米国で、ロビンフッドという証券会社に集まった個人投資家が、相場を乱高下させたことが話題になっている。ターゲットとなったゲームソフト小売りチェーンのゲームストップは、株価が急騰。1月末には前年末の18倍まで株価が上昇した。反対に、空売りをしていた機関投資家は大損害をこうむった。

 ゲームストップに続き、映画館チェーン大手のAMCエンターテインメントもターゲットとなり株価が急騰。米連邦検察と規制当局が株価操縦などの不正行為があったかを調べる事態に至っている。

 こうした事件が起こった背景には何があったのか。米ロビンフッド同様、取引手数料を無料としている新興証券会社のスマートプラス(東京都千代田区)に聞いた。

 「個人投資家vs. 機関投資家の大戦争。これまで機関投資家には個人投資家は勝てないよね、という世界だったが、今回は個人投資家が機関投資家を倒した。象徴的な出来事だ」と、スマートプラス親会社のFinatextホールディングスの林良太社長は話す。林氏は、ドイチェバンク出身でヘッジファンドにもかかわるなど、こうした動きに詳しい。

●空売りがたまっていたゲームストップ株

 米国では在宅勤務や政府からの給付金などの要因で、個人投資家が急増。彼らが取引に向かったのは、取引手数料無料を武器にコロナ禍で急速にユーザーを増やしたロビンフッドだった。ロビンフッダーと呼ばれるこうしたユーザーは、米大手掲示板サービスRedditで株式情報に関するやり取りを始める。

 そうした中、ターゲットとなったのがゲームストップ株だった。業績不振がささやかれる同社はヘッジファンドなどの機関投資家による空売りにあっていた。当時の空売り残高は、浮動株比率で100%超。つまり、世に出回っている株数以上に空売りされていた。

 菅原良介氏(スマートプラス親会社Finatextグループアナリスト)は「本来空売りは、どこからか株を借りてきて売ることで行われる。ゲームストップ株では、株を借りなくても空売りできるネイキッドショートセリングという手法が使われた」と話す。ネイキッドショートセリングはリーマンショック後、日米欧で禁止されたが、米国ではその後解禁されていた。

 ロビンフッダーたちは掲示板上で息を合わせ、空売りをしている機関投資家に立ち向かった。個人投資家たちは株式を買い続け株価が急騰した。空売り残高が大きい銘柄では、意図せぬ急騰が起こると、ショートスクイーズという仕組みによってさらに株価が上昇することがある。

 これは空売りポジションに対する損失が大きくなったため、機関投資家がその株を買い戻し、それによってさらに株価が上昇。ほかの空売りでの損失がさらに拡大し、買い戻しが続くという連続したプロセスのことだ。

 結果、1月26日、27日の2日間だけで株価は4.5倍に上昇。空売りをしていたヘッジファンドは大損害をこうむり、中には破綻したところもあるという。

●ロビンフッド、ゲームストップ株取引制限の裏側

 こうした中、ロビンフッドはゲームストップやAMCエンターテインメントなど乱高下している株式の取引を制限した。売却のみ可能とし、新規の購入を制限した形だ。これを受けて一転、ゲームストップは急落。一時68%下落するなど、激しい動きとなった。

 このロビンフッドの対応により、「個人投資家は規制されているのにヘッジファンドなどが取引できるのが不公平、ということで話が大きくなった」(菅原氏)。損失を出したヘッジファンドは、損失補てんのため含み益の出ているGAFAなどの大型株を売るなどの動きに出、騒動は株式市場全体に波及することになった。

 ではなぜロビンフッドは取引を制限したのか? 一説には同社の顧客でもあるヘッジファンドがゲームストップ株を空売りしており、そこからの圧力で制限したという話がSNSで出回った。しかし、林氏は「ガバナンスが圧倒的に厳しいヘッジファンドでそんなことは絶対にあり得ない。ただしタイミング的に関係者が合致していたので、そのように見られてしまったのではないか」と説明する。

 制限に至った理由は、株式精算機関から求められた預託金への対応だった模様だ。日米ともに、株式は売買が約定してから実際の受け渡しが行われるまでに2日間のタイムラグがある。この受け渡しにかかわる精算を行うのが、米国では米国証券取引所決済機関(NSCC)だ。受け渡しまでの間に発生する不払いや不渡しのリスクのため、精算機関は証券会社に預託金を求めるが、これが多額にのぼったとみられる。

 日本でも日本証券クリアリング機構(JSCC)が、参加者に対し証拠金の預託を求めている。例えば現物取引においては、参加者が破綻した場合に想定される損失額が預託金で補填しえない額となる場合や、参加者の信用状況によって証拠金を割増す。従って、取引の多寡によっては同様のケースも起こり得ないことではない。

 預託金は値動きの大きさ(ボラティリティ)によって額が計算されるが、「ボラティリティが上がり、精算機関から預託金を求められたが、ロビンフッド側で資金が足りなかった。それによって取引を止めた模様だ」(林氏)。必要な預託金は30億ドルともいわれるが、14億ドルに減額してもらい、さらにベンチャーキャピタルから10億ドルを調達してしのいだといわれる。

●ゲームストップ事件は日本でも起こり得るのか?

 相場に大混乱をもたらしたゲームストップ事件だが、同様の出来事は日本でも起こり得るのだろうか。

 スマートプラスの荒木英次氏(コンプライアンス部長)は、「日本では起こりにくいだろう」と予想する。株価の値幅制限が設けられていない米欧と違い、日本では一定以上の変動が起こると、ストップ高、ストップ安という形で制限がかかるからだ。

 さらに、急激な乱高下が発生する背景には、空売りにともなうショートスクイーズのように、レバレッジをかけた取引による値動きの増大がある。米国では信用取引以外にも、オプションなどのデリバティブ(金融派生)取引が個人でも活発に行われており、それが変動拡大につながった。日本では、個別株のデリバティブ取引はほとんど行われておらず、そうした面でも米国のような問題は起きにくい。

 Redditなどの掲示板で個人投資家が集まって、特定の株を買っていくことを「相場操縦」だとする見方もある。しかし、スマートプラスの荒木氏は、これを相場操縦に当たるとは言い難いと話す。相場操縦とは、さまざまな売買手法で取引が頻繁に行われていると誤解させることを目的としたもので、虚偽情報を広めることも風説の流布として禁じられている。ただし、掲示板でのやり取りはオープンなもので、誰でも見られる状態にあったからだ。

 「相場操縦は黙ってやるもの。こっそりやって他の人を惑わせる、だます、そして売り抜ける。掲示板では、みんなが情報を知っている状況であり、だます意図があったといえるのか」(荒木氏)

 株式においてはいくつかの制約からゲームストップ事件のようなことは起こりにくい。しかし、値幅制限もなく法規制も株式に比べて甘い仮想通貨などでは、同様のことが起きるかもしれない。実際、ゲームストップの後、ロビンフッダーは仮想通貨の「DOGEコイン」に向かい、長く1コイン0.4円程度で取引されていたものが、20倍以上まで値を上げるという状況も見られた。

 「仮想通貨は今回の騒動のようなことの温床になる。機関投資家が取り扱う仮想通貨は、あってもビットコインくらい。行政やサービス内で統制が出てくるのではないか」(林氏)

 SNSの時代になり、取引環境の面でも情報の面でも個人の力はどんどん強くなってきている。スマートプラスが運営する証券サービス「STREAM」は、投資家向けの掲示板サービスも併設しており、コミュニティの「お金は機関投資家のほうが持っているが、情報は個人にもどんどん入ってくるようになった」と林氏は言う。ゲームストップ事件は、いわば個人が力を持つ過程で起きた、混乱の1つといえるのかもしれない。