった仕組みですね。こうしたアプリの開発はすでに終わっていて、あとは導入するタイミングだけ。

土肥: 喫煙所にカギを設置して、利用者の個人情報を取得する。で、次の一手は?

●いろいろなことを試す

岡部: 2つあると思っています。1つめは、飲料以外の商品を販売して、その売り上げ。喫煙者との相性がいい商品を販売すれば、売り上げを伸ばすことができるかもしれません。2つめは、広告媒体として利用できると考えています。サイネージを設置して、喫煙者向けに広告を表示すれば、収益力がアップするかもしれません。

土肥: 喫煙者のデータをビジネスとしてどうやって使うことができるのか、そこが今後のキモとなりそうですね。自販機ビジネスを単純化すると、「飲料の売り上げ−賃料=利益」という公式になるわけですが、データを活用することで「(飲料+物販)の売り上げ+広告収入−賃料=利益」になる。しかも、データの使い方によっては「こんな使い方ができる」「いやいや、こんな方法もアリでしょ」といった具合に、さまざまな方面に展開できそうですね。「(飲料+物販)の売り上げ+広告収入+α−賃料=利益」といった感じで。

岡部: はい。とにかく、いろんなことを試していかなければいけません。どこでなにをすれば相性がいいのか。まだまだ分からないことはたくさんあるので、手探りの中でやっていく必要がありますね。

(終わり)