非正規雇用と呼ばれる働き方に関する問題は、これまでもさまざまな形で指摘されてきました。総務省が発表している労働力調査によると、2020年10〜12月における「非正規の職員・従業員」の平均人数は2109万人。役員を除く雇用者全体の実に37.4%を占めています。雇用者全体の4割近くが非正規となっていることから、非正規雇用に関する問題に多くの人が関心を寄せるのは必然だといえます。

 こうした中、2月15日に京都新聞が『ハローワーク職員1万人以上、雇い止めの可能性 「相談乗った翌日から失業者、ブラックジョーク」』と題するニュースを報じました。

 記事によると、年度末にハローワークの労働相談員1万人以上が雇い止めされる可能性があるとされています。つまり、3月31日まで求職者の労働相談に乗っていた職員が、翌日からは相談に乗ってもらう側になるかもしれないということです。

 契約に基づいてのことだから仕方ない、という考え方もあるのかもしれませんが、やるせないという印象を受ける人は多いはずです。そして、労働相談員としてはそのような環境下で職務を進めるのは心情的にやりづらいはずです。

 ただ、非正規と呼ばれる雇用形態にはさまざまな種類があり、その働き方を選ぶ人の動機もそれぞれです。中には、あえて期間限定で働きたいと考えている人もいて、雇用契約の満了によって仕事から離れることがマイナスではなく、むしろ自分にとって都合が良いという場合もあります。

 つまり、非正規雇用で働く人の中にも本意型と不本意型が存在するということです。

 この、本意と不本意の違いはどこから生まれてくるのでしょうか。その要因となっているのは、さまざまな条件における「ズレ」と、そのズレによって生じる「ジレンマ」です。

●雇用は途切れるのに、仕事のニーズは残っている

 先ほどの記事で紹介した労働相談員の場合、3年という区切りとともに労働相談の必要性自体も消滅するのであれば、矛盾はないはずです。問題は、雇用契約は3年で途切れるのに労働相談員(というポジション)の必要性は継続しているというズレにあります。

 労働相談員として3年間働いてきた側からすると、ずっとそのポジションで働き続けたいと考えていて、かつポジションがなくなるわけでもないのに、3年が区切りという理由だけで強制的に仕事を奪われてしまうことになれば不本意なはずです。

 また、労働相談に訪れている求職者からしても、親身になって相談に乗ってくれていた相手が、3年が区切りという契約上の理由で4月から他の人に替わってしまうのは避けたいはずです。

 当たり前のことですが、働き手はあえて不本意な働き方を選択したいわけではありません。本意な働き方をしたいのに、その選択肢が用意されていないときに、致し方なく不本意な働き方を選択せざるを得なくなるのです。そして、契約更新のたびに不本意な状態を継続するか、辞めるかというジレンマに陥ります。

 そのジレンマを解消するには、発生源となっている「条件のズレ」を整理し、働き方が本意になるケースと不本意になるケースを把握する必要があります。条件のズレを整理するには、仕事内容や給与、勤務場所などさまざまな切り口がありますが、今回は“期間”を軸に条件のズレを考察したいと思います。

●「雇用契約」と「職務ニーズ」の2軸で見てみると……

 働き手が希望する勤務期間(期間限定か長期安定か)の違いをベースに、「雇用契約」の期間と「職務(ポジション)ニーズ」の期間の組み合わせについて整理してみると、「本意」と「不本意」のパターンが見えてきます。

 期間限定雇用希望者の本意・不本意パターンについては次の図のようになります。「雇用契約」が無期限か期間限定かが縦軸、「職務(ポジション)ニーズ」が無期限か期間限定かが横軸です。

 働く側が期間限定雇用を希望している以上、雇用契約も職務ニーズも無期限(図の左上)の場合については、原則として選ばないはずなので「不選択」と表記しています。また、図の右上のように職務ニーズが期間限定と分かっている場合に、雇用契約を無期限にすることも原則としてありません。そのため「不成立」と表記しています。

 雇用契約と職務ニーズのどちらも期間限定の場合(図の右下)は、労働者の希望と雇用契約、職務ニーズの三方間にズレが生じないため「本意」だといえます。また、雇用契約は期間限定であるものの、職務ニーズは無期限(図の左下)だとしても、期間限定で働きたい労働者の希望は満たされるため、やはり「本意」です。

 次に、長期安定雇用希望者の本意・不本意パターンを見てみましょう。

 長期安定雇用希望者のパターンをまとめると、次の図のようになります。

 雇用契約と職務ニーズのどちらも無期限の場合(図の左上)は、労働者の希望と雇用契約、職務ニーズの三方間にズレが生じないため「本意」です。一方、問題なのは下段です。そもそも長期安定雇用希望なのですから、雇用契約が期間限定であれば、職務ニーズの期間にかかわらず「不本意」となります。

●「期間」で不本意型が発生するのは2パターン

 ここまでに見た2つの図から、「期間」の軸で不本意が発生するのは、働き手が「長期安定雇用希望者」であることを前提に、以下のどちらかのパターンです。

(1)長期安定雇用希望者が、職務ニーズ「無期限」の仕事に「期間限定」の雇用契約で従事する場合

(2)長期安定雇用希望者が、職務ニーズ「期間限定」の仕事に「期間限定」の雇用契約で従事する場合

(1)と(2)は、一見同じように見えても、その性質は大きく異なります。

 (2)のように最初から職務ニーズが期間限定だと判明している場合は、雇用契約も期間限定になることは理にかなっています。例えば、長期安定雇用を希望する働き手が無職になった場合、無収入になるよりは一時凌ぎでも収入を得たいと考えるかもしれません。その際、本来不本意ではあるものの、職務ニーズと雇用期間との間に矛盾がない(2)のパターンであれば、割り切って納得感を持って選択できます。

 一方、(1)の場合は、職務ニーズと雇用期間との間に矛盾があります。不本意ながらも割り切って期間限定の雇用契約を選択したとしても、心のどこかで「職務はなくなっていないのに、なぜ期間限定で辞めなければならないの?」とわだかまりが生じる可能性は十分ありえます。

●雇用期間とニーズのズレが、働き手にジレンマをもたらす

 冒頭で取り上げたハローワークの労働相談員の場合は、この(1)に該当しそうです。

 大企業の倒産で瞬間的に多数の労働者が解雇された場合など、一時的に労働相談ニーズが発生したようなケースであれば、期間限定で臨時職員を増員することがあるかもしれません。その場合は職務ニーズも期間限定なので、(2)の方に分類されます。

 それに対し、恒常的に発生している労働相談の場合は状況が違ってきます。雇用契約が満了を迎える3年が過ぎても労働相談ニーズが存続していれば、仕事を失う労働相談員の中に納得できない感情が残ってしまっても無理はありません。

 ただ、景気変動などで失業者の数は増減するため、今と同じだけの職務ニーズが無期限に発生し続けるとは言い切れない面があるのも確かです。また、公務員には人事院規則など制度上の縛りがあって簡単に無期雇用化できないという事情もあるかもしれません。しかし、少なくとも雇用期間と職務ニーズ期間との間にズレが生じやすい状況になっていることは明白です。そのズレは、長期安定雇用を希望する働き手にジレンマをもたらします。

 では、このジレンマを少しでも解消するためには、どうすればよいのでしょうか。

 例えば、先ほどのパターン(1)については、雇用契約期間を無期限にするための努力が必要だと考えます(下図における矢印)。

 ただ、根本的に解決しなければならないのは、パターン(1)か(2)かに関わらず、長期安定雇用を希望する働き手が不本意に期間限定の仕事を選択せざるを得ない状況があるという現実です。

 冒頭でお示しした通り、非正規雇用と呼ばれる働き方の人は40%近くいます。非正規雇用の中で最も多くの割合を占めるパートタイマーの実態について厚生労働省が調査した「平成28年パートタイム労働者総合実態調査」によると、パートを選んだ理由として最も多かったのは「自分の都合の良い時間(日) に働きたいから」で57.0%です。これはポジティブな理由といえます。一方、「正社員として採用されなかったから」(7.4%)、「正社員としての募集が見つからなかったから」(11.7%)など、ネガティブで不本意といえる理由は少数にとどまります。

 しかし、「家庭の事情(育児・介護等)で正社員として働けないから」(16.6%)など、本当は正社員と呼ばれる働き方を希望しているのに、致し方なくパートで働いているという「潜在的不本意層」も存在することを考えると、実質的な不本意層は数値以上に多いと考えられます。

 表で示したように、期間を軸に整理した場合、働き手の不本意層は長期安定雇用を望んでいる人たちです。長期安定雇用希望者が期間限定の仕事を選ばざるを得ない現状が少なからず存在するということは、それだけ無期限で従事できる仕事の数が世の中に足りていないということです。それを直接的に解決するには、無期限の仕事の数をもっと増やす必要があります。

 一方で、期間限定の仕事の現状についても改善する必要があります。

●非正規の「調整弁」「使い捨て」問題を和らげるために必要なこと

 最も重要なのは、給与の改善です。期間限定で雇用される人は、契約満了とともに仕事を失うリスクを負っています。その分、もし同じ仕事をしているのであれば、無期限で雇用される人よりも時間当たりの給与を高くするという考え方があっても良いはずです。

 これまでの経緯を見ると、期間限定の雇用は企業の人件費削減策として用いられてきた側面が強いと思います。確かに職務ニーズも期間限定であれば、雇用期間も期間限定にすることで人件費の無駄をなくすというのは合理的で納得感もあります。ただ、働き手が不本意型(本来は長期安定雇用希望)の場合、期間限定による仕事喪失リスクを負うことを考慮して、その分、時間当たりの給与は高くてしかるべきだと考えます。それでも期間限定で雇用は終了するため、企業としては無期限で雇用するより人件費を抑えることができます。

 官公庁の場合、期間限定のプロジェクトを民間に業務委託すると、最も低い金額で応札した業者が受託することになります。すると、その業務を担当する働き手の給与は、落札金額で収まる範囲の低い水準に抑えられてしまうことになります。そのように、期間限定で働く人の給与を低くするインセンティブが働いてしまうシステムについても見直しが必要です。

 さらに、職務ニーズは無期限で雇用は期間限定というズレが生じている場合、不本意に期間限定で雇用される働き手の給与水準が無期雇用の働き手と比較して同等以下であれば、ズレを調整する負担やリスクを働き手だけに負わせることになり、フェアではありません。非正規雇用が調整弁や使い捨てと非難されるゆえんです。

 時代の変化スピードが加速する中、今の日本の労働システムにおいて無期限の雇用を増やすのは容易ではありません。期間限定の雇用で働く人の給与水準を上げることは、雇用契約と職務ニーズの期間のズレが引き起こす、不本意型非正規雇用者のジレンマを和らげるために必要な施策だと考えます。

(川上敬太郎)