混迷の米大統領選が決着し、バイデン政権が誕生して2カ月。強硬一辺倒だった対中政策が見直されるのか注目されていたが、ウイグル問題も絡み、制裁カードを温存しつつも国際連携によって対中包囲網を強化するバイデン政権の方針が鮮明になっている。

 米中貿易戦争の“象徴”になった通信機器大手のファーウェイ(華為技術)は、制裁が科されて間もなく2年になる。事業の柱だった5G、スマートフォンの両方で動きを封じられ、業績にもその影響がはっきり現れるようになった。

 日本の通信キャリアがファーウェイ端末の取り扱いを止めたことで、日本の消費者の視界からはフェードアウトしつつあるが、同社の端末には日本企業製の部品が多く使われ、制裁は日本も含めた世界の半導体不足をも招いている。米中でなお繰り広げられている攻防と、手足を縛られたファーウェイの生存戦略を全3回に分けて紹介する。

●「脱中国ブランド」途上の挫折

 「ファーウェイのことを世界に知らしめてくれた。トランプ大統領に感謝する」

 2019年後半から20年春にかけ、創業者の任正非CEOを始めとするファーウェイ幹部たちは、冗談交じりにそう発言することがあった。確かに、トランプ大統領に標的にされるまで、同社のことを知っている外国人は多くなかった。

 筆者が「ファーウェイ(華為)」という名前を最初に聞いたのは08年だ。ビジネス領域を専門とする中国人研究者が、グローバル化ができそうな中国企業として「ハイアール」「レノボ」と並んでファーウェイを挙げた。当時、ハイアールは既に有名で、レノボもIBMのPC事業を買収したことで、一気に注目されていた。

 中国人研究者は、ファーウェイを「人民解放軍出身の創業者が設立した」「大手が見向きもしない農村部、アフリカからシェアを広げ、米国で警戒され始めている」「秘密主義で中国でも謎の企業というイメージが強い」と紹介した。

 そのファーウェイは2010年代に入ると、iPhoneの成功を見てスマートフォンに進出し、中国企業に対して比較的ニュートラルな欧州で猛烈にシェアを広げ始め、いくつかの国でシェア2位に食い込んだ。

 ファーウェイは急成長とハイエンド化に伴い、日本からの部品調達を増やし、11年にはファーウェイ・ジャパンが中国企業として初めて経団連に加盟した。

 ただ、ファーウェイが日本でニュースとして多く取り上げられるようになったのは17年だ。きっかけは2つある。

 1つ目は、ライカのカメラを搭載した高機能スマホ「P9」のヒットだ。中国スマホが持つ「格安」のイメージに加え品質の高さも認知され、ガジェット好きの間で他社端末から乗り換える動きが起きた。さらにファーウェイが日本人記者を深センや海外の発表会に招待するようになり、急速に同社製品の露出が増えていった。

 もう1つは、日本法人であるファーウェイ・ジャパンが出した「初任給40万円」の新卒求人だ。キャッシュレスやECなど中国のIT社会が徐々に知られるようになった時期でもあり、「中国は日本を超えた」「高度人材が中国企業に奪われる」と大きな話題になった。

 創業以来付きまとっていた「人民解放軍」「中国企業」のレッテルは容易にははがせなかったが、「作っている製品は高品質」「研究開発に力を入れている」ブランドイメージも固まってきた中、18年12月に任CEOの長女で副会長兼CFOの孟晩舟氏が逮捕され、「ファーウェイ」はワイドショーの素材にまで“昇格”した。

 ただ、当時トランプ大統領らが「証拠を見つけた」と断言していた「端末に情報を抜き取るバックドアが仕掛けられている」という主張は、今に至るまで証拠が示されていない。

 それでも、ファーウェイが国家の安全にリスクをもたらす企業とのイメージは定着し、日本も次世代通信網5Gの採用で、同社を事実上排除した。

 トランプ大統領は米企業にファーウェイとの取引を禁じ、5G機器やスマホの生産に必要な半導体の供給ルートも断った。通信機器で世界トップ、スマホで世界2位の座にあったファーウェイは、絶対絶命と言ってもいい状況に陥っている。

●発端の孟晩舟副会長、審理は数年継続か

 ファーウェイと米国の攻防において日本は蚊帳の外にいるため、同社が今どういう状況にあるのかはあまり伝わってこない。ファーウェイ・ショックの着火点となった孟副会長は今どうしているのか。

 孟副会長はトランジット先のカナダで、米国の要請を受けたカナダ当局に逮捕され、19年1月に「ファーウェイがイランとの取引を行うために、米国とHSBC(香港上海銀行)を欺いた」として、詐欺罪などで起訴された。その後、バンクーバーの裁判所で、孟氏の米国への引き渡しを判断する審理が始まった。

 孟氏側は「起訴内容はカナダでは罪に当たらない」と主張したが、裁判所は20年5月に同氏の主張を退けた。審理は21年3月に再開され、現在は「逮捕の手続きの正当性」が争われている。

 孟氏の代理人は「孟氏の行為は香港で行われたものであり、米国の管轄権の及ばない海外での行為に米国の法律の網をかけるのは、国際法に違反している」と主張。さらに孟氏の逮捕の手続きには、合理的な理由のない逮捕令状の発行・執行や権力の濫用など、多くの違法行為が存在すると訴えている。

 また、孟氏側は20年から「トランプ大統領が貿易交渉の切り札にするため、孟氏の訴訟手続きに不当に介入している」とも主張している。中国外交部も3月18日の記者会見で「孟晩舟事件は、完全な政治案件だ」と、改めて米国を批判した。

 孟氏の判決は5月に出る見込みだが、米国への引き渡しが決定したとしても、孟氏が上訴するのは確実で、司法手続きの決着には数年かかると見られている。

 さらに3月19日、22日には、中国で2年前にスパイ容疑で拘束されたカナダ人2人の審理が非公開で始まった。中国側は孟晩舟氏逮捕の「報復」を否定するが、カナダに揺さぶりをかけているのは明らかだ。

 カナダ検察は、「トランプ氏はすでに大統領職を退いており、介入も起きていない」として「政治の司法手続きへの影響」を否定するが、孟氏の代理人は「大統領が代わっても、米政権の介入姿勢は変わらない」と反論する。

●バイデン政権も制裁カード温存

 20年11月の米大統領選前、ファーウェイを含めた中国側には「トランプ大統領の間は何をしても無駄」との空気も漂っていた。トランプ大統領の対中姿勢は大統領選が近づくとさらに苛烈になり、TikTokやWeChatなど中国企業が運営するSNSも標的にされた。

 トランプ大統領のやり方には、米国内でも「大統領選を意識したスタンドプレー」「ルールや基準が不透明」との批判が挙がっていたが、ここに来てバイデン政権も、トランプ大統領がむやみやたらに切りまくった「制裁カード」を温存し、中国企業排除の方針をより鮮明に打ち出すようになった。

 3月12日には、米連邦通信委員会(FCC)が安全保障上の脅威になる通信機器とサービスのリストに、ファーウェイや中興通訊(ZTE)など中国企業5社を指定した。さらにロイター通信社によると、米商務省はファーウェイに対する禁輸措置の運用をさらに厳格化し、5G機器向けに使用される可能性のある部材を全面的に禁じると産業界に通知した。5G向けであれば、半導体だけでなくアンテナやバッテリーなど幅広い品目の供給を禁じるという。

 米政権は中国の半導体受託生産大手・中芯国際集成電路製造(SMIC)に対する輸出規制も発動した。ファーウェイが規制前に台湾企業に半導体を大量発注し、SMICとの取引禁止に直面した米企業、中国企業も台湾企業に調達を集中させたため、対中制裁は中国企業を弱らせるだけでなく、世界的な半導体不足を招き、米自動車メーカーのフォード・モーターやゼネラル・モーターズ(GM)は生産削減に追い込まれた。

 米政権は国内の半導体製造業者に4兆円の支援を取りまとめ、中国のハイテク企業は半導体技術の内製化を急いでいる。

 コロナ、半導体戦争……2年前には想像もできなかった事象が世界のサプライチェーンを混乱に陥れる中、ファーウェイの任CEOは今年2月、久々に公の場に姿を現し、「今は世界中が半導体チップを奪い合っているが、チップはいずれ生産過剰になる。その時、ファーウェイに売ろうとする企業が出てくるだろう」「ファーウェイ生存の確信は強まっている。困難を克服する手段を多く持てたからだ」と余裕を見せた。

 3月31日にファーウェイは20年の決算を発表する。幾重もの制裁を科され、成長が鈍化するのは既定路線だ。任CEOは制裁が発動した直後の19年半ば、「20年は冬の時代。しかし生き残ることができれば、21年には再び成長軌道に乗ることができる」と社員に覚悟を求めた。実際には制裁は続き、数字上は21年も厳しい状況が予想される。

 任CEOの「余裕」は強がりなのか。スマホを捨てるのか、残すのか。見えない部分はなお多いが、生存の方向性と戦略は徐々に明らかにされつつある。(中に続く)

(浦上早苗)