2020年12月12日から13日にかけて、「鉄道旅倶楽部および交流団体専用貸し切り列車ツアー サロンカーなにわで行く岡山・倉敷の旅」が開催された。

 「サロンカーなにわ」という車両は、国鉄時代に大阪地区で既存客車を改造した豪華客車だ。座席は大きくゆったりと配置され、編成の前後に展望車もある上、お召し列車に起用された実績もあり、鉄道ファンには憧れの車両だ。しかし、国鉄時代の製造のため「乗れるときに乗っておかないと……」という車両でもある。この車両を鉄道旅倶楽部という社会人団体が貸し切り、ツアーを企画・開催した。

 このように特別な目的に絞った旅行を、旅行業界では「SIT」と呼ぶ。「SIT」は「Special Interest Tour」の略で、スポーツ観戦や美術鑑賞、舞台演劇や音楽ライブなど「特別な目的に絞った旅行」を指す。目的がある旅なので、旅行市場低迷の中でもSITは鉄道のみならず堅調だったという。

 さらに今回のような団体専用車両への乗車が目的となると、特別ですらなく、超特別なのだ。一人旅では実現できない上、コアなファンしか集まらない。いわば「マニアックSIT」といえる。

●趣味サークルが企画したSIT、「サロンカーなにわ」ツアーは大成功

 貸し切り列車というと、修学旅行や社員旅行、あるいは旅行会社が企画・募集するものが多い。しかしこれらとは別に、旅をしたい人が仲間を集めてリクエストし、旅行会社が段取りを付けて運行する貸し切り列車もある。

 今回の場合は、「サロンカーなにわという豪華客車を貸し切って、鉄道好きの仲間たちと乗りたい」という鉄道旅倶楽部の要望に対し、鉄道旅倶楽部と日本旅行とが調整してプランを確定させた。そして鉄道旅倶楽部が会員へのメール告知やTwitterでの案内を行った。

 参加希望者にはその後、日本旅行が作成したパンフレットと申込書が送付される。ここから先の受付、集金管理、乗車券や車両の手配、お弁当の調達、ホテル予約などは、すべて日本旅行が行う。鉄道旅倶楽部側から見ると、乗りたい列車や車両を指定して旅を企画し、実際の旅行業務を日本旅行にアウトソーシングした形となる。

 今回のツアーで、特にアウトソーシングが奏功し、乗客としても心強かったといえる点がCOVID-19対策だ。日本旅行などの旅行業者は旅行参加者に対して、健康申告書の提出、ソーシャルディスタンス確保、検温、除菌などをガイドラインとして取り決めており、この旅でも適用されていたからだ。

 マスク着用は順守され、受付時や途中駅で長時間停車して車内に戻ったときも、日本旅行の添乗員が除菌スプレーを参加者の手に散布して回った。こうした配慮の結果、このツアーの2週間後も感染者は発生しなかった。

 行程は大阪駅11時2分発、岡山駅14時44分着。以降は自由行動で、各自ホテルにチェックイン。翌日は倉敷駅14時発、大阪駅17時53分着。オプションで復路出発前に倉敷市駅から水島臨海鉄道の定期列車に貸切車両を連結し往復するツアーも設定された。ツアーでは特別に、通常の終点「三菱自工前」の奥にある「倉敷貨物ターミナル」までの往復できた。

 終着駅からの延長運転は、日本旅行と水島臨海鉄道の調整により実現した。ただし、倉敷貨物ターミナルでの降車はできず、車内からの見学となった。さらに水島臨海鉄道は当日、車両基地があるこの地で、歴代車両などを側線に並べて参加者に見せてくれるという粋な計らいもしてくれた。一人旅やグループ旅行では体験できない団体旅行ならではの収穫に、参加者も大喜びだった。

●社会人団体にはできない、旅行会社の役割

 JRは、一般客に対しても8人以上なら団体割引乗車券を販売する。旅客営業規則では団体・貸切は旅行会社や法人によらず、誰でも車両や列車の貸切を可能としているため、今回のツアーのように単純な往復行程なら、鉄道旅倶楽部だけで実施できそうだ。しかし、旅行業法に定められているとおり、不特定多数を対象に参加者を募集できるのは、旅行業として登録のある団体だけである。飲食物の仕入れ、配布する記念グッズの制作費といった事務局の経費を、旅行代金に上乗せする行為も旅行業違反となる。

 今回のツアーを担当した日本旅行 大阪法人統括部の山中章雄さんは、以下のように教えてくれた。

 「今回の鉄道旅倶楽部など、会員制でクローズドな組織の場合は、旅行業法の規制の適用外と考えている方も多いのですが、旅行業として登録のない団体が参加費を収受できるのは日常的につながりがある組織内のみに限られています。会員向けの募集は、不特定多数の募集と見なされるため、登録が必要なのです」

 旅行業法は「不特定多数を対象とする募集型旅行の実施には、旅行業の登録が必要」と定めている。理由としては、多くの人々から代金を集めるための信用確保、公正な取引、不履行時の返金保証、安全な旅行実施が、旅行業に求められるからだ。さらに法律があることは、旅行者の利便性向上にも寄与している。

 逆に特定多数というのは、家族や同一職場、同一学校など、参加者が相互に直接のつながりがある場合を指すのだ。登録の有無と募集の特定・不特定多数については、不理解が多く、その結果として現在も違反状態のまま行事を実施している事例も少なくないという。

 過去には、ローカル鉄道が観光列車を企画し、旅行業の登録がないまま食事付き列車ツアーを募集し、同法違反となった事例もある。会社の定款に旅行業とあっても、旅行業の登録は別途必要なため、現在の観光列車は、鉄道会社なら自社で旅行業の登録を行うか、旅行会社が募集するものということになる。

●思い通りのツアーがないなら、作ろう

 今回「サロンカーなにわ」の貸し切り列車を企画した「鉄道旅倶楽部」は17年5月に設立され、貸し切り列車旅を年に3回ほど企画している。今回の「サロンカーなにわ貸切」はちょうど10回目となるが、実は19年から構想されていたものの、COVID-19の影響で中止され、仕切り直しての実施となる。

 代表の井上佑樹さんが鉄道旅倶楽部を始めたきっかけは、大学の鉄道研究会が開催した貸し切り列車ツアーに参加した数年前にさかのぼる。ここで、同じ趣味を持つ仲間とワイワイする楽しさを知った井上さんは、イベント列車が減る中、その後も臨時列車や旅行社主催の団体列車に乗車。趣味の貸し切り列車旅を広めたいという思いと同時に、自身も鉄道ファンによる鉄道ファンのための貸し切り列車に乗りたいと思ったという。

 しかし、旅行会社のツアーに思い通りの旅はない。ならば作ってしまえばいいと、「鉄道旅倶楽部」は第1回目の旅として「ひたちなか海浜鉄道キハ205の旅」を企画した。第2回目の「しなの鉄道115系」は井上さんにとって特に印象的だった。115系は彼が子どもの頃に両毛線で乗っていた懐かしい車両だ。しかもこの旅では、しなの鉄道の厚意で坂城駅に停車時間を設定し、駅前に保存している169系電車の車内を特別公開いただき、さらにお手製のヘッドマークも付けていただいたそうだ。

 現在も「鉄道旅倶楽部」は、無料会員の申し込み受付Webサイトと、広報用のメールアカウント、Twitterアカウントがあるだけだ。当初は、仲間うちでの旅だったが、同好の士が集まり、メンバーが増えていった。会員数は300名を超える。サロンカーなにわの旅が注目され倍増した結果だ。もちろん旅の募集となると、不特定多数相手となるため、旅行会社を通す必要がある。

 企画立案から実施までの期間は長い。JRは半年前に団体列車の運行会議を行うため、それまでに車両とルートを確定する必要がある。その2カ月前から旅行会社に相談し、工程を作る。実は今回の企画では、第1、2の希望案は断られてしまったそうで、ガッカリしたり、新しいアイデアを盛り込んだりと、一番苦労する部分かもしれない。

 日本旅行の山中さんによると、今回の旅については「山陽本線で客車列車を運行する場合は、機関車の前後入れ替え作業ができる駅が限られている」という事情が大きいそうだ。作業可能な駅まで運行できれば良いが、旅程が長くなれば運賃も高くなる。また客車の営業区間と回送区間のバランスが悪いと、JR西日本には損益に関わり、利益が薄ければ断られてしまう。

 こうして運行計画が決まり、旅行会社に託して募集が始まれば「鉄道旅倶楽部」としては一段落だ。ここからはヘッドマークや記念品の製作などを行う。今回の旅もクリアファイルやマフラータオルなどの乗車記念品が配られ、好評のようだった。

●旅行会社に趣味が同じ担当者がいればなお良し

 井上さんに、貸し切り列車旅をやりたい人へのアドバイスを聞いた。

 「まずは、やりたいことを鉄道会社や旅行会社に相談してみることですね。聞くだけならタダと思って、いろいろ聞いてみることから始めるといいと思います。運営は、何度やってもやはりバタバタしてしまいますので、多少の失敗は気にせず恐れず、そして信頼できる周りの知り合いを頼るといいと思います。手伝ってくれる知り合いが、意外と身の回りに多いと分かるはずです。やり切った後は、やった者にしか分からない、とても大きな達成感と満足感が得られます」

 一方、旅行会社にはどんな利点があるだろうか。COVID-19の影響で、社員旅行、修学旅行が消し飛んでしまった。そのなかで、小規模〜中規模のSITに活路がある。会員制倶楽部なら宣伝費もほとんどかからない。

 ただしSITには、参加者の「Special Interest」を正しく理解できる担当者が必要だ。日本旅行の山中さんは、同社が主催する「秩父鉄道夜行列車」ツアーや「大井川鐵道SL結婚式」ツアーも手がける、鉄道ファンからも知られた存在。だからこそ「サロンカーなにわ」ツアーでは、水島臨海鉄道と連携し、車庫見学が実現した。

 井上さんも、「私たちは日本旅行さんに限定しているわけではありませんが、相談に乗っていただける会社が少ないんです」と話す。

 旅行会社の業務の流れは、以下の通りだ。

・企画・ご相談(12カ月〜6カ月前)

・社会人団体事務局から造成の申込み(6カ月前)

・募集開始・Web開設(2カ月前)

・参加者から旅行の申込み締切り(2週間前)

・参加者から精算終了(1週間前)

・添乗、催行管理(当日)

 今から企画すると催行は1年後。1年後ともなると、旅のプロが作る旅行会社独自のツアーも立ち上がってくるかもしれないが、趣味の達人が作る「マニアックSIT」のにぎわいも大いに期待したいところだ。

(杉山淳一)