過去に死亡事故などが発生した住宅(いわゆる「事故物件」)を専門に掲載する「成仏不動産」というWebサイトがある。サービスを開始したのは2019年4月だ。

 成仏不動産に掲載されている物件には、築年月や建物面積などの基本的な情報に加え、過去に発生した事故の概要が記載されている。具体的には、(1)「お墓や火葬場、葬儀場などが見える物件」、(2)「共用部分や他の部屋などで事故があった物件」、(3)「発見まで72時間未満の孤独死、病死物件」、(4)「発見まで72時間以上の孤独死物件」、(5)「火事や事故で人が亡くなった物件」、(6)「自殺物件」、(7)「殺人物件」と細かく区分している。

 これは、成仏不動産独自の基準で、精神的な負担を強く感じる順になっている。一般的な不動産情報のポータルサイトでは、事故物件について「告知事項あり」とだけ表記しており、問い合わせをしないと詳細が分からないケースが多い。情報を隠すのではなく、オープンにすることで、事故物件の流通を促す狙いがある。

 どうしてこのようなサービスを提供しているのか。成仏不動産を立ち上げた、不動産会社MARKS(横浜市)の花原浩二社長に話を聞いた。

●今後は孤独死が増える可能性が高い

 花原社長は、阪神淡路大震災により被災した神戸で大学時代を過ごした。知り合いの親が震災で亡くなったことに影響を受け、地震に負けない家づくりがしたいと考えた。そして、1999年4月に大和ハウス工業に入社。その後、不動産に関するさまざまな課題を解決するには、大手ではなく規模の小さい会社のほうが向いていると考え、2016年10月にMARKSを立ち上げた。

 当初は、これまでのノウハウや人脈を活用して土地の売買などを手掛けていた。そんなある日「事故物件を買ってくれないか?」と相談されたことがきっかけで、孤独死と不動産の関係に関心を抱くようになった。花原社長の母親が一人暮らしをしていたこともあり、孤独死を身近な問題として捉えていた。

 国立社会保障・人口問題研究所が18年に発表した「日本の世帯数の将来推計」によると、15〜40年の間に65歳以上の男性の独居率は14.0%から20.8%に、65歳以上の女性の独居率は21.8%から24.5%にそれぞれ上昇する見込みだ。アパート、マンション、戸建て住宅で孤独死が今まで以上に発生する可能性がある。

 一方、事故物件を流通させる仕組みは不十分なままだ。花原社長によると、事故物件のオーナーが具体的な情報を開示することに抵抗感を抱いたり、「事故物件でも気にしない」という人が情報を探しにくいといった課題があるという。また、事故物件の定義などについて法的にあいまいな部分があることも、流通の阻害要因だ。

●事故物件に抵抗感がない人も多い?

 成仏不動産に掲載している事故物件の情報はどのようにして探しているのか。当初は、他社のポータルサイトや不動産業者専用のデータベースなどから探し、「成仏不動産に掲載させてほしい」と地道に交渉していた。最近は、全国の不動産業者やオーナーから「掲載させてほしい」という問い合わせも増えている。

 成仏不動産には約230件の物件情報が掲載されている。内訳は孤独死が4割、自殺が4割、その他が2割だ。サイトを開設してから、延べ1100件程度掲載してきた。これまでの成約件数は63件だという(2月18日時点)。事故物件を買ったり借りたりするのは高齢者や若者が多かったが、最近は多様化してきているという。

 具体的なビジネスモデルはどうなっているのか。花原社長によると、物件の買い取りや売却の仲介手数料などが収益の柱だという。その他、特殊清掃事業なども手掛けている。

 花原社長は新しい取り組みも始めている。例えば、20年11月から事故物件を自社で買い取り、リノベーションして販売する事業を始めた。これまで3つの物件が売れたという(いずれもマンション)。花原社長は「3つのうち、2つの物件を購入されたのは独身女性とシングルマザーの方です。驚いたのは、どちらも『事故物件は全く気にならない』とお話されていたことでした」と説明する。一般的に、事故物件は相場の価格から10〜20%安くなることが多いという。一方、花原社長が販売した物件は、ターゲットを絞った戦略的なリノベを実施した効果もあり、価格下落率が平均で5%だった。不動産の価格はさまざまな要素によって決まるため、一概にはいえないが、花原社長は事故物件の流通に可能性を感じているようだった。

●国も対策に乗り出す

 国土交通省は20年2月、「第1回 不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」を開催している。心理的瑕疵とは、借主や貸主が取引に当たって心理的な抵抗が生じる可能性のあることを指す。参加している委員は、弁護士、業界団体関係者、学者など。同省は検討会を開催する背景を「不動産取引において過去に死亡事故が発生した事実など、心理的瑕疵をどのように取り扱うかが課題となっており、このことが、既存住宅市場活性化の阻害の一因となっている」としている。同省の担当者によると、現在までに会議は複数回行われているという。

 花原社長は、事故物件は外国人労働者や高齢者といったように、住宅を確保しにくいといわれている人たちと相性がいいのではないかと考えている。今後も、事故物件の流通を促進させ、マッチングさせるさまざまな事業にチャレンジする予定だ。