新型コロナウイルスの感染拡大が、災害時における避難所の運営に影響を与えている。

 感染防止を目的に、避難所の定員を減らす自治体が増えてきた。そのため、報道によると2020年9月に台風10号が発生した際、住民を避難所に収容できないケースが相次いだという。

 2月に福島県沖で発生した地震に限らず、災害にいつ襲われるかは分からない。各地にある避難所の空き情報を住民がリアルタイムで把握できれば、「行ってみたけどダメだった」は防げる。

 16年に設立されたIT企業のバカン(東京都千代田区)は、AIとIoTを活用して店舗などの空き情報を発信している。その一方で、60以上の自治体と災害時に避難所の混雑状況を配信するという協定を締結。さらに、期日前投票所の混雑状況をリアルタイムで配信するサービスにも乗り出している。

 主に民間事業者へのサービス提供を見込んでいた同社は、自治体と連携することで新しいニーズに気付いたという。

●情報共有の仕組み

 混雑状況の配信は、リアルタイム空き情報配信プラットフォームの「VACAN(バカン )」を利用して行われる。VACANには、利用者の近くにある店舗などの混雑状況を一覧できる「VACAN Maps」という機能がある。この機能は、20年6月に関東エリアで正式サービスを提供し始めたばかりだ。

 災害発生時、避難する住民はVACAN MapsにPCやスマートフォンでアクセスする。すると、各避難所の混み具合が「空いています」「やや混雑」「混雑」「満」の4段階で表示される。混雑状況は、各避難所にいる職員がインターネット上にある管理画面から操作して更新する。

 この機能は実際の災害時にも使用された実績がある。

 20年9月に九州を襲った台風10号。宮崎県日南市は、避難所の混雑状況をVACAN Mapsを通じて住民に告知。危機管理課の担当者は「市民からは『分かりやすかった』との声が寄せられた。『分かりにくかった』はない」という見方を示した(出所:毎日新聞20年9月9月付「台風10号 スムーズに避難所利用 日南市が混雑情報を提供」)。

 この機能は現在、60以上の自治体で導入されている。バカンは2月だけで、東京都世田谷区、神奈川県大和市、千葉県八千代市、静岡県裾野市、大阪府泉大津市、茨城県常総市などと避難所の混雑情報配信に関する協定を締結している。

●自治体のニーズとは

 なぜここまで同社のサービスを利用する自治体が増えているのだろうか。バカンの河野剛進社長によると、各自治体は感染対策のため、避難所にテントを設置するとともに、住民同士の距離をとらないといけなくなった。すると、避難所の収容率が下がってしまう。

 また、定員オーバーの状態になってしまった避難所を住民が訪れた場合、自治体職員は別の場所を案内する必要がある。職員が空き情報を把握しようとすると、災害対策本部にいちいち電話をかける必要がある。自治体の災害対策本部には、さまざまな場所から問い合わせが殺到するため、現場の職員は多忙を極める。

 こういった課題を解決するには、住民や自治体職員がリアルタイムで混雑状況を把握できる仕組みが必要になる。飲食店の空き情報をリアルタイムで配信するVACAN Mapsはそのニーズにぴったりとはまったというわけだ。

 河野社長によると、避難所情報の配信に関する基本サービスは無償で提供しているという。背景には、新型コロナウイルスへの対応で各自治体の予算に余裕がなくなってしまっていることがある。無償で提供することの是非については社内で議論があった。しかし、社会貢献と自社サービスを広く知ってもらう機会になればという思いで無償化に踏み切ったという。

●「行ってみたけどダメだった」をなくしたい

 VACAN Mapsには現在、5000カ所以上の施設が登録されている。カバーエリアは日本全体と台湾の一部だ。混雑を避けて店を利用したいと考えているお客のために、ラーメン店や居酒屋などがサービスを導入している。

 バカンの河野社長は世の中にある「行ってみたけどダメだった」をなくすことを目標にしている。自身も結婚して子どもが生まれ、時間に対する価値観が変わったという。例えば、子どもを連れて商業施設に遊びに行った際、お店が混雑して利用できない状況に直面し、途方に暮れたことがある。そういった経験を踏まえ、トイレの混雑状況を可視化するサービスの提供にも取り組んでいる。

 当面の目標はVACAN Mapsに掲載する施設数を、21年中に1万件まで増やすことだ。また、群馬県館林市に対して、期日前投票所の混雑可視化サービスの提供を開始するという新しい挑戦も始めた。日常的に利用する飲食店や、非日常(災害発生時)で利用する自治体のニーズなどを取り込み、どこまで成長できるか。