新型コロナウイルス感染拡大により、在宅勤務やテレワークなど新しい働き方が広まっているが、コロナ禍前から働き方改革の一環として「ワーケーション」の導入に力を入れてきた企業がある。それが日本航空(JAL)だ。

 JALでは、2017年ごろから社内でワーケーション普及に向けた取り組みを実施してきた。同社の人財本部人財戦略部の東原祥匡アシスタントマネジャーは、ワーケーションの導入目的を「休暇取得の促進」だったと話す。

 JALでは働き方改革を進める中で、1年間の総実労働時間を1850時間にするという目標を掲げている。これは、1カ月の残業を4時間以内に抑え、あわせて20日の年次有給休暇を全て取得すると達成できる時間だ。しかし、残業の削減や20日の有休取得は難しい現状があり、社員の中にも「有休は捨てるもの」という考えがあったという。

 「長期休暇を取得するにしても、休暇明けのメール処理や、急な仕事でスケジュールを変更せざるを得ない状況が生まれるなど、取得のための作業にストレスを感じることも多い。会社として『休暇は取得するもの』という意識改革の必要性を感じていた」(東原氏)

 そこで、有給取得に向け検討を始めたのが「ワーケーション」だった。

●ワーケーションの活用で長期休暇や混雑回避を可能に

 コロナ禍でワーケーションという言葉が広がった際に、単にリゾート地で仕事をするというような勤務方法に捉えられている面があるが、本来ワーケーションは「リフレッシュや休暇取得の促進」が主な目的とされている。

 そのためJALが定義するワーケーションでは「予定の半分以上に休暇があること」を前提としている。「休暇取得促進が目的なので、休暇中の旅先や帰省先で仕事をした場合、それを勤務時間として認めるという形にしています」(東原氏)

 ワーケーションを活用すると、例えば週末を使って旅行や帰省する場合、木曜の午後に出発し、金曜日と翌週月曜の午前中をワーケーション扱いとして旅先のホテルなどで業務を行う。午後は時間給を取得し、東京へ戻るという旅程を組める。また、2週間以上の家族旅行を計画する場合も、旅先の数日をワーケーションに充てることで、交通機関の混在を回避できたり、休暇明けの負担を軽くしたりすることができるという。

 しかし、ワーケーションを導入した当初は「休暇中にも仕事をさせるのか」という声もあった。また、制度の利用率も管理職層と若手社員の間で差が出ていたという。

●会社主導でワーケーション企画やプランを提案

 東原氏は「管理職層はなかなか休みが取れないため、ワーケーションを利用して、長い家族旅行に行くなど活用している印象だった。一方若手社員は、休暇中は『フルで休みたい』という印象で、ワーケーションをうまく活用できていなかった」と当時を振り返る。

 そこで同社は幅広い層に浸透させるため、家族連れで参加できる企画や、宿泊施設をゲストハウスにして地域の人との交流を図るプランの導入を開始したという。

 その1つの取り組みとして、富士ゼロックス鹿児島が企画する「徳之島ワーケーション実証実験」に参加。18年11月下旬から12月上旬にかけて、社員やその家族など20人が3泊4日で徳之島町を訪れワーケーション勤務を行うというモニターツアーを実施した。

 このような取り組みの結果、ワーケーションの活用が浸透。18年度の利用者が174人だったのに対し、20年度は12月までに約4倍となる688人が取得するまでになった。また、徳之島での実証実験は同社にとって想定していなかった成果もあったという。

 「地域や離島に行くことで、地域住民から『あなたたちがいなかったら私たちは本州に行く足がなくなってしまう。飛行機を飛ばしてくれてありがとう』という声を聞くことができた。東京のデスクワークをしていると、公共交通機関で働いているという自覚が少し薄れてくることが多いが、このような機会があることで、航空会社としてお客様に選んでいただけることとは何かをより意識するようになった」(東原氏)

●ワーケーション実施後も心理状態にポジティブな影響が

 ワーケーションの導入で気になることは、働くモチベーションや生産性への影響だ。東原氏は「いきいきと働いている人のパフォーマンスは明らかに高いはずだ」とワーケーションの有効性に期待を込める。

 同社は、日本マイクロソフトなどが実施する異業種連携によるミレニアル世代を中心とした働き方改革推進コミュニティー「MINDS(Millennial Innovation for the Next Diverse Society)」に参画。多様性のある働き方をどのように実現すべきか考えていく中で、同社は「時間・場所の制約から解放するためには」というテーマのプロジェクトリーダーとして活動。18年末からワーケーションと通常のオフィスワーク時の心理状態の違いを検証した。

 調査では5回の観測を行い、3回目のみハワイでのワーケーションを実施。その結果「仕事に対するストレス」や「上司との関係性」という項目は、ワーケーション実施時はポジティブな効果が見られ、「今の会社で働きたいと思うか」「プライベート・私生活は充実しているか」という質問はワーケーション実施以降もポジティブな効果が出る結果になったという。

 「ワーケーションは毎日行うわけではないので、生産性を求める必要があるか分からない。年に数回のワーケーションの生産性よりも、長い目で見て今の会社で働いていける、いきいきと人生を過ごしていけるという人材を育てていく方が会社にとっても良いのではないかと思っている」(東原氏)

 20年10月には、利用者が少ない平日の温泉地を活用してテレワークを推進する「温泉Biz」に連携企業として参加。同社が培ったワーケーションのノウハウや、地域の魅力を伝え新たな働き方で見えてきた課題改善を目指している。

●ワーケーションから新しい興味関心を見つけて欲しい

 さらにJALでは、ワーケーションを社員の成長につなげようという新しい取り組みを進める方針だ。参加を希望するJALの社員が各地を訪れ、ワーケーションを行いながら、休暇を活用して社会貢献活動に参加するというものだ。地域の求めるニーズを把握し、地域の関係人口創出や労働力向上による地域活性化について考える機会にしたいという。

 例えば愛媛県では、果樹園での草刈りや水やり、収穫したかんきつを活用した地域の新たな商品レシピ作りに取り組む。また岩手県では、街に残る重要文化財を交流施設として活用する計画を共に考え、そこで開催するイベントの企画に取り組むという。当初は20年10月頃からの開始を予定していたが、新型コロナウイルスの影響を踏まえ、実施時期などを検討し、3〜4月のスタートを目指している。

 東原氏は、この取り組みをのちの社員の兼業・副業のきっかけ、社員の新しい興味関心につなげて欲しいと話す。「兼業・副業として求められることは、お金じゃなくて経験値を増やしていくことだと思う。社員がいろんな経験をすることで、世の中でも通用する人材になるだろうし、会社でその経験が生かされると思う」

 新型コロナウイルス感染拡大で航空需要は大きく様変わりした。ビジネス需要は以前の状態まで回復することはないとも予測されるが、ワーケーションは新しい観光需要創出にもつながるかもしれない。