新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、2月13日に改正特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法)が施行された。緊急事態宣言下で要請された時短や休業に応じない場合、行政罰として過料を徴収できるようになった。

 適用されるのは、午後7時までの酒類提供と午後8時までの営業を要請されている、1都2府7県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、岐阜県、大阪府、京都府、兵庫県、福岡県)の飲食店などだ。命令に違反した場合、30万円以下の過料が科される可能性がある。

 1店舗当たり1日6万円の時短支援金ではとても足りないと、時短要請に従わずに夜間営業を続けていた飲食店がある。通常営業を続けていたグローバルダイニングの長谷川耕造社長は「犯罪者になりたくない」と、時短に従う意向を表明した。

 一方、飲食店が狙い撃ちにされるのは納得がいかないと、怒りのノーマスク営業に踏み切る店も出現している。東京・六本木の「ミートマン」では、翌朝5時までの営業を開始。しかも、深夜の時間帯にはマスクを外して、ノーマスクで笑顔の接客、おもてなしを行っている。「飲食業界ナメんじゃねーよ!!」と。

 政府や自治体の時短要請に反旗を翻した、“反逆飲食店”の動向を調べた。

●午後8時以降も満席

 東京都を中心に、イタリアン「ラ・ボエム」、アジアン「モンスーンカフェ」、和食「権八」などの飲食店を41店を展開するグローバルダイニングでは、商業施設に入っている一部店舗などを除いて、通常営業を続けてきた。

 同社の店舗は100席近く、あるいはそれ以上の規模を持つ大型店が多い。1店舗当たり1日6万円の時短協力金をもらっても焼け石に水。

 しかし、改正特措法の施行によってトーンダウン。具体的に時短の要請が来た場合には、従う意向である。罰則が適用される以上、従わざるを得ないということか。

 ただ、2月21日時点では時短を行う告知も出ておらず、通常営業を続けている模様だ。

 同社の1月における国内既存店売上高は、前年同月比83.9%。20年3月以降では最も良かった。特に、ラ・ボエムは109.5%と絶好調で、「午後8時以降も満席」と報じられた通りの結果となった。一方、モンスーンカフェと権八は、意外にも前年同月比で7割程度にとどまった。アフター・コロナで戦える業態とそうでない業態が見えてきた感がある。

●時短要請に応じないとどうなるのか

 東京都と神奈川県に確認したところ、同法45条第2項・第3項により、時短などの要請に応じない業者に対して、直ちに過料が科せられるわけではないという。まず、要請に応じない店舗を発見すると、都道府県が文書での通知、立入検査などのやりとりを行う。要請に応じられない正当な理由がない場合には、時短などの命令となる。命令に従わない場合、不当な材料をそろえて、地方裁判所に訴える。そして、裁判官の判断で過料を科すかどうかが決まる。

 このような手続を踏むので、実際に罰金に至るハードルは高いと思われる。

 改正特措法では、緊急事態宣言の前段階として「重点措置」が新設された。重点措置で命令に応じない場合は、20万円以下の罰金となる(緊急事態より上限が10万円安い)。また、立入検査を拒否した場合は、緊急事態宣言、重点措置を問わず、20万円以下の過料が科される。

 従って今後、新型コロナの第4波が来た場合、まず重点措置が発令されることになる。

 都道府県もいきなり罰金をとったり、店名・社名を公表しない。“反逆飲食店”に対しては、要請に従えない理由を説明する機会が与えられるので、その場で窮状を述べて交渉する余地がある。

●時短や休業に応じた理由とは

 大衆居酒屋の「屋台屋 博多劇場」や「大衆ジンギスカン酒場 ラムちゃん」などを経営する一家ダイニングプロジェクトは、東京都が大手外食企業に対しても1月22日から1店当たり1日6万円の時短協力金を支払うと決めたのを受けて、時短要請に従った。

 他の府県は、企業の規模を問わず時短協力金を支払っていた。一方、東京都だけは当初、資本金5000万円以下の中小企業や個人事業主を対象としていた。大企業を除外していたのは、資金の余裕があるためとしていた。

 同社は、協力金の支給対象から除外されては「社員、アルバイト、パートナー企業、サプライヤーの雇用を守れない」と表明。1月9日から70店中42店で時短要請に応じず、通常営業していた。

 居酒屋チェーン「肉汁餃子のダンダダン」約100店を経営する、NATTY SWANKY(ナッティースワンキー)も、一部を除いて時短に従わずに営業してきた。しかし、緊急事態下において、愛知県の3店以外時短営業している(2月16日午前10時時点)。

●もう付き合っていられない

 一方、時短要請に応じていたが、緊急事態宣言が1カ月延長されたため、もう付き合っていられないとばかりに午後8時以降の営業に踏み切る店も出てきた。

 都内で博多料理「ジョウモン」や肉料理「ミートマン」など10店の居酒屋を構えるベイシックスでは、現状5店で午後8時以降の営業を行っている。

 平日、六本木のミートマンは午前5時まで営業を行っていて、午前0時以降はスタッフがマスクを外している。

 ベイシックスの店舗は見つけにくい2等、3等立地が中心だ。目立った看板もなく、隠れ家のような落ち着いた雰囲気の店ばかりである。和モダンな空間で、トレンドを踏まえた洗練された料理を出す。決して高額ではないが、全般に客筋が良く、女性客が多い。かつてはインバウンドでも人気が高く、東京・西麻布にあった「てやん亭”」(現在は閉店)は、英国の権威ある日刊紙「ガーディアン」が2008年2月26日付で掲載した「東京の居酒屋トップ10」の1位に選定された。

 社長の岩澤博氏は、卓越した店づくりと人材育成の手腕で、飲食業界では慕われている人物である。簡単にキレる人ではない。

 岩澤氏のブログ「ガンさん日記」を読んでいると、緊急事態宣言の延長前は半分の店を休業していたことが分かる。残りの半分が午後8時までの営業ではほとんど売り上げが立たず、1月は前年の10分の1程度にまで落ち込んだという厳しい現状がつづられている。

 もう1年も休業、時短、自粛を断続的に続けているのに、「まだ足りない」とばかりに罰則と過料を科す。実際、ベイシックスに限らず、多くの飲食企業は我慢の限界に達してきている。

 そうした中、時短中でも渋谷の店舗では顧客が増え、満席になる日も出てきた。こうした変化をチャンスと捉え、罰金、店名公表をされても、売り上げがほしいという切なる願いで午後8時以降の営業を決めた。

 また、ノーマスクで接客する理由も説明している。居酒屋にとって最も大切なのがお店の空気感で、その空気感の演出に欠かせないのがスタッフたちの笑顔だ。笑顔がマスクに隠されている事実が残念でならない、とのことだ。

●24時間営業を継続中

 中部圏や首都圏に店舗が多く、鶏皮串の「伝串」が名物の大衆居酒屋「新時代」の新橋店は24時間営業を継続中。基本、新時代チェーンは午後8時以降も営業しており、“反逆”を貫いている。

 首都圏を中心に展開する鳥料理居酒屋チェーン「とりいちず」は、基本的に緊急事態中は午後8時までの時短営業をしているが、東京・立川など5店は時短していない。2月8日から池袋など7店も加わり、一部で時短せずに“反逆”の営業を行っている。

 午後8時以降、営業している飲食店がほとんどないので、時短要請を無視して営業を続けている店が非常ににぎわっているのが現状だ。我慢できずに飲んでしまう人ばかりでなく、夜遅くまで働いた結果「夕食難民」になってしまっている人も一定数おり、“反逆飲食店”になだれ込んでいる。

 これでは、マジメに時短していたために、経営が苦しくなったお店がキレるのも無理はない。

 1人で食べに行く人が大半で、皆が“黙食”している牛丼、天丼、かつ丼、ラーメン、セルフうどん・そば、カレーのような業態にまで時短要請してしまっているから、夕食難民が発生する。

 政府の「新型コロナウイルス感染症対策分科会」では、5人以上で会食すれば、声が大きくなり、飛沫の飛び具合が大きくなって感染リスクが高まるため、4人以下の飲食を勧めていた。ならば、飲食店の入場制限を行い、5人以上のグループを入れないようにすれば、それで済んだ話ではないだろうか。

●ノーマスク営業は勧められない

 一般論として、ノーマスク営業は勧められない。

 日本フードサービス協会と全国生活衛生同業組合連合会が作成した、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(改正)に基づく 外食業事業継続のためのガイドライン」(2020年11月30日改正)には「全店舗入口及び店内に、食事中以外はマスクの着用をお願いする旨を掲示する」「カウンターでは、お客様と従業員の会話を想定し、従業員のマスク着用のほか、仕切りの設置などを工夫する」とある。

 また、同ガイドラインは「従業員の安全衛生管理」として、「店舗では大声を避け、マスクやフェイスガードを適切に着用し、頻繁かつ適切な手洗いを徹底する」「食品残渣、鼻水、唾液などが付いた可能性のあるごみ等の処理は手袋・マスクを着用してビニール袋等に密閉して縛り、マスクや手袋を着用して回収する。マスクや手袋を脱いだ後は、必ず手を洗う」などとしている。

 このように、顧客の安全にマスク、従業員の安全にマスク、店舗の衛生管理にもマスクを求めている。「まるでマスク警察のような息苦しさだ」「そんな業界団体にウチは所属していない」という反発の声も聞こえてきそうだ。しかし、こういったガイドラインを守らないと、国や行政が実施する「GO TO イート」のような支援策は、受けにくくなる。まず、無理だ。世間の理解も得にくい。

●保健所の見解は?

 保健所に確認したところ、新型コロナ患者の濃厚接触者はおおむね「マスクなしに、1メートル程度の距離で、15分以上の会話などをした場合」に認定される。つまり、従業員や顧客が感染していても、ノーマスクで2〜3分、接客したくらいでは感染しないと見なされている。

 長時間の大声での会話が危ない。いくら手指を消毒しようが、体温を測ろうが、無症状者でも感染させるとされている。

 ソーシャルディスタンスを考えず、飛沫拡散防止のパーテーションも置かないお店があったとする。さらに、換気が十分でない空間で、満席状態だ。お客さん同士が酒の勢いも手伝い、大声でしゃべり合い、店員も場を盛り上げようと元気な接客をしていればどうなるか。飛沫が飛び交って、必然的に集団感染を引き起こすリスクが高くなる。

 現在、新型コロナは感染症法の分類で、結核などと同様の2類相当の指定感染症とされている。感染すれば、入院の勧告・措置がとられる。また、無症状者にも適用されるなど、2類より厳しい措置がとられている。入院の費用は、公費で負担する。入院を拒否したり入院先から逃げたりしたら、改正特措法により50万円以下の過料が科されることとなった。

 マスクを着用せずに営業して、集団感染を起こしてしまうと、治療に公費が使われる。そのため、非難の対象になり、店舗の再建が困難になるだろう。

●不公平感の是正が必要

 そもそも、時短や休業の要請に対して、もう少し適切な協力金や支援金が支払われていれば、”反逆飲食店”など出現しない可能性が高い。

 家賃が高くて人件費もかかる都心部の大型店と、郊外にあって夫婦で営んでいるような小さな店のどちらも、1日6万円の協力金。これは、どう考えても不公平だ。

 19年10月の消費増税では、同じような商品(例えば牛丼)を販売しても、コンビニ、スーパー、弁当屋などで買えば8%据え置きなのに、飲食店で食べれば10%となった。つまり、「税の公平性の原則」に反する差別的な法制になっている。もともと不利な消費税制が施行されている上に、今回の緊急事態では飲食店を狙い撃ちにしたような時短要請を行った。しかも、昼に飲食店に行くのも自粛してほしい、さらには時短に従わないと罰金をとる、それでも従わないと何回もとるとまで政府から言われれば、「ふざけるな!」と激怒する飲食業従事者が出てくるのも当然だ。

 国や自治体には“反逆者”から罰金をとる前に、納税額や店舗の売り上げ、粗利、従業員数の規模など、実情に沿った対応が必要だ。適切な休業や時短の協力金を用意するだけでなく、家賃の補償をするなど、早急な改善をしてこれ以上の倒産や失業を防がなければいけない。

(長浜淳之介)